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その小鳥は狭い籠の中に入れられていた。
『ほら、扉が開いていても出て行かないんだよ』
そう言って飼い主は籠についている扉を開けた。
中の小鳥は飼い主の言った通り、出て行く事はしなかった。
『狭くてもね、ここが好きなんだよ』
だから出て行かないのだ。そう言った飼い主は、
満足げながらも何処か悲しみを称えた笑みを浮かべていて。
俺は 馬鹿なヤツ と嘲笑った。
「お早うございます」
今日も丁寧な挨拶と共に、玄関の開く音がした。
それを耳にし、俺はホッと息を吐いてゆっくりと目を閉じる。
そして静かに、昔見たあの小鳥の事を思い浮かべた。
その小鳥は、まだ俺が白夜叉と呼ばれていた頃に、
根城にしていた寺の近所に住んでいた爺さんに飼われていた。
狭い籠の中、爺さんの自慢の優しい声と可愛らしい姿を披露し続け。
扉が開いても逃げる事も飛び立つ事もしなかった
愚かなあの小鳥。
爺さんは『ここが好きだから』と言っていた。
俺は扉が開いている事に気が付かない『馬鹿なヤツ』と嘲笑った。
けれど、他のヤツに『実は羽根きりされているのだ』と知らされた。
実際、前に一度逃げ出した事があったそうだ。
しかも器用に嘴で扉を開け、自ら空へと。
けれどその後見付かり、直ぐに羽根を切られたのだと。
それを聞いた時、俺は何故そこまでして傍に置いておくのか理解できなかった。
爺さんは言う。行ってはいけないと。
けれど、行きたいと言うのなら、行かせてやればいい。
俺は言う。
爺さんは言う。外は危ないと。
でも危なくても、外で生きたいと言うなら、生かせてやればいい。
そう、俺は言う。
爺さんは言う。一人で逝くのは可哀想だと。
しかし、例え一人でも其処で逝きたいと言うのなら、逝かせてやればいい。
覚悟の上だろ、俺は言う。
爺さんは言う。ワシの傍が好きなんだよ。
俺は言う。・・・いや、言わなかったんだっけ?
でも、思った。
そんなに好きなら、自由にしてやれ・・・と。
確かにそう思い、狭い籠の中でひたすら優しい声は、既に物悲しい
ものにしか聞こえず、そんな小鳥を哀れに思った。
確かに、そう思ったのだ。
そして、自分の好意を押し付ける爺さんを『馬鹿なヤツ』だと。
確かに、あの時は・・・・
「銀さ~ん、起きて下さい」
襖が開き、聞き慣れた声が間近で聞こえた。
ゆっくりと目を開けば、ソコには見慣れた俺の愛しい小鳥。
あぁ、やっぱりお前も馬鹿だよ、哀れな小鳥。
あの時、目の前の扉に気が付かなければ良かったのに。
目の前に広がる別の世界になんか、気が付かなければ良かったのに。
だって広い世界を知った後、籠の中はそれ以上に狭いものだったろう?
自由に飛べる筈の羽根は、ただ重いものに成り下がっただろう?
優しく鳴く声は、泣く事しか出来なくなっただろう?
