[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
その日、久しぶりに仕事が続いたので、久しぶりに自分の金で呑もうと
思った俺が馬鹿でした。
「あ・・・」
「「あ・・・」」
気分良く暖簾を潜った瞬間、視界に飛び込んでくる古くからの知り合い
であり、今現在知り合いと言えない・・・と言うか言いたくない
二つの顔。
だからなんで普通に呑んでんだよ、
指名手配犯共!!!!
「なんで居んのよ、お前ら。こんな顔見ながらじゃ
悪酔い決定じゃねぇか!」
狭い店内故に見なかった振りをする事も出来ず・・・と言うか、桂達の隣しか
席が空いておらず、渋々ソコに座る。
「なら帰ればいいだろう」
ムッとして桂が言い返してくるので、俺は小さく鼻を鳴らした。
「なんで善良な一市民である俺がテメー等のせいで予定を変えなきゃ
いけねぇんだよ。って事でオヤジ、
とりあえず警察に一報」
「馬鹿か貴様!!呑み屋でとりあえずと言ったら
まず芋焼酎だろうが!!!」
「馬鹿は本当、オマエな。ツッコミ所もチョイスも間違ってるから。
ま、いいや。とりあえずビールね。
コイツの伝票で」
そう言えば再びヅラが騒ぎ出してくる。あ~ウルセェ。
片手で耳を塞ぎつつ、出されたビールをグイッと飲み干す。
うん、美味い!!人の奢りだと思うと格別だなぁおい。
少しだけ機嫌を取り戻し、手酌でビールを注ぎながら、隣を見る。
「・・・で?なんでオメー等が二人で居んの?」
ってか俺等、高杉に喧嘩売られて買って叩き返して啖呵切らなかったっけ?
訝しげに見れば、二人は一瞬お互いを見やり、
「「いや、そこで偶々会ってな」」
「そこってドコォォォォ!!?一体どんな奇跡が起これば袂を分かち合った
テロリスト同士が偶々出会うってんだ、えぇ!!?」
至極当然の様に答えられ、ついツッコミを入れてしまう。
馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、やっぱり馬鹿だ、こいつ等。
「別にいいだろうが、酒を呑む位よぉ」
空気読めよなぁ的に高杉が肩を竦める。
いや、お前が空気読めよ。って言うか世間の空気を読めよ。
明らかにオマエ、表通りを堂々と、しかもそんな派手な形で歩ける
立場じゃねぇからな!!?
「全くだ、小さい事でグダグダと・・・カルシウムが足りないんじゃないのか?」
芋焼酎を呑みながら、ヅラが高杉の言葉に同意するように頷く。
ウルセェよ。さっきまでビールの一本や二本で騒いでたヤツに言われたく
ねぇんだよ。
っつうか全然小せぇ事じゃねぇからな!?
ヅラ達の言葉に一々言いたい事が出てくるが、じっと口を閉じる。
もうね、アレだよアレ。付き合ってたらマジ疲れるから。
さっさと呑みまくって退散しよう。と、黙ったまま空けたグラスにビールを
注いでいくが、こいつ等の口は止まらない。
「あぁ?カルシウムじゃねぇだろ。
コイツの場合は脳みそが足んねぇんだろ?」
ニヤニヤと笑って言う高杉。
あ~、無視だ無視。でもムカつくから
どっかのバカ皇子の如き声に声変わりしろ。
「それもそうだが、苛々にはカルシウムが・・・ってあぁ、銀時は違ったな。
糖分が足らないから苛々するんだろう」
子供か、オマエは。そう言って溜息を吐くヅラ。
んまい棒を常に持ち歩いてるヤツに言われたくないんですけどぉぉお!!
でも確かに糖分も足らねぇから寄越せ、マジで。
「あ?なんで足らねぇんだぁ?この糖分馬鹿の事だから、
年がら年中貪り食ってんじゃねぇのか?」
頑張って無視していると、変な所に高杉が食いついてきた。
・・・いや、お前俺の事どんな風に思ってたんよ?
確かに理想だけどね!?それ!!
するとヅラのヤツが小さく笑うのを感じた。
訝しげにチラリと視線をやれば、ヅラは満面の笑顔で。
「いや、そうもいかないだろう。何しろ今は新八君が居るからな。」
そう言い、満足げに頷いた。
ちょっ!オマッ何言ってくれてやがるんですか、コノヤロー!!!
確かに新八に糖分制限だされてますけど、今言う事ねぇだろうがぁ!!
隣見ろって隣!!危険なテロリストがいらっしゃるでしょうがぁぁ!!
変に新八の名前覚えられたらどうすんだよ、オイィィ!!!
尚もクドクドと新八がいかに出来た少年であるのかという事を
口にしているヅラの頭を思いっきり叩く。
「何をする、銀時!!新八君の良い所を言っているだけではないか!
