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まだ日付が変わる前に万事屋へと戻ってきた俺を出迎えたのは、
今まさに眠ろうとしていた新八だった。
「あれ?早かったですね、銀さん」
「ん~、まぁなぁ。長谷川さんが、明日用事があるって言うからよぉ。
銀さんも帰って来たの。」
財布ないと呑めないしぃ。と、言いながらブーツを脱いでいると、
小さい声で怒られた。
あれ?俺、今財布って言った?
おっかしーなぁ、ちゃんと名前呼んだつもりだったんだけどなぁ。
・・・ま、いっか。間違ってねぇし。
うんうんと頷きながら居間へと行き、ソファにドサリと体を預けると、
何時の間に持ってきてくれたのか
新八が水の入ったコップを手渡してくれた。
「銀さん、お風呂どうします?」
僕、さっき入ったばかりだから、まだ温かいですけど。そう言う新八に
俺は水を飲みながら少し考え、 入るわ。 と簡潔に答えた。
「そうですか。なら着替え、お風呂場に持ってっときますね」
そう言って箪笥へと行き、俺の甚平を取り出すとそのまま
風呂場へと持っていった。
それを既に空っぽになったコップの縁を咥えながら目で追う。
・・・やべ、ちょっと幸せじゃね?なんか。
どうせなら一緒に入ってくんねぇかなぁ。そしたらもっと幸せだよなぁ。
等と思っていると、風呂場から新八が帰って来た。
よし、ちょっくら誘ってみよう。
そう思い口を開いたが、先に新八から じゃあ先に寝てますね。 と
言われてしまった。
「え、ウソ。寝ちゃうの?お前」
「そりゃ寝ますよ。今何時だと思ってんですか」
「何時って・・・恋人達の時間?」
「そんな時間はとうの昔に過ぎ去りました。
今は睡眠の時間です~」
ツンと顔を背け、俺の答えを無残にも切り捨てる新八に、カクリと
頭を垂れる。
なんだよ、俺の許可なく過ぎてんじゃねぇよ。
ロスタイムはないのか、ロスタイムは!!
ってかその仕草も可愛いんですけどぉぉぉぉおお!!!!
「ホラ、さっさとお風呂行ってきてください」
ウダウダしている俺に痺れを切らしたのか、新八が俺の腕を取って
ソファから立たせてくる。
それに抵抗せず、俺は立ち上がるとそのまま新八に抱き付いた。
「ちょ!お酒臭いですって、銀さん!!」
「お前はいい匂いな」
目の前にある頭に鼻を埋めると、嗅ぎ慣れたシャンプーのいい香りがした。
序に チュッ と旋毛に口付ける。
が、すぐに新八の手が顎に掛かり、無理矢理引き剥がされてしまった。
「ならアンタもいい匂いさせて来て下さい!」
そう言う新八の頬はちょっと赤い。
可愛いなぁ、おい。
思わず頬が緩み、もっとその可愛さを堪能しようと顔を近づけたが、
その前にクルリと体を反転させられた。
そしてそのまま風呂場へ向けて背中を押されてしまう。
「なぁ、やっぱ朝入るわ、風呂」
そう提案するが、新八の足は止まらない。
直ぐに風呂場へと連れて来られてしまった。
「はい、さっさと入って下さいね。中で寝ちゃダメですよ?」
「そんな心配すんなら新八も一緒に・・・」
「はい、さっさと入って下さいね。中で寝ちゃダメですよ?」
「あれ?なんでさっきと同じ言葉??
可笑しいよね?
なんか会話になってないよね?これ」
「はい、さっさと入って下さいね。
中で寝ちゃダメですよ?」
「・・・すんませんでした」
段々と笑みが増してくる新八に負け、スゴスゴと脱衣所に向う。
「・・・なぁ、本当に先寝ちゃうのか?」
銀さん、寂しいんだけど。と、それでも諦めきれずチラリと
視線を送ると、新八はフフッと先程までとは違う笑みを浮かべた。
そして軽く俺の背を叩くと、
「お休みなさい、銀さん」
と言ってその場から立ち去っていった。
・・・うわ、本当寂しいんですけど、銀さん。
一人その場に残され、大きく肩を落とした。
・・・が直ぐに復活する。
こうなったらさっさと入ってとっとと出てやる!!
