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その日は久し振りに入った仕事で、少しばかり夕飯が遅くなってしまった。
とりあえず簡単なものを作り、食べ終わったのが九時過ぎ。
そこから後片付けをして、明日の朝食の準備もして、
予め家の中に干しておいた洗濯物を寄せて畳み、合間に
お風呂から出てきた神楽ちゃんの髪の毛を乾かして・・・
・・・で、なんでアンタまで
タオルを差し出してくるんですか、銀さん。
もう寝ると言った神楽ちゃんにおやすみの挨拶をし、
使い終わったタオルを片手にその場を後にしようとしたら、
何時の間にお風呂から出てきたのか、銀さんが僕のすぐ後ろで
立っていた。
何故だか頭をボトボト濡らしたまま、タオルを差し出して。
「俺も頼むわ」
や、頼むわじゃないでしょ。
え?銀さん一体何歳のつもりですか?
寧ろ何様のつもりですか?
思いっきり嫌だという感情を表に出してみたのに、
銀さんはそんな事気付きもしないようで、さっさと僕に
タオルを渡すと、先程まで神楽ちゃんが座っていたソファへと
腰を降ろしてしまった。
その上、肩に手を当てて首をコキコキと曲げ、
「いや~今日は疲れたわ。
なんか今日の銀さん、凄くなかった?
ものっそく真剣に仕事してなかった?」
もう手を上にあげる事すら出来ないわぁ。等と言うものだから、
いっその事タオルを放り投げて無視してやろうとした
僕の目論見は無残にも砕け散ってしまった。
・・・確かに、今日の銀さんは物凄く動いてくれた。
仕事の内容は蔵の掃除で、その広さと物の多さに明日まで
掛かってしまうのでは?と思っていたのに、それが
今日一日で終わってしまった程の働きっぷりだったのだ。
「・・・今日だけですからね」
僕は出来るだけ判りやすく深々と溜息を吐くと、
渋々手にしていたタオルで銀さんの濡れた髪を拭くことにした。
・・・気持ち乱暴なのは、微かに納得出来ない心の一部
のせいだと言う事にしといて下さい。
「はい、もういいですよ」
最後の仕上げとばかりに、勢い良く銀さんの髪を撫で付けると、
チラッと時計に目をやる。
げ、もうこんな時間だよ。
のんびりとお礼を述べてくる銀さんを尻目に、
僕は慌ててタオルを洗濯機に入れるべく、その場を後にした。
・・・と、タオルは明日でいいか。
まずは着物を洗って・・・って、色物と一緒にすんなって
あれ程言ってんのに!!
ぐちゃぐちゃに混ぜられている洗濯物を分けてるいと、
ひょこりと銀さんが顔を出してきた。
「新八ぃ、爪きりってどこだっけ?」
「引き出しの一番上ですよ」
とりあえず一回洗ってしまおう。そうすれば明日楽だし。
・・・あ、でもまずは汚れを
落としといた方がいいかな、コレ。
手にした洗濯物の汚れを見ながらそう答える。
銀さんは僕の答えに適当な返事を返し、そのまま居間へと
戻っていった。
全く、自分で探しもしないで。
・・・ってコレ破れてんじゃん!
ぅわ~、どうしよう。コレってこのまま洗ったら
ますます酷くなりそうなんだけど。
縫ってから洗おうか。
あぁ、でもそうしたらもっと帰るのが遅くなるな。
・・・どうしよう。
銀さんの着物を目の前にし、ちょっと思案していると、
再び、今度は居間から銀さんの声が聞こえてきた。
「お~い、ねぇぞぉ?」
ちょ、今の時間考えてくださいよ。
神楽ちゃん、もう寝てるんですよ?
