[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
俺は今、台所で格闘中だ。
理由は簡単、赤飯を炊くのだ。
新八の為に
『僕とアンタの事情 2』
思えばアイツは最初から目の離せないヤツだった。
不器用なダメガネかと思えば、いやいやどうして。
心に一本、まだ細いながらも確りとしたモノを持っていた。
そして半ば無理矢理ウチの助手に納まり、働き始めた。
これがまた、呆気に取られるほどの働き者。
万事屋の仕事なんかないってのに、それならば・・・と家の事を
しだした。
それまでも、一応人並みの事はやってはいたのだが、新八は違う。
妥協と言う言葉を知らないのかって程の働きっぷりだ。
おまけにソレを俺にまで求めてくる。
読み終わった本は片付けろ。
洗濯物は籠に入れろ。
おまけに、帰ってきたら『ただいま』で、食べる前は『いただきます』だ。
それまで一人でやってきただけに、中々ウザイものがあった。
・・・けれど、どこかくすぐったい暖かさもあって。
大体直ぐに辞めると思ったんだよ。
そんな几帳面なヤツが、俺について来る筈がない。
だって給料もまともに払わない。
起こされなければ昼まで眠っているような俺だ。
なのに、アイツは最後には 仕方ないですね って許してくれるんだよ。
どんなに勝手に歩いても、一生懸命追っかけてきてくれるんだよ。
・・・もうさ、オマエおっさんをどうする気よ?
もう荷物なんて持たないって、大切なモン、作らないって
決めてたんだぜ?
なのにさ、
暗い夜道帰ってきて、明かりがついてる自分んちを見た気持ち、判るか?
いつの間にか自然と口にしていた『ただいま』の言葉。
それに当然の様に返ってくる、オマエの『お帰りなさい』の言葉。
判るか?それがどんなにこっ恥ずかしくて嬉しかったか。
俺に無条件で笑顔をくれて、本気で心配して怒ってくれて。
オマエと会ってから、俺のそれまでの世界が一気に晴れた気がして
・・・気が付けばどうしようもなく惚れていた。
でも俺は男な訳で。
おまけに大人な訳で。
子供なオマエにそんな事を告げれる訳がねぇんだよ。
だってそんな事言ったら、オマエ俺から離れるだろ?
今まで通りの笑顔を向けてくれないだろ?
例えうまくいったとしても、その先にあるだろうナニかを
知ってるぐらいには大人なんだよ、俺。
そんなの絶対イヤだ。耐えらねぇよ。
でも普通の上司と助手ってのだけじゃイヤだ。
そんな絆、脆過ぎるだろ。もっとどうしようもなく頑丈なモンが欲しい。
だからオマエが『家族と思ってくれていい』って言ってくれた時、
コレだ!と思ったね。
だってよ、家族だったらもう離れねぇだろ?
別れの時なんて、来ないだろ?
なら、それでいい。
・・・それが、いい。
そう思ってたのに、行き成り新八は俺に『好きだ』と告げてきた。
本当、オマエ銀さんをどうしたいのよ。
俺はヤダよ。嬉しいけど、本当に本当にすっげー嬉しかったけど。
でもそれでどうなんよ?
オマエまだ若いじゃん。十代じゃん。
この先色んなヤツに会うだろ?んで、俺より好きなヤツが出来たら
それで終わりじゃんか。
『家族』に終わりはねぇけど、『恋人』には終わりがあるんだぜ?
