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「なんでこんな暑いアルカ~」
「それは今が夏だからだよ」
「でもみぃちゃん家は涼しかったアル」
「それはエアコンがあったからだよ、きっと」
「じゃあウチもエアコン買うアル」
「・・・夏は暑いもんなんだよ、神楽くん」
「って、暑苦しいなぁ、オイ」
少しはシャキッとしなさい!なんて声が背後から聞こえてきて、
それまで扇風機を奪い合いながらグダグダ言い合っていた俺と神楽は、
のっそりと顔を向けた。
見ればハタキ片手に腕まくりをしている新八の姿が。
よし、夏万歳。
「仕方ないネ、新八。暑いんだから見苦しくもなるヨ。
見てみるネ。銀ちゃんなんか、暑くて鼻の下がデロッデロに
伸びきってるアル。
切断してこいよ、もう」
「ちょ、神楽ちゃんんんん!!?
怖いんだけど。
暑い筈なのに一瞬背筋がひんやりしたんだけどぉぉ!?
涼しくて良かったけどね!
ってか伸びてねぇよ、そんなに!
見てみ?ちゃんと見てみ!?何時ものすっきり爽やかな
銀さんのフェイスがあるからぁぁ!!」
なぁ、新八!!そう言って視線を向ければ、返ってきたのは冷ややかな笑顔。
・・・あれ?今って夏だったよね?
「すみません、陽炎で全く見えません。
でも本当、毎日暑いですよね~。」
何時まで続くんだろ。と、新八は片手で顔を仰ぎながらそうぼやく。
「確かに。何時まで続くんだろうな~、この暑さ。
もうこうなったらパフェでも食べて体の中から涼を取るしか
なくね?」
「その前に体の中から血液抜き取ってきて下さい。
確実に涼しくなりますよ?こう、意識がなくなる程」
「あれ?それ死んでね?」
「暑苦しいのがいない&冷えた体で涼を取る。
一石二鳥ネ!」
「おぉぉぉいっ!
笑顔でサラッと言ってんじゃねぇよ!
めっちゃ心が寒くなったわっ!!!」
「銀ちゃんだけずるいネ。
お詫びに扇風機の占領権を私に寄越すヨロシ」
「え、何この理不尽。
チッキショー、絶対渡さねぇ!」
ってか何でこんな時だけ流暢な日本語ぉぉ!!?
神楽の言葉に怒鳴り返しながら、一生懸命扇風機の前に
体を押し込んでいると、パシリといい音が後頭部で炸裂した。
思わず頭を抱え込んで振り返れば、呆れ顔の新八が。
・・・ちっ、どうせならその可愛い足で
踏んで来いよ。
「アホな事ばっかり言ってないで、さっさと首振りに
して下さいよ。
僕だって当たりたいんですから」
「大丈夫だ。特等席な銀さんの膝があいてっから」
「何が大丈夫なんですか、それの。
ってか暑苦しいって言ってんでしょ!!」
「だからエアコン買お~。
それか銀ちゃんの屍~」
「どんな究極選択ぅぅ!!?」
寧ろオマエがなれっ!とばかりに、扇風機の前と言う
狭い範囲で、再び神楽とのど突き合いが始まる。
それに今度は扇風機を壊されたら堪らない・・・と、
新八まで参戦してきて。
数分後、暴れれば暴れるほど暑くなるのに気付き、
仕方なく首振りにして三人並んで扇風機に当たる事となった。
「あ~、でも本当。エアコン購入真剣に考えましょうか?
家の中でも熱中症になった人、結構居ましたし」
確かそろそろシーズンオフで安くなって来てるはず・・・と、
新八は扇風機の風に前髪を揺らしながら呟いた。
「おぉ!マジでか!?
快適に過ごす為なら私、銀ちゃんの糖分減らしてもいいネ」
「いや、そこは自分の酢昆布を減らせよ。
っつうかエアコン・・・ね~」
確かに、ここの所の暑さで外での作業と言う仕事が幾つかあったから、
一っっっっっ番安いのならなんとかなるかもしれねぇ。
・・・でも・・・
「・・・やっぱ駄目だな。
電気代も掛かるし」
「あ~・・・ですよね~」
きっぱり言えば、新八もある程度予測していたのか
苦笑を浮かべて答えを返してきた。
「んだよぉ、糠喜びさせてんじゃねぇぞ、コラ」
神楽も口ではそう言うものの、然程期待はしていなかったようだ。
今は扇風機に向かって声を出し、一人で遊んでいる。
と言う事で、我が家のエアコン導入はまた遠のいた。
・・・っつうか元々入れる気はねぇけどな。
金がないってのも理由の一つだが・・・
俺はちらりと視線を巡らせる。
少し手を伸ばせば届く距離。
そこに神楽が居て、新八が居て。
こんな状況を作り出してくれる扇風機を
手放せる訳がねぇ。
じんわり滲んでくる汗を感じながら、
俺は今年も扇風機に深く感謝した。
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どんな些細な理由も逃しません。