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本日も仕事がないまま一日が終わった万事屋。
台所では、明日の朝食の仕込みをしている新八、神楽は遊びつかれて
既に夢の中。
そして万事屋の主である銀時は、一日の締めとばかりに、のんびり風呂に
入っていた。
成分品質
「おーい、新八~」
風呂場から呼ぶ声に、新八が濡れた手を拭きつつ行ってみると、
そこには浴室の扉からボトルをカラカラと振っている銀時の手があった。
「なんですか?」
聞いてみると扉が開き、いつも無造作に跳ね回っている髪がしっとりと
濡れ、幾分落ち着いて見える銀時の姿が現れた。
「・・・人を呼ぶなら股間隠せよ」
「うるせー。風呂ってのは寛ぐべき場所だ。所謂フリーダムポインツだ。
銀さんの息子も解放してやらんでどうするよ、えぇ!?
寧ろ新ちゃんの目の前で曝け出せなくてドコで曝け出すのよ」
「ムカツクな~、その無駄な英語。」
「え!?そこ?ツッコミポインツはそこだけ!?」
「あ~特に『ツ』がムカツク。で、なんですか?」
あくまで白け気味に銀時の言葉を無視する新八に、愛が見えねえ・・・
と項垂れる銀時であったが、とりあえずこのままだと寒いので
話を進める事にした。
「コレだよコレ。もう無いんだけどさ~、新しいの持ってきてくれない?」
と、先程振っていたボトルを新八に渡す。
「あ、もう無かったですか?」
「あぁ。しかし珍しいよな、オマエが気付かなかったなんて」
そう言って銀時はニヤニヤと頬を綻ばす。
いつだってそろそろ無くなるな~と思っていると、新八が新しく
詰め替えてくれていたのだが、今回はうっかりしていた様だ。
ま、そのうっかりさんなトコも可愛いんだけどね~。
等と思っていると、目の前の新八がすまなそうな表情を銀時に向けた。
「何、どうした?」
「すみません、銀さん。その詰め替え用の今切らしちゃってて」
「マジでか!?おいおいぱっつぁんよ~、しっかりしてくれよ~。
銀さんアレだよ?コレじゃないと髪がしっくりこねーんだよ?
どーすんだよ、明日銀さんの髪、
無造作通り越してフリーダムよ?」
先程の新八の態度への仕返しとばかりに言い募る銀時。
新八は申し訳なさそうに項垂れていく。
「すみません」
「どうすっかな~、シャンプーだけじゃゴワゴワになるしな~・・・
あ、そうだ新八、今日泊まってって明日朝一で銀さんの髪・・・」
序とばかりによからぬ気配丸出しでそう言い出す銀時に、新八は
あっ!と顔を上げると、
「丁度いいのがあります!今日はコレ使って下さい」
そう言って大きく、重そうなボトルをドンッ!とばかりに銀時の目の前に
差し出した。
「・・・えっと・・・新ちゃん?コレは・・・」
「見ての通り、柔軟剤です」
「え?ちょっと待って。銀さん言い方が悪かったかな?俺が欲しいのは・・」
「大丈夫です。きっともんの凄くフワフワに仕上がりますよ!」
「いやいやいや、そこまで仕上がらなくてもいいから。
寧ろ収めて欲しい方だから、銀さん」
ニコニコと笑顔でそう告げてくる新八に、銀時は力いっぱい頭を振って
断ろうとするが、どんどん柔軟剤は銀時の元へと押されてくる。
「ちょっ!新八!!オマエ本当にっ・・・」
「本当は今日、買出しに行こうとしたんです、
詰め替え用とかなかったですし。」
「え!?なら・・・」
「でも繕い物が溜まってて、行けなかったんです。
他にもあるかな~って、夏物の方まで手を出したのが拙かったですね」
ニッコリと笑ってそう言う新八に押し返そうとしていた銀時の手が、
ピタリと止まる。
「あ・・・あの、新ちゃん?もしかして一番上の棚も・・・」
あそこには大切な糖分が・・・
