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久しぶりに気持ちよく晴れた日の事。
買い物から帰って来た新八は、何故かずぶ濡れだった。
「・・・どったの、それ」
「歩いていたら、とある家で花に遣っていた筈の水が
何故かこちらにいらっしゃいましたので」
無表情でそう告げる新八に、俺は あ~。と唸る。
成る程、ドッカの馬鹿が庭の花に水遣るつもりが、
万事屋・・・ってか銀さんのお花ちゃんに水遣っちゃったのね。
おいおい、間違えるのは無理もねぇけど、やめてくんない?
新八を濡らしていいのは、銀さんだけだか・・・
ソコまで心の中で呟いた所で、突然目の前に拳が唸りながら
迫ってきた。
「ちょ!行き成り何すんだコノヤロー!!」
「いや、なんかイラッと来たんで、つい。」
「・・・・あ、そう」
ちなみに迫ってきた拳はナイスコントロールで俺の頬に命中。
ジンジンする頬を摩りながらそう訴えると、酷くシレッとした
表情でそう返された。
・・・うん、以心伝心も良し悪しだね、コレ。
肩を竦め、ソファの上で小さくなっていると、
ちょっと着替えてきます。と言いながら、新八が和室へと
姿を消した。
ちなみに襖はピシリと閉められる。
・・・なんだかなぁ、男同士なんだからそんなに意識
しなくてもいいのによぉ。
少しぐらいサービスしろや、コラァァ!!
ブツブツ文句を言いながらも、
とりあえず開けると怖いので、透視出来ないか試みる。
ホラ、銀さんやれば出来る子だから。
透視の一つや二つ、出来ると思うんだよね。
あ、違うよ?別に着替えを覗きたいとかそんなんじゃないから。
単なる知的好奇心ってやつ?
なんかさ~、不意に思い出しちゃったんだよね、
そう言う超能力っぽいもの?
やっぱさ、心は何時でも少年じゃん?
で、少年としては、超能力とかって滅茶苦茶興味あんじゃん?
必死になればあんな襖ぐらい、訳なさそうじゃん?
だからやってるだけだから。
全然下心なんてないから。
至って純粋な動機だから、コレェェ!!
だから今、
この瞬間、目覚めろ!
俺の何かぁぁぁ!!!
「銀ちゃん、キモイアル」
物凄く集中して襖を見ていると、聞き慣れた声と共に
脳天に衝撃がやって来た。
「っておぉぉおい!!行き成り何しやがる、神楽!!
ってか帰宅早々何、その言葉ぁぁぁ!!!」
挨拶ぐらいちゃんとしやがれっ!衝撃を受けた頭に手を当てながら
振り返れば、案の定神楽が手刀の形でこちらを見ていた。
「ちゃんと挨拶したヨ」
「どんな状況下で挨拶すりゃあ
そんな言葉になんだよ!」
「どんなって・・・こんな?」
そう言って神楽は俺を指差し、大きく円を描いた。
え?何この鬼っ子。
「そんな事より新八はどこネ」
俺の心境を丸っきり無視し、神楽はぐるりと室内を見回した。
俺は大きく肩を落とすと、ダラリとソファに身を預ける。
「和室だよ。」
なんだか身も心もズタボロだ。
何か言う力も沸かずそう答えると、神楽は そうカ。 と答え、
そのまま和室へと突き進んだ。
そしてそのまま襖へと手を伸ばす。・・・ってヤベッ!
あいつ、まだ着替えてんじゃね!?
神楽を止めるべく、声を掛けようとするが、時既に遅し。
「新八ぃ、お腹減ったネ」
と言う言葉と共に、勢い良く襖が開けられてしまった。
あっ!と思う間もなく、ましてや頭を起こす間もなく、
開けられた襖は神楽を招きいれ、再びきっちり閉められてしまった。
「ぅわっ!ちょ、神楽ちゃん!?」
その襖の向こうから、新八の幾分焦った声が聞こえてくる。
あ~、そりゃそうだよな。
幾ら洗濯物全部任せられてても、流石に直で見られるのは
恥ずかしいやな。
不憫に思いながらも、少しだけ安心する。
うんうん、これが正しい思春期だよ。
着替えてる所に、不意に入ってくる人物。
小さく声をあげ、慌てて背を向ける新八。
俺は慌てて謝罪し身を返すと、
「・・・ううん、いいんです。・・・銀さんなら・・・」
と言う恥ずかしさからか、小さな呟きが聞こえ・・・
って、アレ?ちょっと待て、俺。
銀さん、ここに居んじゃん?
