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その日は中々の月夜で、神威は一人、気分良く夜の散歩と洒落込んでいた。
賑わう街もいいが、偶には普通の家が立ち並ぶ静かな場所を
歩くのもいい。
この立ち並ぶ家の中に、もしかしたら自分を
楽しませてくれるヤツが居るかも。
あの男のような・・・ね。
そんな事を思いながら家と家に挟まれた小道を歩いていると、
突然傍にある塀の上から、小さい物体が神威の足元と飛び降りてきた。
「おっ・・・と。」
塀に身を寄せてそれを交わし、見て見れば悠々とした足取りで
猫が歩いていくのが見えて。
「ありゃ、散歩道だったか。」
それは邪魔したね。と言う神威の呟きに答えるように、
一振り尻尾を回して歩いていく猫にクスリと笑う。
それを見送り、自分も散歩を再開しようと、寄り掛っていた塀から
身を起こそうとした所でクイッと何かに引っ張られ、
神威は笑っていた顔をキョトリとさせた。
何だ?と振り返ってみれば、古くなっている板の塀に、自分の
結んだ長い髪が絡まっていて・・・
「あ~あ、ついてないなぁ」
困ったように笑い、その絡まりを解こうと手を伸ばすが、
どうやら結構複雑に絡まってしまっているらしい。
中々解けないソレに、神威は小さく息を吐く。
ま、いっか。塀を壊せばいいだけの話しだし。
そう思い、手を上げた神威に、一つの声が掛けられた。
「あの・・・どうかしましたか?」
その声に顔を向ければ、少し先に小道の向こうから
誰かがこちらを窺っている姿が見える。
何やら警戒しているその様子に、自然と神威の口元に笑みが浮かんだ。
当たり前だろう。夜も更けたこんな時間に、塀に向って何か
しているのだから。
ん~、騒がれて散歩の邪魔されるのもアレだし、殺っちゃおうかな?
あぁ、でもあの様子からすると、まだ子供だよね、アレ。
女子供を殺すのはあんまり気が進まないんだよね~。
後々強くなるかもとか思うと、物凄く惜しいし。
そんな事を考えていると、何も答えない自分をますます怪しんだのか、
再びその人物から声を掛けられた。
ま、とりあえずこの状況を言ってみるだけ言ってみるか。
それでもし騒がれたら殺せばいいだけの話しだし。
・・・ま、信じないと思うけど。
そう結論付けた神威は、髪が塀に絡まってしまった事を
とりあえずその子供の影に告げた。
「え?大丈夫ですか?」
だが、その子供は神威の言葉を信じたらしい。
心配げにそう言うと、足早に近寄ってくる姿に神威の目が開かれる。
そして近付いてきたその顔に、今度はゆっくりと弧を描いたのだった。
一方、近付いてきた人物はそこに佇んでいる人物に、
心配げな顔を驚きの表情へと変えていた。
「な・・・んでアンタが・・・」
「そう言う君は、あの時居た子だよね?」
そう、今目の前に居る子供は、格好は違っていても
確かにあの時、吉原で自分に攻撃をしてこようとする妹を止めていた
人物で。
「ど~も、妹がお世話になってるみたいで」
神威はそう言って軽く頭を下げた。
それに釣られるように頭を下げ返す新八。
「いえいえこちらこそ・・・ってちがっ!!
いや、違わないけど!!でも、え?なんで!!?」
どうやら突然の出会いにパニックになっているらしい。
一人で慌てている新八に、神威の口元はやんわりと上がる。
「・・・なんでここに居るんですか」
暫しその慌てぶりを観察していると、漸く落ち着いたのか
新八は酷く警戒しながらそう神威に問い掛けた。
それにコトリと首を傾げる神威。
「さっき言わなかったっけ?散歩してたら髪が絡まったんだよ。
それにそんなに警戒しなくていいって。
俺、女子供はあんまり殺さない主義だから」
「いや、だからどうして散歩しててそうなるんですか?
なんでこんな時間にこんな所を散歩!!?