泣きそうになりつつ、恐る恐る新八の顔を見てみれば、そこには確かな笑顔。
何時もならその笑顔に癒されるのだが、今ばかりは魘されそうだ。
「はい、しっかりばっちり。隅から隅まで確認させて頂きました。」
・・・寒気がするのは、きっと湯冷めしたからではない。
いい笑顔のままの新八に、銀時はもう二度と会えないであろう、
隠していた糖分を思って肩を落とした。
そんな銀時の肩に、新八はそっと手を添える。
「あ、冷たい!このままじゃ湯冷めしちゃいますよ。
風邪引く前にソレで髪を洗って下さい」
ゴワゴワ、イヤなんですよね。そう言って銀時に柔軟剤のボトルを握らせ、
その場から立ち去った新八は、最後までいい笑顔だった。
そんな次の日。
「ね~、銀ちゃん。今日はどうしてそんなにホワホワしてるネ?」
何時にもまして髪の毛が凄い事になっている銀時の姿があった。
その髪の毛を、面白そうに神楽が手で遊んでいる。
楽しそうな神楽とは裏腹に、銀時の肩は下がりっぱなしだ。
「それはね・・・銀さんの髪の毛の半分が優しさで出来てるからだよ」
「もう半分はなにアルカ?」
「それはね・・・後悔というものだよコンチキショー」
それでも、次の隠し場所を考えている銀時は、何度と無く髪の毛の半分を
後悔で埋め尽くすのであった。
夕食も食べ終わった万事屋の一室。
そんな中、新八一人が真剣にテレビの画面を見詰めていた。
どうやら音楽番組であるらしく、新八が親衛隊を勤めている
お通が出ているらしい。
その姿は真剣を通り越して、何か鬼気迫るものを感じる。
その為か、普段なら騒がしいさの原因でもある銀時と神楽
はお喋りもせず、それぞれが静かに好きな事をやっていた。
が、そのお通の歌が始まった途端、神楽がふと顔を上げ、
先程から新八が見入っている画面へと視線を向ける。
そして、歌に耳を傾け、暫くしてコテンと首を傾げた。
その行動を見ていた銀時も不思議そうに首を捻る。
何か気になる事でもあったのか。
ま、大体にして彼女の歌は不思議なトコだらけだ。
と言うか、子供に聞かれたら親が答えにくい歌詞ばかりだ。
以前新八が掃除をしながらそれを口ずさんでいた為、
ちょっと泣きそうになった。
で、思わず説教したら、お通ちゃんの歌のドコが悪いっ!!!
と逆切れされた。
別に彼女の歌が悪いとは言ってない。
ただ歌詞が問題だ。
おまけにそれが新八の可愛い口から出されると、銀さんの心臓に
かなり悪いんだっつーの。
恋する男のピュアハートを判ってくれ、ぱっつぁん。
そう訴えたら、凄く不思議そうな顔をした。
・・・あれだ。多分ヤツも意味を判ってない。
なので、今でも新八は時折お通の歌を口ずさむ。
・・・いいさ、臆病者と罵れよ。罵ればいいさ!
でもな~、あの目でそれらの歌詞の意味を聞かれてみ?
どんな羞恥プレイよ、ソレ!!
無理無理無理、銀さん、そこんトコはマジで中二ハートだから!!
つらつらと銀時が過去の出来事を思い出している内に、番組は終わったらしく
神楽が新八の袖をチョイチョイと引っ張る。
「ね~、新八ぃ~」
それに気付いた新八が、上気した頬をそのままに、神楽の方へと
視線を向けた。
「なに?神楽ちゃん」
「今のお通の歌、新八が歌ってたのと歌詞が同じだったアル」
なんで?と首を傾げる神楽に、新八は あぁ と頷き、
「今度のはライブで前から歌ってたのだからね、僕もう覚えてるんだ」
「でも本当に歌詞だけだったヨ。これってアレか?発売する時に
曲調変えたアルか?そうやってTW○-MIXして金儲けアルか?」
「神楽、それremixな」
「オイィィィィ!!お通ちゃんはそんな阿漕な事しません!!
って言うかアレか!?音痴ってか!!?音痴って言いたいのかぁぁ!!」
「希望を持つネ、新八」
「そんな生温い優しさはいらねぇぇっ!