オマエにそんな事言ったら、『そんな事ない』って言うだろうけど、
先の事なんて誰にも判んねぇだろ。
現に俺だって、こうしてオマエと会えたんだ。
会って、色んなもんが変わっていったんだ。
だから、俺は新八に告げた。その気持ちは勘違いなのだと。
始まらなければ、終わりも無い。
『恋人』にならなきゃ『家族』のままだ。
でも、さすがに言った俺も辛くて。
まるで自分の気持ちも否定してるみたいで、キツくて。
新八を残して出て行った後、少し泣いたのだけれど。
本当ならあの時、新八の気持ちを受け入れてしまいたかった。
例え本当に新八の気持ちが勘違いであっても、
自分のモノにしてしまいたかった。
でも、その後に来るだろう『終わり』が怖かった。
だって一度手にしたら、もう二度と離せない。
そんな事になったら、新八共々この暖かな世界を壊してしまいそうだ。
・・・こんなに好きなのに。
『家族』でいいんだ。『他人』よりも近い、終わりの無い『家族』
その結果、今も新八はここに居る。
少しぎくしゃくしたけれど、それまでの様に接してくれるようになった。
暖かい世界、変わらないオマエの笑顔。
あぁ、やっぱりあの時の俺の決断は間違ってなかった。
そう思って、再び赤飯を炊く用意をする。
アレから年月は過ぎ、新八は嫁さんを貰うことになった。
「一番に銀さんに紹介したくて」
そう言って連れて来た嫁さん候補は、中々愛らしい娘さんだった。
でも、やっぱり恥ずかしそうに頬を赤らめて笑う新八の方が可愛い。
そう思うのも仕方ない、だって俺は『家族』なのだ。
『家族』だから、赤飯も炊くのだ。
だけど、何故だろう。
さっきから涙が止まらないし、
赤飯に関係ない、包丁ばかり手にしてしまうのは。
************************
もう少しだけ続きますι
僕は銀さんが好きだ。
最初はそんな事に気付きはしなかった。
・・・いや、どこかで逃げてたんだ。
自分の気持ちから。
『僕とアンタの事情』
だってずっと一緒に居ると言ったんだ。
家族だと思ってくれ、と言ったんだ。
今更それが恋愛感情だなんて、言える訳がない。
だって僕も銀さんも男同士。
銀さんの答えなんて決まってる。
そしたら、もう一緒になんて居られない。
それだけは、絶対にイヤだった。
けれど、気持ちはどんどん大きくなっていって。
押さえ込むのもキツクなって来て。
言わないと・・・告げないと、そう思ってきたのに。
銀さんが優しく触れたりするから。
ふわりと柔らかい笑顔を向けてくれたりするから。
だから一昨日、とうとう僕の気持ちは溢れ出してしまい、
その気持ちは言葉となって銀さんの元へと飛び出してしまった。
「好きです」
そう告げた後の銀さんの行動は、予想通りのものだった。
一瞬目を見開いて驚き、次に視線を逸らせる。
知ってますか?アンタ、困ると頭の後ろを無意識に掻くって事。
表情は何時もと変わらなくても、その態度で困りきってる事が判る。
そして告げられた言葉がコレ。
「ま、思春期にはそういう勘違いする時期もあらぁな」
あ、大丈夫、銀さんはちゃんと家族的に好きだから。そう言って背を向け、
その後銀さんは夜になっても帰って来なかった。
・・・多分これが大人の態度なんだろう。
銀さんにしては、偉いと思う。
けど、振られたことに関係ないし、大人は大人でも、
卑怯な大人の態度だと思ってしまう。
だって僕の真剣で、それはもう気付いた時にはご先祖様にまで心の中で
謝り倒したぐらいの覚悟と、知らない間に涙が出て来てしまうほどの
想いは、すっぱり勘違いと言う事にされてしまったのだ。
切ない、切な過ぎる。
でも銀さんの気持ちもなんとなく判る。
だって助手である僕に、突然告白されたのだ。
女の子ならまだしも、男の、一回りも離れた子供に。
それは・・・なかった事にしたいだろう。
勘違いと言う事にしておいて欲しいだろう。
でも・・・認めて欲しかった。
僕が、銀さんを、勘違いではなく、ちゃんと好きだと言う事を。
僕だって最初は在り得ないと思ったさ。
それまで男の人にそんな事を思ったことなんかなかったし、
普通に可愛い女の子が好きなのだ。
それがなんでまた、死んだような目をしたマダオを好きにならなきゃ
いけないんだ。
給料だって定期的には貰えないし、暇さえあれば糖分摂取しようとする
糖尿予備軍だ。
お金ないのにパチンコに行くし、弱いくせに酒飲みだし。
僕より年上で、体もゴツクて。
・・・けれど、銀さんがいいと思ってしまったのだ。
口ではなんと言っても、困っている人を見捨てて置けない人。
他人の為に傷を負う事を躊躇しない人。
心の中に、折れることの無いまっすぐなモノを持っている人。
そんな愛すべき、マダオを。
で、現在僕は万事屋の前に居る。
別に改めて告白しに来た訳ではない。
勘違いなんかじゃない、認めてくれ、と言いに来た訳でもない。
これ以上傷口を広げたい訳でも、勿論ない。
昨日は失恋した時のセオリー通り、泣き暮れてしまった。
と言うか、一昨日帰ってからすぐにだ。
よく泣く方だと自分でも自覚しているが、本当に凄かった。
それだけ銀さんの事が好きだったのだとまた自覚して、更に泣いた。
なので本当なら今日も休んでしまいたかった。
なかった事にされた僕の恋を、もう少し悲しんでいたかった。
けれど我が家には、そう言う訳にもいかない事情があって。
姉上の手前、今日も家に居る・・・と言う事は出来ない。
だって理由を聞かれたら、どうしようもない。
言ったら言ったで、引き篭る以外何も出来ない状態にされそうだし。
昨日だってギリギリの所で交わしていたのだ。
かと言って、家と万事屋意外に行く所もない。
・・・一体どんな顔で銀さんと会えばいいんだろう。
多分銀さんは変わらない態度で接してくれると思う。
だって、なかった事にしたんだからね!
