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日も高くなってきた頃、晴れ晴れとした空とは対照的にどんよりとした
空気を背中に負いながら、銀時は道を歩いていた。
その足取りは重く、フラフラとしているが、それでも少しずつ
前に進んでいた・・・が、突然その足が止まる。
そして垂れていた頭をのそりと上げ、目の前の建物を気まずそうに
見上げた。
銀時の視線の先、そこは自分の家である万事屋があって。
「・・・もう来てんだろうなぁ」
銀時はそう呟くと、大きな溜息を吐いて再びその頭を垂れた。
昨夜、長谷川に誘われて呑みに行こうとした所、新八に釘を刺されたのだ。
自分は今日は帰らないといけないから、早めに帰って来い・・・と。
どうやら新八は神楽を夜一人にする事に抵抗があるらしい。
その気持ちは十分判る。
俺だって子供を一人にするのには、あまり賛成出来ない。
だが相手は子供ではなく神楽だ。
しかも定春まで居るのだ。
これの何処に不安要素があると言うのだ。
大体子供だって一人の人間だ。
そいつの自主性を尊重していこうぜ。
そんで銀さんの呑みに行く行動も尊重して下さい。
前にそう言ったら本気で殴られて、少しの間口を聞いてくれなかった。
や、別にいいけどね。
新八に殴られても全然痛くねぇし、無視されても返って小言を
言われなくて済んで、万々歳なぐらいだったし。
まぁでも子供の言う事を聞いてやるのも大人の勤めだし?
少しだけ新八の言い分を聞いてやろうと思ったけどね?
それだけだから。
大人の余裕って言うか貫禄って言うか、そう言う事だから。
別に殴られて滅茶苦茶心が痛かったり、小言どころか
存在すら無視されて泣きそうになって心底堪えた
とかじゃ全然ないからっ!
強い子だからね、銀さん。
最終的に布団の中で
丸まってなんかいないから、本当っ!!
・・・でもとりあえず謝ろう、うん。
銀時はもう一度息を吐いて覚悟を決めると、渋々足を動かし始めた。
「いや~もう参ったよ、長谷川さん全然離してくんねぇんだもん。
もうアレよ?銀さん超帰りたかったのに、許してくんねぇんだもん。
最悪だね、本当。いっそそこら辺に沈めてこようかと思ったけどさ、
ホラ、銀さん優しいじゃん?可哀想な人、見捨てて置けないじゃん?
そのせいでこんな時間まで連れ回されちゃってさ~。
あ、呑み代はちゃんと迷惑料として全額出させてきたから
安心して?あ~、でもそれぐらいじゃ怒りは収まらないよね。
って事で怒るなら是非長谷川さんに・・・って、アレ?」
先程の決心は何処に行ったのか。
玄関を開けた瞬間からダラダラと言い訳を吐き出し、なんとか
新八の怒りを回避しようとした銀時だったが、何の反応も
返って来ない事に我に返り、足元に落としていた視線を
ちらりと上げ、数回瞬いた。
「んだよ、まだ来てなかったのかよ」
緊張して損した~。と、銀時は体の力を抜き、そのままソファへと
倒れこんだ。
そして暫し、ゆっくりと忍び寄ってくる眠気に身を委ねる。
し~んと静まり返り、時計の音しかしない室内は、
眠るのに打って付けだ。
そのまま時計の音を子守唄に、眠りの国へと入国した所で
ふと、ある事に気が付く。
「・・・あれ?定春居なくね?」
閉じそうになる目をなんとかこじ開け、頭を上げれば
やはりその巨体は何処にも見えない。
「・・・ってか静か過ぎじゃね?」
幾ら寝ていたとしても、胃袋に忠実な神楽が起きて来て
騒ぎ出していい時間だ。
だが、そんな兆候・・・と言うか物音一つしない。
「・・・っつうか遅過ぎだろ」
時計を見れば、その針は十時を指していて。
遅刻にしても遅すぎる時間だし、何より生真面目な新八が
遅刻するなんて有り得ない。
「・・・もしかして呆れて実家に帰っちゃったとか?」
一瞬、怒り心頭の新八が身支度を整え、神楽達と共に
万事屋を出て行く光景が脳裏を過ぎるが、直ぐに銀時は
頭を振ってそれを追い出した。
「いや、ない。ないな、うん。
神楽はアレだ。何時も通り定春を連れて遊びに行ってて、
新八は買い物かなんかだ、うん」
自分に言い聞かすようにそう呟くと、銀時はゴロリと体勢を変えて
再び目蓋を閉じた。
うん、だってアレだもん。こんなの何時もの事だし。
この間だって怒られたばっかりだし。
・・・あ、でもその時、今度やったら・・・判ってますね?って
言われたっけ。お妙譲りのあの笑顔で。
そん時は判ってます!!って答えたけど・・・
何を判ってたんだ?あん時の俺。
今現在全然判んないんですけどぉぉぉ!!!
え?もしかしてヤバイ?これってヤバイ感じ?
「って、どうヤバイ感じなんだっつうのっ!!!!」
叫びながら体を起こすが、やはり何も返っては来ない。
銀時は横たえていた体を起こし、ソファに座って額に手を当てた。
その脳裏に浮かんでくるのは、先程思い描いた光景ばかり。
「いやいや、違うから。
本当そんなんじゃねぇから。
第一新八はここに住んでねぇし。
何時か住ますけど」
ははっと力なく笑ってそう呟くと、銀時はゆっくりとソファから
腰を上げた。
「大丈夫だって。だってこんなにいい天気だよ?
