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ゆっくりと意識が浮上してくるのが判る。
そのままぼんやりと目を開ければ、赤く染まる天井が目に入った。
・・・あ~、もう夕方か。
本当、一日が過ぎるのは早いね。等と思いながら、ゆっくりと体を
ソファから起こす。
すると掛けられていた毛布がずるりと落ちた。
なんだこりゃ。
確か自分は寒さよりも眠気に負けて、ここで寝てしまった筈だ。
なのでこんなものを掛けて寝てる筈が無い。
と言うか、態々掛けて寝る程マメでもない。
ならばこれを掛けてくれたのは新八だろう。
落ちた毛布を掴み、苦笑が零れる。
ダラダラ寝てるな。仕事しろ。
普段そう言って自分に小言をぶつけて来るくせに、
こうやって甘やかしてもくるのだから、性質が悪い。
掴んだ毛布を片手に抱え、銀時はソファから立ち上がった。
そしてキョロリと部屋の中を見回す。
見ればもう一つのソファにも毛布が置いてあり、
そこで誰かが自分と同じように寝ていた事を教えていた。
んだよ、神楽も寝てたのか?
また夜になって眠れないとかほざくんじゃねぇだろうな。
それだけは勘弁してくれ。と思いつつも、その神楽の姿も見えない。
台所にも・・・いねぇな。音がしねぇ。
なら和室か?
銀時はゆっくりと毛布を抱えたまま和室へと足を向けた。
そして入り口近くまで来て、ぴたりと足を止める。
視線の先には、探していた新八の姿があった。
そしてその膝に頭を乗せ、寝転んでいる神楽の姿も。
どうやら洗濯物を畳んでいる途中に神楽が来たらしい。
新八の傍に、少しだけ畳まれた洗濯物が置かれていた。
そして洗濯物を畳んでいたであろうその手は、
今はゆっくりと神楽の頭を撫でていて。
小さい影が、俺の足元まで伸びていて。
瞬間、俺は一気に血が下がるのを感じた。
それと同時に湧き上がる、意味の判らない衝動。
泣きたくて、叫びだしたくて、逃げ出したくて。
でも傍に居たくて。
俺の脚は、無意識の内に一歩前に出てしまう。
頭では止めろと信号が発せられているのに、何故だか足は止まらない。
だが、その足も不意に向けられた新八の視線に、ピタリと止まる。
いや、寧ろギクリと体を強張らせた・・・と言った方が正しいか。
「あ、起きました?」
無言で立ち竦む銀時の姿に、一瞬驚いた新八だったが、
直ぐにふわりと微笑むと視線を膝の上の神楽へと戻した。
その事にホッと息を吐いた銀時は、ゆっくりと体の強張りを解くと
そのまま和室へと足を踏み入れた。
「全く、そんなに寝てよく夜も眠れますね」
そう言うも、新八の手は神楽の頭を撫でる事を止めない。
優しく、優しく。
やんわりと微笑みながら、その頭を撫で続けていた。
見れば神楽も気持ち良さそうに目を閉じている。
・・・微かに涙の痕を残しながら。
それを見て、俺は僅かに眉を寄せると、新八の後ろへと腰を降ろし、
抱えていた毛布で自分ごと新八を包み込んだ。
そしてそのままギュッと抱き締めると、新八の肩口へと顔を埋める。
・・・あぁ、なんて小さい肩なんだろう。
突然の事に驚いた新八が銀時の名を呼んだが、それには答えず
ただ黙って埋めた肩口へと顔を摺り寄せた。
すると、困ったように笑う声と共に、新八の体から
力が抜けたのが銀時へと伝わった。
そして、ポンポンと頭を撫でる感触。
その小さな手の感触に、思わず逃げ出したくなったが、腕は言う事を聞かず、
逆に力を込めてしまう。
多分新八は、自分も何か嫌な夢でも見たと思ったのだろう。
神楽の理由は、多分それだろうし。
でもな、違うんだよ、新八。
嫌な夢を見なくても、縋りつきたくなるんだよ。
何の理由もなく、縋りたくなるんだよ、もう。