新八が眠る前に、絶対出てやるぅぅぅ!!!
それで復活!恋人時間、満喫してやらぁ!!と、
勢い良く着物を脱ぎ捨て浴槽へと向った。
そして風呂の蓋を取り・・・目に入ってきたモノに一瞬固まる。
・・・なんだ?こりゃ。
こんなもの、昨日まで無かった筈だが・・・と不思議に思いながらも
とりあえず浴槽へと体を沈めた。
そして先程から目の前にプカプカと浮いている物体を手に取る。
それは所謂『アヒルの玩具』だ。
「どうしたんだ?これ・・・」
多分神楽の玩具であろう事は判る。だが、それが湯船に浸かっている
意味が判らない。
「ま、片付けるのを忘れただけか・・・」
ったく、仕方ねぇなぁ。と、その玩具を手に取る。
どうやら一番大きいアヒルの背中に、小さいアヒルが乗れるように
なっているらしい。
他にする事もないので、とりあえず乗せてようと、小さいアヒルを手に取るが、
少しの違和感を感じ、しげしげとそれを見詰めた。
「これ・・・メガネか?」
何故か小さいアヒルの一つに、マジックでメガネが書き込まれていた。
訳が判らず、クルリとその体をひっくり返してみれば、そこには
『新八』の文字が。
もしかして・・・と、他のアヒルもひっくり返せば、思った通り
『神楽』『定春』とあり、一番大きいアヒルには『銀時』の文字が。
「・・・何やってんだか。銀さん、
まだこんなにプクプクしてませんから~」
そう口にするものの、一つ一つ丁寧に小さいアヒルを大きいアヒルの
背に乗せていく。
・・・やべ・・・ちょっと所じゃなくね?これ。
「あ、銀さん。どうでした?お風呂」
ちゃんと温まってきました?何時もより賑やかな風呂を堪能し出てみれば、
既に寝たと思っていた新八がソファに座って迎えてくれた。
「あ~、もうまたちゃんと拭いてない!!」
風邪引きますよ!そう言って肩に掛けていたタオルを手に取ると、
俺の頭へと乗せ、優しく拭いていく。
そしてある程度水気を取ると、チラリとタオルの間から俺の顔を覗き込み、
「お風呂、寂しくなかったでしょ?」
と、やんわりと笑みを浮かべて問い掛けてきた。
・・・訂正。ちょっと所も何も、すっげー幸せだ、俺。
*******************
偶には坂田を幸せにしてみる。
「おぅ、トッシー。今日はなんのコスプレしてるネ」
「って誰がトッシー!!!?
しかもコスプレってオマッ!!
何処から見ても普通の格好だろうが、コレェェ!!!」
久しぶりの非番、昼飯でも食べに行こうと街をぶらついてたら、
前から歩いてきた見慣れた二人に(と言うか一人に)暴言を吐かれた。
とりあえず湧き上がる感情のまま叫び返す。・・・が、
悲しいかな、ちらりと自分の格好を確認してしまう。
・・・よし、普通の着流しだな、うん。
だが、そのちらりと見た一瞬をきっちり見られたのか、目の前の
チャイナ娘に鼻で笑われた。
「何言ってるネ。何時もはもっと無駄に暑苦しくて金が掛かってそうな
『血税を何だと思ってやがる、
もしかしてクリーニング代も
そっから出てんじゃねぇだろうなぁ、おい』みたいな格好してるネ」
「・・・おい、今喋り口調明らかに変わったよな?」
不審げにこちらを睨みつけてくる神楽に、思わずピキリと青筋が
浮かびそうになるが、その前に一緒に居た新八が神楽の肩を叩いた。
「神楽ちゃん、そんな事言ったらダメだよ。あれは制服なんだから。
・・・でも本当の所、どうなんです?」
おいこらメガネ。なんでソコでメガネを光らせる!!
諭してたんじゃねぇのかよ!!!!