それともアレか?ヤキモチか?」
「ちっげーよ!!オマエ何気軽に新ちゃんの名前出してくれてんのぉ!!?
これ以上人様に言えない様な交友関係を広めさせようとすんじゃねぇよ!
大体新八の良い所なんざぁ俺だけが
知ってれば良い事なんですぅ!!」
「いや、それがヤキモチだろう。
それより新八ねぇ・・・おい銀時。
新八はちゃんと万国旗飾ってたか?」
お互い立ち上がり、襟元を掴みあってヅラと怒鳴りあってたら
不意に高杉から問い掛けられた。
「・・・・・・・・・・・・あ?」
「いやだから万国旗だ。ちゃんと持ち帰っただろう?新八は」
まさか俺の祝いを持って帰らなかったって事ぁねぇよなぁ?と、
妙に凄みのある笑みを浮かべて告げてくる高杉。
・・・いや、怖くねぇから。
口に出してる言葉が万国旗だからね?
ってかなんで万国旗???
だが・・・と、その言葉に何かが引っかかり、急いで記憶を探る。
そう言えばアレは新八の誕生日、沢山の荷物を抱えて万事屋に
やって来たっけ。
その中に確か・・・・
「っておぉぉおおおい!!オマエ会ったのか!?
会っちゃいましたか!?新八に!!!」
ヅラを押しのけ高杉に詰め寄れば、あっさりとそれを認められる。
「大丈夫だ、ちゃんと祝ったから」
「問題はソコじゃねぇぇぇぇ!!!
何無断で会ってんだよ!
ってか誕生日にテロリストに祝われるって
どんな確立だよ!!」
「安心しろ、銀時。俺もその場に居たから」
「安心できねぇよ!!
テメーもテロリストじゃねぇかぁぁぁ!!!」
「本当は鳩を出したかったんだがよぉ。アレか?オマエん所は
生き物禁止してんのか?」
「おぉい!自分のキャラ忘れんじゃねぇぞコラァァ!!!
ってかウチには既にデッケーのが居るからこれ以上は禁止だぁぁぁあ!!!」
「あ、ウチもダメだぞ?エリザベスが居るからな?
だがしかしあの愛くるしい円らな瞳もまた肉球に負けず劣らず・・・」
「あぁ、判った。・・・オラヨ」
頬を軽く染めつつヅラがそう言った瞬間、高杉のヤローがパチンと
指を鳴らした。
その瞬間・・・
クルッポー♪
「それ、新八にやっといてくれ」
「って、人の髪の毛から勝手に
鳩出してんじゃねぇぇぇ!!!!!」
平和の象徴を頭の上に置きながら、とりあえず心の平和の為に
俺は戦う事にした。
で、ボロボロになった帰り道で鳩も逃がした。
中々俺の頭の上から下りたがらなかったが、きちんと降ろした。
後は新八の所にあるであろう万国旗だ。
なんか例えテロリストからの訳の判らない贈り物だとしても、
新八の性格なら几帳面に飾っていそうだ。
・・・うん、よし。燃やそう。
とりあえず燃やそう。
塵も残らぬよう燃やしつくそう。
そんで当分は家で呑む事にしよう。
やっぱアレだ。
人の奢りより、新ちゃんにお酌してもらった方がウメェや、うん。
そう心に誓った銀時の頭上で、鳩の妙に明るい鳴き声が聞こえた。
********************
新ちゃん誕生日話のその後。
ホント、色々すんませーん!!!(土下座)
なんか某様から場外乱闘要請が来たので(笑)
やらかしちゃいました☆(反省の色が見えねぇぇぇ!!!)
昼過ぎ、ここの所万事屋に泊まりこんでいた弟が帰って来た。
泊り込んでいる原因の、銀髪の男を引き連れて。
「すみません、姉上。着替えを取りにきただけなんです」
万事屋に置いてあるのにも限りがあるんで。申し訳なさそうにそう言うと、
新八は座敷に妙と銀時を残し、自室へと姿を消した。
それを見送り、妙はポツリと口を開いた。
「もう大分良さそうですね」
怪我の具合。そう言い、服の間から見える白い包帯に目をやる。
詳しいことは聞いていないが、どうやら仕事中に負ったものらしい。
そのせいで新八は万事屋に泊り込んでいるのだ。
「ん~、まぁな~」
銀時は首筋を掻きながら答えると、新八の消えていった方へ視線を向けた。
「でも新八が煩くてよぉ、あんま動けねぇのよ。心配しすぎじゃね?
