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「何かいい事でもありました?」
天気も良いし・・・と、歩きで来た買い物の帰り、
不意に新八がそう聞いてきた。
「なんだ?突然」
「いや、だってなんか機嫌良さそうなんで」
そう言い、新八は自分の口元を買い物袋を持っていない方の手で
指差した。
それにつられ、俺も空いてる方の手で自分の口元を指差す。
新八はそれを見て小さく頷くと、
「緩んでますよ、さっきからずっと」
そう言ってやんわりと笑った。
マジでか!?
しかし、こんな道端じゃ確認する事も出来ない。
俺はそのまま頬を掻くと、
「ま、アレだよ新八君。キミの愛が銀さんの身も心も
蕩けかしているというかだねぇ」
と、甘い息(イチゴ牛乳臭)と共に甘い言葉を吐き出してみた。
「あぁ、糖分で出来てますもんね、銀さん。
だから溶けちゃったのかぁ、脳から何もかも」
「え?なんで脳から??
ってか銀さんは糖分で出来てないから!寧ろ今は
愛の塊だから、銀さん!!」
「まぁ今日は少し暖かいですもんね~。
綿菓子も溶けちゃいますよね、これじゃあ」
「スルー!!?ってか頭か!
頭の事指してんのか、それはぁぁぁ!!!
いやいや、それよりも新ちゃん。人の話はまだしも、銀さんの話は
一語一句漏らさず聞いていこうや、おい。
今かなりいい事言ったよ?銀さん!
愛と言うものを囁いちゃいましたよ?
ちなみに銀さんは新八の言葉は大事に聞き留めて反芻する勢いです!」
「その勢いのまま散り急いで下さい、銀さん」
にっこりと可愛らしい笑顔でそんな事を言ってくる新八から、
そっと目を逸らす。
そして目を瞑り、暫し行動停止。
「・・・・よし、翻訳すると
『今夜は限界まで頑張りましょうね』だな。」
「どんな言語による翻訳だよ、それ。」
どうやら俺の素晴らしい翻訳に本心を暴かれ、
照れてしまったらしい。
新八から照れを隠した絶対零度的な視線が送られてくる。
ツンデレって可愛いなぁ、おい。
一人満足げに頷いていると、新八がさっさと歩いていってしまう。
どうも相当恥ずかしかったらしい。
あ、銀さんが・・・じゃないからね。
俺自体が恥ずかしいものだったわけじゃないから、きっと。
で、置いて行かれないよう、俺も足早に追いついて、隣を歩く。
あぁもう顔を真っ赤にしちゃって、まぁ。
これはアレだから。怒ってるとかじゃ全然ないから。
照れちゃってるだけだから、多分きっと。
近付くと余計に新八の足が速くなった。
それに負けずに俺も付いて行く。
サカサカ スタスタ。
何だか急に始まった追いかけっこに、仕舞いには二人で走り出していた。
勿論、俺としては新八に付いて行くのなんか簡単な事で。
捕まえて止めるなんて事も簡単に出来てしまうけれど、
何だか妙に一生懸命な顔で走る新八が可愛くて、
つい適度な間隔を持ったまま付いて行ってしまった。
や、ストーカーとかじゃ全然ないから。
びっくりした顔でこちらを向く見慣れた顔ぶれを追い越し、
歩き慣れた道を走り、
音も気にせずに駆け上れば、そこはゴールの万事屋だ。
二人して駆け込み、扉を閉めた所で立ち止まって息を整える。
「な、なんでこんな・・・事に・・・」
肩で息をしながら、そうぼやく新八に俺も頷く。
そして二人で顔を見合わせ、零れだす笑い。
「オマエが走り出すからだろうが」
「銀さんが追い掛けて来るからでしょう?」
「だって逃げんだもんよ、オマエ」
「変態に追っかけられたら全力で逃げろ、と姐上に教え込まれているもので」
そう言ってクスクスと笑う新八のオデコに、コノヤローとばかりに
少しだけ汗ばんだ額を軽く打ち付ける。
そのままグリグリと押せば、痛い痛いと新八が訴え、また逃げようと
するので買い物袋を置き、序に新八の手からも買い物袋を奪って
下に置き、ぎゅっと両手を握り締めた。
「変態じゃねぇよ、銀さんだろうが、オマエの」
「僕のかどうかは知りませんが、何気に=で結ばれてましたよ、
さっきの銀さん」
押すのをやめたせいか、それとも手を握ったせいか。
額を合わせたまま力を抜く新八に、俺にも笑みが戻る。
「あ~、じゃあそれでいいわ、もう。
オマエに関しちゃ間違ってねぇし」
変態銀さん、上等ですぅ。そう言うと新八は一瞬目を見開き、
次に困ったように眉を下げて笑みを浮かべた。
「本当、どうしちゃったんですか?
そんなにいい事があったんですか?」
あったよ、いい事。
口には出さず、ただニンマリと笑みを浮かべて、俺は先程の事を
思い浮かべる。
それは単なる買出しの風景。
何時もと変わらない風景。
だけどさ、新八。オマエ、無意識にだったかもしれねぇけどよ?
魚屋のオヤジに薦められた、特売品の四匹で一パックになってる魚。
「ウチ、家族三人なんで三匹でいいんですけど・・・」
それを聞いてさ、俺がどんなにこっ恥ずかしくて幸せだったか
判るか?
きっとそれを言ったら、ウチは三人なんだから三匹でいいでしょ?なんて
言うんだろうけどさ。
・・・そこがさ、本当にさ、もうさ。
「大好きすぎるよ、新ちゃん」
せめてこの感じた恥ずかしさの一割でも。
せめてこの味わった幸せの大部分を。
目の前の新八にも伝染してくれる事を祈って、
俺はやっぱり可愛らしい新八の鼻先に、ちゅっと可愛い音を立てて
口付けを送った。
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新ちゃんの言動に翻弄される坂田。