中に居んの、銀さんじゃなくて神楽じゃん?
正しくねぇ、全然正しくねぇよ、ソレェェ!!!
ハッと我に返り、慌てて和室に行こうとソファから腰を上げた所で、
それまでキッチリ閉められていた襖が、音を立てて開けられた。
ソコに居るのは、着替え終わった新八と神楽だ。
呆然と見ていると、目の前の二人は普通に会話をしながら
和室から出てきた。
「全く、帰ってきたら直ぐに手洗いうかいでしょ!」
言い聞かせるように神楽に告げる新八。
・・・や、そうじゃねぇだろ。
その前に言い聞かせる事あるよね?
手洗いうがいより大切な事だよね、それぇぇ!!
「あ~あ~、口煩い眼鏡ネ。そんなんだから貧弱なままアルヨ」
ケッと鼻を鳴らし、口答えする神楽。
や、違うからね。
全然口煩くないからね、それっ!!
ってか貧弱ってなに!?
がっつり観察済みですかコノヤロー!!
「貧弱関係ないだろ!・・・て銀さん、何してんですか?」
言い合う内に俺の格好に気付いたのだろう。
新八が不思議そうにそう聞いてきた。
や、それ銀さんの台詞ですから。
本当何してんの!?お前らぁぁぁ!!
思春期は何処に
落としてきちゃいましたぁぁ!!?
「ほっとくネ、新八。思春期オヤジは色々大変ネ」
「あ~、成る程ね~」
肩を竦め、ヤレヤレと言った風に語る神楽に、何故か納得する新八。
どうやら思春期であったのは俺の方だったらしい。
とりあえず俺は、上げた腰をそのままに、二人が出てきた
和室へと向い、隅っこで丸まってみた。
・・・やべ、ちょっと安らぐ。
*****************************************
坂田家で一番思春期なのは坂田(笑)
くるくると思ってたら、とうとう来たらしい。
突然の激しい雨音と、新八の残念そうな声が聞こえてきた。
「何?雨?」
目隠し代わりにしていたジャ○プを上に上げ、ちらりと見れば
新八が窓の外を眺め、
「えぇ、それも結構な激しさで・・・」
神楽ちゃん、大丈夫かな?と心配げに呟いた。
それを聞き、昼ごはんを食べた後、新八の言葉も聞かずに
弾丸のように飛び出していった少女の事を思い出す。
・・・確か曇ってたから、傘持って行かなかったんだよな、あいつ。
夜兎族としては納得できる行動だが、普通は反対だ。
見れば置いてかれた定春も、幾分心配そうに外へと視線を
向けている。
「大丈夫だろ。アイツだって雨宿りする知恵ぐらいあらぁな」
「アンタ、それ聞かれたら問答無用でぶん殴られますよ?」
早めにお風呂入れちゃいますから、後頼みますね。
そう言うと新八は風呂場へと足を向け、そのまま外へと出て行った。
多分迎えに行ったのだろう。
「全く・・・心配性なかぁちゃんだねぇ」
とりあえず言われた事をする為、渋々体を起こす。
そしてお湯の加減を見る為、風呂場へと行こうとし、少し考えて
箪笥からバスタオルを数枚、玄関へと持っていった。
・・・いや、銀さんのは心配とかじゃなくて
気遣いだからね。
「ただいまヨ~」
「ちょ!神楽ちゃん、そのまま上がらないで!!」
雨音の激しさが収まらないまま、それ以上の激しさで万事屋の
玄関が開けられた。
どうやらきちんと弾丸少女を見つけられたらしい。
「はい、これで拭いて!お風呂出来てる筈だからそのまま入っちゃって」
「はいヨ~」
そのまま居間へは来ず、風呂場へと走っていく音が聞こえる。
それから少しして、バスタオルを持った新八が
居間へとやって来た。
「おぅ、ご苦労さん」
「はい。銀さんも有難うございます」
そう言って微かにバスタオルを上げられ、俺は寝たまま軽く手を振る。
「ってかアイツ、やっぱ濡れてたのか」
「えぇ、しかも雨宿りもせずヒョコヒョコ歩いてましたよ」
大きく息を吐き、新八は肩を落とした。
せめて走ってくるぐらいの事はして欲しかった。と苦笑するが、
神楽の気持ちも判るのだろう。そんなに怒っておらず、
寧ろ心配げだ。
「風邪、引かなきゃ良いんですけど・・・」
「そんなチャレンジャーな菌はいねぇだろうさ」
そう告げた時、風呂場から大きな声が発せられた。
「新八ぃ、着替えよろしくネ」
「あ~、はいはい。今持ってくから」
新八は返事を返すとバスタオルを抱えたまま箪笥へと行き、
神楽の着替えを持つと風呂場へと行ってしまった。
あ~、本当。甲斐甲斐しいったらないね。
・・・・ってアレ?なんか変じゃね?
