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もうすぐ陽も沈むという頃、新八は川沿いの土手を歩いていた。
考えるのは本日の夕ご飯。
と言っても、今日のご飯は何かな~?・・・ではなく、
今日のご飯、何作ろうかな?と考えている所が涙を誘う。
しかし本人としては、いかに冷蔵庫にある僅かな食材で
栄養のあるご飯を作れるか・・・と、真剣だったりする。
あ、後どれだけ量を多く出来るかってのと、
糖分控えめに、且つ甘く出来るかって事ね。
家で腹を空かせて待っているだろう、無駄に注文の多い人物達を
思い浮かべ、新八は小さく息を吐いた。
そして軽く肩を落とした時、
「あれ?新八君じゃないか」
と声を掛けてくる人物が居た。
「あ、近藤さ・・・・ん?」
声がした方に顔を向ければ、ソコにはイヤと言うほど見慣れてしまった
顔が、土手を上がってくる所だった。
ちなみに疑問系になってしまったのは、近藤の顔が見事に
腫れ上がっていた為だ。
・・・まぁその顔も、見慣れていると言えば
見慣れているのだが。
「こんな所で会うなんて珍しいね。何処かに行ってきたのかい?」
見るからに痛そうなのだが、本人は全く気にせず、
至って朗らかに問い掛け、キョロリと新八の周囲を見渡した。
誰かを探すような近藤の仕草に、新八はコトリと首を傾げる。
その顔の腫れ具合は姉上のせいだと思ったのだが、
違ったのだろうか?
そう思い、姉上なら居ませんよ?と言うと、近藤は一瞬目を丸くし、
次にくしゃりと笑みを浮かべた。
「あぁ、判ってるよ。お妙さんとはさっき会ったしね。
じゃなくて、場所もそうだけど、新八君が一人なのって
珍しいからね」
万事屋とかはどうしたのかな、と思ってね。そう言って笑う近藤に、
新八も苦笑を浮かべる。
やはりその顔は、姉上の仕業らしい。
「そうですか?結構一人で行動しますよ?銀さんとか買い物連れてったら、
お菓子買えって煩いですもん」
ちなみに今は届け物の帰りです。そう答えると、近藤は優しげな視線を
新八に向け、大きな手を伸ばして新八の頭をやんわりと撫でた。
「そうか、それは偉かったね。お疲れ様」
ニコニコと笑って頭を撫でる近藤に、新八は少しだけ頬を染める。
思いっきり子供扱いされてる気がするが、どうにも無碍に出来ない。
・・・ってか、ちょっとだけ父上の事を思い出しちゃうんだよね。
あ~・・・でもやっぱ恥ずかしいかも。
くすぐったいやら恥ずかしいやらで、新八は少しだけ首を竦め、
小さく笑みを零した。
「そう言えば近藤さんは屯所に戻る途中ですか?」
夕暮れの土手を二人並んで帰る途中、新八が近藤に問い掛けた。
それに、恥ずかしそうに頭を掻く近藤。
「まぁ・・・ね。このツラじゃ何処へも行けないだろう?
や、俺としてはお妙さんがつけてくれたモノだから、
自慢して練り歩きたい所なんだけどね?」
そうするとトシが煩くてねぇ。そう笑う近藤に、
新八は少しだけ土方に同情する。
「それ、自慢する所じゃないですからね?
いや、頑丈な所は自慢出来ますけど、そうなった理由が
全く自慢出来ませんからね?程々にしないと、
その内返事も出来ないモノにされますよ?」
お小言のようにそう告げるが、近藤は気にもしていないようだ。
大丈夫、大丈夫。と、酷く呆気らかんとした表情で
軽く手を振って否定した。
新八はそんな近藤に苦笑すると、振られた手の袖を軽く
握り締めた。
それに不思議そうに見返してくる近藤に、新八は視線を合わせると、
「とりあえずそのまま帰ると土方さんの気苦労が増えそうなんで、
万事屋に寄ってって下さいね」
で、顔冷やしてって下さい。ついでに頭も。そう言ってニッと口元を上げた。
並んで歩く二人の影。
それは夕陽に照らされて長く伸び、新八は少しだけ懐かしげな瞳でそれを見詰めた。
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近藤さんはお父さん(笑)
朝早いと言う事もあってか、それともこの街だからか。
新八は未だ人気のない道を、万事屋へと向って歩いていた。
昼間はまだ幾分マシだが、流石に朝夕は冷え込む。
新八は過ぎる冷たい風に、モフッと首もとのマフラーに顔を埋めた。
そして見上げた視線の先に、ふと黒い後姿があるのに気付いた。
新八は少し足を速めると、後ろからその人物に声を掛けた。
「お早うございます、土方さん」
声を掛けた人物は、少しだけ足を止め、相変わらず無愛想な顔を
新八へと向けた。
そして新八の姿を確認いると、少しだけ口元を緩ませ、
挨拶を返してくる。
「相変わらず早いな」
「そう言う土方さんも・・・早いって言うべきですか?」
それとも遅い?隊服姿の土方に問い掛けると、後者だな・・・と苦笑を
返された。
どうやら彼の仕事はまだ終わっていなかったようだ。
「それは・・・お疲れ様です」
新八も苦笑を浮かべつつ、軽く頭を下げる。
「こんな早く行っても、あいつ等起きてねぇんだろ」
そう言いながら歩き出す土方に、新八も小さく笑って流し、
同じように歩き出した。
「タバコってそんなに美味しいんですか?」
並んで歩いてるうちに、新八は前々から思っていた疑問を土方に
ぶつけてみた。
なんだか何時会っても、土方はタバコを吸ってる感じがするのだ。
噂では、タバコの為に他の星まで行ったと聞く。
そこまでして欲しいほど、美味しいのだろうか?