逃げ出したいのに、もう体が言う事を聞かねぇんだよ。
きっとこうしている意味を新八は聞かないだろう。
聞かずに、けれどこうして甘やかしてくれるのだろう。
それが酷く嬉しくて。
そしてとんでもなく申し訳なくて。
あぁ、本当、ごめんな。
すがってしまって、こめんな。
泣きたくなったんだよ、本当に。
だってこんなにもオマエは優しくて暖かいのに、
俺達みたいなのに漬け込まれて、可哀想で。
叫びだしたかったんだ、本当は。
こんなにも小さい体に、力いっぱい縋りついてしまう事を
大声で謝りたくて。
逃げ出したかったんだ、本当。
寧ろオマエに縋ろうとする自分から、逃がしてあげたくて。
けれどそんな風に思っていても、
体は全く言う事を聞いてくれなくて。
「・・・重くね?」
自然と強くなる腕と、細い肩に擦り寄ってしまう自分の頭を
そのままに、ポツリと問いかけてみれば。
「もう慣れましたよ」
なんてクスリと笑って答えられて。
とんでもないその甘い言葉に、俺はますます体を密着させた。
ふと見れば、神楽の手も必死に新八の袴を掴んでいて。
なんだかじんわりと目元が熱くなる。
幸せになって欲しいのにな。
普通に幸せになれるヤツなのにな。
そう願ってる筈なのにな。
離れる事、出来ねぇんだな、俺達。
あぁ、本当にごめん。
何度だって謝るから、
酷いヤツだと罵られてもいいから、
もう少しだけオマエの言葉に甘えさせてくれ。
あぁ、でももしオマエが俺達の重さに潰されたとしても、
きっと大事に抱え込んで離さねぇんだろうな。
*****************
なんか妙なのが降りてきた結果(おいι)
さぁ、羽根きりをしよう。
ゆるりと笑った俺に、新八はコトリと首を傾げると、
俺の頬を軽い音と共に両手で挟んだ。
「目が覚めました?なんか変な顔してましたよ?」
変な顔っておまっ・・・
いやいや、お前の方がちゃんと目、覚めてるか?
今すっごく微妙な雰囲気だったんじゃね?
頼むから空気読んでくださいっ!
だが、新八は読むどころかサラッと流してくれたようだ。
再びくるりと窓の方へと視線を向けると、それよりも銀さん。と、
クイクイと俺の腕を引っ張った。
なんなんだよ、一体。
髪をガシガシと掻きながら、言われた通り窓の外へと視線を
向けると、ソコにはスズメやカラスと言った鳥とは全く違う、
小さく可愛らしい小鳥が。
「どっかで飼ってる鳥ですかね?」
可愛いな~。とにこやかに見詰める新八だが、俺の気分は最悪だ。
きっとあの小鳥は逃げてきたのだ。
狭い籠から、扉を開けて違う世界へと飛び立ってきたのだ。
先程殺がれてしまった感情が、再び頭を擡げて来る気配がする。
やっぱりダメだ。
あの小鳥のように、飛び立たれた後じゃ遅すぎる。
だから、今すぐ・・・
そう思い、視線を新八へと戻すと、微かな羽根音が聞こえた。
そして小さな新八の声も。
見れば小鳥はもう飛び立った後で、その場には何も残っていなかった。
「あ~あ、帰っちゃった」
残念そうに呟く新八の声に、俺は思わず眉を顰めた。
「帰ってはねぇだろ。だって逃げてきたんだぜ?」
なら、飛んでっただ。そう告げる俺に、新八はキョトンと目を丸くした。
「なんで逃げてきたんです?」
「なんでって・・・そりゃぁアレだろ?狭い籠の中が嫌になったとか。
外に出てみたい・・・とか」
そう、狭い世界に閉じ込められてたら嫌にもなるだろう。
目の前に広い世界へと通ずる扉があったら、出て行きたいと思うだろう。
だから扉を開け、出て行ってしまうのだろう。
自分で口にしておきながら、その言葉に唇を噛み締めてしまう。
そう、お前も何れ気付くんだろう?
自分の目の前にある、広い世界へと続く扉の存在を。
そして出て行ってしまうんだろう?
