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「銀さんって手、おっきいですね」
ぼんやりと茶を飲んでいると、突然隣に座っていた新八から
そんな事を言われた。
ちらりと見れば、じ~っと俺の手を凝視しているでっかい目が。
いや、そんな風に見るほどでかくはねぇだろ。
そう思いながらも湯呑みを置き、じっと手を見てみる。
・・・うん、至って普通の大きさだ。
だが新八はそう思っていないようで、ホラ。と俺の手を取ると
自分の手と比べるように合わせた。
「ぅわっ!こんなに違うんだ」
そう言って珍しそうに色んな角度から眺めると、向かいに座っている
神楽を手招きした。
どうやら神楽も暇をしていたようで、素直にこちらへとやってくる。
そして合わさったままの俺と新八の手を見ると、自分の手を見、
次にもう片方の俺の手を取ると同じように合わせてきた。
「本当ネ、無駄にでかいヨ銀ちゃん!」
「や、そんなキラキラした目で言われても、無駄ってついてるからね?
明らかに貶めてるから、その単語ぉぉぉ!!!」
そう言っても、何が楽しいのか目の前の子供達は手を離すことはせず、
そのまま遠慮なく弄りだした。
全く・・・何が楽しいんだか・・・
とりあえず両手の自由を無くした俺は、身動きの出来ないまま
テコテコと動く二つの頭を眺める事にした。
「いいな~、僕もその内これくらい大きくなれるのかな?」
「私もこれくらい欲しいネ。そしたらでかいお握り、握り放題ヨ」
「ってかちょっと・・・固い?やっぱりアレかな?
木刀握ってるせいかな?」
「それ以上にパチンコのハンドル
握ってるせいネ。」
「あ~、そっちか~。
あ!ちっちゃい擦り傷発見!なんだろ?
屋根裏に隠してる甘味を取ろうとして擦ったのかな?」
「こっちはごっさ短い生命線見つけたヨ!
短い上に何度か途切れまくってるネ!!」
「っておぉぉぉぉおいっ!!!
さっきからテメー等はイジイジネチネチとぉぉ!!!
くすぐったい上に心が傷付きまくりじゃねぇかぁ!!」
二人の暴言に、没収とばかりに自分の手を取り戻す。
ったく、少し甘い顔を見せたらコレだ。
何が擦り傷だ、何が生命線だ。
少しは心配ぐらいしろってんだ。
ま、いいけどね。銀さんそんな小さな事気にしないし?
手相とか全然信じてないから?
って隠し場所がバレてんのはダメだろぉぉぉ!!!!
しかも本当に生命線短っ!!!
ヤバクね?これ、マジでヤバクね?
甘味も俺も、風前の灯じゃね?
思わず自分の手を凝視していると、ケチだのなんだのと言う
お子様達からのブーイングが飛んできた。
うるせぇよ、それ所じゃねぇんだよ、銀さんっ!
・・・や、別に手の大きさと懐のでかさは関係ないからね?
それで言ったら、俺より心狭いことになるからね、
お前ら。
ってか今さっきまで散々弄くり倒させてたじゃねぇかっ!
十分優しいだろうがコノヤロー!
俺は一つ息を吐くと、目の前の頭にそれぞれ自分の手を乗せた。
そしてそのまま豪快に撫でる。
ったく、手一つで騒ぎやがって。
こんなもん普通だ、普通。
寧ろ丁度良ってもんだろ?
ギャーギャーと騒ぎながらも、しっくりと掌に馴染む二つの頭に、
俺はゆるりと口元を上げた。
あぁ、やっぱりこれぐらいで丁度いい。
******************************************
二人の頭を撫でれる大きさに満足。
「なんで俺がこんな事を・・・」
「ま、まぁ仕方ないじゃないですか。ほら、後少しですよ?」
グダグダと文句を言う銀時に、新八は苦笑を浮かべながら
フォローらしきものを入れ、銀時の背中をチラリと見た。
そこには、少し前まで元気溌剌に求愛行動を示していた
ゴリラの哀れな姿が・・・
「ってかなんで俺が運ばなきゃいけないんだってぇの。
言っとくけど死体遺棄は万事屋の仕事に
含まれてねぇぞ!?」
「いや、まだ死んでませんから。
真選組に届けるだけですからね?」
「あ~、もう銀さん疲れたっ!
