[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「今から海にでも行かね?」
「・・・銀さん、もうすぐ夕ご飯なんですけど」
そわそわした雰囲気で台所に顔を出したものだから、
またイチゴ牛乳でもせびりに来たのかと思えばこれだ。
・・・変なモノでも食べたかな?
糖分とジャ○プの為だけに動く人なのに。
訝しげな視線を向ければ、今度は何やらワタワタし始めた。
って言うか何で行き成り海?
銀さんは暇だったからとか何だとか言ってるけど、
生憎僕は暇じゃない。
寧ろ夕ご飯前のこの時間は、忙しくて仕方が無い。
なので、暇なんだったらテーブルでも拭いてて下さい。
と、布巾を渡したら、この世の全てに絶望したような
顔をした。
・・・そんなに動くのがイヤか、コラ。
僕はまだ台所でグズグズしている銀さんの背を
力いっぱい押し出したのだった。
そんな事があったのが、一週間ぐらい前だ。
次の日も同じように誘われたけど、同じような時間帯だったので
さっくり断った。
昼間だったら神楽ちゃんも喜ぶのに、それじゃ
駄目なのかな。
そう言ったら、
「それだと全てにおいて意味がねぇ」
と答えてきた。
遊ぶ以外の意味が海にあるんだろうか。
でもそれ以降誘って来なくなったので、銀さん的には
何かあったらしい。
少しだけ悪かったかな・・・とも思ったけど、夕ご飯の方が
大切だったので仕方が無い。
それ以上に大事な用なんてないだろう。
現に僕にはない。
だが、やっぱり何か変なものを食べたのか、その後
珍しく銀さんが帰りに送ってくれる・・・と言い出した。
また呑みにでも行くのかな?と、財布の中身が心配な
僕としては断ったのだけれど、何故だか銀さんはしつこかった。
曰く、最近運動不足だから少し動きたいらしい。
・・・なら仕事しろよ。
そう言ったら、それとこれは全くの別物だ。と真剣な顔で
答えられた。
いや、一緒だろ。
寧ろ仕事の方が大切だし大事だろ。
でも、ゴロゴロしているだけよりはマシか・・・と、
有難く銀さんの申し出を受ける事にした。
その後で、呑みに行かない事を固く誓わせて。
意外な事に、銀さんはそれを簡単に了承した。
余りに簡単に了承したので、余計不安になったのだが
言うと拗ねそうだったので黙っておいた。
だって今拗ねられて、
帰る時間が遅れるのイヤだ。
と言う事で、大分涼しくなった夜の空気の中、二人並んで歩く。
交わされる会話は何時もと同じだ。
僕のする他愛無い話に、銀さんが適当に相槌を打つ。
それは何時もと変わらなかったけど、何時も以上に
銀さんの適当さ加減が半端なかった。
だって今月苦しいから糖分カットしていいですかと聞いたら、
あ~、そうだな~。って返してくれたしっ!
本当、聞いてないな~。って少し呆れたけど、
丁度いいから言質として頂いておく。
や、だって本当今月苦しいし。
よし、ラッキ~ラッキ~。
あ、でも明日になったら忘れたとか何とか言って
交わされそうだな~。
絶対させないけど。
さて、どうやって守らせよう。そんな事を考えていると、
不意に隣を歩いていた銀さんが立ち止まった。
どうしたのかな?と不思議に思っていると、銀さんは
公園に寄っていかないか。と誘ってきた。
・・・アンタ、僕が何時に起きてるか
知ってて言ってるんですか?
もう僅かな時間でさえも惜しいんですけど。
ってか・・・
「こんな時間に寄ったら迷惑じゃないですか?
長谷川さん」
コテリと首を傾げそう問い掛けると、銀さんは一瞬
死んだような目を生き返らせ、丸くさせた。
「いやあの・・・え?
何でここで長谷川さん?」
銀さん、公園に寄ろうって言ったよね?そう問い返してくる銀さんに、
僕は軽く頷く。
「えぇ、言いましたよ?
でも公園って長谷川さんの家でも
ありますよね?」
だから、やっぱり長谷川さんでも誘って
呑みにでも行くつもりなんだろうと思ったのだけれど・・・
違ったのかな?と銀さんを見れば、心底がっかりした
様な空気を纏っていた。
・・・いや、そんな顔されても・・・
って言うか夜の公園。
しかも既に遊具で遊ぶ年でもない僕達が公園に行く予定なんて
知り合いに会いに行く以外にないと思うんですけど?
・・・まぁ公園に知り合いが居るって
言うのもアレですけど。
「何か間違ってました?」
訝しげにそう聞けば、銀さんは肩をがっくり落としたまま
いや・・・まぁいいや。と力なく呟き、僕の家まで
送ってくれた。
その帰り、銀さんの足取りがお酒を呑んでいないにも関わらず、
とても覚束無いものだったのは、とても奇妙な光景だった。
・・・足腰弱ってんのかな。
その後も銀さんは、観覧車乗りに行こうとか、花火大会に行こう
とか色々と誘ってきた。
が、当然観覧車に乗るぐらいだったら食費に回すし、
花火大会は既に終わってて来年待ちだ。
・・・って言うか・・・
「どうしたんだろ、銀さん」
何時ものように夕ご飯の支度をしながら、ふと考える。
全力空回りなお誘いばかりだったが、基本ダラダラするのが
好きな銀さんにしては、とても珍しい行動だ。
「本当、変なものでも食べたのかな?」
・・・なんてね。
ポツリと呟いた自分の言葉に、小さく苦笑する。
実は銀さんの最近の行動の理由を知ってたりするのだ、僕は。
それは海に誘われて少したった日のこと。
掃除をしていた時に見つけたとある雑誌の記事にあった。
「・・・結構そう言うの、気にする人なんだよね」
記事の内容を思い出し、思わず笑みが零れる。
最初はまさか・・・とも思ったのだが、その後誘われた公園、
観覧車等がまさにその記事のランキング上位にあったのだ。
・・・考えてみれば、何だかんだとお付き合いを始めて、
そう言うのは一切なかったし。
銀さんも色々考えてくれてるのかな?なんて思うと、
嬉しい反面むず痒いものもあって・・・
「・・・だってベタ過ぎるよね」
「何が?」
クスクス笑って呟けば、背後から声が掛けられた。
振り返ればダルそうに台所の入り口に立っている銀さんが。
「いえ、別に。・・・それよりどうしたんですか?」
イチゴ牛乳なら切れてますよ。そう言えば、違ぇよ。と返された。
なら何だろう、また何処かへのお誘いかな?
僕は記憶にあるランキングの内容を思い出しながら
そう問い掛ければ、銀さんは視線を逸らして頭をガシガシと掻いた。
「いや、別に何でもねぇんだけどよ。
・・・やっぱ海、行かね?昼間でいいし、神楽達も
連れてっていいからよ」
・・・どうやら妥協と言う言葉を覚えたらしい。
ってかそんなにランキング一位がお気に入りですか、銀さん。
まぁでもそれなら断る理由もないし・・・と、僕は承諾の返事を
返した。
その時の銀さんの顔ったらっ!!
普段の生気のない顔からは想像も出来ない嬉しそうな顔だったので、
僕はついつい銀さんの元に行き、その緩んでいる口元へと
自分の唇を押し付けてしまったのだった。
・・・ってか何でそんな可愛らしい叫び声上げてるんですか、銀さん。
********
坂田、チェリー疑惑浮上(笑)
ちょっとうっかりし続けて見ました。