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「全く、年末で忙しいってのに」
日もどっぷり暮れた時間、新八は人気の無くなった学校を背に、
共に歩く男への不満をブツブツと口に出した。
「仕方ねぇだろ?幾ら冬休みだって言ったってなぁ、
先生には仕事があんだよ、仕事が。
ほら、良く言うじゃん?先生も走るから師走って」
「や、だからそれは先生の・・・ですよね?
僕、関係ないでしょ。
ってか走る先生って全然想像付かないんですけど」
飄々と答える銀八に、思わず白けた視線を送ってしまうのも
無理は無い。
冬休みだと言うのに、朝から自宅にやって来た銀八に
拉致られ、今まで仕事の手伝いをさせられていたのだ。
・・・まぁ今日と言わず、大抵毎日会ってるんだけどね。
休みになってからも、色々理由をつけて。
ホラ、だってあの・・・一応・・・さ。
「おいおい、冷てぇなぁ。関係なくはなくね?
お付き合いしてるってのによぉ」
タイミングよくニヤリと笑って告げる銀八に、頬が熱くなるのが判る。
そう、僕達は付き合ってたりするのだ、うん。
けれどまだ僕は学生で、先生の生徒で。
なのでこう言う理由でもなければ、休みの日に一緒に居れる理由がない。
・・・と言うか、勇気が無い。・・・僕に。
男同士だとか、お互いの立場だとか。
それが判ってるからか、先生は色々と理由をつけて
僕を連れ出してくれる。
僕が安心して、一緒に居れる理由を。
「でも、僕一応受験生なんですけど」
なのに僕はついこんな事を言ってしまう。
本当はこんな事、言いたくないんだけどね。
言ってからいつも、後悔するんだけどね。
けれどそれさえ判っているのか、先生は僕の頭に手を置き、
「んなの任せとけって。俺をなんだと思ってんの?
一応先生よ?責任持って嫁に貰ってやるって」
何処にも引っかからなかったら。と言ってクシャリと撫でた。
「って違いますよね!?
そこは普通『勉強見てやる』って言う所ですよね!?」
「マジでか?」
「マジだよ!何そのびっくり顔!
コッチの方がびっくりだわ!!
ってか本当、今度勉強見てくださいよ!?」
「あ~、もう新八君は真面目だね~。」
判った判った。先生はそう言うとポンポンと頭を叩き、ユルリと
口元を上げた。
「なら大晦日はどうよ?で、序に年明けたらお参り行こうぜ?」
「・・・いいですよ」
「後初日の出も見とくか、序だし」
「ですね。序だし。ッて言うか先生、起きていられるんですか?」
「そこはホラ、オマエが協力してくれれば・・・」
「って事は夜通し勉強ですか。
いや~やる気が出るなぁ」
白々しくそう言えば、先生が コノヤロー と言いながら
僕の首に腕を回し、軽く締め上げてくる。
それに少しだけ抵抗を示しながらも、嬉しがっている僕が居る。
・・・・悔しがってる僕が、居る。
ごめんなさい、先生。
ただ一緒に居るだけの為に、色んな理由つけさせてごめんなさい。
いつか。きっといつか、なんの理由も付けず
『一緒に居たい』
って言うから。
僕から絶対言うから。
だからそれまで・・・
「もう少しだけ、待ってて下さい」
小さく呟き、そっと首に回ってる先生の手をギュッと握り締めた。
「・・・・・・・・・・あれ?」
突然意識が覚醒し、目を開けばソコには既に見慣れた万事屋の
天井がぼやけて見えた。
なんだか訳が判らないまま、数回瞬きをする。
そう言えばこっちに泊まってたんだっけ。
仕事が忙しく、家にも帰って来れない状態の姉上に言われ、
年末以降ずっと万事屋に泊まっていたのを思い出す。
横を見れば、これまた見慣れた呑気な寝顔の銀さんが居て、
思わずクスリと笑ってしまう。
「・・・今何時だろう・・・」
部屋の薄暗さから、まだ起きる時間ではない事が判り、
ならばもう一度寝ようかとも思うのだが、なんだか妙に
目が覚めてしまっている。
「夢のせい・・・かな?」
そう呟き、先程まで見ていた、妙にリアルな夢の事を思い出す。
あれって何だったんだろう。夢・・・だよね?