この、酷く狭い俺の世界から。
だから俺は、そうなる前に・・・
「ん~、でももしそうだとしても、きっと帰りますよ」
新八の言葉に、思わず落としてしまった視線を上げれば
そこには澄み切った空を見上げる、まっすぐな顔が。
「だって扉は出てく為だけにあるんじゃないでしょ?
帰る為にも必要なものなんですから」
だからきっと帰ります。そう言って笑う新八に、俺の中で
何かがポロリと剥げ落ちた。
だってお前、折角広い世界に出れたのに。
「帰る場所がなかったら、何処にも行けませんよ」
自由になれたのに。
「なら帰るのも自由ですよね」
狭い籠の中なのに。
「でも、好きな人が居ればそれで十分でしょ?」
新八が何か言う度に、俺の中の何かが剥がれ落ちていく。
あぁ、ならばあの小鳥は・・・
「見付かったって言うなら、きっと戻ってきたんでしょうね。
だって鳥ですもん。本当に逃げたなら見付かりっこないですよ」
夢にでも見て心配しちゃったんですか、その小鳥を。
新八はやんわりと笑みを浮かべると、労わる様に俺の頬へ
そっと手を当ててきた。
「大丈夫ですよ。そりゃ鳥ですから飛びたくもなるかもしれませんが、
同じように飛んで帰ってきますよ」
柔らかい言葉と同じように、やんわりと頬を撫でる手に、
ポロポロと全てが剥がれ落ちていった。
そうか、帰ってくるのか。
出て行っても、ちゃんと帰ってくるのか。
俺は頬に当てたられ新八の手に自分の手を重ねると、縋りつくように
その手を握り締めた。
ならば・・・と、ゆっくりと口を開いていく。
お前もちゃんと帰ってくるのか。
紡がれた俺の言葉に、新八は一瞬目を見開き、次にくしゃりと
顔を綻ばせた。
「当たり前でしょ。だってここが好きなんですから」
毎日なんで来てると思ってんですか。そう続けられ、
俺は腕を伸ばすと、目の前の新八をやんわりと抱き締めた。
そして思う。
爺さん、アンタはやっぱり馬鹿だ。
そんな事をしなくても、小鳥はちゃんと戻ってきてたのに。
小鳥、お前も馬鹿だ。
戻るなら、こいつみたいにきちんと戻ってきておけ。
そして俺も馬鹿だ。
コイツはいつだって自分で出て行き、毎日戻ってきていたのに。
どれだけ時間が経ったのか、痺れを切らしたらしい神楽の怒声が
居間から聞こえてきた。
新八はそれに慌てて答えると、俺の腕の中からすり抜け、
足早に居間へと向う。
それを少し寂しく思いながらも、元気良く羽ばたいてる姿に
心は穏やかだ。
この腕から出て行く時もあるけれど、同じ足でこの腕の中にも
戻ってくるのだ、あの小鳥は。
後を追うように居間へと向う俺の後ろで、
優しげな小鳥の声が聞こえた気がした。
あぁ、でも、もし戻ってこなかったらどうしよう。
やっぱり、ここが好きならずっと居てくれねぇかな?