ぼんやりとした俺の視線に、まだ寝惚けているのかと思ったようで、
新八は一つ息を吐くとそのまま立ち上がり、窓へと足を進めて行った。
そして勢い良く窓を開け放ち、俺はビクリと体を竦める。
「ほら、ちゃんと起きて下さい。今日もいい天気ですよ?」
だけど、そう言って振り返るオマエの笑顔に、一瞬泣きたくなり、
笑いたくなる。
あぁ、まだ大丈夫。
けれど・・・・
俺はゆっくりと起き上がり、新八への元へと足を進めた。
そして不思議顔で寄って来る新八を、ぎゅっと引き寄せる。
慌てる新八の声に、まだ悲しみは滲んでいない。
それでいい、それでいいよ。
爺さん、今なら俺は、アンタの気持ちが良く判る。
だけど、やっぱりアンタも馬鹿だ。
どうせなら、最初から羽根など切っておけば良かったのに。
扉の無い籠を持っていないなら、そうしておけば良かったのに。
そうすれば、小鳥は逃げる事などしなかっただろう。
その世界から飛び立つ事など、考えもしなかっただろう。
一度見てしまった世界を思い、哀しい声で鳴く事もなかっただろう。
可哀想で哀れで馬鹿な、愛しい小鳥。
「銀さん?」
抱き締めたまま動かない俺を、訝しげに呼ぶお前の声が聞こえる。
その音に、俺はゆるりと口元を上げる。
でも俺は知っている。
この音は、俺だけのものではない。
何時だって色んなヤツラに優しい声を聞かせてる。
だから毎朝不安になる。
ちゃんと来るか、まだ扉の存在に気付いていないか。
ここから飛び立ってしまわないか。
でも、それももう終わりだ。
このままだと、近い内にお前は扉を開けて行ってしまうかもしれない。
そしたらもう、哀しい声でしか鳴かなくなってしまうかもしれない。
見てしまった世界を、恋しがるかもしれない。
そんな可哀想な事、したくないんだよ、俺は。
だから、なぁ?
「新八・・・」
そうなる前に、羽根きりをしようか。
ゆるりと笑った俺の顔は、きっとあの日の爺さんと同じものなんだろう。
あぁ、だって俺は、お前が元気良く羽ばたく姿も、本当に好きだったんだよ。
**************************
なんか降りて来た(おいι)
ちなみに羽根きりは賛否両論あるようですが、
保護の為もあるので、絶対的に悪いとは言い切れないと
私的には思っていたり・・・
・・・まぁこの坂田は悪いんですが(最悪だぁぁぁ!!!!)
パチンコ屋から出ると、そこは雨降りだった。
「なぁんて言ってる場合じゃねぇな、おい」
そう零し、銀時は入り口から少し外れた所に立って、空を見上げた。
落ちてくる雨の勢いと厚い雲で覆われた空に、これが一時的なモノで
ない事が判り、銀時は肩を落として頭を掻く。
別に傘を買ってもいいのだが、今までやっていたパチンコで
大損した身としては、それは控えたい所だ。
かと言って、濡れて帰るのも少し辛い・・・特に今の心境では。
「ったく、辛気臭ぇったらねぇなぁ」
さて、どうすっかなぁ。と、ぼんやりと雨の中を行き交う人達へと
視線を向けていると、見慣れた姿がその視界に入ってきた。
「何やってるネ、銀ちゃん」
どうやら目の前の少女は酢昆布の買出しに行っていたらしい。
クチャクチャと酢昆布を噛み締めながら、テクテクと銀時の元へと
やって来た。
「いや、ちょっと散歩に出たら雨に降られてよ。
もう帰るんだろ?序に入れてけよ」
「ちょっとパチンコに出たら、金をすられてよ
・・・の間違いネ、それ。
序にもう帰るけど、入れてくのは嫌アル」
片手を挙げ頼む銀時に、神楽は白けた目を向けてそう告げると、
そのまま一人で歩いていこうとし、銀時は慌てて腕を引いて引きとめた。
「ちょ、待てって!帰るトコが同じなんだからいいだろ!?
大体困ってる人が居たら助けてやんなさいって
何時も言ってるだろうがぁぁぁぁ!!」
「そのな言葉、初めて聞いたヨ。
それに銀ちゃんは困ってる人じゃなくて、困った人ネ」
「おぉぉぉぉい!何そのちょっと似てるけど
全く違う言葉ぁぁ!!
あぁもういいから入れろって!」
そう言うと銀時は強引に神楽の傘へと入り込んだ。
「ちょ、やめるネ。銀ちゃんが入ると狭いし咽返るネ!
それに雨に濡れるヨ、最悪ネ!!」
「咽返るって何にぃ!?