キラリと光ったままこちらを見ているメガネに頬が引き攣るが、
それを一つ息を吐く事で逃がし、簡潔に答える。
「・・・きちんと屯所で洗ってる」
大体毎日着てるんだ、一々クリーニングなんかに出せる訳ねぇだろ。
そう告げると、安心したかの様に新八がほっと笑みを浮かべた。
・・・いや、なんだよその反応。
そんなに無駄に税金使ってる様に見えんのか、俺等は!!!
一応アレ、支給品だから!
貰える数、決まってるから!!
お陰で染み抜きやら裁縫やら、
無駄に上手いヤツが多いから、真選組!!!
そう言いたくなるが、ギュッと口を閉ざす。
そんな切羽詰った現実はあまり知られたくない。
まだ税金ドロボーと思われてた方がマシだ。
「でも珍しいですね、私服の土方さんって。
今日はお休みなんですか?」
「まぁな」
「そうですか・・・」
じゃあな・・・とその場を去ろうとした所で、目の前の二人が
少し困ったような表情をしているのに気付いた。
基本的に万事屋は気に食わない。
しかも今日は久しぶりの休みだ。
腹も減っているのだ。
そうなのだが・・・・
土方は眉を顰め、乱暴な手付きで頭を掻くと、
「どうかしたのか?」
ボソリと問い掛けた。
結局、なんだかんだ言っても見捨てておけない自分に少し呆れる。
だが仕方ない、こう言う性分だ。
些か開き直り、懐からタバコを取り出すとその場で火をつけた。
すると、話を聞いてくれると判ったのか、新八が少し戸惑いながらも
口を開いた。
銀さんを探して欲しい・・・と。
その言葉に、土方の眉が上がる。
なんだ?まさかまた厄介な事に首でも突っ込んでんのか?
いや・・・だがそんな事があれば大抵自分の耳に入って来るはず・・・
「・・・いねぇのか?」
どうせそこらで油でも売ってんじゃねぇのか?そう言うと、
そんなんじゃないんです。と、深刻な表情で首を振られた。
だろうな。この二人が助けを求めてくるとなれば、それなりの事だろう。
土方はタバコのフィルターをギリッと噛み締める。
ちっ、山崎のヤローは何してやがる!!きな臭い事があったら
きちんと報告しやがれってんだ!!
江戸の町を守るのも真選組の仕事だ。
土方は監察である山崎を脳内でボコりながら、とりあえず
詳細を聞こうと新八達へと視線を戻した。そこに・・・
「・・・おい、アソコに居んのはなんだ」
頬を引き攣らせながら指差す先には、遠目にも目立つ銀髪頭が
ヒョコヒョコと歩いている。
いや、ヨタヨタか?
てか寧ろボロボロ!!?
だが、確かにあの銀髪だ。
そう思い、二人を見るが、新八達はちらりと視線を向け、
すぐに土方へと戻した。
「さぁ?
それよりも銀さんです!土方さん、探してください!!」
「いや、探すも何もソコに・・・」
「さっさと探すネ!きっと何処かに居る筈ヨ、
財布が空じゃない銀ちゃんが!!!」
「はぁ!?」
「そうです!何処かにきっと居る筈なんです!
食費ぐらいは持ってる銀さんが!!!」
「いや、あの落ち着・・・」
「ご飯が塩ってどう言う事ネ!!同じ白でも私は粒が食べたいヨ。
米粒が!!!