剥がれ落ちた何かが、重なり合ってカサリと音を立てた。
********************************
Mag.様、素敵選択肢、有難うございます~vvv
ぶっちゃけどれも好み過ぎて選べず、ループENDに(笑)
こんな感じの続編になりましたが、少しでも楽しんで頂けたら
嬉しいですv
その小鳥は狭い籠の中に入れられていた。
『ほら、扉が開いていても出て行かないんだよ』
そう言って飼い主は籠についている扉を開けた。
中の小鳥は飼い主の言った通り、出て行く事はしなかった。
『狭くてもね、ここが好きなんだよ』
だから出て行かないのだ。そう言った飼い主は、
満足げながらも何処か悲しみを称えた笑みを浮かべていて。
俺は 馬鹿なヤツ と嘲笑った。
「お早うございます」
今日も丁寧な挨拶と共に、玄関の開く音がした。
それを耳にし、俺はホッと息を吐いてゆっくりと目を閉じる。
そして静かに、昔見たあの小鳥の事を思い浮かべた。
その小鳥は、まだ俺が白夜叉と呼ばれていた頃に、
根城にしていた寺の近所に住んでいた爺さんに飼われていた。
狭い籠の中、爺さんの自慢の優しい声と可愛らしい姿を披露し続け。
扉が開いても逃げる事も飛び立つ事もしなかった
愚かなあの小鳥。
爺さんは『ここが好きだから』と言っていた。
俺は扉が開いている事に気が付かない『馬鹿なヤツ』と嘲笑った。
けれど、他のヤツに『実は羽根きりされているのだ』と知らされた。
実際、前に一度逃げ出した事があったそうだ。
しかも器用に嘴で扉を開け、自ら空へと。
けれどその後見付かり、直ぐに羽根を切られたのだと。
それを聞いた時、俺は何故そこまでして傍に置いておくのか理解できなかった。
爺さんは言う。行ってはいけないと。
けれど、行きたいと言うのなら、行かせてやればいい。
俺は言う。
爺さんは言う。外は危ないと。
でも危なくても、外で生きたいと言うなら、生かせてやればいい。
そう、俺は言う。
爺さんは言う。一人で逝くのは可哀想だと。
しかし、例え一人でも其処で逝きたいと言うのなら、逝かせてやればいい。
覚悟の上だろ、俺は言う。
爺さんは言う。ワシの傍が好きなんだよ。
俺は言う。・・・いや、言わなかったんだっけ?
でも、思った。
そんなに好きなら、自由にしてやれ・・・と。
確かにそう思い、狭い籠の中でひたすら優しい声は、既に物悲しい
ものにしか聞こえず、そんな小鳥を哀れに思った。
確かに、そう思ったのだ。
そして、自分の好意を押し付ける爺さんを『馬鹿なヤツ』だと。
確かに、あの時は・・・・
「銀さ~ん、起きて下さい」
襖が開き、聞き慣れた声が間近で聞こえた。
ゆっくりと目を開けば、ソコには見慣れた俺の愛しい小鳥。
あぁ、やっぱりお前も馬鹿だよ、哀れな小鳥。
あの時、目の前の扉に気が付かなければ良かったのに。
目の前に広がる別の世界になんか、気が付かなければ良かったのに。
だって広い世界を知った後、籠の中はそれ以上に狭いものだったろう?
自由に飛べる筈の羽根は、ただ重いものに成り下がっただろう?
優しく鳴く声は、泣く事しか出来なくなっただろう?
ぼんやりとした俺の視線に、まだ寝惚けているのかと思ったようで、
新八は一つ息を吐くとそのまま立ち上がり、窓へと足を進めて行った。
そして勢い良く窓を開け放ち、俺はビクリと体を竦める。
「ほら、ちゃんと起きて下さい。今日もいい天気ですよ?」
だけど、そう言って振り返るオマエの笑顔に、一瞬泣きたくなり、
笑いたくなる。
あぁ、まだ大丈夫。
けれど・・・・
俺はゆっくりと起き上がり、新八への元へと足を進めた。
そして不思議顔で寄って来る新八を、ぎゅっと引き寄せる。
慌てる新八の声に、まだ悲しみは滲んでいない。
それでいい、それでいいよ。
爺さん、今なら俺は、アンタの気持ちが良く判る。
だけど、やっぱりアンタも馬鹿だ。
どうせなら、最初から羽根など切っておけば良かったのに。
扉の無い籠を持っていないなら、そうしておけば良かったのに。
そうすれば、小鳥は逃げる事などしなかっただろう。
その世界から飛び立つ事など、考えもしなかっただろう。
一度見てしまった世界を思い、哀しい声で鳴く事もなかっただろう。
可哀想で哀れで馬鹿な、愛しい小鳥。
「銀さん?」
抱き締めたまま動かない俺を、訝しげに呼ぶお前の声が聞こえる。
その音に、俺はゆるりと口元を上げる。
でも俺は知っている。
この音は、俺だけのものではない。
何時だって色んなヤツラに優しい声を聞かせてる。
だから毎朝不安になる。
ちゃんと来るか、まだ扉の存在に気付いていないか。
ここから飛び立ってしまわないか。
でも、それももう終わりだ。
このままだと、近い内にお前は扉を開けて行ってしまうかもしれない。
そしたらもう、哀しい声でしか鳴かなくなってしまうかもしれない。
見てしまった世界を、恋しがるかもしれない。
そんな可哀想な事、したくないんだよ、俺は。
だから、なぁ?