あ、いいから。別に言わなくてもいいから。
なんか既に胸がズキズキ痛み出してるから。
って言うかアレよ?雨に濡れても、そこはホレ。
水も滴るいい女ってヤツでよぉ」
「私は濡れてなくても十分いい女ネ。
銀ちゃんは濡れて少しは見える様にするヨロシ。
特にその天パ」
「何その一点集中豪雨ぅぅ!!?
いいからマジ入れろって、金すった上に濡れ鼠で帰ったら、
新八にものっそく怒られるから!!本当お願いしますっ!!」
段々と必死さが増してきた銀時に、神楽は溜息と共に肩を落とすと、
仕方ないネ・・・と、傘から追い出そうとしている手を緩めた。
それに銀時はホッと安心すると、神楽の代わりに傘を
持とうと手を伸ばした。
・・・が、何故か避けられてしまう。
「あ?なんだよ、折角銀さん自ら持ってやろうとしてんのに?
これ、アレよ?滅茶苦茶レアよ?
ってかオマエが持ってると頭がつくんだよ、おら、寄越せ」
「大丈夫ネ。私がきっちり持つから、少し屈むヨロシ」
「は?なんでよ。腰曲げて歩けってか?
ジジィの如く歩けってか!?
あのなぁ、何度も言うようだけど、これ銀髪だから。
白髪じゃねぇからな?」
「使い古された台詞言ってんじゃねぇよ。
いいから早く屈むヨロシ!」
ギロリと睨まれ、渋々腰を少し曲げる銀時。
それを見計らい、神楽はスッと背後に回ると、勢いよくその背中に
飛び乗った。
「ちょっ!何やってんだテメー!!」
慌てて銀時が姿勢を正すが、神楽は確りと銀時の首へと腕を回し、
きっちり負ぶわれる体勢を整えてしまう。
そして振り返る銀時にニシシと笑みを送ると、
「これで二人とも濡れないネ。
私、ごっさ頭いいヨ」
ほら銀ちゃん、遠慮せずに進むアル!との声と共に、さしていた傘を
高らかに上げた。
「あ~、はいはい。
ったく重てぇ傘だなぁ、おい」
銀時はその様子に諦めたように息を吐くと、神楽を抱え直し、
そのままゆっくりと歩き出した。
「・・・なんか足が微妙に冷たいんだけど。
あ~もう絶対濡れてると同時に泥がついてるよ、コレ。
せめて泥を落としてから来いってんだよ、ったく」
「はんっ。そこら辺の泥臭い小娘と一緒にしてんじゃないネ。
私のは態々水溜りばかりを歩いてきたにも関わらず
残った、根性ある泥ヨ」
「余計悪いじゃねぇかぁぁぁ!!!
ったく、テメーも一緒に謝れよ、新八に!」
「いやヨ、媚は売らない主義ネ・・・あっ、銀ちゃん!!」
些か変わった相合傘で歩いていると、突然神楽が前方を指差した。
それに釣られ銀時も視線を上げれば、前方に見慣れた姿が。
「・・・何やってんですか、あんた等」
足早に近寄ってきた新八に問い掛けられ、傘差して歩いてる。と
二人して素直に答えれば大きく溜息を吐かれた。
「で?新ちゃんはどったの?」
「・・・どっかの天気予報が大好きなマダオが、
雨降るって言ってんのにも関わらず傘を持ちなし
遊びに行ったみたいなんで、この雨の中
態々シバキに行く途中です。」
にっこりと笑い、さしている自分の傘とは別に持っていた
大き目の傘を掲げながら告げる新八に、ヒクリと銀時の頬が引き攣る。
「いやいや、多分アレだよ?
好きなのはあくまでお天気お姉さんであって、
別に予報が好きな訳ではないんじゃないかなぁ・・・
って、傘の先を目ん玉に合わせてんじゃねぇよ、
危ねぇだろうがコノヤロー!