いいでしょ、別に迷惑掛けてないんだし」
歌は楽しく歌う事が大切なんです。そう言いながらも、
ちょっと口を尖らせる新八の膝の上に、神楽がゴロンと寝転がる。
「うん、だから別にいいネ」
転がり込んで来た神楽に、新八は拗ねていた表情を訝しげなものへと変える。
「私、今の歌より新八の歌の方が好きネ、だからこれからも
思う存分歌うヨロシ」
ね、銀ちゃん。そう言って笑う神楽に、銀時も答える。
「ま、新八の歌の方が愛嬌があるわな」
「・・・なんですか、それ」
「あ、新八。顔が真っ赤ネ」
「う、煩いな~、もう!!」
そう言って新八は、赤い頬をそのままに、膝にある神楽の頭を
グシャグシャと掻き混ぜる。
なんだヨ、コノヤロー。と言いつつ、神楽も新八の横腹に手をやり、
反撃を開始し始めた。
楽しそうにジャレ合う二人に、銀時は苦笑を一つ零し、
ま、どんな歌詞だろうが、あの歌声が聞けなくなるのは寂しいわな。
もう少し頑張って耐え抜くか、マイピュアハート。とエールを送りながら、
目の前のジャレ合いに参戦すべく、腰を上げるのだった。
「って言うか、今度こそソフトな言い回しの歌詞にしてくんねーかな~。
あ、でも駄目だな。銀さんの優秀過ぎる妄想脳が勝手に変換しちまうから」
そんな銀時の願い虚しく、万事屋には音程の外れた過激な歌が、
今日も楽しげに流れている。
器用モノの不器用さ
「銀さんって器用ですね~」
台所の棚がグラグラしてきた、と言うので直した所、新八に
キラキラした目で見られた。
・・・いや、錯覚とかじゃないから。
銀さん、まだ目はいいから。
序にお頭も可哀想な事になってないから。
何処かの誰か(多分蔑ろにされている一部の自分だ)に説明しながら、
ちらっと横目で新八を見る。
・・・うん、やっぱり間違いない。
だってあんなに歓心した表情で棚を見てるじゃねーか。
どうよ、銀さん、凄いでしょ。
だから労働のご褒美にちゅーの一つや二つかましてくれても
いいと思うよ?
・・・アレ?なんでかな、急にキラキラがなくなったよ?
おかしいな、新八君。こっちも見てくれなくなったよ?
じゃあ、それは夜にでも取っておいてあげるから、その代わり糖をよこせ。
・・・アレ?今の聞こえてなかった?
なんか新八君、サカサカ降ろしてた物を棚に戻し始めたよ?
そん中に糖分に当たるモノ、あったよね?
おーい、新八君の愛しの銀さんが何か訴えてますよ~。
「本当、銀さんってなんでも無駄に器用ですよね~」
・・・スルーかよ、ぱっつぁん。
しかもなんかさっきと似た言葉だけど、微妙に棘があるように
思えるのは、銀さんの思い違いかな?かな?
「僕だとこうはいかないんですよね」
ってそれも無視かよっ!!何、この仕打ち!
労働の報酬は愛ある精神的攻撃ですか!!
違うから、銀さんMじゃなくてSだから!!
「僕も銀さん・・・とまではいかなくても、もう少し器用だったらな~」
そう言ってしみじみと銀時が直した棚を見上げ、次に今日の昼飯の支度
へと取り掛かる新八。
それをしゃがみ込んでいじけていた銀時が見上げる。
「別に、オマエはそのままでいいんじゃね?」
「そうですか?でも器用な方がいいじゃないですか」
あ、今度は答えがあった。
なんですか、新八君。キミは銀さんからのラブトークは一切遮断出来る
機能でも付いてんですか。
・・・器用過ぎるだろう、それは。
ま、いいけどね。確かに俺は器用だし。
お陰で器用に殺して、器用に生き抜いてきたしね。
今では器用に折り合いつけて、ダラダラ生きてますってなもんさ。
だけどな、やっぱり何処かで折り合い付けれてねーもんもあって。
不器用にも生き足掻いてる部分もあんのよ。
馬鹿だとは思うけどな。
持ち前の器用さで誤魔化しとけばいいのにとも思うけどな。
でも失いたくは無い・・・と思ったりもしてんのね。
だからか知らねーけど、オマエの不器用な手がスッゲー好き。
その手で造られる、たまに煮崩れしている煮物が好き。
不器用ながらも一生懸命繕ってくれるその表情が好き。
背ければ楽なのに、それをしない不器用な視線が好き。
曲げない、折れないその心が好き。
だからな?