「新八・・・」
そうなる前に、羽根きりをしようか。
ゆるりと笑った俺の顔は、きっとあの日の爺さんと同じものなんだろう。
あぁ、だって俺は、お前が元気良く羽ばたく姿も、本当に好きだったんだよ。
**************************
なんか降りて来た(おいι)
ちなみに羽根きりは賛否両論あるようですが、
保護の為もあるので、絶対的に悪いとは言い切れないと
私的には思っていたり・・・
・・・まぁこの坂田は悪いんですが(最悪だぁぁぁ!!!!)
それは簡単な依頼の筈だった。
なのに、事が進めば進むほど胡散臭いものが出てきて。
その結果、新八が怪我を負った。
静まり返っている病院の廊下を歩き、辿り着いた一つの部屋。
その扉を開けると、ベッドの脇の椅子に座っている神楽の肩が
小さく震えたのが見えた。
けれど、こちらを振り向きはしない。
ただ、目の前で眠っている新八を見詰めている。
俺は黙ったまま扉を閉めると、壁際にある椅子を神楽の隣に移し、
腰を降ろした。
視線の先は、同じベッドの中の新八。
所々に白い包帯が見え、目に痛い。
自分も神楽も、同じような包帯が巻かれているのだが、
何故こんなにも新八に巻かれている包帯は目に痛いのだろう。
ちらりと見た神楽も同じ思いなのか、酷く眉を顰めていた。
だな、痛くてまともに見てらんねぇよな。
でも、離したくねぇよな。
もう、少しの間でさえ目を離したくない。
そんな事を考えながら、とりあえずの経緯をポツリポツリと話す。
依頼主が酷く謝り、感謝していた事。
お妙に連絡がついた事。
明日以降、もしかしたら真選組が事情聴取に来るかもしれない事。
「・・・関係ないネ」
ちゃんと聞いていたのか、神楽がボソッと呟いた。
けれどそれを聞き、銀時は微かに頷いた。
・・・そうだな、関係ねぇな、そんなの。
あるのは、目の前の現実だけだ。
あれは一瞬の事だった。
敵に囲まれたあの時、目を離したあの一瞬。
慌てて声を掛ければ、『大丈夫です』との返事。
悔しそうな神楽の声が、静かな病室に響く。
「ウソばっかネ。全然大丈夫じゃないヨ」
「・・・そうだな」
全てが片付いたと思った時、倒れこんだ新八と流れた血の赤さ。
あぁ、あれも目に入った瞬間、物凄く痛かったっけ。
「ウソついちゃダメって何時も言うネ。
なのに自分がウソつきやがって・・・馬鹿丸出しネ」
「・・・そうだな」
担ぎ込んだ病院。
傷は思ったよりも浅くて、命に別状はないと言われたけれど。
待っている時間、時計の針の音が酷く耳に痛かったな。
こうしている今も、色々痛いけれど。
「・・・なぁ、神楽」
視線を動かさず呼び掛ければ、何アルカ。と、視線も寄越さず答えられた。
それに、 こんな時に言うのもあれだけどな・・・と続け、
「もし・・・もしもの話だが、絶対そんな事にならねぇようにするがよぉ。
けど、もしこの先新八が俺等より先に死ぬ事があったら・・・」
お前、殺していいか?
