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昼過ぎ、ここの所万事屋に泊まりこんでいた弟が帰って来た。
泊り込んでいる原因の、銀髪の男を引き連れて。
「すみません、姉上。着替えを取りにきただけなんです」
万事屋に置いてあるのにも限りがあるんで。申し訳なさそうにそう言うと、
新八は座敷に妙と銀時を残し、自室へと姿を消した。
それを見送り、妙はポツリと口を開いた。
「もう大分良さそうですね」
怪我の具合。そう言い、服の間から見える白い包帯に目をやる。
詳しいことは聞いていないが、どうやら仕事中に負ったものらしい。
そのせいで新八は万事屋に泊り込んでいるのだ。
「ん~、まぁな~」
銀時は首筋を掻きながら答えると、新八の消えていった方へ視線を向けた。
「でも新八が煩くてよぉ、あんま動けねぇのよ。心配しすぎじゃね?
お宅の弟さん」
そう文句を言うが、顔は言葉を裏切っている。
「・・・その割りに、機嫌良さそうですけど?」
「・・・んな訳ねぇじゃん。俺、どっちかってーとSだもん」
怪我して行動制限されて嬉しいわけねぇじゃん。
心外そうに答える銀時に、妙は一つ息を吐き、目の前に置かれた湯呑みへと
手を伸ばした。
それは部屋に戻る前に新八が淹れてくれたもの。
毎日の様に飲んでいた為か、数日飲んでいなかっただけで酷く懐かしい
ような気がする。
その味に、ホッと心が落ち着くのを感じながら再び銀時へと
視線を向けた。
「ならあんまり無茶しないで下さいな」
銀時が怪我をすれば、必ずと言って良いほど新八は万事屋に泊り込んで
看病をする。
弟の性格からして、怪我人を放り出しておけない事は重々承知だし、
そういう弟を密かに誇りに思っているのも事実だ。
けれど最近どうもその頻度が多くなっているような気がする。
そしてその分だけ新八は万事屋に泊り込み、そうでない日でも
銀時達の心配をしているのだ。
それは、あまり気持ちの良いものではない。
危険な事にあまり首を突っ込んで欲しくない・・・と言う思いもあるのだが、
何より弟の心配そうな顔だったり、悲しそうな顔は見たくない。
そういう思いで銀時に告げれば、彼は少し困ったように笑った。
「そんなつもりはねぇんだがな」
「だったら気をつけて下さい。そのうち腕とか失くしますよ?」
ポロッと。ニッコリ笑って冗談交じりでそう言えば、
「おいおい、どんな呪詛ですか、ソレェェ!!
なんか本当にポロッといきそうなんですけどぉぉぉぉ!!?」
と、大袈裟に返された。
返された・・・が、その一瞬前に僅かに見えてしまった。
銀時の目に微かに浮かんだ、喜びの色を。
その事に、妙は冷たいものが背中を通り過ぎるのを感じた。
見間違いだろう。そう思う。
だって今、自分は物騒な話をしたのだ。
腕が無くなると言ったのだ。
そこにどんな喜びを見つけるというのだ。
勘違いだ。そう思うものの妙の口は勝手に言葉を紡ぐ。
「腕、無くなったら困るわよね?」
当たり前の事だ。現に銀時だって妙の質問に怪訝な顔をしているではないか。
「護る・・・のでしょう?だったら・・・」
妙は少しだけ心を落ち着かせ、言葉を続けた。
何もなかったように、お小言の続きになるように・・・。
それでこの話は終わりにしよう・・・と。
その時、こちらに向かってくる小さな足音が聞こえた。
どうやら新八が必要な荷物を纏め終えたようだ。
銀時がつられるようにそちらへと視線を流す。
そして妙の望んでいた答えを口にした。
「だな。無くなったら困るわな。・・・けど」
そうなったら得るものがあるよなぁ?きっと。
うっとりと囁かれた声に、妙は体を固まらせた。
それに気付いたのか、銀時が視線を戻し、いつものだらしない表情
でヘラリと笑った。
「馬っ鹿。何本気にしてんだよ、オメーは」
「お待たせしました・・・ってどうしたんですか?姉上」
銀時の言葉とほぼ同時に座敷へと顔を出した新八が
キョトンとした顔を妙に向けた。
そんな新八に銀時が眉尻を下げ、哀しげに訴える。
「お妙のヤツ、酷ぇんだぜぇ?オマエが行ってから今まで
ネチネチネチネチと説教しまくりよ?」
銀さんだってしたくて怪我した訳じゃねぇのにさぁ。そう訴える
銀時に、新八が 当たり前です!! と顔を顰めて答えた。
「姉上だって心配してるんですからね!