いいじゃん、もう。これ、そこら辺に捨てとこうぜ?
きっと親切な人が動物愛護協会に連絡して
保護して貰えるってっ!」
「ダメですよ!その前に僕等が通報されますっ!
かと言って、これ以上この人をアソコに置いてたら、
確実に姉上が犯罪者になっちゃうし・・・」
そう言い、先程目の前で見てしまった実の姉による、ホラー映画のような
ワンシーンを思い出し、新八はブルリと体を震わせた。
「・・・や、既に犯罪者だからね、この惨状」
銀時は一つ息を吐くと、背負いたくも無い荷物をとりあえず降ろし、
引きずることに決めた。
「あ?おい、テメーラ。そこで何してやがる」
漸くついた真選組屯所。とりあえず門番に近藤を投げ渡し、帰ろうと
した所で、中から聞き慣れた声に呼び止められた。
振り返れば嫌な顔をしている土方の姿が。
銀時は小さく舌打ちをし、顎で先程投げた近藤を示す。
「善良な一市民として落し物を届けに来ただけですぅ。
ったく、一割はいらねぇし、感謝の言葉は
気持ち悪ぃからとりあえず金よこせや、コラ」
「あぁ!?どうせ原因はそっちだろうが!
傷害でしょっ引くぞ、ゴラァァ!!!」
「土方さん。その前にしょっ引く人、居ますよね?」
顔を突き合わせて怒鳴りあっていたが、新八ににっこりと微笑みながら
割って入られ、土方がチッと舌打ちをしたその瞬間、
「どわぁっ!!!!!」
パララララと言う音と飛び上がる土方の姿が見え、
新八は目を丸くしてしまった。
一体何が・・・と思う間もなく、直ぐに銀時の背中に視界を覆われ、
何も見えなくなる。
「おいおい沖田くん。そう言うの止めてくんない?
新ちゃんに当たったらどうすんのよ」
「え?沖田さん?」
銀時の言葉に、背伸びして肩口から覗き込めば
そこには飄々とした沖田の姿が。
「安心して下せェ、そんなヘマはしやせんぜ?
・・・まぁ土方さんを外すヘマはしやしたが」
「よ~し、俺は外さねぇからソコに首晒せ、総悟」
チャキッと音を立てて刀を構える土方に、ヤレヤレと首を振る沖田。
「何青筋立ててんですかィ、大人気ない人だねェ。
たかが豆まきぐらいで」
「殺される寸前に大人気も何もねぇよっ!
ってか豆まきじゃねぇだろうが、どう見てもっ!!!」
そう言って土方の指差す先には、鈍く光るイングラムが・・・
「どう見ても豆まきじゃねぇですかィ。
まぁ手で・・・じゃなくて玩具から弾き出されてますけどねィ」
「へ~、それ、豆鉄砲みたいなもんなんですか」
ニヤリと笑ってイングラムを掲げる沖田に、新八が物珍しそうに
銀時の背中から出て近寄っていく。
「ちょ、新ちゃん!?危ないから戻ってきなさいってっ!!」
そんな新八を呼び戻そうと銀時が手を伸ばすが、時既に遅し。
再びパラララララという軽快な音が土方と銀時の足元で鳴り、
序に土煙も上がる。
「だぁぁぁああぁっ!!!
あっぷねぇじゃねぇか総悟コノヤロー!」
「ちっ!避けるんじゃねぇよこのクソ鬼共。
潔く豆に当たって払われろってんでィ」
「当たったら払われるどころか
魂が弾け飛ぶわぁぁ!!!」
なんとか当たらずにすんだ銀時達が叫ぶ中、新八がキョトンとした
顔で沖田を見る。
「真選組では土方さんが鬼役なんですか?」
「あぁ、当然でさァ。じゃなきゃ何の為に
『鬼の副長』なんて二つ名持ってるって言うんでさァ」
「何の為かは知らねぇが節分の為じゃねぇ事だけは
確実だろうが、おい。
ってかテメーもいい加減突っ込めぇぇぇ!!!!
