[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
今日はある意味決戦なのだと思う。
新八は何時もの様に万事屋へ行くと、玄関の前で立ち止まり、
大きく息を吸った。
そう、本日はバレンタインデー。
贈る側の女性以上よりも、男性のほうがドッキドキな日だ。
本来なら、新八もそう言うドキドキ感を味合わなければ
いけないのだが、それはもういい。
既に朝一番で姉であるお妙に味合わされたばかりだ。
お陰でドキドキ・・・と言うより心臓が破裂するかの如き
ハラハラ感を味わった。
ちなみに今無事にここまで来れたのは、近藤と言う尊き犠牲が
あったからだ。
有難う、近藤さん。
貴方のお陰で手作りチョコから市販のチョコへと
格上げされました。
多分今日一日再起不能であろう近藤に、もう一度心の中で
手を合わせると、新八は覚悟を決めて玄関の扉を開けた。
そう、何時までもグダグダしていられない。
今日は糖分王との戦いの日なのだ。
・・・やっぱり予想通りか・・・
新八は朝食を終え、食器を洗いながら一つ息を吐いた。
とりあえず何時もの様にしよう。と、新八は朝ごはんを作り、
神楽や銀時を起こして朝食を食べさせた。
その光景は本当に普段通り・・・だったのだが、約一名、違う人物が居た。
銀時である。
自分では何時も通りにしているのだろうけど、まず視線が違う。
チラチラチラチラと神楽と新八の間を行ったりきたりしているのだ。
そして会話。
何気なさを装いつつも、懸命に今日がバレンタインデーだと言う事を
主張している。
普段以上にウザさ倍増だ。
ちなみに新八も神楽もそれらを軽く流している。
だって普段から糖分は控えろと言っている身なのだ。
それを自ら与えたくは無い。
けどあそこまでソワソワしている銀時も、あまり見たくはない。
ってかあの年でそこまでソワソワするってどうよ?
どちらかと言うと僕の方がそうしなきゃいけない年齢じゃね?
そんな事を考えながら、またもや溜息を零していると、不意に
袖をクイクイと引かれた。
「あれ?どうかしたの、神楽ちゃん」
そう言えば、神楽は人差指を立てて、シーッと新八の言葉を制した。
そしてチョイチョイと手招きをするので、新八は皿を洗うのを止めて
そっと神楽に耳を近づける。
「私、ちょっと行って来るヨ。」
「あぁ、もうそんな時間だっけ?」
神楽の言葉に、そう言えば今日は友達の家でチョコレートを
作る約束をしていると言っていた事を思い出す。
どうやら銀時を驚かしたいらしく、内緒にしといてくれと
頼まれてたっけ。
気をつけて行っておいで。そう言い神楽を送り出そうとした所で、
新八はある事に気付き、去りかけていた神楽を呼び止めた。
そして流しの下にある棚から何かを取り出すと、それを神楽へと渡す。
「銀さんには内緒ね」
「おぉ!有難うネ、新八。私のはまた後で渡すアル」
神楽は手渡された物をニッコリ笑ってポケットへと仕舞うと、
今度こそ外に出掛ける為、台所から出て行った。
それを見送りながら、新八は再び息を吐いた。
そう、実はちゃんとチョコレートを用意しているのだ。
用意はしているのだけれど・・・やっぱり素直には渡せない。
渡したら糖分解禁だと言って、堂々と貪り食うに決まってるのだ。
でも、渡したいと思ったからこそ、ちゃんと用意はしてある訳で・・・
なら他の物にすれば良かったのだが、やはりバレンタインには
チョコという感じがする。
あ~、僕ってこんなにグルグル考えるヤツだったっけ!?
いや、こうまで考えさせるほど血糖値が高いのに頓着しない
あの天パが悪いんだ。
「あ?なんだ、神楽出かけたのか?」
そんな事を考えていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り返ってみれば、のっそりと台所に入ってくる銀時の姿が。
「えぇ、なんか友達と約束してるらしくって」
さっき出掛けましたよ。そう言い、新八は銀時に背を向けると
洗い終わった皿を丁寧に布巾で拭い始めた。
「ふ~ん、友達ねぇ・・・」
そう呟くものの、銀時は台所から出ようとはしなかった。
・・・と言うか、先程からチラチラチラチラと視線が痛い。
新八は背中に銀時の視線を受けながらも、そ知らぬ顔で皿を
拭き続けた。
全く、外に出ればそれこそ顔見知りからワンサカとチョコを
貰えるだろうに。
そう、仕事柄かその性分故か、銀時の顔は広い。
多分今日なんて道を歩けば義理・本命関わらず沢山のチョコを
手にする事が出来るだろう。
なのにここに居るって言う事は・・・
一つでも多くの糖をゲットしたいと言う事だろうか?