いやいや、幾ら家族っぽいって言ってもさ?
幾ら脱衣所と風呂場が仕切られてるって言ってもさ?
お前ら、思春期じゃね?
ぼんやりと新八を見送ってしまった後、不意に沸いた疑問に
グルグル頭を回していると、遠くの方で
「着替えここに置いとくからね。ちゃんと暖まるんだよ~」
という声が聞こえた。そして、
「判ってるネ。あ、序に一緒に入るカ?新八も濡れたアル。
迎えに来てくれた礼に、特別に許してやるネ」
と言う呑気な神楽の声も・・・っておい!
何ソレ、どんなギャルゲー的フラグゥゥゥ!!?
ちょ、待て神楽。オマエはそんなキャラじゃねぇだろうが。
違うから。お前はそう言っていいキャラじゃねぇから!
そう言う台詞は銀さんに任せときなさいぃぃ!!!
思わず体を起こし、いざとなったら乱入してでも
止めてやろうと決意していると、
「え~、やだよ。狭いし神楽ちゃん暴れそうだし」
・・・と言うこれまた呑気な新八の返事。
って新ちゃんも違うよね、その答え。
ここは普通恥ずかしがってドモリながらも
神楽の発言を窘める所でしょぉぉぉぉ!!?
で、頬染めながらこっちに帰って来て、俺にブチブチ文句を
言いながらも
「でも・・・銀さんとなら一緒でもいいかも・・・」
とか言ってますます顔を赤らめる場面だよねぇ!?
あ、いやこれ妄想じゃないから。
前に見た予知夢的ものだから、本当。
そんな事を思っていると、普通の顔をした新八が
居間へと帰って来た。
恥ずかしがっても、照れてもいない。
・・・なんかやっぱ違うな、コレ。
俺は一つ息を吸うと、新八へと声を掛けた。
「ん?なんですか?」
「や、なんですかって、おま・・・今の会話、何?」
そう言うと新八は不思議そうに首を傾げた。
「会話って、風呂が狭いってやつですか?」
本当なんだから仕方ないじゃないですか。文句を言われたと
思ったのだろう、新八は少し口を尖らせてそう答えた。
いやいや、そうじゃなくてね。
「新八のキャラで言うと、ああいう時って恥ずかしがらね?」
湾曲に言っても伝わらないだろう・・・と、直球で聞くと、
新八は あぁ と軽く頷いた。
「アンタがどんなキャラ設定で僕を見てるか知りませんが、
神楽ちゃんの洗濯物、誰が洗ってると思ってるんですか?」
パンツも漏れなく洗ってんですよ、僕。そう冷静に告げ、新八は
そのまま和室へと戻っていった。
・・・へ~、洗ってんだ、新ちゃん。
で、洗わしてんだ、神楽は。
・・・ね、君達思春期だよね?
花も恥らうお年頃ってやつだよね?
男の子と女の子だよね?一応ぉぉぉ!!
いや、安心したよ?銀さんめっちゃ安心した!
・・・でも・・・あれぇぇ!!??