静かな病室で、ポツリと、けれど確りと問い掛けると、漸く隣から
視線を感じた。
けれど俺の視線は動かない。
ただ、ただ、眠る新八を見据えて言葉を続けた。
「俺やお前が新八より先に逝く事ぁよっぽどの事がねぇ限り、
あり得ねぇだろ?」
新八を残して逝くなんて、本当あり得ねぇ。
俺も・・・そしてきっとお前も、何があろうが、何をしようが
絶対残してなんか逝かない。
絶対に、帰ってくる。
・・・けど・・・
「こいつは時折、テメーよりも他人を大事にしやがる」
そう、それこそ自分よりも強い俺や神楽を。
もう目を離しはしない。
そんなに簡単には逝かせない。
そうは思うが・・・考えたくない『もしも』があるかもしれない。
今日よりも酷い事が起こってしまうかも知れない。
そん時は・・・
「俺は死ぬよ?新八が死んだら、俺も死ぬ。
無理なんだよ、もう。こいつがいないとさ。だからよ、
その時はお前も連れて行って良いか?なんかお前だけ残したら
新八、心配しそうだしよぉ」
あ、勿論定春もな。そう言うと、隣から感じていた視線が
また外れるのを感じた。
「・・・その前に怒られるネ。なんで来たかって」
「そうだな。でもこればっかりは仕方ねぇよ、俺は共に逝く」
お前はどうするヨ。そう聞けば、少しだけ嬉しそうな声が返って来た。
「仲間外れは良くないネ。仕方ないから一緒に逝ってやるヨ」
「そっか・・・」
その答えに、俺も漸く口元が緩んだ。
「ま、そんな事にならねぇよう、頑張るけどな」
けれどもし・・・もしも誰かの手にかかってお前の命が消えたなら。
その時、俺は躊躇い無く神楽を殺すだろう。
定春を殺すだろう。
そして最後に、自分を殺すだろう。
お前の命を消したヤツなんか知るもんか。
憎いけどな、最悪だけどな。
出来ればこの手でぶっ殺してやりてぇけどな
そんな事してる暇ねぇよ。
お前がいない所なんて、一瞬でも居たかねぇんだよ。
余分なヤツなんかいらねぇ。
俺達だけでいい。
俺達だけが いい。
お前はきっと怒るだろう。泣きもするだろう。
だけど最後は・・・なぁ?呆れてもいいから
『仕方ないですね』
って笑って迎えてくれ。
俺はお前が居れさえすれば、もう何処でもいいんだよ。
麻酔が切れ始めたのか、それとも俺の考えが判ったのか、
ベッドの中の新八が眉を顰め・・・けれど呆れたように笑った気がした。
**********************
色んな意味で幸せ坂田(え?)
でも、そんな事にはならないよう必死に生きてきますよ。
その日、そろそろ出勤しようかと思っていた妙の元に、一本の電話が
入った。
それは弟である新八が事故に合い、病院に運ばれたという連絡で、
妙は一瞬、目の前が揺らぐのを感じた。
「おい!新八は!?」
人気のなくなった病院の廊下に備え付けられているソファに
一人座っていた妙の元に、慌しい足音と声が近付いてきた。
その人物に気付き、妙は椅子から立ち上がる。
「銀さん」
「怪我したってどういう事だ!大丈夫なのか!?」
何時もの呑気な雰囲気をかなぐり捨てたその焦り様に、妙は
落ち着いてください。と静かな声で制した。
「新ちゃんなら大丈夫です。事故と言っても軽い接触だったみたい」
ただ頭をぶつけた様だから、念の為検査してるトコです。妙のその言葉に、
銀時は大きく息を吐くと、力なく先程まで妙が座っていた椅子の隣へと
腰を下ろした。
「ごめんなさいね、大袈裟にしちゃって」
銀時の様子に、妙は謝罪を口にする。
連絡を受け、病院に駆けつけてみれば新八はまだ治療中で、その間に
一応・・・と、万事屋にも電話を入れておいたのだ。
銀時は足に肘を付き、俯いたその頭を緩く振った。
「いや、別に良い。知らない方がいやだしな。」
「神楽ちゃんは?」
「ババァに預けてきた。ちょっと動転してたんでな。」
後で連絡入れるわ。銀時の言葉に、まだここに居るのだと理解すると、
妙も再び元の場所へと腰を下ろした。
そして先程よりも詳しい説明を報告する。
どうも余所見をしていた車が歩道へと乗り上げてきたらしい。
そこには子供がおり、新八はそれを庇ったのだと。
「でも、怪我しちゃカッコつかないですよね・・って笑うもんだから、
全くねって言ってほっぺ抓ってやったわ」
「おいおい、怪我人にこれ以上怪我を負わしてどうすんだよ」
「ちなみに運転手には怪我以上のものを負わしてやりました」
「いや、怖いからね。何、その怪我以上のものって」
「やぁね~、当然の報いでしょ?それに・・・」
今の銀さんの方が怖いわよ。
吐き出された妙の言葉に、俯いたままの銀時の肩がピクリと動く。
「・・・何言ってんの、お前」
ハッと鼻で笑う銀時に、妙は浮かべていた笑みを引っ込める。
「そう言う誤魔化しは、その殺気を引っ込めてからにして下さい。
来た時からピリピリと・・・どうせなら加害者に向けて下さいな」
私ではなく・・・ね。
そう告げた瞬間、背筋が凍りつくような感触が妙を襲う。
「・・・やな女。」
俯いたまま、銀時は低く呟く。
「でしょうね」
視線を外し、妙は廊下の奥へと顔を向け、答えた。
「・・・まぁ大体の理由は判りますけど」
妙の言葉に、銀時が乾いた笑いを上げた。
「つくづくやな女だね、お前。・・・なぁ、なんでお前な訳?