なら余計渡したくないな~。等と思っていると、窺うような声色で名前を
呼ばれた。
振り返ってみれば、やっぱりソワソワしている銀時が。
なんだろう、やっぱり糖分王としても、この日に自らチョコを
強請るのは気が引けるのだろうか。
「なんですか?銀さん」
コトリと首を傾げ、新八が問い掛けると、銀時は忙しなく視線を
彷徨わせた。
心なしかその顔は赤く、そんなに恥ずかしいなら諦めればいいのに。
と新八が思っていると、漸く覚悟を決めたのか、銀時が再度新八の
名を呼んだ。
「だからなんですか?銀さん」
って言うか、ここまでしてチョコが欲しいと言うのなら、
もう上げてしまおうか。
一気に食べないって約束させればいい事だし。
苦笑を浮かべてそんな事を思っていると、不意に銀時が
新八に向けて手を差し出してきた。
その手に、新八の目がパチクリと瞬く。
銀時は新八の表情にパッと目を逸らすと、ガシガシと自分の頭を掻いた。
「ったく、そこまで驚くなよ。目ん玉落っこちるぞ?」
「や、だってこれ・・・僕に?」
そう聞けば、銀時は視線を逸らしたままコクリと頷いた。
と言うか驚くなと言う方が無理だろう。
差し出された銀時の手。
その手の上には、可愛くラッピングされたチョコが乗せられているのだから。
「ま、なんだ。なんか逆チョコってのがあるらしくてよ。
だからまぁ・・・そう言うことだよコノヤロー」
オラ。と、中々受け取らない新八に焦れたのか、銀時は新八の手を
取ると、手にしていたチョコをその手に落とした。
そして新八がちゃんとチョコを手にした事を見届けると、
クルリと背を向けて台所から出て行く。
「あ、言っとくけどアレだぞ?銀さんが糖分やるなんて
ものっそい事だからね!?その辺弁えて確り隠れて食え。」
間違えても目の前で食うんじゃねぇぞ!!等と照れ混じりに怒鳴りながら。
「確かに凄い事かも・・・」
新八は既に見えなくなった銀時の背中に、呆然とそんな事を呟いた。
そして自分の手の中にある物に視線を落とし、一気に顔を赤くする。
ってかあの人、チョコを貰いたくてソワソワしてたんじゃなくて、
渡したくてソワソワしてたのかよっ!
しかも僕にっ!!
反則だっ!もうものっそい反則だ、これっ!!!
新八はチョコを握ったままその場にしゃがみ込むと、手の中にある
チョコを見詰めた。
「凄すぎて、隠れても何も、食べる気がしないよ」
寧ろ大事に取っておきたい。
そんな事を思ってしまう自分に、益々顔が赤くなる。
あぁ、でも・・・
新八は棚に仕舞ってある銀時用のチョコを思い出した。
どうせなら僕も今あげて、一緒に食べてしまおうか。
目の前で食べられるのは恥ずかしいけど、きっと物凄く美味しい筈だ。
新八はその考えにやんわりと頬を緩めると、銀時から貰ったチョコと共に、
自分のチョコも携えて、今頃恥ずかしさのあまりのた打ち回っているだろう
銀時の元に行く為、居間と足を向けた。
仕方ない。本日限定で糖分解禁ですよ。銀さん。
*********************************
今年の腐女子の救世主・逆/チョコ(おいι)
何時も通り仕事の無い万事屋。
その中で一人、忙しそうに部屋の中を掃除している新八の元に、
トコトコと神楽が近寄ってきた。
「何?酢昆布もう食べちゃったの?」
ありそうな事柄に、掃除機を止めて問い掛ければ、フルフルと首を
振られた。
「違うネ。アレはちゃんと言われた通り一つ一つ
大事に噛み締めながら食べてるから大丈夫ヨ。
それよりも爪切りどこネ?」
神楽はそう言いながら、人差指と親指をカリカリと弾いている
自分の指先に視線を落とした。
つられて新八も神楽の指先を覗き込む。
「あぁ、ちょっと伸びてるね。待ってて」
そう言うと、新八は掃除機を置き、箪笥の上部にある小物入れから
爪切りを取り出してきた。
「はい、ちゃんと新聞敷いて切ってね?」
新八の言葉に、判ってるネ。と答え、神楽は居間の床へと
新聞を敷くと、そのまま直に座り込み、パチリパチリと爪を切り出した。
その姿を見て、新八も自分の指先へと目を落とす。