風呂場から聞こえる神楽の鼻歌と、和室から聞こえる新八の鼻歌を
聞きながら、とりあえず思春期って何だっけ?と
一生懸命考えてみた。
・・・多分俺の知ってる思春期と、
ヤツラの過ごしている思春期は性質が全く違うと思う。
って言うか、まだ思春期とかに入ってないんじゃね?
とりあえずそういう考えに落ち着いた。
けれど、俺が一度冷静になろうと洗面台に顔を洗いに行った時、
神楽と新八から非常に鋭い軽蔑的視線を送られたのは何故なのか、
誰か説明してください。
************************************
蒼さんとの考察の結果、こうなりました(笑)
新ちゃんも神楽も、お互いは別に大丈夫でも
坂田は別(大笑)
「何かいい事でもありました?」
天気も良いし・・・と、歩きで来た買い物の帰り、
不意に新八がそう聞いてきた。
「なんだ?突然」
「いや、だってなんか機嫌良さそうなんで」
そう言い、新八は自分の口元を買い物袋を持っていない方の手で
指差した。
それにつられ、俺も空いてる方の手で自分の口元を指差す。
新八はそれを見て小さく頷くと、
「緩んでますよ、さっきからずっと」
そう言ってやんわりと笑った。
マジでか!?
しかし、こんな道端じゃ確認する事も出来ない。
俺はそのまま頬を掻くと、
「ま、アレだよ新八君。キミの愛が銀さんの身も心も
蕩けかしているというかだねぇ」
と、甘い息(イチゴ牛乳臭)と共に甘い言葉を吐き出してみた。
「あぁ、糖分で出来てますもんね、銀さん。
だから溶けちゃったのかぁ、脳から何もかも」
「え?なんで脳から??
ってか銀さんは糖分で出来てないから!寧ろ今は
愛の塊だから、銀さん!!」
「まぁ今日は少し暖かいですもんね~。
綿菓子も溶けちゃいますよね、これじゃあ」
「スルー!!?ってか頭か!
頭の事指してんのか、それはぁぁぁ!!!
いやいや、それよりも新ちゃん。人の話はまだしも、銀さんの話は
一語一句漏らさず聞いていこうや、おい。
今かなりいい事言ったよ?銀さん!
愛と言うものを囁いちゃいましたよ?
ちなみに銀さんは新八の言葉は大事に聞き留めて反芻する勢いです!」
「その勢いのまま散り急いで下さい、銀さん」
にっこりと可愛らしい笑顔でそんな事を言ってくる新八から、
そっと目を逸らす。
そして目を瞑り、暫し行動停止。
「・・・・よし、翻訳すると
『今夜は限界まで頑張りましょうね』だな。」
「どんな言語による翻訳だよ、それ。」
どうやら俺の素晴らしい翻訳に本心を暴かれ、
照れてしまったらしい。
新八から照れを隠した絶対零度的な視線が送られてくる。
ツンデレって可愛いなぁ、おい。
一人満足げに頷いていると、新八がさっさと歩いていってしまう。
どうも相当恥ずかしかったらしい。
あ、銀さんが・・・じゃないからね。
俺自体が恥ずかしいものだったわけじゃないから、きっと。
で、置いて行かれないよう、俺も足早に追いついて、隣を歩く。
あぁもう顔を真っ赤にしちゃって、まぁ。
これはアレだから。怒ってるとかじゃ全然ないから。
照れちゃってるだけだから、多分きっと。
近付くと余計に新八の足が速くなった。
それに負けずに俺も付いて行く。
サカサカ スタスタ。
何だか急に始まった追いかけっこに、仕舞いには二人で走り出していた。
勿論、俺としては新八に付いて行くのなんか簡単な事で。
捕まえて止めるなんて事も簡単に出来てしまうけれど、
何だか妙に一生懸命な顔で走る新八が可愛くて、
つい適度な間隔を持ったまま付いて行ってしまった。
や、ストーカーとかじゃ全然ないから。
びっくりした顔でこちらを向く見慣れた顔ぶれを追い越し、
歩き慣れた道を走り、
音も気にせずに駆け上れば、そこはゴールの万事屋だ。
二人して駆け込み、扉を閉めた所で立ち止まって息を整える。
「な、なんでこんな・・・事に・・・」
肩で息をしながら、そうぼやく新八に俺も頷く。
そして二人で顔を見合わせ、零れだす笑い。
「オマエが走り出すからだろうが」
「銀さんが追い掛けて来るからでしょう?」
「だって逃げんだもんよ、オマエ」
「変態に追っかけられたら全力で逃げろ、と姐上に教え込まれているもので」
そう言ってクスクスと笑う新八のオデコに、コノヤローとばかりに
少しだけ汗ばんだ額を軽く打ち付ける。