本当すんませんでしたぁぁぁ!!!」
神楽を負ぶっている為両腕が使えない銀時が素直に謝り、
仕方なく傘を降ろす新八。
「全く、今度やったら刺すだけじゃなく抉りますよ?」
怖い事をさらりと宣言し、新八は銀時達の横に並ぶと、
少しだけ二人の方へと傘を傾けて、元来た道へと
足を踏み出した。
「いや、普通に怖いからね。
さっきの光景も目に焼きついてトラウマ寸前だからね、本当」
それに習うように銀時も歩き出す。
勿論神楽は背負ったままだ。
「大丈夫ネ、抉り出されればそんな光景も
見えなくなるヨ!」
そう言いながら、神楽はクルリと傘を回した。
「更に怖ぇ事言ってんじゃねぇよ!
夢に出そうだろうが!!」
「あ~もう銀さんも神楽ちゃんも!
少しは普通に歩いてくださいよ。傘さしてる意味、ないでしょ?」
しとしとと、未だ振り続ける雨の中。
不恰好な相合傘は、ゆったり、そして楽しげに家路へと進んでいった。
*********************************
変則相合傘。
昼食の後片付けも終わり、暫しの休憩タイム・・・と、新八は
お茶を淹れて居間へと足を向けた。
勿論、ソファに座り込んでテレビの番人と化している銀時の分も持って。
「はい、銀さんお茶です」
そう言って目の前のテーブルに置けば、 おぉ と言う不明瞭な
返事が返ってくる。
どうやら完全に意識がテレビに行っているらしい。
・・・平日の昼間、こんなに真剣に昼ドラを見る
三十路前ってどうなんだろう。
人として・・・と言うか、
社会人としてそれはアリなんだろうか。
・・・ないな、うん。
とりあえず平日の昼間っからって所で既にアウトだろう。
いや、パチンコに行ってないだけマシかな?
・・・うん、そう思おう。
じゃないとなんか泣けてくるから。
新八は一つ息を落とすと、銀時と向い合わせのソファに腰を降ろし、
お茶を一口飲んだ。
と、その先で銀時が微かに首を傾げているのが見えた。
「どうかしました?銀さん」
問い掛けてみるが、銀時は首を傾げたまま視線を宙へと浮かべたままだ。
なんか変なトコでもあったんだろうか。
って、まさか出涸らしにも程があるのに気付いた!?
でも仕方ないじゃん、お茶だって買わなきゃ手に入らないんですよ!?
「いや・・・なんかさぁ・・・」
そんな事を考えていると、銀時は顎に手を当て暫し何かを考えると、
チョイチョイと新八を手招きした。
「なんですか、もう」
新八は 仕方ないなぁ。 とばかりに首を竦めると、腰を上げて
テーブル越しに銀時へと近付いた。
その瞬間、銀時の手が伸ばされ、頭を掴まれるとグイッと力強く
引き寄せられる。
「ぅわっ!ちょ、何すんですかっ!!」
慌ててテーブルに手を着き、抗議するが銀時はそんなものお構いなし。
新八の頭に鼻を埋めると、クンクンと小さく鼻を鳴らした。
そして、小さい声で やっぱり・・・ と呟く声が聞こえてくる。
「はぁ?何がやっぱりなんですか・・・ってかこの体勢きついんですけど」
「何がじゃねぇよ。オマエ、何だコレ」
そう言うなり、頭を掴んでいた銀時の手が新八の頬へと移り、
強引に自分の視線と合うよう、上げられてしまう。
「いたっ!ちょ、本当何なんですか、アンタ!」
ギリギリと頬を掴んでくる手に、どうにか体勢を整えている手を
片方開けて掴み返すが、そんなものでどうにか出来るわけもなく。
せめてもの抗議・・・とばかりに睨むが、それ以上の強さで
睨み返されてしまい、新八は訝しげに眉を寄せた。
それに気付いたのか、銀時は一つ息を吐くと、力を込めていた手を
少しだけ緩めて一言、 髪の匂い。 と呟いた。
「・・・・・・・・・・は?」
「だからぁ!髪の匂いだよ、匂い!
何時ものと違うじゃねぇか!」
銀時の突拍子の無い言葉に、新八が思わず間抜けな声を返すと、
そのまま掴まれていた顔をガクガクと揺すられてしまう。
「なんだ?おい。自分だけアレか?