日頃気をつけてはいるものの、ちょっと伸びているような気もする。
新八は序だし・・・と、神楽に次貸してくれるよう頼むと、
掃除の続きを再開した。
「あ?何新八、爪切ってんの?」
その日、いい加減キレたお登勢に呼び出された銀時が
疲労感も顕に帰ってくると、先程まで忙しなく家事をしていた
新八がパチリパチリと爪を切っていた。
「えぇ、ちょっと気になったんで」
答えながらも視線を上げず、真剣な表情で爪を切っている新八に、
銀時は思わず自分の指先へと視線を落とした。
が、そこには意外にもきっちりと切り揃えた爪。
「銀ちゃん、変なトコでマメアルナ」
伸びてるトコ、見た事ないヨ。同じように銀時の爪を
覗き込んでいた神楽が、意外そうな声で呟いた。
その額をペシリと叩き、銀時はソファへと腰を降ろす。
「変なトコってどう言う意味だよ。
言っとくけどなぁ、これぐらい嗜みよ、嗜み。
自分から見て、白い所が見えたらアウトだから」
「その割りに白い所、見え放題の跳ね放題ヨ」
「頭の事じゃねぇよ。
ってかこれが見えなくなったらアウトだろうが、逆にっ!」
「まぁまぁ。でも本当、そこら辺はきっちりしてるんですよね、銀さん。」
やっぱり危ないですもんね。使い終わった爪切りを仕舞いながら、
新八が言うと、そうそう。と大袈裟な程大きく銀時が頷いた。
それを見て、新八は少しは仕事について真面目に考えているのだと
ホッと胸を撫で下ろす。
万事屋と言うだけに、入ってくる仕事は色々だ。
手先の器用さを必要とするものから、力仕事。
それに偶に巻き込まれてしまう、危険な事柄。
・・・まぁ最後の方はこっちから首を突っ込んでしまう場合も
あるのだけれど。
でもそんな時、爪と言えども伸びていれば危ない時もある。
そこら辺、やっぱり判ってるんだな~。僕も確りしなきゃ。
新八は一人そう納得し、敷いてあった新聞を屑篭へ捨てようと
腰を上げ、
「やっぱ傷付けたくないからね、新ちゃんの。
これからもずっと銀さんが
お世話になるもんだからさ。
だから何時でも何処でもOKなように、
常日頃から爪には気をつけて・・・」
「そっちかぁぁぁぁ!!!!!」
そのまま勢い良く銀時の顔に蹴りを繰り出した。
「なんですか、アンタ。ってかそっちって何!?
や、そっちなんて知るかボケェェェ!!!」
新八の蹴りを受け、ソファに倒れこむ銀時を前に、
顔を赤らめて怒鳴る新八。
そこに、フラフラと頭を振りながら銀時が体を起こした。
「いや、そっちも何もナニ・・・」
「言わせねぇよ!?
何なんですかアンタ。そんな事しか考えてないんですかっ!」
「だからぁ、そんな事も何も、新八の事しか考えてません」
清々しいほどきっぱりと言い切る銀時に、思わず神楽の拍手が
送られる。
が、新八はフルフルと体を震わせるばかりだ。
「あれ?ナニ、新ちゃん。銀さんの言葉に感動しちゃった?」
やだなぁオイ。さっきのも照れ隠しかよ。等とニヤケタ顔で
言う銀時に、新八はゆらりと落としていた顔を上げた。
その頬には先程の赤さなどなく、代わりに張り付いていたのは
恐ろしいほどの笑顔だ。
その顔を見て、神楽はそろりとその場を抜け出す事にした。
だってアレは、姉御が時折見せる
真の姿そっくりネ。
だが銀時は気付かないようで、新八の笑みにニマニマと口元を
緩めている。
そんな銀時に、新八はより一層笑みを深めると、手にしていた
爪切りを目の前に翳した。
そして・・・
「そうですか・・・でもそんなに気を使ってもらうのも悪いので、
僕が責任持って剥がしてあげます、ソレ」
そう言い、ゆっくりと銀時に近付いていく新八。
「え?あ、あの・・・新ちゃん?」
新八の雰囲気に、流石に何か感じ取ったのか、銀時が
ソファの上を後ずさるが、その分だけ新八も前に進んでくる。
「や、銀さんそう言う風に気を使うのも大事だなぁとか
思ってるから、別にお前が気にしなくても・・・」
「いやいやそんなに遠慮しないで下さいよ。
大丈夫ですって。これからはちょっと生えてきても
ズバズバ剥がしていきますから。」
「いや、そんな事したら仕事もナニも出来ないからね?