また職務放棄かコノヤロー!!」
「っつうか俺関係ねぇだろ。鬼じゃないからね?銀さん。
お兄さん的年齢だけど、鬼じゃないからっ!
ってかそれ、明らかに豆じゃねぇだろ、弾き出されてるのぉぉ!!!」
「その発言だけで十分鬼役の理由にはなりまさァ。
ちなみにコレは、心の目で見て下せェ。
そうすれば弾も豆に見えるってもんでさァ。」
「見たくねぇよ!ってか見えねぇよ速過ぎてっ!!
ちょ、新ちゃん、助けてっ!!!」
そう言って銀時が沖田の隣に居る新八へと手を伸ばすが、
沖田が再びイングラムを構えた為、ピタリと固まってしまう。
勿論、銀時の傍に居る土方も同じで、固まったままヒクリと口元を
震わせ、青褪めていった。
それを見て、沖田はニタリと口元を緩める。
「見てなせェ、新八。今からあの青鬼共を
赤鬼へと変化させてやりまさァ」
全身隈なく、真っ赤になァ。楽しそうにそう告げる沖田に、
土方と銀時はコクリと一つ息を飲むと、脱兎の如くその場から
逃げ出した。
「甘いですぜィ。オラ、鬼は~外、福は~内。
二人は~散れやコノヤロー。」
それを楽しげに追いかけながら、自称豆を撒く沖田。
「真選組の豆まきって凄いな~」
怒声と雄叫び、それと楽しげな笑い声を聞きながら、ポツリと新八が
呟いていた。
「ったく、酷ぇ目に合ったぜコンチキショー。」
しかも新八には見捨てられるし。そう言って隣を歩いている新八を
じとりと睨めば、サラリと視線を逸らされた。
そう、なんとか命辛々逃げ延びた銀時が目にしたのは、
何故か屯所内で楽しげに隊士達と和やかな豆まきをしている
新八の姿で。
「だって仕方ないじゃないですか。
僕、銀さん達の豆まきには付いていけなかったんですもん。」
「や、あれは豆まきじゃないからね。
純粋なる虐殺行為だから、本当」
そう銀時が言い返すが、新八は納得いかない顔で少しだけ
唇を尖らした。
「で、折角生還した近藤さんが誘ってくれたって言うのに・・・
銀さん、帰って来たと思ったら、鬼やってた近藤さんに
豆じゃなくて石ぶつけるんですもん。」
そんなもの、人に向けて投げちゃダメでしょ。新八がそう怒るが
こっちだって相当ムカついたのだ。・・・と、銀時は眉を顰めた。
「銀さんは石どころか銃弾向けられたんですけどぉ!?
ってか坂田家の鬼役は銀さんなの!
あれは単なるゴリラ!!判った!?」
「あ~、はいはい判りました。
じゃあ帰ったら銀さんが鬼、やって下さいね」
「おぅ!任せとけ。新ちゃんの豆も糖も愛も全部
受け止めてやらぁ!」
「や、受け止めちゃダメでしょ。
ってか豆以外投げませんからね!?」
何、糖とか愛って!?そう言いながらも少し楽しそうな新八に、
銀時もゆるりと口元を上げた。
しかし。
この後、神楽によってイングラムに相当する豆まきを
再び体験する事となるのだが・・・
坂田家の鬼は、まだ知る由もなかった。
**********************************
少し遅れましたが節分話。
ちなみにウチでは何故か豆投げ合戦と化します。
お陰で常に豆は粉砕。
最終的に掃除機かける羽目になります。
・・・・何故だ?