そう思っていると、土方は咥えていたタバコを離し、煙を吐き出しながら
「うまくはねぇ」
と、非常に簡潔に答えてくれた。
「でもまぁ仕方ねぇな。これがないと生活できねぇし」
「美味しくないのに・・・ですか?」
「まぁな。あ、知らないならその方がいいぞ。
体に悪ぃし、風当たりが強ぇ」
肩身狭いぞ?そう言って笑うが、吸ってる本人が言っても
説得力はないような気がする。
じっと見詰めていると、なんだ、吸いたいのか?と問い掛けられ、
新八は慌てて頭を横に振った。
・・・別に吸いたくはないけれど。
けれど、ちょっとだけカッコいいかな?とは思ってたりする。
なんと言うか、大人の男って感じがするのだ。
糖分糖分と煩いどっかの誰かさんより。
・・・ま、この人もマヨマヨ煩いけどね。
でも・・・とチラリと視線を向けると、慣れた手つきで
タバコを扱う土方が居て。
新八はそっとマフラーから口元を出すと、はぁ。と息を
吐き出してみた。
そこから出てくるのは、タバコの煙とは違い、直ぐに消えてしまう
ものだけれど、ほんの少し似ているもので。
少しだけ満足するものの、何処か納得がいかない。
・・・まず口の形が違うよね。
土方さん、あんなに大口開けて煙出してないもん。
そこで今度は口を少しだけ開けた状態で、息を吐き出してみる。
が、それだと白い息が見えない。
ならば・・・と先程よりは若干口を開いた状態で、息を吐き出す。
今度は少しだけ白い息が見えた。
しかし、想像していたよりも少なくて、新八はムッと眉を顰める。
そんな事を数回繰り返していると、漸く納得のいく白い息を
吐き出す事が出来、新八は満足げに笑みを浮かべた。
と、その瞬間隣から聞こえてきた小さな笑い声。
ハッとして顔を向ければ、口元を手で覆い、顔を背けて肩を
震わせている土方が。
そこで今までの自分の行動が、思いっきり見られていた事に
気が付いた新八は、瞬時に顔を赤く染めた。
「や、ちが・・あ・・・あの」
なんとか誤魔化そうとするが、うまい言葉が出てこずパクパクと
口を開けていると、未だ笑いを零している土方が
ポンポンと新八の頭に手を乗せてきた。
「や・・・結構さまになってたぞ」
そう言うものの、笑いの止まらない土方に新八はますます顔を
赤らめる。
「べ、別にさまになってたとかそんなんじゃなくてっ!
息してただけですから、僕!
ってかそんなにタバコ吸ってると、肺が真っ黒になりますからね!」
そう言って頭を振り、土方の手を落とすとザカザカと力強く
足取りを速めていった。
その頬は、既に風の冷たさを感じてはいなくて。
背後から聞こえる、笑いを忍ばせた土方の足音に、
新八はますます頬を赤らめたのであった。
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肩身、狭すぎます(泣)
「うぅ、さむっ!」
買い物の帰り、身を突き刺すような風にブルリと肩を竦める。
天気が良く、日差しも十分なのだが、風が冷たい。
新八は手にしているビニール袋ごと手を上げると、
少しでも暖を取る為に忙しなく擦り合わせた。
こんな事なら銀さんに原チャリ出して貰えば良かったかな?