なんにも手ぇつけられないからね!?」
「やだなぁ、元々仕事もナニもないでしょ?
いいからさっさと手ぇ出せやコラァァァ!!!!」
「いやぁぁぁぁぁああっ!!!!!」
「似合わない事するからネ、銀ちゃん」
銀時の絶叫を聞きながら、神楽は綺麗に切り揃えられた爪を
眺めた。
**********************************************
変な所で素直な坂田。
インフルエンザや風邪よりも、花粉がシャレになんねぇ。
って事で、薬を貰いつつ注射もブスリ。
・・・や、毎年の事なんで痛いのは判ってるんですけどね?
看護士「あ~、ちょっと痛いですからね~。ってか痛いですよね~。
今液が入ってますからね~、ジワジワ痛いですよね~」
すみません、暗示って知ってますぅぅ!?(涙)
続きで回ってきたバトンをvv
蒼さん、何時も有難うございます~vvv
今日は週に一度の特売デーだ。
なので神楽ちゃんを誘って、僕は買出しに出掛けた。
本当は銀さんにも来て貰いたかったんだけど、
気が付いたら、既に出掛けた後だった。
・・・ったく、こんな時だけ無駄に実力発揮しやがって。
ま、いいけどね。
お徳用チョコが安かったけど、無視してきたし。
少しだけそんな事で溜飲を下げる自分が可哀想な気がしたが、
あの人にとってはこれが結構きくのだから仕方が無い。
あれ?じゃあ可哀想な人は銀さん??
「本当、銀ちゃんは使えないマダオアル」
ぼんやりとそんな事を考えていると、隣を歩く神楽ちゃんが、
お手伝い賃としての酢昆布を噛み締めながらそう吐き捨てた。
「きっとパチンコネ。玉遊びが好きなんて、どこまで子供アルカ」
「や、その言い方はダメだからね?
なんかダメだからね?」
そう言いながらも、やっぱりパチンコ行ってるんだろうなぁ、と
気が付いたら居なかった上司を思い浮かべる。
本当、勝つ時なんて偶にしかないのに、なんで
あんなに好きなんだろう?
暇があれば行っている気がする。
僕にしてみれば、煩くて仕方が無い場所なのに。
しかもお金があっという間に吸い込まれていく、恐ろしい場所だ。
現に銀さんは、毎回のように憔悴しきった感じで帰ってくる。
肩をダラリと落とし、序にお金もごっそりと落として。
「新八もよく見捨てないネ、銀ちゃんの事」
「・・・神楽ちゃんこそ」
そう返すと、酷く嫌そうな顔を返される。
ってか女の子がなんて顔してんのっ!
「私のは情けアル。情が深いのはいい女の証拠ネ」
そうでなきゃ今頃土へと還ってるヨ、銀ちゃん。そう言う神楽ちゃんに
僕だって。と返した。
「パチンコでお金捨ててくるし」
「そうでなきゃ、ダラダラ何時も寝こけてるネ」
「お酒弱いくせに呑みに行くし」
「次の日お酒臭くてヤーヨ。
その上加齢臭は常時装備ネ」
「糖尿寸前だって言うのに糖分欲しがるし」
「この間、親切にも隠し糖分食べたら真剣に怒られたヨ」
「え?僕この間全部探し出せたと思ってたのに、まだあったの?」
驚いて見返せば、神楽ちゃんは何故だか自慢げな笑みを浮かべていた。
「私の目と鼻は超一流ヨ。ま、ガキの好きそうな甘ったるいもんばっかで
食べれたもんじゃなかったけど、腹の足しにはなったネ」
その言葉に僕は盛大に息を吐いた。
ったく、いい大人が何隠してんだか・・・
や、大人らしいもの隠されても困るんだけどね!?
そんなの神楽ちゃんに見付けられたら、本当ヤバイから!!
あ、でもそれは大丈夫かな?