お宅の弟さん」
そう文句を言うが、顔は言葉を裏切っている。
「・・・その割りに、機嫌良さそうですけど?」
「・・・んな訳ねぇじゃん。俺、どっちかってーとSだもん」
怪我して行動制限されて嬉しいわけねぇじゃん。
心外そうに答える銀時に、妙は一つ息を吐き、目の前に置かれた湯呑みへと
手を伸ばした。
それは部屋に戻る前に新八が淹れてくれたもの。
毎日の様に飲んでいた為か、数日飲んでいなかっただけで酷く懐かしい
ような気がする。
その味に、ホッと心が落ち着くのを感じながら再び銀時へと
視線を向けた。
「ならあんまり無茶しないで下さいな」
銀時が怪我をすれば、必ずと言って良いほど新八は万事屋に泊り込んで
看病をする。
弟の性格からして、怪我人を放り出しておけない事は重々承知だし、
そういう弟を密かに誇りに思っているのも事実だ。
けれど最近どうもその頻度が多くなっているような気がする。
そしてその分だけ新八は万事屋に泊り込み、そうでない日でも
銀時達の心配をしているのだ。
それは、あまり気持ちの良いものではない。
危険な事にあまり首を突っ込んで欲しくない・・・と言う思いもあるのだが、
何より弟の心配そうな顔だったり、悲しそうな顔は見たくない。
そういう思いで銀時に告げれば、彼は少し困ったように笑った。
「そんなつもりはねぇんだがな」
「だったら気をつけて下さい。そのうち腕とか失くしますよ?」
ポロッと。ニッコリ笑って冗談交じりでそう言えば、
「おいおい、どんな呪詛ですか、ソレェェ!!
なんか本当にポロッといきそうなんですけどぉぉぉぉ!!?」
と、大袈裟に返された。
返された・・・が、その一瞬前に僅かに見えてしまった。
銀時の目に微かに浮かんだ、喜びの色を。
その事に、妙は冷たいものが背中を通り過ぎるのを感じた。
見間違いだろう。そう思う。
だって今、自分は物騒な話をしたのだ。
腕が無くなると言ったのだ。
そこにどんな喜びを見つけるというのだ。
勘違いだ。そう思うものの妙の口は勝手に言葉を紡ぐ。
「腕、無くなったら困るわよね?」
当たり前の事だ。現に銀時だって妙の質問に怪訝な顔をしているではないか。
「護る・・・のでしょう?だったら・・・」
妙は少しだけ心を落ち着かせ、言葉を続けた。
何もなかったように、お小言の続きになるように・・・。
それでこの話は終わりにしよう・・・と。
その時、こちらに向かってくる小さな足音が聞こえた。
どうやら新八が必要な荷物を纏め終えたようだ。
銀時がつられるようにそちらへと視線を流す。
そして妙の望んでいた答えを口にした。
「だな。無くなったら困るわな。・・・けど」
そうなったら得るものがあるよなぁ?きっと。
うっとりと囁かれた声に、妙は体を固まらせた。
それに気付いたのか、銀時が視線を戻し、いつものだらしない表情
でヘラリと笑った。
「馬っ鹿。何本気にしてんだよ、オメーは」
「お待たせしました・・・ってどうしたんですか?姉上」
銀時の言葉とほぼ同時に座敷へと顔を出した新八が
キョトンとした顔を妙に向けた。
そんな新八に銀時が眉尻を下げ、哀しげに訴える。
「お妙のヤツ、酷ぇんだぜぇ?オマエが行ってから今まで
ネチネチネチネチと説教しまくりよ?」
銀さんだってしたくて怪我した訳じゃねぇのにさぁ。そう訴える
銀時に、新八が 当たり前です!! と顔を顰めて答えた。
「姉上だって心配してるんですからね!