これに懲りたらもう少し自分を大切にしてください!!」
ね、姉上?新八にそう促され、妙は漸く固まっていた体を動かした。
「そうね。銀さんにはもう少し自分を大切にして貰わないと」
未払いの給料の為にも。そう軽口を叩けば、何時も通りやる気のない目を
した銀時が そっちの心配かよ!! とカクリと肩を落とした。
そう、何時も通りの光景。
私の言葉に苦笑している新ちゃんも何時も通り。
だけど・・・・
「じゃあそろそろ行きましょうか?銀さん」
そう言って銀時に手を貸す新八。
「そうだな。じゃあ、邪魔したな」
銀時がその手を借り、立ち上がろうとした所で傷が痛んだらしく、
僅かに顔が顰められる。
「銀さん!!」
慌てて新八が体を支えようと手を伸ばす。それに銀時は一つ苦笑を零すと、
「大丈夫だって」
そう言って新八の頭を軽く撫でた。
心配する新ちゃんも、大丈夫だと言い張る銀さんも何時もと同じ。
だけど・・・見てしまった。
だけど・・・気付いてしまった。
銀時の怪我に、まるで我が事のように辛そうに顔を歪める弟を見て。
銀時の怪我に、懸命に世話をする弟を見て。
目の前の男が酷く満足げに口元を上げるのを。
「銀さんっ!」
新八に体を支えられ、玄関へと向かおうとする銀時に妙は堪らず声を掛けた。
その声は普段よりも固い声となったらしい。
銀時の背に手を添えていた新八が不思議そうに妙を振り返った。
「・・・なに?」
だが銀時は振り返らない。言葉だけ返して気だるそうに首を傾げた。
それに構わず、妙はその背中に言葉を投げる。
「もう・・・怪我はしないで下さい」
しかしその言葉は、軽く上げられた銀時の肩に弾かれてしまう。
「悪ぃな。約束はできねぇよ」
そう言って傍らに居る新八の肩に、体を預けるようにそっと腕を
まわす銀時を見詰めた。
そして軽く手を挙げ、その場を後にする銀時。
新八もそれにつられるように短く妙に言葉を残すと、
銀時と共に玄関へと向かっていった。
少し大きめの風呂敷を抱えて。
これでまた、確実に数日は家へは帰ってこないだろう。
妙は少し間を置いてから、門の外へと向かった。
視線の先には二人並んで万事屋へと向かう姿。
何かを話しているらしく、新八の視線はこちらへは戻ってこない。
―――そして・・・
妙はぎゅっと唇に力を込めた。
もう遠くに行ってしまって、その顔は見れないけれど
きっと、銀時の口元は、酷く満足げに歪められているのだろう。
噛み締めた唇から血の味を感じ、妙の口から
じんわりと慣れ親しんだお茶の味が消えていくのを感じた。
******************
一万打お礼企画・ラスト!!
もんちょ様からのリクで
「病み銀さんとそんな彼を純粋に慕う新八クン、
そして銀さんの異変に気づいたお妙お姉さま」
という事でしたが・・・如何でしょう?
ちゃんと病んでましたか?(おいι)
少しでも気に入って頂けたら嬉しいですv
今回の企画に参加して頂いたのもそうですが、
ご感想のお言葉も、本当有難うございますvv
これからも精進していきますので、
どうぞよろしくお願いしますvv