先生とか言ってたけど、寺子屋みたいなものなのかな。
ってか名前は違ってたけど、銀さん・・・だったよね、アノ人。
なら夢だね、完璧に。
だって銀さんが先生だなんて、夢以外あり得ないもん。
クスクス笑っていると、その振動で目が覚めたのか、目の前の銀時が
薄っすらと目を開いた。
「ん~?あんだよ、新八ぃ」
「あ、すみません、銀さん。今ね、夢で・・・」
そう続けるが、直ぐに銀時の腕が新八へと回り、そのまま胸元へと
引き寄せられた。
「まだ早いじゃねぇか、もう少し寝てろって」
起きたら聞いてやっからよぉ。モゴモゴとそう告げると、銀時は
再び眠りの中へと沈んで行ったようだ。
抱え込まれた頭の上の方で聞こえ始めた寝息に、新八はそっと
笑みを浮かべた。
今日も泊まっていこうかな。
姉上に言われたからではなく、自分の意思で。
元々数日間は泊まる事になっているのだ。改めてそんな事を言えば、
きっと銀さんは不思議がるだろう。
けれど、なんだか言ってみたいのだ、ちゃんと。
不思議がるだろうけど、何言ってんの?って顔されると思うけど、
だけどきっと・・・
嬉しそうに笑うはずだ、この人は。
多分直ぐに隠されちゃうけどね。新八はその状況を予想し、
温かい銀時の体温を感じながら、再び目蓋を閉じた。
でもきっと、それは今と同じぐらい温かい気持ちになれる筈だ。
だから・・・そっちも頑張れ、夢の中の僕。
そう、心の中でエールを送りながら。
*****************************
ある意味夢オチ(笑)
「もうさ・・・これくらいでいいんじゃね?
良くやったよ、俺達は。ってか偉いね、感心するね、マジで」
「って、この惨状を前にそんな事を言ってのける精神に
感心するわぁぁぁ!!!」
うんうんと自分の言葉に頷く銀時の頭に、新八の言葉と紙紐の束が投げられる。
モノ自体は凶器と掛け離れているが、何分勢いと量が半端ない。
思わず前のめりに頭を吹っ飛ばす銀時に、机に座っていた神楽が
フンッと鼻を鳴らした。
「自業自得ネ。鋏じゃなかっただけ有難いと思うヨ」
「・・・や、神楽ちゃんも働こうよ。ってかそんなトコに座っちゃ
ダメでしょ!!」
そう言って仁王立ちする新八は、三角巾に襷掛けという
やる気十分な格好だ。
万事屋銀ちゃん。そんな訳で現在大掃除真っ最中です。
「大体毎日掃除してんだからよ、今日ぐらい別にいいじゃねぇか」
「それは僕の台詞です。
何勝手に人の仕事を自分の手柄みたいにしてんですか」
ホラ、さっさと手を動かす!新八にそう言われ、銀時はブチブチと文句を
言いながらもジャ○プを纏める手を動かした。
「大体そんなに溜めるから後で苦労するんでしょ。」
「仕方ねぇだろ?ジャ○プぐらいしか溜めるモンがねぇんだからよ。
あ、違うな。家賃も溜まるな、自然に。」
「それ買わなかったら金が溜まるんだよ!
家賃も普通に払えるんだよ!
ってか何自然発生みたいな感じにしてるんですか!
そんなんで溜まるのは銀さんの血糖値ぐらいですよ」
「新八~、これ捨ててもいいアルカ?なんか腐臭がするネ」
「ちょ、神楽!?
それ銀さんの着物ぉぉぉぉ!!!!」
「・・・加齢臭の間違いだったアルカ」
「神楽ちゃん、それは捨てないで洗濯籠ね。
そんなんでも買うとお金が掛かるから」
「・・・あれ?なんか銀さん、泣いてもいい状況じゃね?
ってか寧ろ泣くべき所じゃね?」
「泣いてもいいですから手は動かしてくださいね」
そうにっこりと笑って告げてくる新八は、背後に修羅を飼っている。
銀時と神楽は黙々と手を動かし始めた。
・・・が、やはりやり慣れていないものは楽しくないもので。
銀時はある程度ジャ○プを纏め終えると、鼻歌交じりで窓を拭いている
新八へと視線を向けた。
・・・何がそんなに楽しいんだか。
ニコニコと笑っている新八に不審げな視線を向けていると、
それに気付いたのか不意に新八が拭いていた窓から視線を上げた。
そしてバチリと合う視線。
またあの薄ら寒い笑顔を向けられては困る・・・と、銀時は慌てて
手元のジャ○プへと視線を落とした。
その姿に新八のクスリと笑う声が落ち、銀時はムッと唇を尖らす。
「新八君はいいね~。何しても楽しいお年頃みたいで」
銀さん、そう言う時期過ぎてるから判んないわぁ。
そう嫌みったらしく言う銀時に、新八は笑いを深める。
「年齢は関係ないでしょ。ってか、楽しくありません?なんか」
「悪ぃ。銀さんSだから、寒空の下一銭にもならない労働を
強いられてる事について何一つ楽しみは見出せねぇよ。
ってか何?新ちゃん楽しいの?