「大きな声出さないで下さいよ」
銀さんの着物を持ったまま、急いで居間へと向う。
そして引き出しの前でしゃがみ込んでいる銀さんを押しのけ、
中から爪切りを取り出して銀さんへと渡した。
「全く、上辺だけ見てないない言うんだから!」
はい、ちゃんと新聞敷いてやって下さいね。
そう言うと おぅ、サンキュ。と言って銀さんはソファの
前に腰を降ろした。
きちんと新聞を敷くのを確認し、僕はチラリと手にしている
銀さんの着物を見る。
・・・ま、やっちゃいますか。
ここまで持ってきてしまった序だ。
僕は裁縫道具を棚の上から下ろすと、銀さんの向かい側の
ソファへと腰を降ろした。
「・・・何?やっぱ破れてた?」
気配を感じたのか、銀さんはパチンパチンと爪を切りながら
僕へと問い掛けてきた。
「気付いてたなら早く言って下さいよ」
「や、気付いてたってかもしかして?って感じだったからよ」
悪いね。等と言葉ほど悪く思っていない口調で
告げる銀さんに、一つ溜息。
「それでも言って下さい。
帰る時間がどんどん遅くなっちゃうじゃないですか」
そう言うと銀さんはパチンと爪を切った後、
キョトンとした顔を僕へと向けた。
「え、何?オマエ帰るの?」
「帰りますよ」
「こんな時間なのに?」
「こんな時間になったのは誰のせいですか。
ってか姉上に今日はちゃんと帰ってきときなさいって言われてるんで」
朝、出かける時に言われた言葉を告げると、銀さんは
フーンと言ってまた爪きりへと戻ってしまった。
うん、今日は言われたんだよね。帰って来いって。
明日の朝、久し振りに二人でご飯食べたいからって。
だからさっさとこれを縫って帰らなきゃ。
僕は慣れた手つきで針に糸を通すと、破れてる部分を
縫い始めた。
既に深夜に近い時間帯だけあって、部屋の中は静かだ。
聞こえてくるのは銀さんが爪を切る音と、
下から僅かに聞こえる音だけ。
「・・・ってかさ、もうすぐ日付変わるじゃん?」
パチン
そんな中、爪を切る音と共に銀さんの声が聞こえてきた。
うん、そうですね。
「こんな遅くに外歩くの、未成年としてどうよ?」
パチン
別にいいんじゃないですか?
誰かさんが酔い潰れた時とか、よく迎えに呼ばれますし。
「・・・今度店のオヤジに一言言っとくわ」
パチン
その前に酔い潰れないようにして下さいね。
「・・・善処します。
ってかマジで帰んの?」
パチン
えぇ、約束しましたから。
「フーン。なら、仕方ねぇか。
とりあえずこれ終わったら送ってってやるよ」
パチン
え、いいですよ。
銀さんだって疲れてるんでしょ?
「それぐらい屁でもありません~」
パチン
・・・なら髪の毛も自分で乾かせよ。
「それは無理。
それとこれとは疲労の度合いが違うから」
パチン
あきらかに送って貰う方が疲れると思うんですけどね?
そんな会話をしてる内に、針仕事を終えた僕は
一先ず針を置き、繕ってた部分を伸ばしてみる。
うん、なんとか上手に出来た。
後はこれを洗濯機に放り込んでまわすだけだ。
広げていた裁縫道具をしまい、ソファから腰を上げると
再び銀さんから声が掛かった。
見れば既に両手を追え、足の爪ももうすぐ切り終える所だった。
何だろう、なんかまだ用があるのかな?
なら早く言って欲しい。
と言うかいっそ明日にして欲しい。
そんな事を思っていると、銀さんは僕に背を向けたまま
ポツリと呟いた。
「・・・ってかさ、もう日付変わったよな?」
パチン
「え?・・・あ、本当だ。
もう12時過ぎてますよ」
「ならアレだ」
パチン
「なんですか?」
うわ~。と少しウンザリしながら時計を見ていると、
銀さんからそんな意味不明な言葉がかけられる。
何の事だと聞いてみても、銀さんは『アレ』としか言わない。
もう本当何なんだよ。
用があるならさっと言えばいいのに!!
付き合ってられないと銀さんに背を向け、洗濯機へと向おうと
した所で、
「・・・おめっとさん」
パチン
と、思い掛けない言葉が来た。
へ?とカレンダーに目をやれば、ソコには『11』の数字が・・・
って違うか。もう日付が変わったんだから、
今日は『12』日な訳で・・・
あっ!と気付き、思わず振り返れば銀さんは爪きりを終えたらしく、
立ち上がってグシャグシャと新聞を丸めていた。
「銀さん、今のって・・・」
「さ~終わった終わった。
後はちゃっちゃと送って俺も寝るかな」
そう言って僕に背を向けたまま、ゴミ箱に新聞を放り投げている
銀さんの顔は見えないけど。
「あ~、でも面倒だなぁ、おい。
・・・やっぱさ、オマエ泊まってかねぇ?
姉ちゃんが帰ってくる頃には送ってくからよ」
そう言って未だ背を向けて伸びをしている銀さんの顔は
やっぱり見えないけど。
微かに見える銀さんの耳が赤くなっていて、
僕はこっそり心の中で姉上に謝る事にした。
***********
新ちゃんハピバ☆
ちなみにこの後、時間ギリギリに送ってった坂田は
修羅と鉢合わせ、ボコられます(笑)