サラサラ艶々ヘアーでも目指そうってのか!?
そう言うのは銀さんにこそ
必要なもんだろうがぁぁ!!!」
その叫びと揺れる視界を前に、そう言えば・・・と新八は昨夜の事を
思い出した。
そう、基本新八は銀時達が使っているのと同じ、家計に優しい
シャンプーを使ってたりする。
・・・まぁそれが髪にまで優しいのかは知らないが。
けれど昨夜は何時も使ってるのが切れて、前に街で貰ってきた試供品を
使ってみたのだ。
ちょっと何時もと違い、手触りが良くなってたんだよね、アレ。
値段はちょっと今のよりも高くなるが、そんなに気にしているなら
今度からはアレにしてみようか。
脳まで揺すられているせいか、そんな常に無い事を考えていると
不意に銀時の手が止められた。
・・・のに、なんだか揺れているような視界の中、銀時が
立ち上がるのが見えた。
そして頬を掴んでいた手が離され、今度は手を掴まれてしまう。
「え?銀さん?」
「・・・洗ってやる」
「はぁ!?」
そのまま手を引っ張られて、新八は訳が判らないまま銀時の後を
追う事なった。
「ちょ、洗うって何をっ!?」
「オマエの髪に決まってんじゃねぇか」
そう言う銀時の足は、確かに風呂場へと向っていてますます訳が判らない。
と言うか、行動自体は判ったが、目の前の男の思考が判らない。
ってか、そんなに気に入らないのか、サラサラヘアーになるのがっ!
やっぱりさっきの計画はなしね、なしっ!
寧ろ僕だけ変えてやるっ!!
そんな事を思いながら、なんとか足を踏ん張って抵抗するが、銀時の足は
止まらない。
ズカズカと進んでいく背中に、新八が声の限り文句を言おうとしたその時、
「ったく、なんなんだよ、ソレ。全然坂田家の匂いじゃねぇじゃん。
坂田家はなぁ、みんな漏れなくやっすいシャンプーの匂いで
統一してんだってぇの。それ以外の匂いなんて絶対ぇ認めねぇ。
認めねぇぞコノヤロー」
と、ブツブツ文句を言い続ける銀時の声が耳に入り、
新八はポカンと口を開けただけとなった。
そして徐々に頬に熱が集まってくるのを新八は感じ、急いで下を向く。
・・・なんなんだ、この人。
恥ずかしいって言うか馬鹿って言うか。
これじゃあずっと同じのしか使えないじゃん、僕。
そんな事を思いながら、新八は未だブツブツと文句を言い続けている
背中に一つ、軽いパンチを送った。
**************************
坂田家のルール(笑)
※『色々やらかすのも~』のおまけ的なモノ※
※ほぼ会話分です※
その後、自称リアルケイドロをしていた二人は土方に拳固をくらい、
その場で確保。
ズルズルと引きずられるまま屯所へと連れて来られ、おまけに
新八の保護者として、呼びたくは無かったが仕方なく銀時までもが
呼び出されたのであった。
屯所の一室。そこに沖田と新八は正座をさせられ、その前に大人たちが
立って向かい合っていた。
「オマエラなぁ、本っっっ当!
なんて遊びしてやがんだよ、おいっ!」
「なんて遊びって・・・知らないんですかィ?
あれはケイドロってヤツで・・・」
「ちっげぇよっ!名前を聞いてる訳でもねぇし、
あれをケイドロとは呼ばねぇっ!
ってかそう言う意味で聞いてんじゃねぇよっ!!!」
怒鳴る土方に、沖田が飄々と答える。
それに再び怒鳴る土方。
既に額の血管が切れそうだ。
土方はとりあえず一つ息を吐くと、今度は新八へと視線を向けた。
「って言うかテメーも一緒になってやってんなよ。
普通そこはツッコム所だろ!?
職務放棄しんてじゃねぇ!」
「いや、別にツッコミが職務って訳じゃないですし・・・」
「ちなみに俺はきちんと職務を全うしてやしたぜ」
「そこでツッコミ入れなくてもいいし、テメーに関しちゃ
職務とは言わねぇんだよ!