奉仕するのが楽しいの?んだよ、ならさっさと言えってぇの。
それなら今夜と言わず今からでも別の奉仕作業を・・・」
「引き千切って介護と言う名の奉仕を
受けさせてあげましょうか?」
「本当にすんませんでしたぁぁぁ!!
ちょっと変な方向に楽しみ見出してました、銀さんんんん!!!」
ギリギリと手にしていた雑巾を笑顔で捻り始める新八に、
銀時が慌てて頭を下げる。
微妙に腰が引けているように見えるのは、無理もない事だろう。
必死な銀時を見て新八は小さく苦笑する。
「全く・・・僕だってただ掃除が楽しいってのじゃないですよ?
でもこれってあれでしょ?一年間お世話になったお礼と、
また一年よろしくお願いします。って事でしょ?」
そう言って新八は、そっと窓のサッシに手を添えた。
「いっぱい、いっぱい色んな事がありましたもん、ここで。
だからすっごく綺麗にして、また来年も色んな事をしたいんです」
これからも、ここで。そう少し照れ臭そうに言う新八に、銀時はポカリと
目を丸くした。
そんな銀時の反応が、ますます気恥ずかしかったのか、新八の頬が
赤く染まってきた時、風呂場の方から神楽の声が銀時達の元へと届いた。
風呂場担当になった神楽だったが、どうにも落ちない水垢を発見したらしい。
新八はこれ幸い・・・とばかりに返事をし、銀時の視線から
体を外した。
そうして風呂場へと去っていく新八を、自然と目で追ってしまう銀時。
本当は何か言いたいのだが、何を言っていいのかが判らない。
と言うか、なんで行き成りそんな可愛らしい事を言いやがるのだ、
この眼鏡っ子は!
そんな気持ちから、パクパクと口を開けているだけの銀時に、
廊下へと出て後姿だけを残した新八が不意にその足を止めた。
そして少しだけ後姿を見せたまま、
「ちなみに銀さんも同じですからね。今日のお風呂で
ピカピカに磨き上げてあげますから覚悟しといて下さい!」
と、口早に宣言すると、今度こそその後姿を完全に銀時の視界から
消したのであった。
その後、漸く銀時の口から出た言葉にならない叫びと共に、
急スピードで磨き上げられていく万事屋があったのは言うまでも無い。
**********************
多分今年最後のお話です。
皆様、よいお年を。
そして、来年もどうぞよろしくお願いします。<(_ _)>
夕飯の後片付けも終わり、明日の朝食の仕込みも済ませた新八は、
身に着けていた割烹着を畳みながら居間へと戻ってきた。
「じゃあそろそろ僕、帰りますね」
そう言って割烹着を置き、ダラリとしながらテレビを見ている
銀時に告げる。
「あ?何、帰るの?」
「えぇ、もうやる事済ませましたし」
新八の言葉に、銀時は ふ~ん と言いつつ、チラリと視線を
窓へと向けた。
窓の外は暗く、風が強いのか時折カタカタと揺れている。
「暗いよ?」
「そりゃもう夜ですしね」
「なんか寒そうだし」
「まぁ冬ですからね」
「送っていって欲しかったりする?」
「そんな無謀且つ夢の様な事は願ってません」
きっぱり言い放つ新八に、銀時が んだよそりゃ~。 と言いながら
ヘニョリとソファに倒れこんだ。
新八はそれにクスリと笑みを浮かべると、フワフワしている髪を
軽く撫でる。
「いいですよ、本当。外寒そうですし、銀さんに送ってって貰ったら
神楽ちゃん一人になっちゃうし」
だから銀さんも呑みに行かず、ちゃんと寝て下さいよ。そう釘を刺しながら
ポンと最後に軽く叩き、新八は荷物を手に玄関へと向った。
「ってかそれ言ったら新八も同じじゃね?