「あ~にやってんだ、てめーはっ!」
その言葉と共に、ペシリと頭を叩かれた。
銀さんはよく頭を叩く。それは勿論理由があっての事だけど、
やっぱり頭はよくないと思う、頭は。
・・・と、言う事で。
「叩くなら他のトコにして下さいよ」
僕は叩かれた頭を撫でながら、そう訴えてみた。
ちなみに今回叩かれた理由は、昼間買い物に出掛けたまま、
僕が夜まで帰らなかったから。
ってか帰れなかったから。
確かに僕は買い物したらすぐに帰ってくるつもりでいたのだ。
けれど運悪くその道程で沖田さんと会い、強制的に暇潰しの
相手にさせられた挙句、サボリの沖田さんを探しに来ていた
土方さんに見つかり、そのまま強制的に共に逃亡。
逃げて攻撃して逃げておやつして。
攻撃、罠、嘲笑って逃亡、攻撃、返り討ち、逃亡。
そんな事を繰り返してたらいつの間にか夜になり、
沖田さんは就業時間終了、土方さんは疲労困憊で漸く僕も
解放されたのだ。
で、帰ってみれば何時もとは立場が逆転し、玄関で仁王立ちしている
夜叉と遭遇したと言う訳で・・・
って、あれ?これ、僕、悪く無くない?
寧ろ被害者的立場じゃない?
そうは思うが、心配してくれただろう銀さんにそんな事
言える訳なく、素直にお説教を食らっていたのだが・・・
つい、ポロッとそんな事が口から飛び出してしまった。
お陰で目の前の銀さんが、また怖いものになってきている。
うぅ・・・やっと終わると思ったのに・・・
だが、出てしまったものは仕方が無い。
それに前々から思ってた事だしね。
僕はそんなにないけど、神楽ちゃんなんかよくポンポンと景気良く
叩かれている。
僕はそっと神楽ちゃんが寝ているだろう押入れに視線をやった。
うん、やっぱり良くないよ。
だって大事だもん、頭って。
って言うか、あんまり手を出すのも良くないよね。
「オマエなぁ、怒られてるってのにダメ出ししてんじゃねぇよ。
大体昔っから悪い事したら頭叩かれるって決まってんの。」
拳固じゃなかっただけ有難いと思え。そう言う銀さんに、
僕はちょっとだけ口を尖らした。
そりゃ~拳固じゃなかったのは良かったけどさ。
でもやっぱり頭は・・・
「・・・てかさ、頭じゃなかったら何処叩けばいいんだよ」
そんな不満が判ったのか、銀さんは溜息を吐くとガシガシと自分の頭を
掻いて問い掛けてきた。
・・・って、叩くのは絶対条件かよ、おい。
しかし銀さんの尤もな問い掛けに、僕もつい考えてしまう。
う~ん・・・顔・・・は絶対ダメだよね?
って事はやっぱり・・・
「お尻・・・とか?」
そう声に出してから、自分でも納得がいって思わず頷いてしまう。
そう、お尻だよお尻!
だって小さい子とかよく叩かれてるし。
頭よりは断然いいでしょう!
・・・あ、でも神楽ちゃん相手だとダメか。
流石に思春期の女の子相手にそんな事したら、軽く警察沙汰だ。
と言うか、やった方が病院行きだ、きっと。
寧ろ星海坊主さんによる地獄流し決定だ。
やっぱり今のは訂正しよう。と口を開こうとした時、
困ったような顔の銀さんが先に言葉を吐き出した。
「いや・・・そりゃ~さすがに・・・なぁ?」
「ですよね~」
うん、流石の銀さんもそれくらいの常識は持ち合わせてたみたいだ。
僕は乾いた笑いを上げ、銀さんの言葉に同意した。
すると銀さんは顎に手を当て、って言うかよぉ。 と頷きながら
言葉を続けた。
その表情は何時もより真剣で、思わず居住まいを正してしまう。
なんだろう、やっぱり銀さんには銀さんなりの
教育方針があるんだろうか?
そう思って見詰めていると、銀さんが重々しくその口を開いた。
「まぁアレだ。ケツ叩きはあくまでプレイであって、
お仕置きじゃないと思うわけよ、銀さん。」
「・・・・は?」
なんだか真剣な表情から、理解出来ない・・・と言うか
したくもない言葉が出てきて、思わず変な声を上げてしまった。
だが、目の前の銀さんはそんな僕に構わず、どんどん
言葉を続けていく。
「やっぱそこら辺はきっちりしときたいって言うか?