そのままグリグリと押せば、痛い痛いと新八が訴え、また逃げようと
するので買い物袋を置き、序に新八の手からも買い物袋を奪って
下に置き、ぎゅっと両手を握り締めた。
「変態じゃねぇよ、銀さんだろうが、オマエの」
「僕のかどうかは知りませんが、何気に=で結ばれてましたよ、
さっきの銀さん」
押すのをやめたせいか、それとも手を握ったせいか。
額を合わせたまま力を抜く新八に、俺にも笑みが戻る。
「あ~、じゃあそれでいいわ、もう。
オマエに関しちゃ間違ってねぇし」
変態銀さん、上等ですぅ。そう言うと新八は一瞬目を見開き、
次に困ったように眉を下げて笑みを浮かべた。
「本当、どうしちゃったんですか?
そんなにいい事があったんですか?」
あったよ、いい事。
口には出さず、ただニンマリと笑みを浮かべて、俺は先程の事を
思い浮かべる。
それは単なる買出しの風景。
何時もと変わらない風景。
だけどさ、新八。オマエ、無意識にだったかもしれねぇけどよ?
魚屋のオヤジに薦められた、特売品の四匹で一パックになってる魚。
「ウチ、家族三人なんで三匹でいいんですけど・・・」
それを聞いてさ、俺がどんなにこっ恥ずかしくて幸せだったか
判るか?
きっとそれを言ったら、ウチは三人なんだから三匹でいいでしょ?なんて
言うんだろうけどさ。
・・・そこがさ、本当にさ、もうさ。
「大好きすぎるよ、新ちゃん」
せめてこの感じた恥ずかしさの一割でも。
せめてこの味わった幸せの大部分を。
目の前の新八にも伝染してくれる事を祈って、
俺はやっぱり可愛らしい新八の鼻先に、ちゅっと可愛い音を立てて
口付けを送った。
***************
新ちゃんの言動に翻弄される坂田。
買い物の帰り、今日は大丈夫かな・・・と通り掛った公園に寄った。
・・・時々ここで昼寝してる沖田さんと格闘・・・と言うか死闘?を
繰り広げてるんだよね、神楽ちゃん。
はははっ、と幾分乾いた笑いを零しながら一応一回りしてみると、
良い事と悪い事があった。
良い事は神楽ちゃん達が居なく、公共物が壊された気配も
なかった事。
悪い事は・・・公園の隅にある大きな木の下に、何処かで見た
お方がいらっしゃる事。
お陰で僕は思わず、公園の真ん中辺でフリーズしてしまった。
や、別に何も見なかった振りしてその場を後にすれば良かったんだけどね。
でもあまりの事に、思わず二度見してからガン見しちゃったから。
相手もなんか気付いちゃってるみたいだから。
・・・ま、公園内に僕とその人以外誰も居ないからね。
度々行われる神楽ちゃん達の死闘に、ここって人が
寄らなくなっちゃったんだよね・・・
思わず遠くに視線を飛ばしたくなるのも仕方がない。
・・・が、このままだと視線所か魂も
遠くに飛ばされそうだ。
とりあえずジリジリと後ずさりしてみる。
よく見れば、向こうはまだはっきりと僕が誰なのか確定していないらしく、
僅かに首を傾げているのが見えた。
なら思い出される前に立ち去ってしまおう。
僕はそれでも軽く頭を下げ、そのまま公園を出ようと後ろに足を一歩
踏み出した・・・が、既に遅かったらしい。
木の下の夜兎族な片腕のお方は、
「あぁ、あの時の坊主か」
・・・と、軽く人差指を立てて下さった。
「あ~、そんな警戒しなくていいから。言ったろ?あん時は仕事。
俺ァ案外平和主義でねぇ」
そう言ってニンマリと笑う男に、それでも警戒を解かずに
少しだけ近付いてみる。
幾らそう言われても、出会い方が出会い方だ。
神楽ちゃんの事もある。
しかも居る場所がこの公園だ。
何か考えているのかもしれない。
「じゃあなんでこんな所に居るんですか?」
僕はとりあえずこの場所に居る理由を聞いてみた。
誤魔化されるかもしれないけれど、やっぱり聞かずにはいられない。
すると男は大きく肩を竦めると、小さく首を横に振った。
「団長の御守も大変でねぇ・・・坊主は買い物帰りかい?」
「坊主じゃなくて新八です」
「あぁ、新八ね。・・・そういやぁ団長の妹がそう呼んでたっけなぁ」
思い出すように視線を上に向け、顎を摩ると、自分も名乗ってくれた。
が、だからって警戒を解く事は出来ない。
じっと見詰めていると、向こうも繁々とこちらを見詰めてきた。
な、なんだろう?なんかイチャモン付けられるのかな?