外は寒いし、帰り一人になっちまうし」
ノタノタとソファから起き出し、新八の後に続きながら告げる
銀時に、新八は困ったように眉を下げた。
「や、そう言われても・・・」
「それにオマエ一人だと、変なの寄って来るみてぇだし」
「それは今現在も込みですか?」
「今現在はなしの方向でお願いします」
ってか変なの扱い!?そう嘆く銀時に、新八は小さく溜息を吐いた。
とりあえず三十路手前の癖に、僕の袖を掴んで着いて来てる時点で
見た目十分変な人です、銀さん。
そうツッコミたいが、そうしてるとどんどん帰宅する時間が
遅くなる気がする。
とりあえず離してくれる様言おうとした所で、風呂場の方から
パタパタと言う足音が聞こえてきた。
「新八、もう帰るアルカ!?」
ヒョコリと銀時の体から顔を覗かせれば、頬を赤く染め、ホコホコと
温かそうな神楽が・・・
「って神楽ちゃん!髪の毛しっかり拭いてきてよ!」
折角温まったのに、風邪引いちゃうよ!?そう言うと、新八は
銀時の横を抜けて神楽の元へと行くと、肩に掛けられたタオルを
手にワシャワシャと神楽の髪を拭き始めた。
それを擽ったそうに肩を竦めながら受け止めていた神楽だったが、
何かに気付いたようにハッと顔を上げ、新八と視線を合わせた。
「ん?何、強かった?」
その行動に新八が不思議そうに首を傾げると、神楽はフルフルと
首を振って答え、ちらりと玄関に視線を向けた。
「外、真っ暗ネ」
「へ?・・・あぁ、もう夜遅いからね」
「なんか寒そうヨ」
「・・・まぁ冬だしね」
なんだかさっきも同じ様な会話をしていたなぁ・・・と新八が
苦笑して答えていると、神楽が再び新八へと視線を合わせてきた。
「送ってけないから泊まってくヨロシ」
「・・・・・・・は?」
神楽の提案に、新八が思わず目を丸くしていると、後ろの方で軽く手を
叩く音が聞こえてきた。
それに振り返る前に、新八の脇にさっと銀時の手が差し込まれ、
そのまま抱え上げられてしまう。
「ちょっ!何すんですか!」
ワタワタと足をバタつかせ振り返ってみれば、そこには感心したように
頷いている銀時が。
「神楽ぁ、オマエ本当天才な。
って事で新八は今日お泊りって事で」
送ってけねぇから仕方ねぇわ、コレ。銀時はそう言い、新八を抱えたまま
居間へと戻っていく。
その足取りは軽く、新八の暴れ具合など屁でもないらしい。
「当たり前ヨ。神楽様を舐めるんじゃないネ。
大体私が送ってったら、銀ちゃんが一人になってしまうヨ。
それはそれでいい気味ネ」
「アレ?なんか酷い事言われてない?銀さん」
「や、その前に送ってもらわないからね?
立場逆だから、それ」
鼻を鳴らし後に続く神楽に、二人のツッコミが入る。
それにニシシと笑い返し、神楽は言葉を続けた。
「だから誰も一人にならないのが一番ネ」
その言葉に、新八はキョトリと目を見開いた。そして小さく苦笑すると、
仕方ないなぁ。と呟き、未だ自分を抱え上げている銀時の手を
軽く叩き、降ろすよう促す。
「ま、外も暗いしね」
「もう夜ヨ。子供は寝る時間ネ」
居間の床へと降ろされながらそう言えば、神楽が重々しく答えを返した。
「それに寒そうですし」
「もう冬だからな。言っとくけど冬場の風邪は馬鹿にしちゃ~いけねぇぞ?」
二人の方を向きながら呟けば、銀時が言い聞かせるように返してくる。
「どっちも心配で一人になんか出来ませんし」
「「オマエもな」」
困ったように告げれば、二人から即答された。
それに新八は小さく噴出すと、銀時も釣られたように口元を上げ、
神楽は満足げに笑みを浮かべた。
そして新八は、帰る為に向けていた足を、泊まっていく為のものへと
変更したのだった。
その後風呂も済ませ、和室に三人分の布団を並べて
それぞれが横になった所で、新八が小さな声を上げた。
「どうしたネ、新八。やっぱり銀ちゃんの隣はイヤアルカ?
でも私もイヤだから我慢するヨロシ。
年頃の乙女に加齢臭の移り香なんて、
シャレにもならないヨ」
「おいぃぃ!!何さらっと酷い事言ってんだ、テメーは!」
「や、僕もこの年でそんな移り香はイヤだけどさ。
それよりも姉上が・・・」
そう言った所で、新八の声の意味を悟り、銀時達も小さく声を上げた。
・・・が、直ぐに ま、いっか。 と寝る体勢を整い始める。
「安心しろ、新八。アイツは一人じゃねぇ。
常に強制的+αだ」
「一人な筈なのに、
何故か一人じゃない不思議ヨ」
「・・・や、それ、もっと心配なんですけど・・・」
*************************************
次の日、+αで殴り込まれます。
街に出れば、イヤでも煌びやかな光景が目に入る。
それに俺はケッと舌を打つと、家路へと足を速めた。
ったく、どいつもこいつも浮かれやがって。
今日と言う日の本来の意味を忘れてんじゃねぇか?