そんな乙女心を判ってくれてる銀ちゃんを探してヨ!!!」
「せめて一日二食食べられる経済状況を持ってる
銀さんを探し出してください!!」
「出来れば卵も付けてくれる銀ちゃんがいいネ!!!」
そう言い募る新八達は、かなり真剣だ。
土方は身を乗り出して訴えてくる新八達から少しだけ逃げつつ、
大きく息を吐いた。
要するにアレだ。
馬鹿が馬鹿やって新八達を怒らせたのだろう。
・・・やっぱりこいつ等に関わると碌な事にならねぇ。
そう思いつつもこのままにしておける筈も無く、土方は力なく
新八達を昼飯へと誘ったのであった。
**********************
書き始めたら楽しくなってきました(笑)
「あ、税金ドロボーネ」
街の中、突然そう言われ血管が浮かび上がるのを感じた。
日頃からチンピラ警察と恐れられている為、ある程度の視線や
陰口には慣れっこだが、慣れればいいってもんでもねぇ。
と言うか、態々この俺に対して言うとは、いい度胸してんじゃねぇか。
鬼の副長と言われ、一般市民からも攘夷志士からも恐れられている
土方は、一切の感情を隠しもせず、声の発生源を振り返った。
するとソコには、口を塞がれたチャイナ服の少女と、その口を塞ぎつつ、
引き攣った笑みを浮かべて軽く頭を下げている眼鏡の少年が・・・
「・・・テメェらか・・・いい度胸してんじゃねぇか」
あぁ!?と声を低くし言えば、新八が慌てて謝罪の言葉を出す。
そして神楽にも謝るように言うが、神楽は力任せに自分の口を
塞いでいた手を叩き落し、フンとふんぞり返った。
「何でヨ。だってコイツ振り向いたネ。自分でも自覚がある証拠ヨ」
う・・・神楽の言葉に、土方は一瞬言葉が詰まる。
確かに今、土方の名前は呼ばれなかった。
しかも背後からだった為、面と向って言われた訳でもない。
なのに振り返ったって事は・・・いやいや、違う。
違うぞ、俺。これはアレだ。
警察としてのカンが働いたんだ!!!
悪口に対して!!!!!
・・・アレ?やっぱ何か違くね?
なんか警察関係なくね?
「だからってダメだよ!言っていい事と悪い事があるでしょ?」
叩き落された手を摩りながら、新八が言い聞かせるようにそう言うと、
神楽はプーと頬を膨らませた。
「本当の事は言っても良い事ネ。私、陰口嫌いヨ」
「本当の事だから言っちゃダメな時もあるの!ほら、銀さんの枕に付いてる
抜け毛の本数とか、幾らなんでも面と向って言えないでしょ?」
「・・・確かに・・・あれは言えないネ」
新八の言葉に、神妙に頷く神楽。
なんだ、ソレ。そんなにヤバイのか、あいつの髪。
ってかオイコラ眼鏡。それ、俺等が税金ドロボーっての
否定してねぇだろ。
寧ろ肯定してるよな?なぁ!?
「ホント、すみません、土方さん」
ちゃんと言い聞かせますから。ほら。申し訳なさそうに頭を下げ、
隣の神楽の背に手を回す新八。
それに押されるように一歩前に出ると、俯き加減の為、少しだけ上目遣い
になった状態で口を尖らした神楽が、
「悪かったネ。」
と小さく謝罪の言葉を出した。
いやいやいや。あれ?何コレ。
なんかすっげー居心地
悪いんですけどぉぉぉぉ!!!?
なんでそんなに心底反省してます!って顔してんの?
アレだよな?お前ら、悪口に対してじゃねぇよな、それ。
明らかに
『本当の事言ってごめんなさい☆』
って感じだよなぁ!!?
そうは思うものの、突っ込んで肯定されたらそれこそ辛い。
土方は曖昧に返事を返すと、すぅ~っと視線を逸らした。
「あ、でもあれですよ!土方さんはそんな事ないって
信じてますから、僕!!」
ね、神楽ちゃん。少し上擦った声でそんな事を言う新八。
いや、もういいから。
なんかどんどん胸が痛くなるから、ホント。
「そうネ!私も信じてやるヨ!!だから世間の声なんて
気にする事ないネ!!!ったく、あいつ等は
何も判っちゃいねぇんだからよぉ」
そう言って土方の背をドン!!と力強く叩く神楽。
いやいや、そんな慰めもいらねぇから。
ってかまずお前等が判ってねぇからな?マジで。
ってそうだよ!判ってねぇんだよ、こいつらは!!
何雰囲気に飲まれそうになってんだ、俺は!!!!
きっちり仕事してんじゃん!
テロリスト追って、書類書いて、事件収めて見回りして・・・
色々してんじゃん、俺等!!!!