何一般人巻き込んでくれてんだ、おいぃぃ!!」
「あ、それなんだけどよぉ」
ソコまで叫んだ所で、それまで黙っていた銀時が軽く手を上げた。
「アレかな?ここはやっぱり王道のあの台詞を言っちゃっていい
べきかな、コレ。
あ~・・・とりあえずアレだ。
何ウチの奥さん誑かしてんだ、コノヤロー」
真顔で告げる銀時の頭を、景気よく土方が叩く。
「ってちっげぇよ!!何だそれ、
丸っきり違う王道の台詞に
なってんじゃねぇかぁぁぁ!!!!」
「旦那ぁ、そいつは違いますぜィ?誑かした訳じゃねぇ、
一人にしといた旦那が悪いんでさァ」
「や、ただ単に散歩してただけですけどね、僕」
とりあえず何にでも悪乗りする沖田の頭も叩き、土方は大きく息を吐いた。
「まぁアレだ。とりあえず二人ともあの遊びは今後一切するな、
あれは俺達の仕事だ」
「判りやしたぜ、土方さん。
常にやる気満々でしたが、土方さんがそう言うなら仕方ねぇ。
今後一切、巡察も捕縛もしやせんっ!」
「いや、それはしろよ。
ってか仕事だろうが、それはぁぁぁ!!!!」
えぇ笑顔でそう宣言する沖田に、土方が怒鳴る。
その隣で銀時が面倒臭そうに頭を掻きながら、新八へと近付いた。
「ま、オマエもな、新八。
そんな危険な上に金にならねぇ事してんじゃねぇよ。
ってか誘えよ、散歩。
俺を一人にすんじゃねぇ。」
「ってそこかよっ!
違うだろうが、注意するトコが!!」
「うっせぇなぁ。俺にとっちゃ一番大事なトコなんだよっ!
中々帰って来なくて
泣きそうだったんだよ、実際!!
大体なぁ、今言ったように、そんなのはこいつ等の仕事なの。
それを盗っちゃダメでしょうが。
まんま給料泥棒になっちゃうよ、こいつ等!」
「旦那ぁ、そこは任しといて下せェ。
そん時はリアルケイドロの恐怖、
とくと味合わせてやりますぜィ」
「え?今度は土方さん達が相手なんですか?
うわ~、緊張しますね、それ」
「ちょ、また職務放棄ぃぃぃ!!!??」
「・・・て、今まさに俺らが職務放棄だよね、コレ」
巡察、途中なんだけど・・・
ギャーギャーと騒いでいる面々を眺めながら一人、山崎は持ってきていた
お茶に口をつけ、大きく息を吐いたのであった。
********************************
なんとなく不完全燃焼だったのでおまけ。
真面目な子も偶には羽目を外します(そうか?)
巡察中、ふと見慣れた姿が目に入った。
その姿に、土方はピタリと足を止め、ピクリと眉を上げた。
遠くではあったが、それは確かに沖田で、思わず何時もの癖で
怒鳴りそうになった土方だったが、沖田の格好が隊服ではなく、
私服である事に気付き、そう言えば今日は非番だったか・・・と
これまた何時もの癖で握り締めていた刀から手を離した。
「あのヤロー、サボりまくってる癖に、休みもきちんと取りやがって」
と、怒りも沸いたのだが、態々自分から血圧を上げに行くのも
馬鹿らしい。
土方は新しいタバコに火を着けると、そのまま巡察へと
戻ろうとした。
・・・が、沖田の隣に居る、これまた見慣れた姿に再び足を止めた。
沖田の隣に居る人物、それは何かと縁のある少年、志村新八で。
そう言えば良く一緒に遊んでいるとか言ったっけ・・・と土方は
以前新八から聞いた事を思い出した。
その時は、まさかあの沖田が、しかも属性が全く違うだろう
新八と共に遊ぶサマが想像出来ず、
遊ばれてるの間違いじゃないのか?