ってかあんまりって何!?
警戒解けないんですけどぉぉ!!?」
思わず新八がツッコムと、神威は困ったように笑みを崩して
肩を竦めた。
「こんな時間にそんな大声はよくないな。
近所迷惑も考えた方がいいよ?
安心しなって、俺はもう行くから。
この塀ぶち壊して」
「そっちの方が明らかに近所迷惑ぅぅぅ!!!」
「あ、また」
神威に指を指されて指摘され、新八は慌てて自分の口を
両手で塞いだ。
が、直ぐにそれを外して、今度は小さめの声で神威に問い掛けた。
「・・・なんで塀を壊すんですか」
「なんでって・・・髪が絡まってるから?」
解けないんだよね~。と笑う神威に、新八は大きく息を吐いた。
「判りました。僕が解きますから壊すのは待って下さい」
そう言うと、新八は未だ警戒しながらも、ゆっくりと神威の傍へと
近寄っていく。
そして背後へとまわると、塀に絡まっている髪へと手を伸ばした。
新八のその行動に、神威は不思議そうに向けた。
自分の事は妹である神楽から色々と聞いているだろう。
それに自分はそんなに手を出していないにしても、
敵対していたのは確かだし、現に阿伏兎とは戦ったと聞く。
なのにこの少年の態度はなんなんだろう。
一応警戒はしているものの、自分から見れば
そんなものは何の役にも立っていない。
無防備もいいトコだ。
神威の視線に気付いたのか、新八が解いている手元から顔を上げた。
「どうしました?」
「いや・・・君って本当は強かったりする?」
そう言えば夜兎の血が暴走した妹を止めたとも聞いた。
そんな思いから神威が問い掛ければ、新八は一瞬目を丸くし、
次に苦笑を浮かべた。
「そうだったら良かったんですけどね・・・全然ダメですよ」
「でもあの神楽を止めたんだろ?」
「あれは・・・ただ護りたくて必死なだけでしたから。」
本当に強かったら、皆にあんな怪我させません。そう告げる新八に、
神威はフーンと答えた。
確かに、この少年は強くはないのだろう。
では、何があの神楽を止められたのか。
この少年の言う通り、護りたいという思い故なのか。
「・・・それもまた別の強さってやつなのかな?」
「え?何かいいました?」
「ん~ん、別に?それよりもう解けた?」
声に出ていたのだろうか、不思議そうに問い掛けてくる新八に
逆に問い掛ける神威。
それに慌てた声で もう少しですっ! と返し、新八は
絡まった髪の毛へと視線を戻した。
「はい、もう大丈夫ですよ」
どれだけ時間が経ったのか、新八にそう言われ、
神威は寄り掛っていた塀から体を起こした。
丁寧に解かれたらしいソレは、さほど変わっておらず・・・
「すみません、不器用だから時間が掛かっちゃって」
苦笑して謝る新八に、神威は笑顔のままキョトリと見返す。
「あ~だからか・・・ならもっと適当で良かったよ?」
解かれた毛先を見ながらそう呟くと、何言ってんですか。と真剣な
表情で返された。
「髪は大切にしなきゃ。特に貴方は」
「・・・それ、何か意味が含まれてたりする?」
にっこり笑う神威に、慌てて両手を振る新八。
「い、いや別になんの意味も含まれてませんよ?
ただ綺麗な髪だから勿体無いなぁって思っただけですから。
あ、勿体無いって言っても、全然深い意味はっ!!」
「・・・君って結構墓穴掘るタイプだよね?」
「すいまっせ~んっ!