「別に銀さんが居るから不便じゃねーだろ、不器用でもよ」
不器用なまま、そのままのオマエでいて欲しい。
そう告げると、野菜を洗っていた新八の視線が漸くこちらを向く。
「それってやっぱ僕の事、不器用って思ってるんですね」
酷いな~。と言いつつも、新八は笑っていて。
そして濡れていた手を軽く布巾で拭くと、袂へと手をやり何かを取り出す。
そして取り出した小さな袋を破ると、その手を銀時の口元へと
持ってきた。
「はい、あーん」
「あーん?」
言われたとおり口を開けば、小さな塊を放り込まれ、銀時の口の中に
甘い味が広がった。
「棚、有難うございました」
目を丸くする銀時に、新八はそう言ってふんわりと笑った。
・・・やっぱオマエはそのまんまがいいよ。
十分、無駄に器用だよ、本当。
これ以上器用になんかなられたら、俺の心臓がいかれちまう。
それと誰か、この熱くなってきた頬の冷まし方を教えてくれ。
おれはそう言うトコは、器用に出来てないのよ、本当。
そろそろ日も落ちようとしている夕刻。
泣く子も更に号泣すると言われている真選組の沖田総悟は、
最早日常であるかの様に、本日も公園のベンチで惰眠を貪っていた。
怪我のおまけ
人をこ馬鹿にしたそのアイマスクの性か、それとも着ているその制服の性か、
誰も近づいてこないのを良い事に、呑気に眠っていたのだが、
不意に誰かの気配が近づいて来てるのを感じ、そっとアイマスクの下で
意識を浮上させる。
この気配は・・・?
まさかこの自分に近づいて来るなどと言う命知らずが居るとは・・・と、
寝ている振りをし、それでも何時でも動けるように・・・と身構えていると
「ぅわっ!本当に居たよ!!ちょっと沖田さん、起きてください!!!」
聞き覚えのある声が落ちてきた。その声にチラッとアイマスクを上げると、
そこには何やら怒ってるかのように腰に手を当てて立っている
一人の少年の姿が。
「なんでィ、仕事の邪魔をするもんじゃねーよ、新一君」
「名前ぐらい覚えろ~っ!!って言うか仕事してないでしょ、ソレ」
「いやですねィ、これも立派な仕事でさァ。睡眠学習に良く似た
睡眠職務ってヤツで良かったですかねィ」
「人に問い掛けるなァ!!そんな仕事があるなら、率先してウチの
マダオがやってます!」
「確かに。で、仕事の邪魔までして何か用ですかィ、新二君」
「・・・あくまで仕事と言い張るか、コノヤロー。
しかも名前違うし!態とですか!?態とですね!!?」
「被害妄想もその位にしときなせェ。一つずつ増えてんだから、
その内正解に辿り着きまさァ」
やっぱり態とか!!・・・と怒っている新八を尻目に、沖田は体を起こし
アイマスクを取る。
からかうのもいいが、日頃そんなに係わり合いの無いこの少年が
一体どんな用事で声を掛けてきたのかの方が気になったらしい。
「で、なんでさァ」
飄々と言う沖田に、新八も毒気を抜かれたのか一つ息を吐いて肩を落とすと、
漸くココまで来た用を話し出した。
「沖田さん、今日も神楽ちゃんと喧嘩しましたね」
「喧嘩?何言ってんでィ。喧嘩じゃなくて死闘でさァ」
「尚悪いわっ!!も~、言っときますけどね、神楽ちゃんは女の子なんですよ?