とも心配になったのだが、いざ目の辺りにしてみれば、中々どうして。
「普通の友達に見えるじゃねぇか」
そう呟き、ユルリと口元を上げた。
元々同年代が周囲に居なかった二人だ、例え属性が違っても、
気が合うのだろう。
視線の先で、楽しそうに何かを話している二人が見える。
・・・まぁアレで少しはこちらに向けてくる殺意を
控えてくれるといいのだが・・・無理だろうなぁ。
付き合う人物によって、雰囲気が変わる事もあるだろうが、
多分沖田は何処まで行っても沖田だろう。
せめてその属性が、新八にまで移らなければいいのだが・・・
そう思っていると、少し先で土方を待っていた山崎が足早に
戻ってきた。
「どうかしましたか、副長・・・ってあれ、沖田隊長と新八君じゃないですか」
うわ~、やっぱり一緒に遊んでるんだ~。そう言って心配そうに
眉を下げる山崎に、土方は訝しげな視線を向けた。
どうせコイツも自分と同じような事を考えていたのだろう。
山崎の表情からそんな事を読み取り、土方は吸い込んだ煙を長々と
吐き出した。
「別に一緒に遊ぶぐらいはするだろう。いいんじゃねぇか?
新八も嫌がってなさそうだし」
「まぁ嫌がってはないみたいですけどね。新八君、今まで同年代の子と
遊んだ事がないそうなんで、色々と物珍しいみたいですし」
でも・・・と口篭る山崎に、ついイラッと来る土方。
「なんだよ、言いたい事があんならさっさと言いやがれ。
・・・ってあぁ、アレか?総悟がなんかいらん事教えてるとか
そんなトコか?」
先程自分が考えていた事を口にし、土方は小さく肩を落とした。
やはり、傍からはどう見えようが、
沖田はS星出身の生粋のS王子だ。
色々と教育に悪い面もあるだろう。
だが、子供同士の遊びに大人が態々口を出すのも・・・
いや、そう言うのならば返って出さないといけないものだろうか。
そう考えていると、困ったように笑う山崎が、
「いらん事と言うか・・・まぁ遊びなんですけどね?」
そこまで言うとキョロキョロと周囲を見渡し、土方の耳へと
口を近付かせ、コソリと言葉を吐き出した。
「実は最近、ケイドロにハマってるらしいんです」
その言葉に、土方は一瞬目を見開く。
ケイドロ・・・ケイドロってアレか?
確か警察と泥棒役に別れて、捕まえたり逃がしたりする遊びの事か?
アレ?でもそれってこんなにコソコソと言う遊びだったか?
真面目なツラで報告するような事だったか?
それとも地域によって呼び名が違うように、俺の知ってるのとは
違うのがあるって言うのか?
グルグルと考え出す土方の横で、姿勢を元に戻した山崎が
小さく息を吐いた。
「ま、普通のケイドロだったらいいんですけどね・・・
リアルがつくんですよ、あの二人のケイドロには」
「・・・はぁ?」
思わず見返せば、何故だか山崎は遠くへと視線を飛ばしていた。
「きっとアレですね。今も潜伏中の攘夷浪士かなんか
追ってんでしょうね、あの二人・・・」
ちなみにこの間沖田隊長が捕まえてきた攘夷浪士は、
あの遊びの成果だそうです。
ははは。と乾いた笑いと共に言葉を吐き出す
山崎から目を逸らし、土方は急いで先程の二人へと視線を向けた。
そう言われてみれば、確かに二人は止まったり歩き出したり・・・と
妙な感じで動いている。
しかも、どんなに和やかに話していようとも、視線はチラチラと
ある方向から動いておらず。
自分はと言えば、攘夷浪士が潜伏しているかもしれない・・・と言う
情報の元、ここら辺を巡察していたりする訳で・・・
「リアル過ぎるわその遊びぃぃぃ!!!」
叫び声と共に、土方は視線の先に居る悪ガキ共へと突進して行ったのであった。
*************************
ウチの所ではケイドロと呼んでました。