や、お仕置きからプレイに発展ってのも十分アリだけどね。
アリだけど、・・・アリだな、それ。
・・・やべ、結構クルわ、そのシチュエーション。
今まできっちり区別してた自分が情けないね、おい。
あ~・・・新八君?さっき叩いたのは無しにして、今から
新八の希望したケツ叩きを是非実践・・・」
「するか、ボケェェェェェ!!!」
とりあえず、僕は勢いよく腕を伸ばすと、渾身の鼻フックを炸裂させて貰った。
暴力はやっぱりいけないと思う。
そこはやはり譲れない。
でもね?銀さん・・・
躾は別ですよコノヤロー。
*************************************
台無し坂田(ひでぇι)
でも実際の所、あんまり新ちゃんの事は叩かないんですよね。
・・・・S心が覚醒するから?(ちょっ!)
久しぶりに暖かくなった午後、神楽と新八は二人並んで万事屋への
道を歩いていた。
手には本日の戦利品である特売品の数々。
会話は帰り道の途中で見た映画のポスターの話。
「銀さんだったら、絶対糖分取るって言うよね」
「私はそれにダラダラし続けるってのをつけるネ」
「あ、それズルイ!」
「女はズルイ生き物だって昔から決まってるヨ」
そう言い捨てると、神楽は軽快に辿り着いた万事屋への階段を上って行く。
新八もそれに続くように、両手に持った買い物袋をカサカサ揺らして
階段を登って行った。
二人が見掛けた映画のポスター。
それはもし世界の終わりが迫ったら・・・と言う、結構良く見る感じの
内容のもので。
それに対し、安直だの王道過ぎるだの文句を言いつつも、
『もし明日世界が終わるなら何をしたいか』
と言う話題になっていった。
とりあえずそんなに危機感のない二人は、酢昆布をたらふく食べる・・・とか、
お通ちゃんのCDを聞きまくる・・・等と言う非常に夢の無い答えになり、
それはもっと夢の無い、判りやすい大人の答えの予想
へと続いたのであった。
まぁ判りやす過ぎて答えは一つしか出なかったのだが。
「神楽ちゃ~ん、買ってきた物は~?」
とりあえず冷蔵庫に入れなければ・・・と、新八はそのまま
台所へと進む。
その途中、神楽に尋ねると、
「ソコに置いてあるネ。それよりも新八!こっちに来るアル」
逆に居間から声を掛けられた。
新八はとりあえず生物だけを冷蔵庫へと入れると、神楽に
言われた通り居間へと足を進めた。
「何?神楽ちゃん」
「これ見るヨロシ。この分だと私の勝ちネ」
ニシシと笑う神楽に言われるまま視線をやれば、ソコには
昼間っからソファで惰眠を貪る銀時の姿が。
「少しは予想を裏切れよ、おい」
思わず呆れた目で見詰めれば、その横で神楽が寝ている銀時を起こそうと
体を思いっきり揺らしていた。
「銀ちゃん、銀ちゃん!起きるヨロシ!!」
「はぁ!?え?何々?地震!?
世界滅亡級の地震!!?コレェェェ!!!」
「そうアル。
だから銀ちゃん、世界が明日で終わるとしたらどうするネ」
急激な振動を加えられ、さすがに寝ていられなかったのだろう。
銀時がぼやけた目をパチパチさせている中、神楽がそう尋ねた。
すると、銀時は珍しくも死んだ目を大きく見開き、目の前の新八達を
交互に見詰めた。
そして・・・
「え?何?お前らここ出てくの?」
と、問い掛けてきた。
その言葉に、今度は新八達が目をパチクリさせる。
「や、別にそんな事はないですけど・・・」
なんでそんな質問?ってかさっきの質問の答えは?