そりゃ~流石にあんな事があったんだし・・・や、でも
酷い目に合ったのは僕の方だよね?
刺したって言っても、既にない腕の方だったし!!
あ、でも仕事を邪魔したってのには変わりないのかな?
あ~もう、なんで僕公園なんかに寄っちゃったんだろう!!
グルグルとそんな事を考えてると、阿伏兎さんはしみじみとした
口調で言葉を発してきた。
「しかし・・・ぱっと見気が付かなかったぜ。
そんな格好してたから」
そう言われ、僕は首を傾げる。
そんな格好も何も、至って普通の格好だと思うんだけど・・・
ってそうだった!!僕、あの時女装してたじゃん!!
「や、違いますよ!?アレはあの時だけですから!
非常事態故の格好ですから、あれはぁぁ!!」
女装が趣味だと思われては困る!とばかりに力説すると、
阿伏兎さんはゆっくりと顎を摩り、
「そうなのか?結構似合ってたと思うがねぇ」
こう、ミョーンと髪縛って。と、妙に可愛らしい効果音と共に
額に持って来た手を上に上げた。
「あ、あれは銀さんが調子に乗って無理矢理・・・」
その時の事を思い出し、僕は顔に熱が集まるのを感じた。
や、あの時は別になんとも思わなかったけどね。
僕もテンション高かったし・・・けど、いざ全て終わって
自分の格好を認識した時の恥ずかしさと言ったら!!
真っ赤になっていると、阿伏兎さんは少しだけ首を傾げ、小さく
何かを呟いた。
「・・・あぁ、あの団長が気に入ってたのね。
いやいやどうして。いい趣味してんじゃねぇか」
ニマニマと笑う阿伏兎さんに、少しだけ身を引いてしまう。
先程とは違った意味で。
「・・・や、ソコで同意されても、ものっそく反応に困るんですけど」
「そうか?ま、若者にはまだ理解できないかねぇ」
まぁいいか。そう言うと阿伏兎さんはチラリと空を見上げた。
つられて僕も見るが、ソコには何もない。
不思議に思ってたのが顔に出たのだろう、阿伏兎さんは少し苦笑を
浮かべると、どうも陽射しがねぇ。と口にした。
その言葉に夜兎族の特性を思い出したけど、やっぱり不思議だ。
だって阿伏兎さんの傍には、木に立て掛けられてる傘がある。
僕の視線に気付いたのか、阿伏兎さんは傘を手に取ると
パンと勢い良く広げた。
一瞬攻撃されるかと身構えたが、ただ開いただけのようだ。
「なんもしねぇよ」
苦笑したままそう言うと、ゆっくりと開いた傘を僕へと向けた。
少しだけホッとしたと共に、小さな声が飛び出る。
「・・・穴?」
その声に、阿伏兎さんは少しだけ肩を竦め、傘をその肩に寄せた。
なんでもここらを歩いている途中、何処からか
鉄の塊が飛んできたらしい。
それも強硬さを誇る傘を突き破るほどの勢いで。
「ま、これぐらいならそんなに不自由はないんだがねぇ」
休憩もかねて、ここで一休みしてたんだよ。そう告げる阿伏兎さんに、
僕は少しだけ嫌な汗をかいてしまった。
だって、そんな物凄いのが飛んできたって!!