ハッとその事に気付き、言い返してやろうと視線を戻したその時、
「あ、そう言えば近藤さんがまたウチに来ててそのまま倒れてるんで
迎えに行って上げて下さい」
と、にっこり笑った新八に告げられた。
それにつられるように隣の神楽も手をポンと叩く。
「そう言えばこの先の公園でサドが昼寝してたネ。
目障りだから早く回収するヨロシ」
「後、山崎さんが一本向こうの道でカバディの練習してましたよ?」
「幾らジミーでも、その服のままだと流石に目立つネ」
「神楽ちゃん、それも言い過ぎ~」
そう言って笑い合う二人。
次の瞬間、土方が物凄い形相でその場を後にしたのは言うまでもない。
***********************
無邪気に弄り倒すお子様コンビ(笑)
呑みに行き、そのまま朝日と共に帰宅となった銀時は、痛む頭を抱えながら
静かに万事屋の玄関を潜った。
「うぉ~い、たでぇまぁ」
少しだけ声を抑えて言い、耳を澄ます。
新八は昨日泊まった筈だ。
自分が呑みに行く時は大抵万事屋に泊まっていく。
神楽を一人には出来ない。
以前、自分よりもよっぽど強い神楽を捕まえて、
そんな事を言ったのを覚えてる。
神楽がそこら辺のヤツラにどうこうされるタマかよ。
呆れ混じりにそう返すと、新八は少し怒ったようにこちらを睨み、
「それでも神楽ちゃんは女の子で、子供です」
だから、夜一人になんかさせられません。自分だってまだ十分子供と
言える年なのに、そう言いきった新八。
そんなもんかね~。と、頭を掻きつつ、ほんの少しだけ
口元が緩く上がるのを感じた。
そんな俺がどう見えたのか、新八は一つ息を吐いて肩を落とし、
それにですね~・・・と言葉を続けた。
「アンタ、酔っ払うと適当にソコラ辺で寝ちゃうじゃないですか。
風邪なんか引かれたらたまりませんもん」
自分よりも一回り年を取ってる俺に向けて、そんな事を言ったのも覚えてる。
何その手の掛かる子供を見るような目。
確かにね、銀さんソコラ辺で寝ちゃうけど、そんなに手、掛からないから。
いい大人だから、銀さん。
でもこの間は着替えさせてくれて、布団まで連れてってくれて有難う。
安心して酔えます。
「だからって言って、ホイホイ呑みに行くんじゃねぇぞ、コラ。」
ですよね~。
・・・そう、どす黒い笑顔で言われたのも覚えてるんだけどね。
だが、覚えてはいるものの中々実行出来ない俺は、こうして静かに
家の中の物音に耳を澄ませるのが常だ。
・・・よし、どうやらまだ寝てるみてぇだな。
てっきり帰るのと同時に新八辺りからお小言を貰うものと
気構えていただけに、ホッと肩の力を抜いた。
その拍子に落ちた視線の中に、きちんと二人の履物が並んでいるのが入り、
少しだけ、安心する。
怒られるのはイヤだが、やはり出迎えが無いと言うのは寂しい。
それを眺めつつ、適当に自分のブーツを脱ぐ。
そして廊下へと足を進めたのだが、ふとそれを止め、チラリと振り返る。
視線の先には見慣れた玄関。
神楽の靴。
新八の草履。
そして俺のブーツ。
・・・だが、俺のだけ少し離れた所にある。
しかも片方倒れてるし。
それに少しだけ眉を顰める。
違う・・・違うな、コレ。
足早に戻り、その場にしゃがみ込む。
そして自分のブーツを手に取り、二人の履物の横にきちんと並べる。
すると、そこには行儀良く並んだ三人の履物が出来上がる。
神楽の靴。
新八の草履。
俺のブーツ。
「坂田家の出来上がり~♪」
納得のいく出来栄えに、少しだけ気分が良くなる。
少し前までここには俺のブーツしかなかった。
だけどそれが一つ増え、もう一つ増え、こうして行儀良く並んでいる。
いいな、コレ。うん、いいよ。
満足げにそれを眺めていると、不意に小さな足音が後ろから聞こえた。
振り向けばソコにはまだ少し眠そうな新八の姿が。
「銀・・・さん?帰って来てたんですか」
そんな所で何してるんです?重そうな目蓋を擦りながら、新八が
傍へとやって来る。
どうやら起きぬけの為、朝帰りへの怒りよりも先に、目の前の俺の行動が
気になったらしい。
それを手招きし、今まで見ていたものを指差した。
「見て見て、仲良し坂田さん一家」
ニコニコと笑って告げると、新八はカクリと首を傾げた。
・・・が、それも少しの間だけ。
直ぐに新八も気付き、やんわりと頬を和らげた。
「本当だ、仲良しさんですね~」
珍しく行儀の良い。そう言ってクスクスと笑う新八に、俺は少しだけ
口を尖らす。
「珍しくは余計だっつーの。アレだよ?坂田さん一家は何時でも行儀良いよ?