これに懲りたらもう少し自分を大切にしてください!!」
ね、姉上?新八にそう促され、妙は漸く固まっていた体を動かした。
「そうね。銀さんにはもう少し自分を大切にして貰わないと」
未払いの給料の為にも。そう軽口を叩けば、何時も通りやる気のない目を
した銀時が そっちの心配かよ!! とカクリと肩を落とした。
そう、何時も通りの光景。
私の言葉に苦笑している新ちゃんも何時も通り。
だけど・・・・
「じゃあそろそろ行きましょうか?銀さん」
そう言って銀時に手を貸す新八。
「そうだな。じゃあ、邪魔したな」
銀時がその手を借り、立ち上がろうとした所で傷が痛んだらしく、
僅かに顔が顰められる。
「銀さん!!」
慌てて新八が体を支えようと手を伸ばす。それに銀時は一つ苦笑を零すと、
「大丈夫だって」
そう言って新八の頭を軽く撫でた。
心配する新ちゃんも、大丈夫だと言い張る銀さんも何時もと同じ。
だけど・・・見てしまった。
だけど・・・気付いてしまった。
銀時の怪我に、まるで我が事のように辛そうに顔を歪める弟を見て。
銀時の怪我に、懸命に世話をする弟を見て。
目の前の男が酷く満足げに口元を上げるのを。
「銀さんっ!」
新八に体を支えられ、玄関へと向かおうとする銀時に妙は堪らず声を掛けた。
その声は普段よりも固い声となったらしい。
銀時の背に手を添えていた新八が不思議そうに妙を振り返った。
「・・・なに?」
だが銀時は振り返らない。言葉だけ返して気だるそうに首を傾げた。
それに構わず、妙はその背中に言葉を投げる。
「もう・・・怪我はしないで下さい」
しかしその言葉は、軽く上げられた銀時の肩に弾かれてしまう。
「悪ぃな。約束はできねぇよ」
そう言って傍らに居る新八の肩に、体を預けるようにそっと腕を
まわす銀時を見詰めた。
そして軽く手を挙げ、その場を後にする銀時。
新八もそれにつられるように短く妙に言葉を残すと、
銀時と共に玄関へと向かっていった。
少し大きめの風呂敷を抱えて。
これでまた、確実に数日は家へは帰ってこないだろう。
妙は少し間を置いてから、門の外へと向かった。
視線の先には二人並んで万事屋へと向かう姿。
何かを話しているらしく、新八の視線はこちらへは戻ってこない。
―――そして・・・
妙はぎゅっと唇に力を込めた。
もう遠くに行ってしまって、その顔は見れないけれど
きっと、銀時の口元は、酷く満足げに歪められているのだろう。
噛み締めた唇から血の味を感じ、妙の口から
じんわりと慣れ親しんだお茶の味が消えていくのを感じた。
******************
一万打お礼企画・ラスト!!
もんちょ様からのリクで
「病み銀さんとそんな彼を純粋に慕う新八クン、
そして銀さんの異変に気づいたお妙お姉さま」
という事でしたが・・・如何でしょう?
ちゃんと病んでましたか?(おいι)
少しでも気に入って頂けたら嬉しいですv
今回の企画に参加して頂いたのもそうですが、
ご感想のお言葉も、本当有難うございますvv
これからも精進していきますので、
どうぞよろしくお願いしますvv
「ただいま帰りました~」
タイムサービスやら特売品やらを詰め込んだビニール袋を一旦置き、
脱いだ草履を整えながら返事を待つが、何も返って来ない。
新八はほんの少し首を傾げるが、すぐにある想像が頭を過ぎる。
「また昼寝でもしてんのかな?それかパチンコにでも行ったか・・・」
ここですぐ仕事が入ったかな?と思えない自分が悲しい。
新八は一つ息を吐いて戦利品を手にすると、そのまま力なく
台所へと足を進めた。
「・・・やっぱり」
予想していたソファに居なかった為、もしや・・・と
思いつつ和室へと来て見れば、そこには畳みの上で大の字になって
寝ている銀時の姿が。
「少しは予想を裏切ってくださいよ」
えいっと銀時の足を軽く蹴飛ばすが、なんの反応も返って来ない。
新八はまた一つ息を吐くと、その体を跨いで洗濯物をよせるべく、
窓辺へと近付いた。
「あ・・・いい風」
畳み終えた洗濯物を横に置き、新八は入ってくる風に顔を上げた。
ここの所暑い日が続いたが、今日はとても過ごしやすい。
「これじゃぁ横になったら一発だね」
クスリと笑い、その罠に掛かって未だ昼寝真っ最中の銀時を見る。
畳の上だと言うのに、なんだかとても気持ち良さそうだ。
呑気なその寝顔に、つい怒りを忘れる。
そして新八はチラリと視線を銀時から上へと上げた。
まだ夕飯の準備をするには早すぎる時間だ。
掃除は午前中に終えてしまったし、買い物も終わった。
一つ一つ、自分の仕事を思い浮かべ、やる事を探すが何も思いつかない。
かと言ってテレビの番人をするのもつまらない。
「・・・僕もちょっとだけ・・・」
どうせなら、この気持ち良さを分けてもらおう、と
新八は銀時の腕にコテンと頭を預け、横になった。
ちょっと固いけど、何もないよりはいい。