そんな事を思いつつ、答えを返すと、銀時は大きく息を吐きながら
肩の力を抜いた。
「んだよ、驚かすんじゃねぇよ。なら大丈夫だ。
俺の世界は終わらねぇ」
ったく、いい夢見てたのによぉ。そう言うと銀時は再びソファの上に
ゴロリと横になり、そのまま眠りの世界へと旅立ってしまった。
残されたのは、ポカンとしたお子様二人。
「えっと・・・僕、買ってきた物入れてくるね」
「私、ちょっと散歩行ってくるヨ」
どれだけ時間が経ったのか、二人はオズオズとそう呟くと、
視線を合わせないままその場から立ち上がり、居間を後にした。
頬を微かに染め、口元を緩めながら。
「えっと・・・何コレ。もしかして幻?
え?銀さん、もしかしてまだ寝てたりする?」
そろそろ夕食だと起こされた銀時は、目の前に置かれたプリンに
幾度となく目を擦ってみた。
それを見て、夕食の準備をしていた新八がクスリと笑う。
「何言ってんですか。まだ寝たりないんですか?
もう少しなら寝ててもいいですよ。あ、プリンは明日にします?」
「いやいやいや、寝ねぇよっ!
天下のプリン様を前にして寝てられるかってぇのっ!」
「銀ちゃん、今日は力が有り余ってるから
肩でも揉んでやるネ!」
「や、おかしいからね?
揉む理由が完全におかしいからね!?
なんなんだ、テメーラッ!どうかしちゃいましたかぁぁ!!?」
なんかすっげー怖いんですけどぉぉ!!そう言いながらもプリンを確り
握り締め、恐々と目の前の新八達を見詰める銀時。
だが、新八達はケロリとその視線を流す。
「別にどうもしませんよ?あ、今日のおかずは甘い卵焼きですよ。
それしかないですけど。」
「銀ちゃん、肩がイヤなら腰踏んでやるネ。
今日走り回ってないから、余力バリバリヨ!」
「ちょ、怖いっ!怖いから本当ぉぉぉぉぉ!!!!
神楽に関しちゃリアルに怖ぇぇぇぇぇっ!!!!」
だって仕方ないじゃん、ねぇ?
怯える銀時をよそに、新八と神楽は視線を交わすとにんまりと微笑んだ。
突然ですが、今日から銀さん愛護強化週間となりました。
*****************************
手違いで坂田に優しい話になりました(おいっ!)
さぁ、羽根きりをしよう。
ゆるりと笑った俺に、新八はコトリと首を傾げると、
俺の頬を軽い音と共に両手で挟んだ。
「目が覚めました?なんか変な顔してましたよ?」
変な顔っておまっ・・・
いやいや、お前の方がちゃんと目、覚めてるか?
今すっごく微妙な雰囲気だったんじゃね?
頼むから空気読んでくださいっ!
だが、新八は読むどころかサラッと流してくれたようだ。
再びくるりと窓の方へと視線を向けると、それよりも銀さん。と、
クイクイと俺の腕を引っ張った。
なんなんだよ、一体。
髪をガシガシと掻きながら、言われた通り窓の外へと視線を
向けると、ソコにはスズメやカラスと言った鳥とは全く違う、
小さく可愛らしい小鳥が。
「どっかで飼ってる鳥ですかね?」
可愛いな~。とにこやかに見詰める新八だが、俺の気分は最悪だ。
きっとあの小鳥は逃げてきたのだ。
狭い籠から、扉を開けて違う世界へと飛び立ってきたのだ。
先程殺がれてしまった感情が、再び頭を擡げて来る気配がする。
やっぱりダメだ。
あの小鳥のように、飛び立たれた後じゃ遅すぎる。
だから、今すぐ・・・
そう思い、視線を新八へと戻すと、微かな羽根音が聞こえた。
そして小さな新八の声も。
見れば小鳥はもう飛び立った後で、その場には何も残っていなかった。
「あ~あ、帰っちゃった」
残念そうに呟く新八の声に、俺は思わず眉を顰めた。
「帰ってはねぇだろ。だって逃げてきたんだぜ?」
なら、飛んでっただ。そう告げる俺に、新八はキョトンと目を丸くした。
「なんで逃げてきたんです?」
「なんでって・・・そりゃぁアレだろ?狭い籠の中が嫌になったとか。
外に出てみたい・・・とか」
そう、狭い世界に閉じ込められてたら嫌にもなるだろう。
目の前に広い世界へと通ずる扉があったら、出て行きたいと思うだろう。
だから扉を開け、出て行ってしまうのだろう。
自分で口にしておきながら、その言葉に唇を噛み締めてしまう。
そう、お前も何れ気付くんだろう?