言っとくけどな、今日は恋人達の為の日じゃねぇし、
ガキ共が気軽にプレゼント貰える日でもねぇんだよ。
ってか、なんでクリスマスにプレゼントォォ!?
お陰で世の親達は、サンタからのと自分達からの、
二つもプレゼント用意しなきゃいけねぇじゃねぇか。
「んなのやってらんねぇよなぁ!?」
そう通りすがりのおっさんに問い掛けてみる。
「へ!?な、何が?」
「うっせぇよ、判んねぇなら答えるんじゃねぇ!!」
が、返って来たのは怯えた顔と曖昧な答えだ。
全く使えねぇ。
俺はおっさんを睨みつけ、再び歩き出した。
・・・や、別に俺に、子供が居る訳じゃないけどね。
そんなに怒る所でもないけどね。
でもやはり理不尽だ。
大体クリスマスってのは、そう言うもんじゃねぇんだよ。
もっとこう厳かな?寧ろ厳粛な?
そんな感じな日なんだよ。
ケーキを食べる為に。
なのによぉ・・・・
「ワンホールを三人で別けるってどう言う事だ!?」
なぁおい!・・・と、今度はチラシを配っているおっさんに問い掛けてみる。
「は?・・・ってケーキの事?あ、もしかしてクリスマスの・・・」
「うっせぇよ!そこまで推理すんじゃねぇよ!
名探偵気取りかコノヤロー!!」
一瞬呆けたものの、直ぐにニヤリと笑われてしまい、途中で遮った。
ったく、クリスマス如きで浮かれてんじゃねぇよ。
仕事しろ、仕事。
とりあえず配っていたチラシは、新しく開店した呑み屋のもので、
割引券が付いていたので貰っておく。
ホラ、アレだ。人って割引とかに弱いじゃん?
それにおっさんも可哀想じゃん?
配り終えないといけないんだし。
だから仕方なく・・・だ。
別に一緒に映ってる派手目なネェちゃんの写真に
釣られた訳じゃない。
でも一応丁寧に折り畳み、懐に入れてから再び俺は歩き出した。
・・・まぁケーキの事は仕方が無い。
諦めがつかないが、食べれるだけマシってもんだ。
だが、どうにもこう・・・雰囲気がムカつくってぇのか。
ムズムズするってぇのか。
街だけではなく、万事屋の中もこんな感じなのだ、実は。
新八がこっそり三人分のマフラーを編んでるのを俺は知ってる。
この間酔って帰った時、ソファで転寝していた新八の手元にあったのだ。
なんだか見てはいけないような気がして、すぐさま玄関へと戻り、
ワザと大きな音を立てて玄関を開け直した。
すると居間の方で慌てた声と音が聞こえ、俺は自分の行動が
正しかったのを知った。
・・・ま、その後新八のお小言と、玄関の音で起きたらしい神楽の
拳を貰ったのだけれど。
そして、密かに神楽がサンタを楽しみにしているのを知っている。
子供騙しだの何だのと言っていたので、
「アレって前もって自己申告しとかねぇと貰えねぇらしいぜ?」
と教えてみたのだ。
・・・後日、汚い字の手紙が、宛先不明で万事屋へと戻ってきていた。
しかも宛先は『サタン』になってた。
とりあえず、神楽の名誉の為にも、それは速やかに俺の机の中へと
仕舞われたのだけれど。
そんな感じなので、どうにも身の置きようが無い。
本当、こんなんでこの国の未来はどうなんのかね?
他人の誕生日がそんなに嬉しいのかって話だよ、マジで。
ってかそれなら他のヤツラの誕生日も祝えよ。
んで毎日ケーキ食わせろよ、本気で。
そん事を思っていたら、いつの間にか万事屋の前まで来ていた。
見上げれば、なんだか何時もよりはしゃいでる気がする灯りが映る。
俺は一つ息を吐くと、そのまま階段には上がらず、下のババァの
店へと足を踏み入れた。
「ババァ、ワリィ。これ、ちょっと預かっててくんねぇ?」
夜には取りに来るからよ。そう言って掲げた袋には、やっぱり何処か浮かれた
感じのする包装用紙に包まれた二つの箱。
ニヤニヤと笑うババァに、やっぱりムズムズする。
あ~、もう本当どいつもこいつも浮かれすぎだコノヤロー。
**************************
多分一番浮かれてるのは坂田(笑)
と言う事で皆様、素敵なクリスマスをvv