なんかそこら辺は気を使ってくれてるみたいだし。
「ちなみに腹の足しにもならない薄っぺらい本は無視したネ」
・・・見付かってんじゃねぇかよ。
ってか気を使えよ、そこは本気で!!
思春期舐めてんじゃねぇぞぉぉぉぉ!?
見下げ果てた視線を送りつけるぞコノヤロー!!!!
あ、でもそれでか。
最近神楽ちゃんが銀さんを見る視線が冷ややかだったのは。
よし、僕もそれに参加しよう。
「特集はコスプレ眼鏡っこだったネ。」
そう言って神楽ちゃんは微妙な視線で僕を見てきた。
や、判らないからね、その視線。
なんでそんな可哀想な目で僕を見るのぉぉぉ!!!?
やめてくなんい!?なんか怖いから止めてくなんい!!?
「いつか新八が私の知らない新八になっても、
きっと大丈夫ネ。」
「何が大丈夫ぅぅ!?全然大丈夫な気がしないんだけど!!?」
ってか神楽ちゃんの知らない僕って何!?
そんなの僕も知らないから。知りたくも無いからっ!
「あれ?お前ら何してんの?」
何時の間に着いたのか、不意に万事屋の前で反対から歩いてきた
銀さんに声を掛けられた。
どうやら珍しく勝って来たようで、大きな紙袋を抱えてヘラヘラと
笑っている。
・・・ってかやっぱパチンコかよ。
僕と神楽ちゃんはチラリと銀さんに視線を向けると、さっと
逸らして足早に万事屋の階段へと足を向けた。
「え?何、無視?あ、もしかして買い物に付き合わなかった事
怒ってんの?悪かったよ、でもさぁ、ホラ見てよコレ。
新装開店でさぁ、やっぱこう言うのは朝から行って
良い台取らなきゃダメじゃん?お陰でもうウハウハよ?
あ、勿論金にも換えてきたから。お菓子だけじゃないからね?
ちゃんと銀さんも考えてんだからね?だからさ、無視とか
子供っぽい事止めようよ、軽い苛めだよ?それ。
あ、かと言ってそんな目で見るのも禁止な。
なんかものっそい心が痛くなるから。
見てらんないから、ソレ。
え?じゃぁ見んなって?や、それは出来ないでしょ。
見ちゃうでしょうが、普通。・・・て、あれ?
なんか益々視線が痛くなってきたよ?
ちょ、本当止めてくなんい?
なんか真剣に泣きそうになるんですけどぉぉぉ!!!!」
「なら遮りましょう」
にっこり笑って、追ってきた銀さんから紙袋と財布を
奪うと、ぴしゃりと目の前で玄関の扉を閉めた。
それに続き、神楽ちゃんが鍵を閉め、序に留守番をしていた定春を呼ぶ。
定春は言われるままやって来ると、大人しく玄関へと座り込む。
うん、これで最強のバリケードの完成だ。
僕は満足げに頷くと、家捜しするべく部屋へと足を踏み入れた。
とりあえず本気で泣き出すまでそこに居やがれ、コノヤロー。
***************************
途中までは甘々で行く筈だった、成れの果て(おいι)
ゆったりと時間が流れているお昼前。
新八は自宅の縁側に座り、のんびりとお茶を飲んでいた。
「いい天気ですね~」
「全くでさァ。こんな日は土方さんの血の雨を
ザカザカ降らしたくなるってもんでィ」
晴れ渡った青空を見上げ、そう呟けは、何故か隣から
返事が返って来る。
それもものっそい不吉な。
「・・・おまけに暖かいし。今日は洗濯物が
よく乾くだろうな~」
「土方さんも乾かねぇかなぁ。
寧ろカラカラに干乾びねぇかなぁ、暖けぇし」
「や、幾ら暖かくてもそこまではいきませんからね?
ってかさっきから不吉な事ばっか言ってんじゃねぇよっ!」
折角晴れてていい気分なのにっ!新八は隣でゴロリと
片肘付いて横になっている沖田に怒鳴りつけた。
しかし沖田にとっては何処吹く風。
ヒラヒラと手を振ると、そのまま目の前に置かれているお茶へと
手を伸ばし、ずずっとお茶を啜った。
「何言ってんでィ。不吉でもなんでもなくて
確実な素敵未来予想図じゃねぇか」
「土方さんにとっては最悪の未来予想図ですよ。
ってかここでのんびりしてていいんですか?」
近藤さん探しに来たんでしょ?呆れた顔でそう問えば、沖田はあ~。と
ダルそうに声を出し、体を仰向けへと変えた。
「探してますぜィ。あれ?見て判りやせんかィ?