自分の目の前にある、広い世界へと続く扉の存在を。
そして出て行ってしまうんだろう?
この、酷く狭い俺の世界から。
だから俺は、そうなる前に・・・
「ん~、でももしそうだとしても、きっと帰りますよ」
新八の言葉に、思わず落としてしまった視線を上げれば
そこには澄み切った空を見上げる、まっすぐな顔が。
「だって扉は出てく為だけにあるんじゃないでしょ?
帰る為にも必要なものなんですから」
だからきっと帰ります。そう言って笑う新八に、俺の中で
何かがポロリと剥げ落ちた。
だってお前、折角広い世界に出れたのに。
「帰る場所がなかったら、何処にも行けませんよ」
自由になれたのに。
「なら帰るのも自由ですよね」
狭い籠の中なのに。
「でも、好きな人が居ればそれで十分でしょ?」
新八が何か言う度に、俺の中の何かが剥がれ落ちていく。
あぁ、ならばあの小鳥は・・・
「見付かったって言うなら、きっと戻ってきたんでしょうね。
だって鳥ですもん。本当に逃げたなら見付かりっこないですよ」
夢にでも見て心配しちゃったんですか、その小鳥を。
新八はやんわりと笑みを浮かべると、労わる様に俺の頬へ
そっと手を当ててきた。
「大丈夫ですよ。そりゃ鳥ですから飛びたくもなるかもしれませんが、
同じように飛んで帰ってきますよ」
柔らかい言葉と同じように、やんわりと頬を撫でる手に、
ポロポロと全てが剥がれ落ちていった。
そうか、帰ってくるのか。
出て行っても、ちゃんと帰ってくるのか。
俺は頬に当てたられ新八の手に自分の手を重ねると、縋りつくように
その手を握り締めた。
ならば・・・と、ゆっくりと口を開いていく。
お前もちゃんと帰ってくるのか。
紡がれた俺の言葉に、新八は一瞬目を見開き、次にくしゃりと
顔を綻ばせた。
「当たり前でしょ。だってここが好きなんですから」
毎日なんで来てると思ってんですか。そう続けられ、
俺は腕を伸ばすと、目の前の新八をやんわりと抱き締めた。
そして思う。
爺さん、アンタはやっぱり馬鹿だ。
そんな事をしなくても、小鳥はちゃんと戻ってきてたのに。
小鳥、お前も馬鹿だ。
戻るなら、こいつみたいにきちんと戻ってきておけ。
そして俺も馬鹿だ。
コイツはいつだって自分で出て行き、毎日戻ってきていたのに。
どれだけ時間が経ったのか、痺れを切らしたらしい神楽の怒声が
居間から聞こえてきた。
新八はそれに慌てて答えると、俺の腕の中からすり抜け、
足早に居間へと向う。
それを少し寂しく思いながらも、元気良く羽ばたいてる姿に
心は穏やかだ。
この腕から出て行く時もあるけれど、同じ足でこの腕の中にも
戻ってくるのだ、あの小鳥は。
後を追うように居間へと向う俺の後ろで、
優しげな小鳥の声が聞こえた気がした。
あぁ、でも、もし戻ってこなかったらどうしよう。
やっぱり、ここが好きならずっと居てくれねぇかな?
剥がれ落ちた何かが、重なり合ってカサリと音を立てた。
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Mag.様、素敵選択肢、有難うございます~vvv
ぶっちゃけどれも好み過ぎて選べず、ループENDに(笑)
こんな感じの続編になりましたが、少しでも楽しんで頂けたら
嬉しいですv