これで気まずい雰囲気を出しやがったら、大人としてどうかと思う。
最後まで徹してこそ、大人と言うものだ。
でも、僕は会いたくない。
だって子供ですからね!
おまけに目が腫れてるしね!
思春期だそうですから?それぐらい思っちゃうのは当然でしょ?
あ~、いっその事居なきゃいいのに。
・・・なんてね。それはそれで悲しいものがある。
だって、なかった事にされた僕のこの気持ちは、今もこうして
僕の中に確かに存在しているのだから。
でも、何時までもここでこうしている訳にも行かない。
一つ大きく息を吐き、覚悟を決めて玄関へと手を掛けた。
そして勢い良く開けてみると・・・
「・・・何してんですか、アンタ」
何故か玄関で土下座している銀さんが居た。
・・・大人って何考えてんだか、やっぱ判らない。
でも最悪だと言う事は、よく判った。
*************************
ちょっと長くなりそうなので、分けます。
春雨の船からの帰り、我が侭なお子様達から無茶な要望があった。
本当、オマエ等ナニ考えてんの?
銀さん、滅茶苦茶ボロボロなんですけど!?
なのでその要望に答えず、さっさと歩き出したのだが、後ろに居る
お子様達は我関せず。
・・・本当にさ~、もうさ~。
いいよ!もう来いよ!!来たらいいさ!!!
そう自棄になって言ったら、お子様達は元気に駆けて来て
そのまま飛びつかれた。
・・・オマエ等元気じゃん。
無駄に元気じゃん、ソレ!!
本当にな~、銀さんボロボロなんだからな!
寧ろ銀さんを負ぶってって欲しいぐらいなんだかんな!!
そうぼやいたら、ニコニコ笑顔のお子様達は、
「じゃあ、いつかこのお返しをしてあげますね」
「銀ちゃんぐらい、軽~く抱えて全力疾走してやるヨ!」
とのお言葉をくれた。
・・・馬鹿だな~、オマエ等。
はいはい、期待してますよ~。と軽く答え、背負っている新八と抱えてる
神楽をヨイショとばかりに抱え直す。
その態度が気に入らなかったのか、お子様達は笑顔を消して頬を膨らませた。
信じてないだのなんだの・・・
本当、馬鹿な、オマエ等。信じてるよそんなモン。
だけどな、そんなのはまだまだ先の話だ。
今はまだ、俺が背負っていくんだよ、オマエ等を。
ずっと、ず~っと。それこそオマエ等が恥ずかしがったって知るもんか。
無理矢理だって、背負い続けてやる。
だってよ・・・
「あ~、本当重い」
呟いて空を見上げる。
その呟きにも文句が出たけど、知るもんか。
だってよ、俺も知らなかったんだよ。
こんな重いモンが、こんなに幸せなもんだってよ。
本当良かった。
この重みを失わなくて、本当に良かった。
体にかかる重みに、涙が出そうだ。
なんだ、コレ。
俺、どっちかってーとSなんだけど。
M要素もあったってか?