怪我なんかさせちゃ駄目でしょ!!」
まるで子供に言い聞かせるかのように説教を始める新八に、沖田は少しだけ
目を丸くする。
「アイツがそんな可愛らしいもんですかねィ、大体戦闘民族で・・・」
「で も 女 の 子 です!」
「・・・何千歩譲ってそうだとしても・・・」
「しかも沖田さんの方が 年 上 なんですよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
判ってんですか!と言う新八の異様な迫力に、沖田も次の言葉を出せない。
いや、アンタこそ判ってんですかィ。俺はあの真選組の隊長ですぜィ。
そんな自分に物怖じせず説教を食らわすなんて、近藤さんと土方さんぐらいな
もんだと思っていたんですがねィ。
呆然とそんな事を思っていると、新八はもう一つ、今度は大きく息を吐き、
沖田の座っているベンチへと手にしていた荷物を置くと、自分も
しゃがみこんだ。
そして置いた荷物を解き、沖田へと手を差し出す。
「・・・何でさァ」
新八の行動の意味が判らず、問い掛ける沖田に苦笑すると、
「怪我、沖田さんもしてるんでしょう?手当てしますから、出して下さい」
と、更に手を差し出された。
その言葉に、今度こそ大きく目を見開くが、直ぐにニヤリと口元を上げた。
「何言ってんでさァ、俺がチャイナ如きに怪我なんざする訳・・」
「神楽ちゃん、半殺し+αにしてやったネ!・・・って言ってましたよ。
それと、暫く起き上がれないネ!!・・・とも」
ま、神楽ちゃんも相当フラフラでしたけど。と言ってニッコリと微笑む新八。
「さっき、寝てましたよね、沖田さん」
・・・何故だろう、先ほどの怒っている形相よりも、その笑顔の方が
数倍恐ろしく見えるのは。
・・・・・・・・・・・流石あの姉さんの弟でィ。
ニコニコと恐ろしい笑顔を崩さず、手を差し伸べている新八に、
顔を背けながら渋々といった感で袖を捲り上げる沖田。
すかさずその腕を取り、うわぁ~、コレ絶対明日には凄い色になってますよ。
と言いつつ、治療を始める新八。
まるで自分も痛いかの様に表情を顰めている。
「こんなもん、どーって事ないでさァ」
職業柄、慣れてまさァ。と、その様子を見て、ポツリと沖田が呟くと、
治療していた筈の新八の手が、何言ってんの! と、パチリと腕を叩いた。
「っ!!」
「真選組だろうと何だろうと、痛いものは痛いんですよ。
あんま心配させないで下さい!」
ホラ、次!!そう言って、また別の場所を治療し始める新八。
それを物珍しそうに見ていた沖田だったが、ブツブツと文句を言いながらも、
案外優しく手当てしていくその様に、緩く口元が上がっていく。
俺はアノ真選組の隊長で。
喧嘩相手の少女は、アノ夜兎族で。
なのに目の前の少年は、物怖じせず説教をし、怪我を心配し、
こうして手当てまでしてくれている。
きっとあの少女も同じように怒られて、心配されて、手当てされたんだろう。
・・・地味なだけの眼鏡だと思ってたんですがねィ。なんか・・・
「判りましたか、もうこんな喧嘩しないで下さいよ!」
「いやいや、新三君。特技はツッコミと眼鏡だけだと思ってたんですが、
中々どうして、手当ても上手いもんですねィ」
「聞いてねーし!っつーか眼鏡特技じゃねーし!!