チラリと視線を向けるが、銀時は気付いた様子もなく、先程と同様
微かな寝息を立てているので、新八は安心して体の力を抜いた。
だが、幾ら気持ちの良い風が入ってこようとも、日頃から昼寝などの
習慣がない新八に、おいそれと眠気が襲ってくるはずもなく、
ゴロリと体勢を変えてみる。
すると少し先に銀時の掌が見えた。
新八はそれにそっと自分の手を重ねてみる。
「う・・・大きい」
自分の掌よりも幾分はみ出してしまう銀時の掌に、少しだけショックを受ける。
しかもなんだか自分の手より固い。
自分もそれなりに剣の鍛錬をしているが、まだここまでではない。
なんだか自分との差を見せ付けられた気がして、新八は
プニプニと突いたり摩ったりしてみる。
突かれるままにフニャフニャと動く指に、新八は笑みを零す。
そして試しにその手を掴み、自分の方へと曲げてみると、
頬の下の筋肉が少しだけ動いてちょっと面白い。
・・・・が、なんかゴリゴリする。
筋肉が動いているのだから当たり前なのだが、先程まで自分の思い通りに
動かせていただけに、少しだけムッとする。
面白いけど、なんかやっぱ寝にくいや。
新八は少しだけ頭を浮かせると、そのまま体をずらし、今度は銀時の
掌へとその頭を落とし、横になった。
そして暫しモゾモゾと動き、自分なりに寝やすい位置を探す。
・・・うん、ここがいいや。
ちょっと汗ばんでるけど。
銀時に背を向ける形で漸く落ち着き、新八は口元を緩めた。
それは丁度掌に頬を押し当てる格好で、直ぐ目の前に軽く曲げられた
銀時の指が見えた。
「あ・・・傷発見」
指先や根元等、日頃気付かない場所の古い傷を見つけ、
新八はそっと自分の指を這わせた。
「何時ごろのやつなんだろう・・・」
そう呟き、新八は先程まで頭を乗せていた腕の事を思う。
きっとソコにも傷はあるのだ、この人は。
そしてその傷の分だけ、何かを護り、何かを失いもしたのだろう。
「痛くないのかな?」
新八はそう呟くと、そっと這わせていた指を止め、代わりにやんわりと
銀時の指を包み込んだ。
もう痛くないといいな。
心から、そう祈る。
もうないといいな。
この優しい掌が傷付く事が、これから先なければいい。
そう、願う。
けれど、きっとそうもいかないだろう。
だってこの人、やる気のないマダオの癖に、滅茶苦茶情が深いんだもの。
「ホント、馬鹿なんだから」
頬に当たる手のひらの固さに、ほんの少しだけ視界が霞んだ。
************************
一万打お礼企画・第七弾
ツリリ様からのリクエストで
「銀さんの体(どこでも良いです)に、頬をくっつけて甘える新八」
という事ですが・・・い、如何でしょう?(ドキドキ)
すみません、あんまり引っ付きあいませんでした~(泣)
当初はすっげー甘甘を狙ってたのですが、
何処でどう間違ったのやら・・・ι
こんな感じに仕上がりましたが、少しでも気に入って頂けたら
嬉しい限りですv
企画参加、並びに嬉しいお言葉の数々、有難うございましたv
これからも少しでも楽しんで頂けるよう頑張らせて頂きます!
「・・・本当に寝ちまったよ」
ギャーギャーと騒ぎつつも無理矢理三人で寝転んだのは少し前。
もう暑いわ狭いわ、川の字って言うよりも単なる塊じゃね?
寧ろ馬鹿じゃね?
そう思いつつも、抱え込んだ温もりは手放すことは出来ず、
そのまま寝転んでいたのだが・・・
「疲れてたのかねぇ・・・」
肩肘を突いて少しだけ体を起こし、隣で眠っている新八の前髪を手に取る。
暑さからか、薄っすらと汗を吸い込んだその髪は、いつもよりも
しんなりと銀時の手から落ちた。
日頃から忙しなく自分達の世話をする少年は、昼寝とは無縁だ。
それも今はまだ昼前。
幾ら無理矢理寝かしつけたとしても・・・珍しい事この上ない。
「ま、アイツは仕方ねぇけどな」
新八の向こうから聞こえるもう一つの寝息に、銀時は口元を緩めた。
少し前、神楽に相談されたのだ。
金を寄越せ と。
あ・・・いやいや、あれは相談じゃねぇな。
脅迫、もしくは強盗が正しい、うん。
だって殺気が駄々漏れだったもの。
身の危険を感じながらもとりあえず理由を聞いてみると、
新八の誕生日を祝いたいから・・・
と言う事だった。
馬鹿だなぁ、オメーは。だからお子様だってんだよ。
なんでも金に頼んじゃねぇよ。ようは気持ちだ。
心を込めて祝いの言葉を贈り、その日はお妙のトコでもババァのトコでも
泊まりに行きゃぁそれだけで喜ぶってもんなんだよ。
俺が。
そう提案したらボッコボコにされた。
本当に、懇切丁寧に隅々までボコられた。
その上奪われた財布の中身を見て、再度ボコられた。
仕方ねぇじゃん!!俺だってなぁ金に物を言わしたかったよ!!
だから頑張ったんだよ、頑張ってサムに会いに行ったんだよ!
なのにマ○ンちゃんすら出て来ねぇって
どう言う了見だ、コラァ!!