神楽が何時までも家の中に居る訳ねぇじゃん」
そう言いながらも、一応神楽の寝床である押入れを
開いてみたりする。
・・・が、やはりソコには誰も居なくて。
「もしかしたら新八と一緒にこっちで寝てんのかもしんねぇし」
そう言って今度は自分が普段寝ている和室の襖を少しだけ開けてみる。
・・・が、ソコには新八が敷いておいてくれたのだろう、
銀時の布団しか見えなくて。
「いやいや、もしかしたら銀さんを驚かそうと、どっかに
隠れてるのかもしんねぇなぁ」
あいつ等ガキだし。そう言いながら机の下や風呂場等も覗くが、
期待している姿は見えず、更に玄関まで行ってみたら
履物すらなかった。
「ってぇ事はやっぱアレだ。買い物だね、買い物。」
それか散歩。うんうんと自分に言い聞かすように呟きながら、
銀時は水でも飲もうと台所へ足を踏み入れた。
そしてコップを手に取り、蛇口に手を置いた所で、
ふとある違和感に気が付いた。
手に取ったコップは乾いていて、見れば食器は愚か、鍋も
乾いたままだ。
おまけにシンクには水滴一つついていなくて・・・
銀時は手にしたコップを放り投げると、勢い良くその体を
玄関へと走らせた。
幾らなんでも朝食を作ったのならば、あんな風に
乾いている筈が無いのだ。
それと同時に、あの神楽が朝食を食べていないなんて事が
ある訳が無いし、何より新八がそんな事をする訳が無い。
・・・って事は、少なくとも今朝、ここにあいつ等は
居なかったのだっ!
何処だ!?本当に実家に帰ったのか!?
いや、それならいいが・・・って、あんま良くねぇけど、
万が一何かに巻き込まれていたりしたら・・・っ!!
「新八っ!神楽、定春っ!!」
浮かんできそうになる嫌な考えを振り切るように、
銀時はブーツを履くのも面倒だと、そのまま玄関から降りると、
力強く扉を開けた。
・・・と、その瞬間、視界の中に入り込んできた見慣れた
色の頭たち。
「ぅわっ!ちょ、なんですか、行き成り」
「・・・・・・へ?」
驚いた声に、僅かに視線を下ろせば、ソコには真ん丸く目を
見開いている新八の姿が。
「どうしたネ、銀ちゃん。鳩が鉄砲食らったような
目をしてるネ」
「いや、それ普通に死んでるからね。
銀さんのは一応『死んだような』だから」
「どっちも同じネ」
「ワンッ!」
そしてその横にはフンと鼻で笑っている神楽と、大人しく
座っている定春の姿が。
「お・・・前ら、何処に・・・」
突然の事に、呆然としたままそう呟けば、新八が あぁ と
苦笑を浮かべた。
「昨日はあぁ言ったけど、きっと銀さん遅いんだろうなぁと
思って、昨夜は神楽ちゃん達連れて僕の家に行ったんです」
メモに書いてあったでしょ?と言われるが、銀時には全く
覚えが無く、緩々と頭を振った。
それに新八が アレ?と首を傾げる。
「ちゃんと机の上に置いといたのになぁ」
「アレなら私が隠しといたネ。」
「は?ちょ、それじゃ書置きの意味ないじゃん!?」
「チチチ、甘いぜぱっちぁん。まずは隠してあるメモを
見つける所から冒険は始まるものヨ」
「なんの冒険だよ。
あぁ、じゃあびっくりしましたよね、銀さん。」
すみません。と、すまなそうに新八が言うが、冗談じゃねぇ。
びっくりなんてする訳ねぇだろ。
そんな風に思う前に、どうにかなっちまいそうだったよ、俺は。
「え?ちょ、銀さん!?」
「銀ちゃん、離すヨロシ!
何時にも増して臭いアルヨ!!」
「うるせ~。
ってか何時にも増してってどう言う意味だ、コラ」
ギャーキャー騒ぎ出す子供達を無視して、俺は纏めて腕の中に
仕舞いこんでやった。
あぁ、もう本当。どっかに行ってなくて良かった。
何もなくて良かった。
戻って来てくれて、本当に良かった。
とりあえず、こんな事は二度とゴメンだ。と、銀時は
呑みに行くのも程ほどにしよう。と心に誓い、
序に今度会ったら長谷川さんを殴っとこう。と固く心に決めたのだった。
「所で銀さん、やっぱり帰ってきたの遅かったんですね」
「うん、でも大丈夫。元凶である長谷川さんは
今度きっちり殴っとくから」
「は!?いや、元凶も何も、誘いに乗った銀さんが・・・
って何が大丈夫!!?全然意味判んないんですけどぉぉ!
っつうかいい加減離せぇぇぇぇ!!!」
「離してたまるか、ゴラァァァ!!!」
寧ろ一生離しません。
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三万打お礼企画・第八弾。
白様からのリクで
「万事屋に誰も居なくて焦って探す銀さん」との
事でしたが・・・如何でしょうか?
もう少し焦らせって貰おうと思ったんですが、
そうなると白夜叉様御降臨となりそうだったので、
ここまでにさせて頂きましたv
こんな感じになりましたが、少しでも気に入って頂けたら
嬉しい限りですvv
企画参加、有難うございました。