[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
そろそろ日も落ちようとしている夕刻。
泣く子も更に号泣すると言われている真選組の沖田総悟は、
最早日常であるかの様に、本日も公園のベンチで惰眠を貪っていた。
怪我のおまけ
人をこ馬鹿にしたそのアイマスクの性か、それとも着ているその制服の性か、
誰も近づいてこないのを良い事に、呑気に眠っていたのだが、
不意に誰かの気配が近づいて来てるのを感じ、そっとアイマスクの下で
意識を浮上させる。
この気配は・・・?
まさかこの自分に近づいて来るなどと言う命知らずが居るとは・・・と、
寝ている振りをし、それでも何時でも動けるように・・・と身構えていると
「ぅわっ!本当に居たよ!!ちょっと沖田さん、起きてください!!!」
聞き覚えのある声が落ちてきた。その声にチラッとアイマスクを上げると、
そこには何やら怒ってるかのように腰に手を当てて立っている
一人の少年の姿が。
「なんでィ、仕事の邪魔をするもんじゃねーよ、新一君」
「名前ぐらい覚えろ~っ!!って言うか仕事してないでしょ、ソレ」
「いやですねィ、これも立派な仕事でさァ。睡眠学習に良く似た
睡眠職務ってヤツで良かったですかねィ」
「人に問い掛けるなァ!!そんな仕事があるなら、率先してウチの
マダオがやってます!」
「確かに。で、仕事の邪魔までして何か用ですかィ、新二君」
「・・・あくまで仕事と言い張るか、コノヤロー。
しかも名前違うし!態とですか!?態とですね!!?」
「被害妄想もその位にしときなせェ。一つずつ増えてんだから、
その内正解に辿り着きまさァ」
やっぱり態とか!!・・・と怒っている新八を尻目に、沖田は体を起こし
アイマスクを取る。
からかうのもいいが、日頃そんなに係わり合いの無いこの少年が
一体どんな用事で声を掛けてきたのかの方が気になったらしい。
「で、なんでさァ」
飄々と言う沖田に、新八も毒気を抜かれたのか一つ息を吐いて肩を落とすと、
漸くココまで来た用を話し出した。
「沖田さん、今日も神楽ちゃんと喧嘩しましたね」
「喧嘩?何言ってんでィ。喧嘩じゃなくて死闘でさァ」
「尚悪いわっ!!も~、言っときますけどね、神楽ちゃんは女の子なんですよ?
怪我なんかさせちゃ駄目でしょ!!」
まるで子供に言い聞かせるかのように説教を始める新八に、沖田は少しだけ
目を丸くする。
「アイツがそんな可愛らしいもんですかねィ、大体戦闘民族で・・・」
「で も 女 の 子 です!」
「・・・何千歩譲ってそうだとしても・・・」
「しかも沖田さんの方が 年 上 なんですよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
判ってんですか!と言う新八の異様な迫力に、沖田も次の言葉を出せない。
いや、アンタこそ判ってんですかィ。俺はあの真選組の隊長ですぜィ。
そんな自分に物怖じせず説教を食らわすなんて、近藤さんと土方さんぐらいな
もんだと思っていたんですがねィ。
呆然とそんな事を思っていると、新八はもう一つ、今度は大きく息を吐き、
沖田の座っているベンチへと手にしていた荷物を置くと、自分も
しゃがみこんだ。
そして置いた荷物を解き、沖田へと手を差し出す。
「・・・何でさァ」
新八の行動の意味が判らず、問い掛ける沖田に苦笑すると、
「怪我、沖田さんもしてるんでしょう?手当てしますから、出して下さい」
と、更に手を差し出された。
その言葉に、今度こそ大きく目を見開くが、直ぐにニヤリと口元を上げた。
「何言ってんでさァ、俺がチャイナ如きに怪我なんざする訳・・」
「神楽ちゃん、半殺し+αにしてやったネ!・・・って言ってましたよ。
それと、暫く起き上がれないネ!!・・・とも」
ま、神楽ちゃんも相当フラフラでしたけど。と言ってニッコリと微笑む新八。
「さっき、寝てましたよね、沖田さん」
・・・何故だろう、先ほどの怒っている形相よりも、その笑顔の方が
数倍恐ろしく見えるのは。
・・・・・・・・・・・流石あの姉さんの弟でィ。
ニコニコと恐ろしい笑顔を崩さず、手を差し伸べている新八に、
顔を背けながら渋々といった感で袖を捲り上げる沖田。
すかさずその腕を取り、うわぁ~、コレ絶対明日には凄い色になってますよ。
と言いつつ、治療を始める新八。
まるで自分も痛いかの様に表情を顰めている。
「こんなもん、どーって事ないでさァ」
職業柄、慣れてまさァ。と、その様子を見て、ポツリと沖田が呟くと、
治療していた筈の新八の手が、何言ってんの! と、パチリと腕を叩いた。
「っ!!」
「真選組だろうと何だろうと、痛いものは痛いんですよ。
あんま心配させないで下さい!」
ホラ、次!!そう言って、また別の場所を治療し始める新八。
それを物珍しそうに見ていた沖田だったが、ブツブツと文句を言いながらも、
案外優しく手当てしていくその様に、緩く口元が上がっていく。
俺はアノ真選組の隊長で。
喧嘩相手の少女は、アノ夜兎族で。
なのに目の前の少年は、物怖じせず説教をし、怪我を心配し、
こうして手当てまでしてくれている。
きっとあの少女も同じように怒られて、心配されて、手当てされたんだろう。
・・・地味なだけの眼鏡だと思ってたんですがねィ。なんか・・・
「判りましたか、もうこんな喧嘩しないで下さいよ!」
「いやいや、新三君。特技はツッコミと眼鏡だけだと思ってたんですが、
中々どうして、手当ても上手いもんですねィ」
「聞いてねーし!っつーか眼鏡特技じゃねーし!!
しかもまた間違った上に一つ増えてるし!!!」
「いつか当たりに近づきまさァ」
「今すぐ近づけ!って言うか新八ですから!!」
怒鳴る新八に、沖田は楽しそうに笑みを零すと、
「多分無理でさァ」
と、次の治療場所を差し出した。
喧嘩の後にこんな時間が過ごせるなら、
とうぶん止める事は出来ないだろう。
「無理!?それってどっちが?名前?それとも喧嘩!?」
叫ぶ新八に、とりあえずあまり心配させない程度にはしてやりまさァ。
と思う、沖田であった。