だが、暴れても金は降って来ないし、時間も止まらねぇ。
序に見送った魚群も戻っては来ねぇ。
で、せめて・・・と考え付いたのが、新八のお手伝いって訳だ。
・・・ま、夕食は少しばかり豪華にするけどな。
ケーキもバッチリ作るけどな。
でもそれらに神楽は手を出す事が出来ない。
ってか出させん。
糖は俺が仕切る。
その気合が伝わったのか、それとも自分の腕前が判っているのか
神楽は文句を言わず、その代わり
新八が帰ってからチラシで部屋を飾るモノを作ったり、
今日も早く起きて掃除の真似事なんぞをしていた。
「・・・これじゃ、今日はずっとこのまんまだな」
少しばかり不満だが、仕方ない。
だって今日は新八の誕生日で、俺達は家族なのだ。
妙が最初を取ったのなら、最後は俺達だ。
間に誰が入ろうとも、これだけは譲れない。
「・・・しっかし凄い量だったな・・・」
ポツリと呟き、俺は新八の持っていたバッグを思い浮かべた。
確認はしていないが、きっとあれらは他のヤツラからの誕生日プレゼント
なのだろう。
・・・ま、こればっかりは仕方ねぇか。
新八の誕生日だ、祝いたくもなるだろうよ。
うん仕方ない仕方ない。
仕方ねぇからちょっと漏れなく俺から呪われろ。
いやいやヤキモチとかじゃねぇよ?
やっぱここはお礼として呪い返さないとな、うん。
あ?字が違う?そっかぁ?
ま、字面が似てんだからいいだろ、別に。
しかし・・・アレだ。あのバッグだけは別な。
だってアレは俺が道端で
『奥さんにど~ぞ☆』
って貰ったのと一緒じゃねぇかぁぁぁあ!!
誰だ、勝手に俺の奥さんにやったヤツァ。
ったく、誰だか知らねぇがきちんと教えなきゃダメみてぇだな。
やっぱ言葉って大事だ。
宣言も大事だ。
けれど拳はもっと大事だ。
え?いやいや違うよ?暴力なんかじゃないよ?
ホラよく言うじゃん?
拳で語り合う・・・みたいな☆
ま、アレだけどね。語り合わないけどね。
寧ろ一方的に語らせて貰うだけだけどね、俺が。
そう心に誓い、拳を握り締めていると、新八が微かに身じろいだ。
おっといけねぇ。殺る気が出ちまったか。
慌てて体の力を抜くと、新八の体からも力が抜けたのが判った。
「間抜けなツラだなぁ、おい」
思わずツンと頬を指で突くと、その顔がフニャリと笑ったので、
つられて俺の頬も緩む。
うん、やっぱり最後はきっちり貰おう。
家族の時間も大切だが、二人の時間も大切だ。
どうせ神楽は早々に寝てしまうだろうし、新八には頑張って
日付が変わるギリギリまで起きてて貰おう。
もし寝てしまっても、起こしてしまおう。
文句を言われてもそうしよう。
だって仕方ねぇだろ?
今日は新八の誕生日なんだからよ。
最初は妙に、間は他のヤツラに、で最後は俺達に。
そして最後の最後は 俺に。
「贈らせてくれよ、なぁ?」
願いを込めて、俺は新八のやわっこい頬にそっと唇を落とした。
*********************
誕生日話のその後です。
今回も言いませんでしたが、Mag.さんの想像通り
最後を狙いまくりです、坂田(笑)
感想、有難うございましたvv
メッチャ励みになります~vvv
お登勢さんがくれたのは、白い割烹着だった。
「禄でもないやつ等だけどね、これからもよろしく頼むよ」
そう言って笑うお登勢さんに、僕は曖昧な笑みを返した。
うん、確かに今使ってるの、古くなってたしね。
家事するのにあると便利だしね。
お登勢さんの心遣いも、とっても嬉しいしね。
でも、ちょっと違うと思うのは僕だけなのかな?
お登勢さんの中で、僕はどんなポジションなんだろう。と、真剣に
考えつつ、僕は改めて御礼を言うと、今度こそ万事屋へと
足を進めた。
「・・・なんか丸聞こえなんだけど・・・」
僕は玄関の前に立ったまま苦笑を浮かべる。
どうやら今は掃除の最中らしい。
『ちょ、マジ神楽やめろって!!それはもう掃除じゃねぇぇぇ!!!』
『何言ってるネ!部屋の中をこんなに綺麗にしたのに、
言い掛かりか、コノヤロー!!』
『綺麗にしたって・・・ゴミと一緒に
家具も放り出してんじゃねーか!!何コレ、
すっきりし過ぎて寂しさ爆発ぅぅぅ!!??』
『あ、もう一つ最大のゴミを忘れてたネ』
『ちょっ!!それ銀さんんんんんん!!!!!』
そんな会話と共に、凄い音も聞こえてくる。
・・・うん、掃除じゃなかったね。
破壊活動だよね、きっと。
『あ~、もうどうすんだよ。来るなよ~、新八まだ来るなよ~
大丈夫、お前は空気読める子だから。だからまだ来るな・・・』
『銀ちゃん、新八、何時もより遅いネ。
どっかでボーっと空気読んでるアルカ?』
『あぁ!?・・・ゲッ、本当じゃねぇか!!!何やってんだ、アイツ!!