多分その犯人であろう二人に思い当たり、ヒクリと頬が引き攣る。
「そ、それは災難でしたね~」
「本当にな。しかしあんなモノが自然発生する訳ねぇし、
一体どんなヤツが・・・」
「あ!僕いいの持ってますよ!!」
思案するように眉を顰める阿伏兎さんに、僕は慌ててそう告げると、
持っていた風呂敷へと手を突っ込んだ。
た、確かこの中に・・・って、あった!!
目当ての物を無事見つけ、僕はそれを取り出しながら
阿伏兎さんへと近付いた。
そして阿伏兎さんにさしている傘を少し下げてもらうよう告げる。
僕は開いている穴に手を伸ばすと、取り出したものを数枚、
その部分に貼り付けた。
「絆創膏?」
貼られた物を見ながら、阿伏兎さんが呟く。
「ってかえらく可愛らしいんだなぁ」
笑う阿伏兎さんに、僕も苦笑する。
そう、絆創膏は絆創膏でも、可愛らしいイラストのついたものだ。
神楽ちゃんが怪我した時の為に、何時も持ち歩いてたんだよね。
「すみません。でもこれで少しはマシになるんじゃないですか?」
貼った場所も内側だし、そんなに目立たない・・・と思う、うん。
阿伏兎さんは傘を上にあげ、クルリと回すと ま、そうだな。と
言って笑った。
そして傘を首と肩で挟むと、一つしかない腕を僕へと向けてきた。
って僕、気が付けばメッチャ至近距離にいんじゃん!!
思わず首を竦めたが、伸ばされた手はそのまま僕の頭へと乗せられ、
やんわりと優しく撫でられた。
想像もしていなかった行動に、思わず顔を上げると、
やんわりと笑っている阿伏兎さんの顔が。
「目が転げ落ちそうだな、それ」
落っことすなよぉ。そう言うと仕上げとばかりにポンポンと叩かれ、
阿伏兎さんは木の下から出て行った。
さよならの変わりか、緩く傘を振りながら。
「・・・なんか変な人」
あ~疲れた~。そうぼやくものの、ほんの少しだけ口元が
緩むのを感じた。
「・・・ね、新ちゃん。今日の午後、何処行ってたの?」
「午後?別に買い物に行ったぐらいですけど・・・
ってか銀さん、顔怖い」
「大丈夫、銀さんそんなに怒んねぇから。本当の事言ってみ?な?」
「いや本当も何もそれだけですけど・・・って銀さん、顔怖いですって」
「違うだろ?買い物だけじゃねぇだろ?言ってみって、マジで」
「しつこいなぁ、それだけですよ。
って本当、顔怖いんですけど!?」
「怖くもなるわコノヤロー!!ネタは上がってんだぞ!!
真昼間の公園で堂々浮気しやがって!!!」
「はぁ!?何言ってんですか、そんなのしてませんよ」
「してましたぁ、長谷川さんが見てましたぁ。
木の下で他の男とイチャコライチャコラ・・・なんだオイ!
伝説の木気取りですかコンチキショー!!!」
「・・・あ」
「あ!?あ ってなんだおいぃぃ!!
やっぱりか、やっぱりなのか!?
お仕置きじゃコノヤロー、
お願いだから捨てないで下さい!!」
「って足に縋りつきながら
脱がそうとしてんじゃねぇぇ!!!」
その晩、強制的にお泊りとなった新八は、昼とは違った意味で
疲労困憊となり、二度と寄り道はしないと固く誓ったのであった。
*****************************
二万打お礼企画第八弾。
Mag.様から、どちらでも書き易い方で・・・と
リクを頂きましたが、こちらも書いてしまいましたι
「銀新前提なあぶはち(阿伏兎×新八)」です。
すみません、調子に乗ってι
私もちょっと気になったんで(笑)
こんな感じになりましたが、少しは楽しんで頂けたら
嬉しいですvv
企画参加、本当に有難うございました♪