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動物は過ごしやすい場所を見つけるのが上手いらしい。
「って事は、ここが家の中で一番涼しいトコなのかな?」
新八は洗い終わった洗濯物がいっぱい詰まった籠を抱え、
部屋の隅でスヤスヤと眠りこけている定春を見詰めた。
エアコンなんて物は存在しない万事屋にとって、
最近の暑さはシャレにならない。
窓全開、おまけに玄関も全開な状態だ。
それでも暑いので、神楽は廊下で寝転び、銀時は外に涼を求め
出かけてしまっている。
だが、家事をこなす新八はそんな事している暇はない訳で。
新八はグイッと頬の汗を肩口で拭うと、暫しその場に
佇んでみた。
「・・・気持ち涼しいかな?」
なんとなく風が通っているような気がする。
「どう?定春」
そう聞くと、まるで答えるように定春の耳がピクリと動いた。
新八はそれにクスリと笑うと、
「後で掃除はさせてね?」
そう告げて、洗濯物を干すべくその場を後にした。
「・・・あれ?」
洗濯物を干し終わり、次は掃除だ。と居間へと戻ってきた新八の
目に入ったのは、先程と同じ場所で寝そべっている定春と、
それに体を預けるようにして寝ている神楽の姿だった。
「何時の間に来たんだろう・・・」
さっきまでどんなに怒っても廊下から剥がれなかったのに・・・
涼を求めてここまで来たのだろうか?
でも幾らここが他の所より涼しくても、定春の傍は
暑いと思うのだが・・・
そんな思いから神楽の顔を覗きこむが、新八の心配を
余所に、神楽はとても気持ち良さそうに寝ていて。
「・・・これじゃ掃除は無理かな?」
苦笑を浮かべ、新八は屈み込んでいた体を起こした。
その気配に、定春の目が少しだけ開く。
「定春は大丈夫?」
そう聞くと、問題ないとでも言うように軽く耳を動かし、
再び目を閉じてしまった。
どうやら大丈夫なようだ。
ならば・・・と新八は一撫で、定春の頭を撫でる。
「僕、先に買い物行って来るからお留守番お願いね」
少しだけ心配な気持ちもあるが、定春が居るなら大丈夫だろう。
と、新八は玄関を開けたまま買い物へと出かける事にした。
あ、でも一応お登勢さんには一言言っておこう。
「・・・増えてるし」
太陽の照りつける中、暑い思いをして買い物から帰ってくると
定春の傍に銀色の頭が一つ、増えていた。
こんなに早く帰って来たと言う事は、外で涼しい場所が
見付からなかったのだろう。
または、涼しい場所に居られなくなったか・・・だ。
「全く・・・幾ら負けてきたんだか」
多分後者だろうと中りをつけて、新八は深く息を吐いた。
その溜息に、定春の目がゆっくりと開く。
「定春も大変だね?」
横たえた体には神楽が、そして首元には銀時が体を預けて
眠っているのだ。
幾らなんでも暑いだろう。
そう思って問い掛けると、定春は仕方ないとでも言うように
ワフッと小さく息を吐いた。
・・・多分この中で一番の大人は定春だ。
「ごめんね?」
尊敬と謝罪を篭めて定春の頭を撫でると、新八は買ってきた物を
手にとり、その場を後にしようとした。
・・・が。
「え?」
何かが袴に引っかかって前に進めない。
不思議に思い顔を向けると、何故だか定春が新八の袴の裾を
噛んでいた。
そしてクイクイとひっばって来る。
「え、ちょ定春?
僕、買ってきたものを置きに行かなきゃ・・・」
それに他にもやる事あるし・・・と言ってみるが、定春は知らん顔。
新八の言葉を無視して尚もクイクイと袴を引っ張った。
「えっと・・・もしかして僕も寝ろ・・・って事?」
そう問い掛けてみると、肯定するかのように
漸く定春が袴から口を離した。
・・・とりあえず今日買ってきたものの中に
腐るものは入ってない筈だけど・・・
でも・・・と新八は視線を下へと降ろす。
幾ら涼しい風が通ると言っても、こんなに密集してたら
暑いだろう。
現に神楽も銀時も、額にうっすらと汗をかいている。
おまけにお昼の用意とか、掃除とか・・・ってこれは今は無理か。
でも他にもやる事あるし・・・
あぁ、でも。
と新八はやんわりと口元を緩めた。
確かに気持ちは良いかもしれない。
「お~い、誰か居ないのかい?」
ったく、玄関開けっ放しで物騒だね。そう言いながら、
お登勢は静まり返った万事屋へと足を踏み入れた。
そして居間へと来た所で、動かしていた足を止める。
「・・・暑苦しい光景だねぇ」
何やってんだか。そう言って苦笑するお登勢の視線の先では、
汗をかきながらも気持ち良さそうに眠りこけている
三人と一匹の塊が。
「暑気払いにカキ氷でも・・・と思ったんだけどねぇ」
ま、明日にするかね。そう言って来た時とは違い、そっと静かに
その場を後にしたのであった。
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過ごしやすい場所=気持ちの良い場所な坂田家。