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その小鳥は狭い籠の中に入れられていた。
『ほら、扉が開いていても出て行かないんだよ』
そう言って飼い主は籠についている扉を開けた。
中の小鳥は飼い主の言った通り、出て行く事はしなかった。
『狭くてもね、ここが好きなんだよ』
だから出て行かないのだ。そう言った飼い主は、
満足げながらも何処か悲しみを称えた笑みを浮かべていて。
俺は 馬鹿なヤツ と嘲笑った。
「お早うございます」
今日も丁寧な挨拶と共に、玄関の開く音がした。
それを耳にし、俺はホッと息を吐いてゆっくりと目を閉じる。
そして静かに、昔見たあの小鳥の事を思い浮かべた。
その小鳥は、まだ俺が白夜叉と呼ばれていた頃に、
根城にしていた寺の近所に住んでいた爺さんに飼われていた。
狭い籠の中、爺さんの自慢の優しい声と可愛らしい姿を披露し続け。
扉が開いても逃げる事も飛び立つ事もしなかった
愚かなあの小鳥。
爺さんは『ここが好きだから』と言っていた。
俺は扉が開いている事に気が付かない『馬鹿なヤツ』と嘲笑った。
けれど、他のヤツに『実は羽根きりされているのだ』と知らされた。
実際、前に一度逃げ出した事があったそうだ。
しかも器用に嘴で扉を開け、自ら空へと。
けれどその後見付かり、直ぐに羽根を切られたのだと。
それを聞いた時、俺は何故そこまでして傍に置いておくのか理解できなかった。
爺さんは言う。行ってはいけないと。
けれど、行きたいと言うのなら、行かせてやればいい。
俺は言う。
爺さんは言う。外は危ないと。
でも危なくても、外で生きたいと言うなら、生かせてやればいい。
そう、俺は言う。
爺さんは言う。一人で逝くのは可哀想だと。
しかし、例え一人でも其処で逝きたいと言うのなら、逝かせてやればいい。
覚悟の上だろ、俺は言う。
爺さんは言う。ワシの傍が好きなんだよ。
俺は言う。・・・いや、言わなかったんだっけ?
でも、思った。
そんなに好きなら、自由にしてやれ・・・と。
確かにそう思い、狭い籠の中でひたすら優しい声は、既に物悲しい
ものにしか聞こえず、そんな小鳥を哀れに思った。
確かに、そう思ったのだ。
そして、自分の好意を押し付ける爺さんを『馬鹿なヤツ』だと。
確かに、あの時は・・・・
「銀さ~ん、起きて下さい」
襖が開き、聞き慣れた声が間近で聞こえた。
ゆっくりと目を開けば、ソコには見慣れた俺の愛しい小鳥。
あぁ、やっぱりお前も馬鹿だよ、哀れな小鳥。
あの時、目の前の扉に気が付かなければ良かったのに。
目の前に広がる別の世界になんか、気が付かなければ良かったのに。
だって広い世界を知った後、籠の中はそれ以上に狭いものだったろう?
自由に飛べる筈の羽根は、ただ重いものに成り下がっただろう?
優しく鳴く声は、泣く事しか出来なくなっただろう?
ぼんやりとした俺の視線に、まだ寝惚けているのかと思ったようで、
新八は一つ息を吐くとそのまま立ち上がり、窓へと足を進めて行った。
そして勢い良く窓を開け放ち、俺はビクリと体を竦める。
「ほら、ちゃんと起きて下さい。今日もいい天気ですよ?」
だけど、そう言って振り返るオマエの笑顔に、一瞬泣きたくなり、
笑いたくなる。
あぁ、まだ大丈夫。
けれど・・・・
俺はゆっくりと起き上がり、新八への元へと足を進めた。
そして不思議顔で寄って来る新八を、ぎゅっと引き寄せる。
慌てる新八の声に、まだ悲しみは滲んでいない。
それでいい、それでいいよ。
爺さん、今なら俺は、アンタの気持ちが良く判る。
だけど、やっぱりアンタも馬鹿だ。
どうせなら、最初から羽根など切っておけば良かったのに。
扉の無い籠を持っていないなら、そうしておけば良かったのに。
そうすれば、小鳥は逃げる事などしなかっただろう。
その世界から飛び立つ事など、考えもしなかっただろう。
一度見てしまった世界を思い、哀しい声で鳴く事もなかっただろう。
可哀想で哀れで馬鹿な、愛しい小鳥。
「銀さん?」
抱き締めたまま動かない俺を、訝しげに呼ぶお前の声が聞こえる。
その音に、俺はゆるりと口元を上げる。
でも俺は知っている。
この音は、俺だけのものではない。
何時だって色んなヤツラに優しい声を聞かせてる。
だから毎朝不安になる。
ちゃんと来るか、まだ扉の存在に気付いていないか。
ここから飛び立ってしまわないか。
でも、それももう終わりだ。
このままだと、近い内にお前は扉を開けて行ってしまうかもしれない。
そしたらもう、哀しい声でしか鳴かなくなってしまうかもしれない。
見てしまった世界を、恋しがるかもしれない。
そんな可哀想な事、したくないんだよ、俺は。
だから、なぁ?
「新八・・・」
そうなる前に、羽根きりをしようか。
ゆるりと笑った俺の顔は、きっとあの日の爺さんと同じものなんだろう。
あぁ、だって俺は、お前が元気良く羽ばたく姿も、本当に好きだったんだよ。
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なんか降りて来た(おいι)
ちなみに羽根きりは賛否両論あるようですが、
保護の為もあるので、絶対的に悪いとは言い切れないと
私的には思っていたり・・・
・・・まぁこの坂田は悪いんですが(最悪だぁぁぁ!!!!)