体、痛ぇのによ。
ボロボロなのによ。
嬉しいんだよ、オマエ等の重さが。
こうなったら、もう誰にも渡さねぇ。
勿論オマエ等にも渡さねぇ。
頼むから、この幸せの重みを
もう暫く俺に味合わせといてくれ。
これは、大人からの切なる要望。
夕陽が沈む中、銀時は新八は並んで歩いていた。
話す事は、くだらないものばかり。
朝から近藤さんがやって来て、寝不足の妙が
何時にもまして容赦なかっただの。
パチンコに行ったら、長谷川が出てきて死相を浮かべてただの。
まさかまた負けてきたのか、コノヤロー。だの。
そんな話題でも、二人の手は繋がれていて、
長く伸びる影が、その後を着いていった。
そしてそろそろ人気の無い川沿いの道も終わろうとした所。
さすがに街中まで手を繋いだままと言うのは恥ずかしいかな・・・
と新八が思った時、不意に銀時が立ち止まった。
不思議に思い見上げると、銀時は緩やかに口元を上げ、
「時に新八君、空いてる手の役割はまだ決まってねぇよな?」
と聞いてきた。
紙袋は銀時が抱えているし、手を繋いでいない方の新八の手は
只今手ぶら絶賛中だ。
新八はその手にチラッと視線を落とし、次に銀時を見た。
「えぇ、まぁこの通りこっちの手は暇ですけど・・・あ、荷物変わります?」
「それはダァメ!そしたら銀さんの手が暇になっちゃうでしょ」
この役割は渡しません~。等と、常ならば絶対言わないような
台詞を口に出す銀時。
・・・その積極性を常日頃も出せよ。
そう思いながらも、じゃあ何か他の役割あるんですか?と聞くと、
笑ったまま銀時は少し離れた先の川べりへと視線を送った。
それにつられて新八も視線を送れば、其処にはやはり見慣れた
桃色の髪と白く大きな塊が、道へと上がってくる所であった。
どうやら遊びの帰りらしく、少し汚れている。
「この状態も最高なんだけどね~。子供を迎えに行くのは
親の役目だとは思わねぇか?奥さんや」
「や、だから誰が子供で誰が奥さん?」
「じゃあDV娘を迎えに行く団地妻とそのイカス夫でいいや」
「いや、ますますよくないですからっ!何その無駄な設定!?」
「ほらほら、いいのか?神楽行っちまうぞ?」
「あ、本当だ。おーい、神楽ちゃ~ん!」
こちらに気付かず行ってしまいそうな後姿に、慌てて手を振って呼べば
隣に居た定春と共に神楽が振り返り、一目散に新八達の下へとやって来た。
「二人して何してるネ?」
手を繋いでいる二人を訝しげに見やる神楽に、新八と銀時は少し笑い、
「万事屋に行こうとしたら、丁度そこで会ってね。帰るトコなんだけど・・」
「困った事に新八の手が一つ余ってんだよ」
ホラ。と言って銀時は抱えていた紙袋と繋いだ手を軽く上げた。
「なんかバランス悪くね?」
「何かいい案、ないかな?」
新八はそう言うと空いてる手をプラプラと振った。
それを見て神楽は首を傾げたが、次の瞬間満面の笑みを浮かべた。
「仕方ない男共アル。丁度私の片手も空いてるから繋いであげてもいいネ」
「お、なんだなんだ、その態度は。あ、いいよ神楽。
新八、仕方ないから空いてる手で銀さんに抱きつけ」
「えぇ!やですよ、そんなの」
「あ、何それ。銀さん泣くよ?」
「泣き叫べばいいネ!第一それじゃ歩き辛いヨ!!ほら新八、早く早く!!」
「はいはい・・・って痛っ!神楽ちゃん、
そんな強く握らなくても大丈夫だから!」
「あ~、もう銀さんショックだよ。ハートブレイクだよ。
これじゃお手伝いできないよ。ってコトで夕飯よろしく、新八」
「大丈夫ですよ、銀さんは直ぐに立ち直れる強い子だと信じてます」
「今日の夕飯は新八が作るアルカ!?キャホゥゥゥゥ!!」
定春に向かって、傘を片手に飛び跳ねる神楽。
その動きに手を取られ、よろける新八。
それを支える銀時の手。
しっかりと握ったその反対側の手には野菜の入った紙袋。
それぞれにきっちりと役割を持った手は、固く繋がれ、
既に沈みきった夕陽を背に、楽しく揺れていた。
*************************
お題『夕陽』のおまけみたいなモノ。
夕陽の暮れる中、手を繋いだ親子連れとすれ違った。
それはとても楽しそうで、一人で歩いている新八に、少しの笑みと
寂しさを運んでくる。
目を向ければそこには見事なまでの夕陽。
新八の足が、ほんの少しだけ速まった。
『夕陽』
まさかこんな所で会うとは思ってなかった新八は、歩んでいた
足を一瞬止めてしまう。
そしてまだこちらに気付かず、反対側から歩いてくる銀時を見詰めた。
場所は賑やかさから少し離れた川べりの道。