本当、すんまっせ~んっ!!!!」
土下座でもする勢いで謝る新八に、まぁいいけど。と手にしていた髪の毛を
離し、踵を返そうとした神威だったが、
続いた新八の言葉に、ピタリとその足を止めた。
「でも、本当綺麗だったし。
切らないですむならその方がいいじゃないですか」
「・・・そんなもんかな?」
自分ならばさっさと切るだろうし、それが嫌なら塀ごと壊すだろう。
現にさっきまでそのつもりだったのだ。
だが、目の前の少年はそれをせず、
警戒してる癖に酷く丁寧に自分の髪を扱ってくれた。
神威は そうですよ。とニコニコと頷く新八に、
再び髪の毛を手に取ると、絡まっていた部分に視線を落とした。
目の前の少年に丁寧に扱ってもらった、自分の髪。
今まで気にもしなかったけど、これからは少しは手を掛けてみようか。
そんな気持ちが不思議と浮かんできて、神威は一瞬そんな自分に戸惑いを
感じた。
「・・・にしてもアレですね」
そんな神威に気付かず、クスリと笑う新八に、神威は首を傾げる。
「やっぱり兄妹ですね。
神楽ちゃんと髪質がそっくり。」
だから尚更適当になんかできませんよ。そう言って嬉しそうに笑う
新八に、神威の頬がピクリと動く。
「・・・や、俺の方が綺麗だと思うけどね?」
「そうですか?二人とも同じぐらい綺麗ですよ?
って言っても神楽ちゃん、直ぐに適当にしちゃうから、僕がきっちり
ケアしてるんですけど」
その言葉に、再び神威の頬がピクリと動く。
へ~、アイツの髪までもきっちり護ってる訳ね。
・・・・うん、アレだ。
なんか判んないけど、これからはきっちり手入れしよう。
誰よりも綺麗な髪で居てやろう。
サラサラのフサフサで居続けてやろう。
そう心に決めて、神威はニコニコと笑っている新八へと
視線を戻した。
「そう言えばまだ名前聞いてなかったね。
俺は知ってると思うけど神威ね」
そう言うと、新八は慌てて自分の名前を神威へと告げた。
志村新八・・・ねぇ。
神威はやんわりと笑うと、そっと新八の頬へと手を添えた。
その頬は柔らかく、驚いていて目を丸くしているものの
反応は遅い。
体も小さいし、子供と言ってもギリギリのラインだろう。
そうなるとこれから爆発的に強くなりそうにもない。
でも、なんだか酷く楽しみだ。
神威はそのまま手を新八の頭へと乗せると、軽く撫でるように
数回叩いた。
そしてゆっくりとその手を降ろし、今度こそ踵を返す。
「まぁ色々とあると思うけどさ、死んじゃダメだよ。
俺に食われるまで」
「は?・・・え、あの・・・・
はぁぁぁぁぁ!!!?
ちょ、何不吉な事言ってんですか!
ってか色々と怖すぎるんですけど、
その言葉ぁぁぁ!!!」
「あはは、また大声。
近所迷惑だよ~」
「アンタの方が精神的に迷惑だぁぁぁ!!!!」
叫ぶ新八を背に、神威はヒラヒラと手を振って別れを告げると
そのまま飛び上がり、夜の空へと消えていった。
「・・・団長、何やってんだ、アンタ」
「ん~、見て判らない?枝毛切ってんだけど」
「見て判っても、思考が判断拒否したんだよ。
ってか今までそんなの気にしてなかっただろ?
やっぱりアレか。遺伝が気になり始めた・・・」
「阿伏兎、ウサギって鳴かない生き物らしいよ?
凄いよね、見習ってみる?」
「・・・や、遠慮しとくぜぇ」
「なんだ、つまんないな。・・・っと、これでよし」
枝毛を切り落とした髪を見詰め、神威は満足そうに頷く。
うん。やっぱり護りたいとも、そんなモノが欲しいとも思わないが・・・
「偶には護られるってのもいいもんだよねぇ」
そう言って神威は酷く楽しげに笑みを零した。
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三万打お礼企画第五弾。
香山さまからのリクで「神威×(+)新」
との事でしたが・・・如何だったでしょうか?
この二人、年も近いはずですし、気になりますよね~vv
ニヤニヤしながら書かせて貰ったんですが、どうも
それに文章力が追いついていかないようで(泣)
こんな感じになりましたが、少しでも気に入って頂けたら
嬉しいですv
企画参加、有難うございましたvv