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「神楽ちゃ~ん、迎えに来たよ~」
日も暮れ始めた頃、新八は公園で遊んでいるだろう
神楽を迎えに来ていた。
既に遊んでいた子供達も迎えが来て帰ったのだろう、
人のいなくなった公園内を探しながら入っていけば、
何故だか物凄い勢いで揺れている・・・と言うか
回転寸前のブランコが目に入った。
「うはははは、どうネ、神楽様の華麗な乗り方はっ!
凄過ぎて誰も真似出来ないネ」
「っつうか馬鹿過ぎて誰も真似しねぇよ」
楽しそうに笑いながらブランコを漕ぐ神楽。
そしてその隣のブランコに土足で立ちながら、呆れたように
言葉を返す沖田。
・・・一瞬、新八がそのまま帰りたくなったのも
仕方ない・・・
「あ、新八~っ!」
が、そうする前に、神楽たちに気付かれてしまう訳で。
新八は一つ息を吐くと、神楽達の居るブランコの前まで
足を進めた。
「神楽ちゃん、危ないからそんな乗り方しちゃ駄目でしょ。
後沖田さんも。他の人も座るんですから、
土足は止めてくださいよ」
「何言ってるネ、新八。
危ないからって遠ざけてばかりじゃ、碌な大人にならないヨ」
「一々服が汚れるのを気にして遊ぶガキなんざ、
碌な大人になりやせんぜィ?」
「いいお言葉ですが、既にそんな事してる時点で
碌な人間じゃないって事を覚えとけ、コノヤロー」
とりあえず、大きくブランコを揺らす神楽を止め、
沖田がつけた泥を簡単に払う新八。
その時ふと違和感を感じ、不思議そうに目を瞬かせた。
「なんか・・・低い?」
改めてブランコを見てみると、座る所が思っていたより低い位置に
ある事が判った。
昔はそんな事思わなかったのに・・・と首を微かに傾げた所で、
新八は あぁ・・・と笑った。
当然だ。だって昔はまだ子供で。
そして大抵の遊具は子供用に出来ているのだから。
そう言えばよく遊んだな・・・と、新八はその頃のことを思い出し
口元をゆるりと緩ませた。
何時だって人気のあるブランコ。
当然新八が子供の頃も、大抵誰かが乗っていて、
酷いときなんかは順番待ちなんかしてたりして。
でも・・・と新八が物思いに耽っていた時、不意に
隣から名前を呼ばれた。
視線を向ければ、そこには不思議そうな顔をしている
沖田と神楽が。
「どうしたネ、新八」
「いや、ちょっと子供の頃のこと、思い出しちゃって」
問いかける神楽に照れたように笑みを返すと、新八は空いている
ブランコへと腰を下ろした。
「ほら、みんな子供の頃ってブランコ好きでしょ?」
「私は今でも好きネ」
「俺はどっちかってぇと、乗っている奴の背中を
限界まで押し捲って歓喜の涙を流させる
方が好きだけどねィ」
「・・・沖田さん、それ絶対違う種類の涙ですよ」
沖田の言葉に深々と溜息を吐く新八だったが、すぐに気を取り直して
続きを口にした。
「でもね、そんなブランコを独占できる時間があったんですよ」
そう言って新八は顔を前へと向け、ゆったりと沈んでいく夕日を
見つめた。
そう、それは丁度こんな時間。
それまで一緒に遊んでいた子供達は、みんなお迎えが来て。
迎えの無い自分はそこに残されて。
赤く染まっていく公園の中、滑り台だってブランコだって、
全部自分ひとりだけのものだったあの時間。
友達からは羨ましいと言われたけれど。
ほんのちょっとだけ、得意気だったけれど。
でも、本当は・・・
「ま、姉上も家の事で忙しかったですしね、仕方なかったですけど」
帰るよ~。と名前を呼ばれてみたかった。
新八は 照れくさそうに首筋を掻くと、小さく笑った。
そこに、カシャンと隣のブランコに座る音がする。
見れば沖田も同じように、誰も居なくなった公園を見つめていて。
「・・・俺の時は散々自慢しまくって悔しがらせて
やったけどねィ」
一度、全部の遊具に名前を書いてやった事もある。
そう言って笑う沖田を、未だブランコに座って
小さく揺れていた神楽が はっ。と鼻で笑い飛ばした。
「甘いネ、私なんて家に持って帰った事アルヨ」
「いや、持って帰ってどうすんだよ、それ」
神楽の言葉に、呆れた視線を送る沖田と、若干頬を引き攣らせる新八。
そして、ギャーギャーと騒ぎ出した二人を他所に、
新八はそっと視線を公園の中へと向けた。
先程よりも夜に近づいてきた空の下、
一人で遊んでいる子供達の姿が見えるような気がして。
どれだけ騒いでいたのか、すっかり暗くなった頃、
ふと誰かがこちらへと向かってくる気配を感じた。
「あ、居た居た。ったく何やってんだよ、お前等」
「銀さん?」
「総悟ぉぉ!?お前巡察はどうしたのぉぉ!!?」
「げ・・・近藤さん」
「ガキがこんな時間まで遊んでんじゃねぇよ」
「マヨ離れしてない奴にガキ扱いされたくないネ」
驚いて見れば、これまた珍しいメンバーで。
「どうしたんですか、一体」
その顔ぶれに不思議そうに首を傾げれば、深々と溜息を吐かれる。
「どうしたじゃねぇだろ。中々帰って来ねぇから
迎えに来たんじゃねぇか。」
「俺等は山崎から、またどっかの馬鹿が公園でサボってるって
聞いてな。周囲に迷惑を掛けねぇ内に回収に来たんだよ」
「ほら、もう暗いから遊ぶのはまた明日にして帰ろうか」
「いや、近藤さん。総悟は明日も仕事だからな!?」
ニコニコと笑って言う近藤に、土方が慌てて言い直す。
それにこれ見よがしに大きな溜息を吐いて、沖田が腰を上げた。
「あ~、はいはい。判ったから近藤さん、ちょっと
おんぶして下せぇ」
「「いや、なんで!!?」」
「疲れたんでさァ。それぐらい察して下せぇよ、近藤さん。
そして警察なら空気を読みきって見せろよ、土方ぁ。」
「警察関係なくね!!?」
「あ、なら銀ちゃん、私もおんぶしてヨ」
「神楽、ちょっと自分の足元見てみろ。
頑丈な移動手段が見つかるから」
「あ、なら新八は土方さんに負ぶってもらいなせぇ。
で、序に頚動脈掻っ切っちまえ」
「どんな序ぇぇぇぇ!!?」
「こいつに任せるぐらいなら、俺が二人とも抱えてってやらぁぁ!!」
「・・・や、僕はいいです。」
でも・・・と新八は騒いでいるみんなを見つめて少し笑った。
手ぐらいは繋いで帰りたいかな?
――――それは昔、少しだけ夢見た光景。
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十代組を可愛がりたくて仕方ないです。