しかもまた間違った上に一つ増えてるし!!!」
「いつか当たりに近づきまさァ」
「今すぐ近づけ!って言うか新八ですから!!」
怒鳴る新八に、沖田は楽しそうに笑みを零すと、
「多分無理でさァ」
と、次の治療場所を差し出した。
喧嘩の後にこんな時間が過ごせるなら、
とうぶん止める事は出来ないだろう。
「無理!?それってどっちが?名前?それとも喧嘩!?」
叫ぶ新八に、とりあえずあまり心配させない程度にはしてやりまさァ。
と思う、沖田であった。
頼み込んで、半ば脅して雇ってもらえたその後、初めて貰ったのは
少し使い込んだヘルメットだった。
『ヘルメット』
「あの~・・・これは・・・」
ある日、万事屋へと出勤すると、銀時がホイッとヘルメットを投げてきた。
「あん?見りゃ~判んだろ。メットだよメット。ヘルメット~」
そう言って銀時は首を緩く廻した。
「何時までも俺の貸してやれねーしな。だからソレ。オマエ専用」
俺のお下がりで悪いけど。銀時の言葉に、新八は手にしたヘルメットに
視線を落とす。
「お下がり・・・」
「そ。それな~買ったはいいけど、なんかこう・・・
収まりが悪いっつーかよ。あ、違うぞ!?違うからな!?
天パーとかの性とかじゃ全然ねーからっ!!」
・・・いや、誰もそんな事言ってませんから。
そう思いつつも、じっと渡されたヘルメットを見詰める。
序にそっと撫でてみたりする。
そんな新八の行動に、銀時は眉を顰める。
「んだよ。別にどこも壊れてねーぞ。
って言うか銀さんの髪はヘルメットか貫通しませんからっ!
寧ろグラスハートの如き繊細さだからっ!!」
「誰もそんな事思ってねーわっ!!
どんだけその天パーが弱点なんすか、アンタはっ!!!」
って言うかそれだけ繊細な髪だったら、そんな天パーには
ならないだろう。・・・と言うツッコミは止めておく。
・・・が、未だ銀時はブツブツと文句なのか言い訳なのか
判らない言葉を吐き続けている。
別に羨ましくなんかない・・・だの。
サラサラ黒髪なヤローには判らない・・・だの。
だからそんなにキャラが弱い・・・だの。
・・・よし、明日から気合入れて髪の手入れをしよう、僕。
固く誓った所で、再びヘルメットに視線を落とす。
それを見て銀時が漸くぼやくのを止め、一つ息を落とす。
「んだよ、新品じゃなきゃイヤだってか?
ドコのボンボン様ですか、コノヤロー」
人が折角家捜しまでしたってのによ~。銀時のその言葉に、新八は
勢い良く顔を上げた。
「態々探してくれたんですか?」
「ん?あぁ、まあな。・・・ま、でもそんなにアレだったら
その内ちゃんと新しいの買ってやるから、それまで・・・」
「いいです!!」
我慢しろ・・・と続けようとした銀時の言葉を、新八が大きな声で止める。
その迫力に、銀時が目を丸くすると、新八はハッと我に返ったように
慌てて下を向いた。
そして手にしていたヘルメットをギュッと抱き締める。
「あの~・・・新ちゃん?」
「えっと・・・ごめんなさい。あの・・・僕姉上しか居なくって」
その挙動不審さに、銀時が思わず声を掛けると、新八は何やらモゴモゴと
説明し出した。
・・・って言うかヘルメットの話でなんで姉上!?
行き成りの話の方向転換に、首を傾げる銀時。
けれど新八の話には続きがあって。
「で、お下がりとかあんまなくって・・・あってもちょっと・・・
ってなのばかりで・・・だから、その・・・」
これがいいです。そう言う新八をちょっと覗けば、微かに見える
嬉しそうな表情と、赤い頬。
そんな新八に、銀時の頬もちょっと熱を帯びる。
「そっか~・・・なら、ま、いっか。銀さんも探した甲斐、あったわ」
声はあくまで普通に、けれど確実に今の自分はにやけているだろう事を
理解している銀時は、新八の頭に手を乗せ、こちらを見ないように
固定してグリグリと撫で回す。
「ついでによ~、名前でも書いとけや。
もうこれ以上お下がりにならねーだろ、ソレ」
そう言う銀時に、新八は 痛いです!・・・等と文句を言いながらも、
そこから逃げようとせず、
「はい!有難うございます、銀さん。」
と嬉しそうに銀時に告げた。
そして日々は過ぎ、貰った時よりもまた少し使い古されたそのヘルメットは、
薄くなる度に新八の名を刻まれ、今日も二番目の主が来るのを待っている。
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[銀新十題]さまからお借りしました。