まさかドッカのおっさんに捕まってたりしねぇだろうなぁ?
あ~、もうさっさと来いってんだよ!!!!!』
『・・・どっちアルカ』
・・・本当、どっちだよ。
でも、これ以上何かされるとこれからが大変なので、僕は息を一つ吸うと
玄関へと手を伸ばした。
「お早うございま~す」
その瞬間、居間の方から大きな音と、銀さんの潰れるような声が聞こえた。
慌てて向かうと、微妙に位置がずれている家具と、足を抱えて
蹲っている銀さん。そして・・・
「遅いネ!ダメガネ!!めでてぇなぁコンチキショー!!」
僕の胸元に抱きつき、そんな祝いの言葉らしきものを告げてくる
神楽ちゃん。
「めでたいから代わりに掃除しといたネ!これで一つ仕事が減ったアル」
嬉しいカ?と、顔を上げ、自慢げに聞いてくる神楽ちゃんに
思わず笑みが零れる。
僕はそっとその頭に手を乗せ、優しく撫でると感謝の言葉を
口にした。
「有難う、とっても嬉しいよ。でも女の子がそんな口きいちゃダメでしょ」
「誕生日に細かい事言うなや、ぱっつぁんよぉ。
そんなんだから一つ年取っても眼鏡が外せないアル」
「いや、年齢重ねても眼鏡は外れないからね?
寧ろ重ねれば重ねるほど、眼鏡率高くなるからね!?」
ってか眼鏡馬鹿にすんなー!!と突っ込むものの、どうしても普段のような
迫力は出ず、神楽ちゃんに抱きつかれたまま二人でニヘッと笑いあう。
「おいおい神楽ぁ。てっめぇ~一人でさき越しやがって!!!」
何時の間に復活したのか、足を引きずりながらも僕達の傍に
来ていた銀さんが、神楽ちゃんごと僕をぎゅっと抱き締めてきた。
「銀ちゃん、加齢臭で噎せ返るアル。離れるヨロシ」
「こっちこそ酢昆布の匂いで目がすっぱいんだよ!!テメーこそ離れろ!!」
ギューギューと抱き締めあいながら口喧嘩を始める二人に
僕は身動き一つ出来ない。
幾ら午前中であっても、流石にここまで引っ付かれてると暑い。
てか苦しい。
・・・・で、恥ずかしい。
「・・・いや、二人ともそろそろ離れようよ」
お腹減ったでしょ?ご飯作りますから・・・そう言うとそれまで
睨み合ってた二人が一斉に僕の方へと視線を向けた。
「「ダメだ・ネ!!!」」
「今日はず~っと三人一緒ネ!!」
そう言うと神楽ちゃんは僕の胸元に顔を埋めた。
え?いや、あのず~っとって・・・ご飯は?
てかもしかしてずっとこの体勢なのぉぉ!?
困惑気味に、いつの間にか僕の背後へと移動していた銀さんに
視線を向けると、
「そうそう。最初と、それと今までの時間を他のヤツラに譲ったんだ。
これから先は坂田家のもんですぅ」
って事で今日はお泊りな。そう言ってニヤリと笑い、僕の首筋へと
鼻先を埋め、
「・・・んで、最後は銀さんに頂戴」
耳元でボソリと囁かれた言葉に、僕は頬が熱くなるのを感じた。
いやいや、これはきっと暑いせいだ。
うん、そのせいだ、絶対!!
と言うか、今日は僕の誕生日なんだから、貰うのは僕なんですけど!!