寧ろ皆の見本だからね?」
「どこの坂田さん一家ですか、それ。
それについさっきまで一つなかったですからね?
仲良しさんだったのはこの二つだけです。」
こ~んな感じで。そう言って俺のブーツを離そうとする新八に、
慌てて頭を下げる。
本当すんません、ごめんなさい。
反省してるから離さないでください、マジで。
すると、許してくれたのか新八の手がブーツから離れた。
それを見て、すかさず少しだけ空いてしまった隙間を埋めるように
ブーツを直す俺。
うん、やっぱり仲良し坂田さん一家だ。
すると、満足げに頷く俺の横で、新八が小さく声を上げた。
見れば何処か困ったような表情で坂田さん一家を見詰めていた。
そして・・・
「銀さん・・・」
「ん?どうした、新八」
「犬の靴ってないんですかね・・・」
「・・・・・・あぁ!!」
「新八~、定春のお散歩セット、何処ネ?」
「あ~、玄関だ、玄関」
昼過ぎ、何時もの所に見られなかったお散歩セットの行方を
尋ねると、問い掛けた新八ではなく、ソファに寝そべっていた
銀時が答えた。
「なんで銀ちゃんが知ってるネ」
万事屋の中の事は、既に主である銀時よりも新八の方が知っている。
なので新八に聞いたのだが・・・
神楽は訝しげに銀時を見詰めた。
「別に俺が知っててもいいだろうが。
と言うかここの家の主だからね?銀さん。
この家の事で知らない事、ないから」
「なら耳かき何処アルカ」
「あ、ちゃんと元あった所に戻しとけよぉ、お散歩セット」
「だから耳かき・・・」
「それとアレだ。知らない人に着いてくなよぉ。
声掛けられても無視しろ無視。決して拳で返事を返すな」
「新八ぃ、耳かき貸すアル。この天パ、詰まりまくってて
人の言葉全然聞こえてないネ。
神楽様が直々に風通し良くしてやるヨ。」
「おいぃぃぃぃ!!!
何処の風通しを良くする気ですかぁぁぁ!!?
もういいからさっさと行って来い!!!」
まるで追い払うように手を振る銀時に、神楽は ケッ と小さく息を
吐くと、傍で苦笑を浮かべて自分達を見詰めていた新八に声を掛けた。
「なんで急に場所を変えたネ。お陰で銀ちゃんに教えられるという
屈辱を味わったヨ、私」
「ちょ、お前どう言う意味だ、おい。」
「そのまんまの意味ヨ」
ベーっと舌を出す神楽を銀時は睨みつけるが、直ぐに視線を逸らし、
荒い鼻息と共に再び体を横たえた。
「・・・仕方ねぇだろ、ソイツは履物ねぇんだからよぉ」
不貞腐れたように呟く銀時に、神楽は不思議そうに首を傾げ、
新八はそっと笑みを零した。
神楽の靴。
新八の草履。
銀時のブーツ。
そして定春のお散歩セット。
時に乱雑になっている時もあるが、坂田さん一家は何時でも仲良しだ。
********************
この後、新八以上に履物の並べ方に几帳面になる坂田。
でも臭そうだと何時も隅に追いやられる羽目に(笑)