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早く。早く。
少しでも早く、大人に。
それは昔から強く思っていた願い事。
「銀さん、何処に行っちゃったんだろう」
もうすぐ日も変わろうとしている部屋の中、闇に包まれている
窓の外を見下ろす。
「どうせ呑みにでも行ってるネ」
そう言って ケッ と舌打ちをする神楽ちゃんは、珍しくも
まだ起きてテレビの番人をしている。
それに苦笑を返し、僕はすっかり冷めてしまった晩御飯に
ラップを掛けた。
一応待ってはいたのだが、神楽ちゃんのお腹が限界を迎えたので
先に食べてしまったのだ。
なので、残っているのは一人分。
銀さんの分だ。
何時もなら食事時に居ない方が悪いと言って全て食べ尽くしてしまう
神楽ちゃんだが、今日は時間が遅すぎたと言って
銀さんの分には手をつけなかった。
ちなみに、今も先に寝てなよ。と言う僕の言葉を、
「食べて直ぐ寝たら石になるネ」
と言って受け付けてくれなかった。
・・・ってか石ってなんだ。
牛になるのもびっくりだが、石になるのはもっとびっくりだ。
「・・・新八は寝ないアルカ?」
テーブルの上を簡単に片付け、後は繕い物でもしようと
服を片手にソファに腰を下ろした所で、神楽ちゃんがボソリと問い掛けてきた。
「うん、これやっちゃいたいから」
そう言って服を掲げれば、フーンと適当な相槌が返ってきた。
「全く、銀ちゃんもヤンチャしすぎネ。
お陰で新八の裁縫の腕が上がりまくりで仕方ないヨ」
「や、これ神楽ちゃんのだからね?」
「この間も着物の袖、破いてたヨ」
「・・・それ、神楽ちゃんが破いてたよね?」
「あれはアレンジヨ」
「今破いてたって言ったじゃねぇか、おい」
「煩ぇなぁ、技術向上に貢献してんだから
有難く思うヨロシ」
乱暴に言い捨てる神楽ちゃんに、深々とした溜息が落ちる。
・・・ま、いいんだけどね。
着物なら繕えばいいんだからさ。
でも・・・
一瞬落ちた沈黙を嫌うように、再び神楽ちゃんが
言葉を吐き出した。
「ったく、こんな時間までフラフラして。
帰って来たら説教ヨ、銀ちゃん」
「言葉の前にコブシが出るでしょ、神楽ちゃんは」
「当たり前ネ!
言葉よりもコブシの方が多く語り合えるものヨ!!」
「・・・や、神楽ちゃんがやったら
語り合う前にオチちゃうからね?
その後、確実に一方的な話し合いになるから」
「説教とはそう言うものネ」
偉そうに胸を張ってそう告げる神楽ちゃんに、
思わず笑みが零れる。
「まぁご近所迷惑にならない程度にお願いします」
「任せとくネ。
一瞬で決着つけてやるヨ」
早く帰って来ないかな、銀ちゃん。にししと笑う神楽ちゃんに、
僕もそうだね。と笑った。
本当、早く帰って来ればいいのにね。
そう言って視線を向けるのは、真っ暗に染まった窓の外。
軽口を言いながらも、僕も神楽ちゃんも何となく判ってる。
銀さんは今、きっと危ない事をしている。
それは多分、先日あった仕事に関係してて。
きっとそれは、銀さんにとっては僕達には関わって欲しくない事柄で。
多分、見せたくない世界の事で。
「・・・本当、勝手なんだから」
僕達が勝手に首を突っ込んだんだから、ほっておけばいいのに、
銀さんはそれを良しとはしない。
しかも僕達に手を引かせて、それに対して負い目を負わせないようにするし、
関わった結果の怪我も負わせようとしない。
心も体もなるべく傷付かないよう。
そして嫌なものをこの目に写さないよう、自ら前へと出て行ってしまう。
傷付いて欲しくないのは、僕達だって同じなのに。
けれど、その為に動くには、僕達は子供過ぎて。
銀さんの助け所か、足手まといにしかならないだろう。
それ所か、僕達がそんな場所に行った事に対して、
銀さんは自分を責めてしまうだろう。
・・・子供は子供なりに、覚悟を決めてるのにね。
それすらも銀さんを傷付けかねないなんてね。
だから早く。早く。
少しでも早く大人に。
昔から強く願っていたこの想いは、最近更に加速をつけていく。
だってそうすれば、銀さんの怪我を一つでも減らせるかもしれない。
でも、幾ら強く願っても、それは叶えられない訳で。
ならば出来る事は、ただ一つ。
「・・・帰って来たら、僕もお説教しようっと」
で、さっさと風呂に入って来いって言ってやる。
だってきっと埃だらけだ。
「おう、それがいいネ。
序に一発食らわしてやればいいヨ」
そしてもし、怪我をしていたら、その手で手当てを。
「神楽ちゃんは気が済むまでやっていいからね?」
その間にご飯を温めなおして。
「任せとくネ。
朝まで離してやらねーヨ」
そしてずっと、朝になってもずっと三人で固まって。
「早く帰って来ないかな、銀さん」
「早く帰って来るネ、銀ちゃん」
早く。早く。
少しでも早く、この場所に。
体の怪我は無理でも、心だけは傷付かないよう僕達が守るから。
それは願いと言うよりも、固い決意。
『最強呪文』と対的な感じで。