[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「失礼しや~す」
沖田はそう言うと、返事を待たずに目の前の扉を開けた。
「先生ぇ、持って来やしたぜィ」
中へと足を踏み入れながら、目当ての人物にそう言うが、
ここでもやはり返事は返ってこない。
さすがに変だと思い、沖田はキョロリと室内を見渡した。
すると窓辺でボーッと立っている銀八の姿を見つけ、
沖田は手に持っていたプリントをヒラヒラと振りながら
銀八の元へと足を進めた。
が、未だに銀八は沖田に気付かない。
ただボーっと・・・と言うかジーッと窓の外を見詰めている。
何か面白いもんでもあるのかねィ。
つられる様に沖田も視線を窓の下へと移すが、別に気を引くものは
何もない、至って普通の光景だ。
だが、その光景の中に、見知った顔を沖田は見つけた。
そしてもう一つ、見知らぬ女生徒の姿も。
声までは聞こえないが、雰囲気だけはヒシヒシと伝わってくる。
どうやら青春における一ページ的な光景らしい。
恥ずかしそうに、けれども必死な感じで新八に何かを差し出している
女生徒。
それを見て、これまた恥ずかしそうに、けれども困ったような
居た堪れない感じの新八。
そして、それをじっと見詰めている銀八。
よくよく見れば、その表情は怖いぐらいに無表情で、
沖田は小さく溜息を吐いた。
クラス内で地味だなんだと言われてはいるが、他人への優しさや
生真面目さ、面倒見の良さなどもあって、新八は結構もてる。
しかも見掛けで騒ぐ連中の様なものではなく、真剣なヤツラに。
その代表が、ここに居る大人なのだけど・・・
「先生ぇ、大人気ねぇでさァ」
ポツリと呟けば漸く自分の存在に気付いたのか、銀八が
ちらりと視線を寄越してきた。
「あ?何がだよ。ってか何でここにいんだ?」
「提出物を持って来たんでさァ」
ヒラヒラとプリントを振って渡すと、銀八はクルリと窓に背を
向けて受け取ったプリントへと視線を落とした。
「ったく、今頃出すなよ。
寧ろ出すな、ここまできたら」
提出期間ギリギリじゃねぇか。ブチブチと文句を言う銀八を余所に、
沖田は窓枠に肘を置くと、そのまま先程の光景を見詰めた。
「先生ぇ、あっちはもういいんですかィ?」
「・・・何がよ」
「新八、手紙受け取りそうですぜィ?」
そう言うと隣の銀八が微かに反応するのが感じられた。
だが、背は向けられたままだ。
それにチラリと視線を向けながら、沖田は今現在の状況を再び報告した。
「てか受け取りやした」
「・・・あ、そう」
興味無さ気にそう言い、あくまで背を向けたままの銀八に、
沖田は小さく肩を竦める。
それを感じてか、銀八は落としていた視線をプリントから外すと、
白衣のポケットからタバコを取り出して口へと咥えた。
「別にいいんじゃね?青春上等じゃねぇか。
いや~羨ましいねぇ、おい」
それはどっちが?
タバコに火をつけながら、自分の机へと戻る銀八に問い掛けてみたかったが、
上手く交わされるのが目に見えていたので、とりあえず止めにする。
そう言う所は嫌なぐらい大人なのだ、この男は。
沖田は既に誰も居なくなった窓の下から目を外し、体を反転させて
窓枠へと寄り掛る。
全く、本当は誰よりも先程の少年に固執している癖に。
偶にはそれを前面に出してみればいいのだ。
どうせ今更な社会的地位なのだし、その方が面白みがあるってもんだ。
自分的に。
「そう言うなら先生も青春したらどうでさァ」
皆、そっと見ない振りしてくれまさァ。そう言うと銀八は椅子に座ったまま
軽く手を振った。
「あ~無理無理。俺、もうそう言うの遥か昔に卒業してるから。
ってか何、その半端で生暖かい優しさ。
大体そう言うのは若いモンの特権でしょ。
俺等大人はただ見守るだけよ」
って事でお前もさっさと青春しに行け。と、今度は追い払うように手を
振ってくる銀八に、沖田は軽く肩を竦めながら、体を起こした。
「へいへい、だからさっきも見てただけって事ですかィ。
全く大人の余裕ってのは凄いもんでさァ」
見習いたくはねぇですけど。そう言う沖田に、銀八は一瞬目を丸くすると、
次に苦笑へと表情を変えた。
と、その時、コンコンと扉を叩く音が室内に響いた。
そして聞こえてくる、聞き慣れた声。
銀八はそれに答えると、扉が開き、予想通りの姿が現れる。
「あれ?沖田さん、何してるんですか?」
キョトンとした顔で自分を見てくる新八に、沖田はここに来た理由を
簡潔に述べた。
それに呆れたような顔を返す新八。
「全く、だから早く出しといて下さいって言ったのに」
「いいじゃねぇか、ギリギリでも間に合ったんだから。
それより新八はどうしてここに?」
部活に入っていない新八は、放課後になれば学校に居る理由がない。
・・・まぁ今日は理由があったようだけれど。
そう聞くと、新八は何かを思い出したかのように小さく声を上げると、
銀八へと視線を向けた。
「先生、なんなんですか、このメモッ!!」
そう言って突き出したのは折り目の付いた小さなメモ用紙で。
「ん~?そのまんまだけど?」
「そのまんまじゃねぇよっ!毎回毎回・・・どうせ呼び出すなら
HRの後にでも言ってくださいよ」
二度手間じゃないですかっ!そう怒る新八から、銀八に止められる前に
突き出されていたメモを奪い、視線を落としてみる。
ソコには見慣れた文字で一言。
『放課後、資料室まで』
「・・・これ、何処にあったんでィ」
「下駄箱ですよ。僕帰る所だったのに」
「毎回?」
「ほぼ毎日ですね。
他にもお弁当のおかずのリクエストとか
色々チョクチョクと・・・」
紙の無駄遣いですよ。ムッとしたままそう答えられ、
沖田はへ~。と返しながら銀八へと視線を移した。
そこには素知らぬ顔で何処かを見ている銀八が。
「・・・見守るだけ・・・ねィ?」
にやりと口元を上げ呟く沖田に、新八が軽く首を傾げる。
そしてその意味を聞こうとするが、その前に銀八から今日の手伝いを
言い渡され、ブツブツ言いながらもそれをこなす為、
資料室の奥へと足を進めていった。
残されたのは苦い顔をした銀八と、ニヤニヤ顔の沖田。
「・・・大人って言うよりガキでさァ。
まんま中二的な」
「そっと見ない振りしてくれるんじゃなかったの?」
「それは皆であって、俺自身の事じゃありやせん」
なんとも言えない表情で聞いてくる銀八に、酷く楽しげな顔で
そう答えれば、自称大人は盛大な溜息を吐いて肩を落とした。
**********************
三万打お礼企画・第六弾
姫りんご様からのリクで
「3Zで大人の余裕ぶっててもギリギリな銀八」
と言う事でしたが・・・如何だったでしょうか?
なんか単なるヘタレになったような・・・ι
まぁ何時ものことなんですが(おいっ!)
こんな感じになりましたが、少しでも楽しんで頂ければ
嬉しい限りですv
企画参加、有難うございましたvv