・・・あ~でもダメだ。アノ人がこんな寒い日に外に出てくる
訳がない・・・ってか、炬燵から出てくる筈がない。
それに、幾ら早く移動できるって言っても、その分風が
当たって寒いって事だしな~・・・うん、それはキツイかも。
やっぱ歩いてきて正解だったよ、うん。
そう思おう。
「・・・おい、もっと背筋伸ばして歩けって」
ブツブツとそんな事を考えながら歩いていると、不意に
そんな声が掛けられた。
しかも直ぐ後ろから。
「え!?って銀さん??」
驚いて振り向いてみれば、物凄く至近距離に見慣れた顔が。
「ちょ、振り向くんじゃねぇよ、ちゅ~すっぞ」
「すんなよ。
ってか何してんですか、そんな所で!」
自分の直ぐ後ろに背を丸めて立っている銀時に不審げな視線を向ける。
当たり前だ。気配も何も感じさせず、突然自分の真後ろに
ぴったりと居るのだから。
だが、銀時はそれを無視すると、
「何って見て判りませんか~?この寒空の下、買い物に出掛けた
新ちゃんを思って迎えに来たんだよコノヤロー」
いいから前向け。銀時は新八の頬を両手で掴むと、クルリと前を向かせた。
そして直ぐに両手を組んで着物の中に入れると、肘で新八の背中を
押し始める。
その力に、無理矢理歩かされる新八。
だが、この姿勢の訳が判らず、視線は後ろを向いたままだ。
「いや、迎えも何も、この体勢ってのが判んないんですけど・・・って
あぁ!もしかして銀さん、僕を風除けにしてません!?」
「ばっ!何言ってんのよ新ちゃん~。そんな事ある訳ねぇだろうが。
だってアレよ?体格的に言って無理あるでしょ?それ。
銀さんはただ、新ちゃんには常に前を見据えて歩いていって
欲しいだけでだなぁ・・・」
「・・・なんですか、それ。僕がちっちゃいって言ってんですか?
ってかそれならまず銀さんがお手本を示して下さいよ!」
首を竦めたままそう言い募る銀時に、新八はムッと眉を顰めると
すぐさま銀時の前からどき、その広い背中の後ろへと
身を隠した。
「ぅお!さむっ!!!ちょ、新八、本当寒いから!!」
突然全身に向ってきた風にブルリと体を震わせ、
背後に回った新八を振り返ろうとするが、今度は新八が
それを許さない。
ほぅっと風のこない状況に息を吐くと、新八は銀時の背中に
スリスリと額を擦りつけた。
「・・・僕、銀さんの背中にずっと付いて行こうと決めてるんです」
「え、ちょ、何この幸せな状況ぉぉぉ!!!
でも寒いっ!寒いから新八ぃ~。いや、心は暖かいけどね。
寧ろマグマのようだけどね、特に下半身が・・・」
「いいからさっさと歩けよ、風除け」
立ち止まって騒ぐ銀時の背中に、ゴツンと頭を打ち付ける。
「って、アレ?なんか一瞬にして身も心も寒くなったよ?
寒すぎて涙が出てきそうだよ?銀さん!!」
「わ~、銀さんの背中って広くて暖か~い」
「それ、滅茶苦茶心篭ってそうだけど、方向性は全然
違ってるよね?
期待しているのとは反対方向だよねぇ!?」
ダメだ!もう限界!!と、銀時はクルリと体を翻すと、
再び新八の後ろへと移動した。
「ちょ!風除け!?
何勝手に動いてるんですか!!」
「おまっ!せめて名前を呼べよ!!
ってかもうダメ。銀さん、オマエしか見えないから、コレ。
あ、口説き文句込みでな?」
「んなもん込めるなぁぁぁぁ!!!!」
なんとか後ろに回りこもうとする新八に、それを阻止しようと
する銀時。
それを何度か繰り返した後、それまでで一番冷たい風が
二人の体を過ぎ去っていった。
それにブルリと体を震わすと、ちらりとお互いの顔を
見合わせた。
「・・・ま、ここで言い合ってるより早く帰る方が
得策だな」
「ですね。ならここは平等に・・・」
新八はそう言うと、銀時の手を握り締めた。
滅多にない新八の行動に、一瞬銀時が目を丸くする。
それをクスリと笑うと、新八は握った手を軽く振りながら
歩き出した。
「こうしてないと、銀さんズルしそうですもん」
「・・・馬ぁ鹿。銀さん程全てに於いて嘘偽りなく生きてる人は
いないよ?」
「あぁ、そこから既に嘘なんですね」
クスクスと笑う新八に、銀時はコノヤローとばかりに
繋いだ手に力を込める。
新八は、それに痛い痛いと文句を言いながらも、手を解こうとはせず、
代わりに繋いでいる手の方の肩で銀時を押しやった。
それに対抗するように、銀時もまた肩を押し付けて。
寒さも忘れた帰り道。
帰った先で待ち構えていたもう一つの温かさが加わり、
もっと暖かくなるまで、後少し。
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無意識にラブ繋ぎしてそうで、割って入りたいです(おいι)