見られてるとは知らない銀時は、何時もの何を考えているか
判らない顔で、川の向こうに沈んでいく夕陽を見ながら
ガシガシと頭を掻き、ゆっくりと歩いていた。
その姿は、夕陽の赤に染められて。
何時も見慣れてる筈の銀髪さえも赤く染まっていて。
まるで知らない人の様で、少しだけ新八の心をざわめかせた。
思わず声を掛けようとした所で、不意に銀時の視線がこちらを向き、
新八の視線と重なる。
瞬間、丸くなる目。
そして、微かだが銀時の口元が緩やかに上げられるのを新八は見た。
「銀さん!」
思わず駆け出し、銀時の元へと急ぐ。
それを銀時は立ち止まって待っていた。
「こんなトコでどしたよ、新八」
オマエ、今日休みだったろ。そう言って、走って来た為
少し乱れた新八の髪を手で簡単に直しながら、銀時が問い掛けた。
「そうなんですけど、近所の方からお裾分け貰ったんで」
頭を撫でる手に少し首を竦めながら、新八は抱えていた紙袋を見せた。
中には、少し形は歪だが、立派な野菜類が入っていた。
「お裾分けのお裾分けです」
「お!でかした、新八!!」
笑って言う新八の頭を、今度はかき回す様に撫でる銀時に、新八は
やめて下さいよ~!!と叫びながら、そこから逃げたした。
「いいじゃねぇか、少しぐらい乱れたってすぐ直る癖によ、コノヤロー」
「そう言う問題じゃないでしょ!も~、両手塞がってるのに・・」
抱えている紙袋の中身がかさばる物だけに、片手を離すと心もとない。
頭を振って、なんとか直そうとする新八に、銀時の手が伸ばされる。
「振れば直るアジアンビューティー気取りですか、えぇ!?」
そう言って再び簡単に新八の髪を直すと、そのまま抱えていた紙袋を
取り上げた。
その紙袋と共に、顔を上げる新八。
「で?このお裾分けのお裾分けは明日のご飯予定?それとも本日?」
その視線の先で、銀時がニンマリと笑ってそう問い掛けた。
「あ~、そう言えば今日はまだ野菜摂取してねーなー。
でも今から料理するの、たるいな~、銀さん疲れてるし」
新八が両手で抱えていた紙袋を片手で持ち、視線を逸らして空々しく
そんな事をボヤく銀時に、新八は小さく噴出した。
「勿論、今日の分ですよ。ちなみに神楽ちゃんが暴れだすと困るんで、
銀さんにも手伝ってもらう予定です」
「マジでか!?あ~もう、ウチの奥さんは人使いが荒いね~」
「誰が奥さんですか!ホラ、さっさと行きますよ」
そう言って銀時の背を押し、万事屋へと二人で足を向ける。
と、銀時が ちょっと待て。 と言って無理矢理足を止めた。
「なんですか、銀さん」
「ん~、あ~ホラ、それも銀さん楽でいいけどよ」
銀時はそう言うと、紙袋を改めて片手で抱えなおし、空いてる方の手を
プラプラと振った。
その行動に、新八は訳が判らず首を傾げる。
「銀さんな、片手で荷物持てるし。すると片手が空く訳ですよ、新八君」
「・・・それは両手で抱えてきた僕への嫌味ですか」
「ちげっ~て!だからな、暇してるこの手にも、
何か役割を与えて欲しいんですけど?」
いい考えがありませんか?等と、真面目な顔で言う銀時に、新八は暫し
目を瞬かせ、次いで顔一杯に笑みを零した。
「それなら丁度僕の両手も、なんの役割もなくて空いてるんですけど?」
「お、そりゃ奇遇だな。じゃ、丁度いいからよ」
「ですね」
そう言って笑合い、空いてる手を繋いで歩き出した。
隣を見れば、あの何を考えているか判らない表情ではなく、どこか
嬉しそうな表情の銀時。
きっと自分はあのもうすぐ沈む夕陽にも負けないぐらい、
赤くなっているのだろうけど、それでもこんな暖かい温度と、
その表情が得られるなら、それでもいいや。
それにどうせもうすぐ日も沈んで、判らなくなるだろうし。
そう思い、新八は握っている手に少しだけ力を込めた。
それに気付いた銀時が、 ん? と問い掛けるような表情でこちらを
見てきたので、先程思った疑問を聞いてみた。
「そう言えば銀さんは何してたんですか?」
「ん?いや、まぁ・・・なんとなく・・な。仕事もなかったし・・」
つまんなくてよ。そう言う銀時に、
いつもはダラダラ寝て過ごしてんじゃないですか。と答えると、
「だって今日はオマエがいなかっただろ」
何か居心地悪ぃのな。
と、まるで自分がアソコに居る事が当たり前
の事であるかのように、告げられた。
・・・どうしよう、これ、きっと夕陽が沈んでも
判るぐらい赤いままだよ、僕の顔。
****************************
[銀新十題]さまからお借りしました。