眼鏡かけてるのに?」
「寧ろこの状態でそう見えたら
眼鏡を外しますよ、僕は。」
「なんでィ、そんな簡単に自分を捨てちゃいけやせんぜィ?
人間、誰しも間違いはありまさァ」
「間違ってるのは今のこの状態ですよ。
ってか眼鏡は別に僕の主成分じゃないですからね!?」
「あ~もう、うっせぇなぁ。
いいからお茶のお変わり下せェ」
そう言って寝転んだまま湯呑みを差し出す沖田に、新八はあからさまな
溜息を吐くと湯呑みを受け取り、傍においてあったポットから
急須に湯を注いでいく。
「全く、子供じゃないんだからちゃんと仕事して下さいよ。」
「なんでィ、自分は棚上げかィ?」
「僕の場合はしたくてもないんですよ」
酷く冷め切った顔でお茶を注ぐと、新八は湯呑みを沖田の横へと置いた。
それを手に取りながら、沖田はずずっとお茶を啜った。
「・・・ま、アレだねィ。旦那は相変わらずなんだねィ」
「えぇ、お陰様で。昨日も仕事もせずにパチンコに行って
金置いてきたと思ったら、夕飯食べた後
凝りもせず呑みに行きましたよ」
今頃二日酔いで死んでるんじゃないですか?そう言って鼻で
笑い飛ばす新八に、沖田はありゃりゃ・・・と声を零した。
きっとパチンコから帰って来た時点で、目の前のこの少年は
姉直伝の雰囲気を纏って銀時を出迎えたのであろう。
そして、間が持たなくなった銀時は、逃げるように呑みに出掛けた・・・と。
「目に浮かぶようだねィ」
ポツリと呟けば、隣に座っている新八から力ない笑い声が聞こえた。
「で?新八はそんな旦那に呆れて実家に帰って来た・・・と」
「や、なんかその言い方、あってるけど全く違う感じに
とれますからやめてくれません?
ってか確かにここ実家ですけど、自宅ですからね?僕の」
大体今日は前々から休みだったんです。そう言って新八は
沖田の持って来た煎餅を口にした。
それを見て、沖田も同じように煎餅を手にする。
「まぁ偶には旦那にお灸を据えるのもいいんじゃないですかィ?」
「・・・なりますかね~」
新八はそう言うと、晴れ渡った空にぼんやりと目を移した。
その瞬間、遠くの方から聞き慣れた声が聞こえた気がした。
それにピクリと視線を動かす沖田。
「どうやら迎えが来たようですぜィ?」
「そうですか?」
沖田が告げるが、新八は知らぬ顔だ。
視線を空から逸らさず、パリパリと煎餅を食べ続けている。
その間も、聞き慣れた声は新八の名を呼び、近付いてくるようだった。
・・・が、その瞬間、何故か爆発音と、聞き慣れた声が瀕死のキリンの
様な声に変わった。
それに沖田は珍しくもパチクリと瞬きし、空を見続けている新八を
見上げる。
しかし、新八は黙って煎餅を食べ終わり、何事も無かったように
お茶を一口啜った。
そして今気が着いたように小さく声を上げる。
「そう言えばさっき、掃除してる時に要塞モードのスイッチを
触ってオンにしちゃってたっけ・・・
解除するの、すっかり忘れてました。」
あはは、うっかりさんですね~。そう言って笑うが、
明らかに目が笑っていない。
その間にも、爆発音だの、何かが風を切り裂く音だのが
連続して聞こえてきて、瀕死のキリンも大量発生だ。
どうやら新八の怒りは、相当なものだったらしい。
「・・・ま、いいんじゃねぇですかィ?別に誰も来る予定、ねぇんだろ?」
「えぇ、全く塵ほどにもありませんね」
「なら一休みしてから解除すりゃぁいい。
俺もサボる理由が出来まさァ」
「ま、偶にはいいですかね。序にお昼、食べてきます?」
新八の申し出に、沖田は軽く手を上げて了解を告げると、
愛用しているアイマスクを引き上げ、寝る体勢を整える。
「本当、いい天気ですね~」
のんびりとした声で呟く新八の言葉に、
本日何匹かめの瀕死のキリンの声が被った。
***********************************
その後、瀕死のゴリラも発生(笑)