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俺は今、台所で格闘中だ。
理由は簡単、赤飯を炊くのだ。
新八の為に
『僕とアンタの事情 2』
思えばアイツは最初から目の離せないヤツだった。
不器用なダメガネかと思えば、いやいやどうして。
心に一本、まだ細いながらも確りとしたモノを持っていた。
そして半ば無理矢理ウチの助手に納まり、働き始めた。
これがまた、呆気に取られるほどの働き者。
万事屋の仕事なんかないってのに、それならば・・・と家の事を
しだした。
それまでも、一応人並みの事はやってはいたのだが、新八は違う。
妥協と言う言葉を知らないのかって程の働きっぷりだ。
おまけにソレを俺にまで求めてくる。
読み終わった本は片付けろ。
洗濯物は籠に入れろ。
おまけに、帰ってきたら『ただいま』で、食べる前は『いただきます』だ。
それまで一人でやってきただけに、中々ウザイものがあった。
・・・けれど、どこかくすぐったい暖かさもあって。
大体直ぐに辞めると思ったんだよ。
そんな几帳面なヤツが、俺について来る筈がない。
だって給料もまともに払わない。
起こされなければ昼まで眠っているような俺だ。
なのに、アイツは最後には 仕方ないですね って許してくれるんだよ。
どんなに勝手に歩いても、一生懸命追っかけてきてくれるんだよ。
・・・もうさ、オマエおっさんをどうする気よ?
もう荷物なんて持たないって、大切なモン、作らないって
決めてたんだぜ?
なのにさ、
暗い夜道帰ってきて、明かりがついてる自分んちを見た気持ち、判るか?
いつの間にか自然と口にしていた『ただいま』の言葉。
それに当然の様に返ってくる、オマエの『お帰りなさい』の言葉。
判るか?それがどんなにこっ恥ずかしくて嬉しかったか。
俺に無条件で笑顔をくれて、本気で心配して怒ってくれて。
オマエと会ってから、俺のそれまでの世界が一気に晴れた気がして
・・・気が付けばどうしようもなく惚れていた。
でも俺は男な訳で。
おまけに大人な訳で。
子供なオマエにそんな事を告げれる訳がねぇんだよ。
だってそんな事言ったら、オマエ俺から離れるだろ?
今まで通りの笑顔を向けてくれないだろ?
例えうまくいったとしても、その先にあるだろうナニかを
知ってるぐらいには大人なんだよ、俺。
そんなの絶対イヤだ。耐えらねぇよ。
でも普通の上司と助手ってのだけじゃイヤだ。
そんな絆、脆過ぎるだろ。もっとどうしようもなく頑丈なモンが欲しい。
だからオマエが『家族と思ってくれていい』って言ってくれた時、
コレだ!と思ったね。
だってよ、家族だったらもう離れねぇだろ?
別れの時なんて、来ないだろ?
なら、それでいい。
・・・それが、いい。
そう思ってたのに、行き成り新八は俺に『好きだ』と告げてきた。
本当、オマエ銀さんをどうしたいのよ。
俺はヤダよ。嬉しいけど、本当に本当にすっげー嬉しかったけど。
でもそれでどうなんよ?
オマエまだ若いじゃん。十代じゃん。
この先色んなヤツに会うだろ?んで、俺より好きなヤツが出来たら
それで終わりじゃんか。
『家族』に終わりはねぇけど、『恋人』には終わりがあるんだぜ?
オマエにそんな事言ったら、『そんな事ない』って言うだろうけど、
先の事なんて誰にも判んねぇだろ。
現に俺だって、こうしてオマエと会えたんだ。
会って、色んなもんが変わっていったんだ。
だから、俺は新八に告げた。その気持ちは勘違いなのだと。
始まらなければ、終わりも無い。
『恋人』にならなきゃ『家族』のままだ。
でも、さすがに言った俺も辛くて。
まるで自分の気持ちも否定してるみたいで、キツくて。
新八を残して出て行った後、少し泣いたのだけれど。
本当ならあの時、新八の気持ちを受け入れてしまいたかった。
例え本当に新八の気持ちが勘違いであっても、
自分のモノにしてしまいたかった。
でも、その後に来るだろう『終わり』が怖かった。
だって一度手にしたら、もう二度と離せない。
そんな事になったら、新八共々この暖かな世界を壊してしまいそうだ。
・・・こんなに好きなのに。
『家族』でいいんだ。『他人』よりも近い、終わりの無い『家族』
その結果、今も新八はここに居る。
少しぎくしゃくしたけれど、それまでの様に接してくれるようになった。
暖かい世界、変わらないオマエの笑顔。
あぁ、やっぱりあの時の俺の決断は間違ってなかった。
そう思って、再び赤飯を炊く用意をする。
アレから年月は過ぎ、新八は嫁さんを貰うことになった。
「一番に銀さんに紹介したくて」
そう言って連れて来た嫁さん候補は、中々愛らしい娘さんだった。
でも、やっぱり恥ずかしそうに頬を赤らめて笑う新八の方が可愛い。
そう思うのも仕方ない、だって俺は『家族』なのだ。
『家族』だから、赤飯も炊くのだ。
だけど、何故だろう。
さっきから涙が止まらないし、
赤飯に関係ない、包丁ばかり手にしてしまうのは。
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もう少しだけ続きますι