どうして新八の事でお前から連絡貰わなきゃいけねぇんだよ。
どうして俺は、お前から新八の事を聞いて、感謝しなきゃいけない?」
投げやりだが、何処か獣が唸っているようにも感じる声音で
告げられ、妙は微かに視線を戻した。
「仕方ないわよ、私達、家族なんですもの」
その言葉に、隣からギリッと歯を噛み締める音が聞こえた。
ずっと二人で過ごしてきた。
二人だけの世界だった。
なのに一人の男が現れ、世界は急激に広がった。
・・・・広がってしまったのだ。
知らないでしょう?
私達の会話に、どれだけ貴方達の名前が出てくるのか。
判らないでしょう?
その事が、どれだけ胸を痛めつけるのか。
あぁ、でもね?幾ら世界が広がっても・・・
妙はそっと思いを馳せた。
それはあの時、電話口で弟の事故を告げられたあの時。
告げられた言葉に驚き、恐怖し、そして
『そちらは志村新八さんのお宅ですね』
ーーーーーーー安堵したのだ。
「仕方ないのよ?」
もう一度言い、妙は薄っすらと笑みを浮かべた。
その瞬間、俯いていて妙の表情など見えないであろう銀時から、
更に身を切るような殺気が発せられる。
その事に、ますます妙は口元を緩めた。
「私、いつか銀さんに殺されそうね」
それもズタズタに、この体中の血を一滴残らず流されて。
楽しげにそう告げてくる妙に、そりゃ~いい考えだ。と銀時は軽く視線を上げ
笑うが、その瞳は暗くぎらついたままで。
「で?今度は新八に連絡が来てお前の元に行くってか。
・・・誰がするかよ、んな胸糞悪ぃ事」
だがな、忘れるな。
銀時は暗い目のまま薄く口元を上げる。
「お前にくれてやれるのはそれだけだ」
突きつける様に銀時が告げたその時、廊下の奥に車椅子を押されて
こちらに向かってくる人影が現れた。
その瞬間、妙の隣にあった殺気が瞬時に分散し、立ち上がる。
そしてそのまま人影に向かって足早に駆けて行った。
銀時の姿に気付いた新八が、驚きの声を上げる。
次に微かに聞こえる嬉しそうな声に、ほんの少しだけ妙の胸が痛む。
私に何かあったら新ちゃんに。
新ちゃんに何かあったら私に。
これだけは、何があっても変わらない。
絶対に変わらないの。
呪文のように心の中で繰り返しながら、妙も新八の元へと向かうべく、
その場から立ち上がった。
視線の先には、先程までとは打って変わった空気を纏った男が、
親しげに新八の頬を撫でている。
『そちらは志村新八さんのお宅ですね』
蘇るあの声。
まだ彼の家がここなのだと示してくれたあの声。
けれど・・・
「・・・いやな男」
その光景に、妙は無意識のうちに握り締めた拳を一人、震わせた。
***************
初めて書いたお妙さんの話がこんな事に~!!!