あぁ・・・でも。
体に感じる柔らかい体温を感じながら、僕は視線を室内へと流した。
そこには綺麗とは言い難いけど、確かに掃除された部屋が見えて。
所々に色とりどりの紙で作られた飾りがあって。
ってあぁ、アレはチラシで作られてるのか。
どうりで色に統一感がない筈だ。
本当、ショボさ爆発だなぁ。
でも、どうしようもなく嬉しいなぁ。
つい頬を緩ませていると、定春がノシノシとやって来て僕達の足元に
座り込み、頭を擦り付けてきた。
「あ、忘れてたネ。定春もだから三人と一匹でず~っとネ!」
定春に気付いた神楽ちゃんが、その頭を撫でてニシシと笑う。
「だな。あ、でも風呂の時どうすんだよ。
壊れるぞ、ウチの風呂」
僕の肩に顎を乗せ、真剣な顔でそんな事を言う銀さん。
「いや、壊れてるのはアンタの頭ですから。
心配するとこ違うでしょ!」
ペシリと銀さんの額を叩きながらも、やっぱり何時もの様なツッコミは
出来ない僕。
あぁ、もうホントどうしよう。
暑いのに、苦しいのに、恥ずかしいのに。
嬉しくて幸せで仕方ないんですけど。
「もしかして買い物行くのも皆一緒?」
ならたくさん買えるなぁ・・・財布が許す限りだけど。なんだか照れ臭くて
そんな事を呟けば、目の前の神楽ちゃんがニシシと笑った。
「当たり前ネ!なんの為に銀ちゃんの手が
二つついてると思ってるカ。
全部持たせるヨロシ」
「おいぃぃい!!!銀さんの手は荷物を持つ為にあるんじゃねぇよ!!
こうやってだなぁ、新ちゃんを抱き締める為に・・・」
「じゃあ神楽ちゃん、その時は手、繋いでこっか?」
「って無視ぃぃぃぃぃ!!?こんなに耳元で叫んでるのに
無視ですかコノヤロー!!!」
「仕方ないネ。がっちり掴んで離さないでいてやるゼ☆」
「ちょ、ぐらさんんんんん!!?
いやいや、そこは離して行こうよ。
銀さんにも分け与えてあげようよ。」
僕の肩から顔を出して言い募る銀さん。
・・・や、煩いから。本当。
僕と神楽ちゃんは顔を合わせ、仕方ないね~。とばかりに息を吐く。
「仕方ないネ。新八、小指ぐらいは与えてやるネ」
「ん~・・・ま、仕方ないか」
「いやいやいや、小指っておまっ・・・」
「で、今日は皆で一緒に寝るアル!」
「あぁ、いいね。川の字になって寝ようか?」
「ぁあぁ!?ちょっと待てって!!さっき言ったじゃん?
新ちゃんは銀さんと二人で
布団は一つ、けれど枕は二つ~♪みたいな感じでだなぁ!?」
「神楽ちゃん、僕、定春で」
「おぉ、立派な川の字アル」
「おぉぉおおおおいぃぃい!!!銀さんんん!!!
ソコ、銀さん忘れてるから!!!」
「あ、じゃあ銀さんは送り仮名部分をお願いします」
「どうやって!!?」
ギャーギャーと騒ぐ銀さんに、僕と神楽ちゃんは笑いを隠せない。
クスクス笑っていると、後ろの銀さんが この悪ガキ共が!! と
僕の腰に回していた腕に力を込めてきた。
そして、
「おりゃぁああ!!こうなったら真の川の字を見せてやらぁ!!」
そう言って神楽チャン毎僕を抱き上げてしまった。
「ちょ?銀さん!!?」
「キャッホゥウ!昼寝カ?昼寝するアルカ?」
今日は早起きしたから眠気バッチリネ!!そう言って笑う神楽ちゃんが
落ちないよう、僕は回していた手に力を込めた。
それを見届け、銀さんはよしとばかりに口元を上げると、
傍らに座っていた定春を見た。
「おら、定春も来い。ってもお前は装飾部分だからな。
川の字は神楽と新八と銀さんだから。」
そう言ってドカドカと和室へと向かっていく。
どうやら本気で昼寝するらしい。
ってかまだ昼寝って時間じゃないんですけど!?
って銀さん、布団敷きっぱなし!!!
起きたらすぐ仕舞えって言ってあるのに!!
そうは思うが、どうも今日の僕はツッコミが甘い。
何も言えず、ただ頬が緩んでいく。
・・・ま、偶にはいいよね?
だって今日、僕の誕生日だもん。
ゴロリと寝かされ、川の字と言うには妙に幅の細いものになりながら、
僕はゆったりと目蓋を閉じた。
朝から色んな人と会って。
沢山の言葉を貰って。
そして今、こんな温かいものを貰って。
ま、少し暑いけどね。
ちょっと狭いけどね。
でも多分、僕はこの日一番の幸せモノだ。
「あ、ちなみに今日が終わってもずっと一緒だからな?」
「当然ネ!万事屋は三人と一匹で万事屋ヨ!!」
「寧ろ坂田家な?坂田さん一家な?」
「はいはい。ホラ、寝るなら寝てください。
で、起きたらまず買い物ですからね~」
「「あいよ~」」
******************************
誕生日おめでと~、新ちゃん!!!
これで一応終了です。ここまでお付き合いして下さり、
有難うございましたv
・・・てか今気付いたけど坂田、お祝いの言葉言ってねぇぇぇえ!!!(爆)