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※『衝動』
↑こちらの続きになります。
「っ!?」
新八の口から小さな声が漏れ、俺は一瞬体が固まる。
見れば新八は驚いたのだろう、ただでさえでかい目を丸くし、
次に視線を落として緩々と口元をあげた。
本人としては笑ったつもりなんだろうが、俺にはきつくて。
俺も素早く視線を逸らした。
新八はそんな俺に向け、気まずそうに少しだけ赤くなった掌を、
もう一つの手で包み込み、 すみません。 と小さく
謝罪を口にする。
別に新八が悪いわけじゃない。
ただ、出掛けようとしていた俺の肩に、糸くずがあったのを
見つけて取ってくれようとしただけだ。
普段通りに『いってらっしゃい』と声を掛けられ。
『夕飯までには帰ってきて下さいよ』と注意され。
そして、『あ、ちょっと待って下さい』と手を伸ばされただけだ。
なのに、俺が普段通りではなかった。
掛けられた声に胸を鷲掴みにされ、伸ばされた手に恐怖し、
――――思い切り振り払ってしまった。
違うんだ。俺オマエの笑顔を守りたいだけなんだ。
これはオマエを守る為なんだ。
だって触れられたら、もう。
その体温を感じたら、もう。
オマエの望む『俺』でいられなくなっちまう。
まだ最初の頃は良かった。
触れられても我慢できたし、触れるのも我慢できた。
けど、それが段々と出来なくなってきてるのが現状だ。
触れられたら、もっと触れていて欲しい。
触れる事が出来るなら、ずっと触れていたい。
そんな欲求は治まることを知らず、それ所か増すばかりで。
本当、大人だから我慢出来るもんでもねぇし、
大人だからこそ、我慢出来ねぇもんなんだな。
自分の愚かさ加減に、心底呆れちまう。
でもまだオマエは子供だから。
守るべき愛しい子供だから。
だから頑張って頑張って、
俺からオマエを守っていたのだけれど。
浮かべられたその笑みは、俺が守りたいと思っていたものではなくて。
・・・何やってんだろうな、俺。
「・・・悪ぃ」
少しでも何時もの笑顔に戻って欲しくて、気合を入れなおし
そっと手を伸ばせば、ビクリと微かに震える体。
・・・そりゃそうだ。
ここの所、ずっとこんな感じだったもんな。
自分の所業を思い出し、苦く笑う。
でもな、全てオマエの為だったんだよ。
それだけは本当なんだ。
俺も、オマエのくれた空間を愛していたし、
『家族』と言う言葉がとても大切だったんだ。
けれど今はそんな空間とは正反対の空間で。
俺は深々と溜息を吐いた。
・・・あぁ、でもこれで良かったのかもしれねぇな。
気まずい空気の中、ぼんやりとそんな事を思う。
だってオマエから逃げてくれれば、きっとこの空間は守られる。
俺は、俺からオマエを守ってやれる。
だからそう、逃げて、逃げて・・・
・・・逃がすのか?
「っ銀さん!?」
気が付けば、俺は伸ばした手をそのままに、
勢い良く新八を自分の下へと引き寄せていた。
突然の事に腕の中で新八が慌てふためくが、
今の俺にとっちゃそんな事問題じゃねぇ。
だって逃がしてどうすんだよ。
こんな空間を守ってどうすんだよ。
俺が守りたかったのは、あの暖かく、甘い空間だ。
決して今のこんなピリピリした空間じゃねぇ。
しかも笑顔なんて、ここ最近見てねぇ。
見たのはさっきのような、辛そうな悲しそうな、そんな笑顔だ。
守りたかったもんなんて、もうとっくに壊れてんじゃねぇか。
なら・・・と、俺は抱き締めている腕に力を込めた。
新八の体が強張るのを感じるが、もういい。
このまま逃がすより、よっぽどいい。
「・・・新八」
俺は小さく形の良い新八の耳元に口を寄せ、そっと名を呼ぶ。
ピクリと肩を震わし、そろそろとこちらを見ようと顔を
動かす新八だが、俺がギュッと抱き締めているせいで
上手くいかないようだ。
「・・・銀さん?」
戸惑うような声で、俺の名を呼んでくる。
あぁ、そう言えばここ最近はずっとそんな感じだったな。
口調は変わらないけど、何処か伺うようなその声色。
きっとオマエも必死だったんだな、あの空間を守る為に。
でもな?もう無理だわ。
だってあの空間は壊れてしまっただろ?
俺が守ろうとすればするほどに。
オマエが守ろうとすればするほどに。
どんどん、どんどんあの愛しく大切な空間は遠くなっていって。
オマエもどんどん、どんどん遠くなってしまって。
なら。と俺は思う。
壊れてしまったのなら、無くなってしまったのなら。
なら、もういい。
笑顔なら、もうアレでいい。
笑っていてくれるなら、もうそれでいい。
暖かく、優しい空間はもういい。
オマエが遠くなるくらいなら、もういい。
とんでもねぇ醜い感情に自分でも吐き気がする。
しかもそれに安堵してるってんだから、よっぽどだ。
未だ固くなっている新八の肩に額を当てて、
口元をゆるりと上げる。
「本当、悪い大人でごめんなぁ」
ってか寧ろ最悪な大人だな。出てくるのは謝罪の言葉だが、
小さすぎたのか、新八からはなんのリアクションもない。
っつうか意味が伝わってねぇのか?
ま、いいけどな。
そんな心も篭ってねぇし。
俺は小さく笑って、見える白く細い首筋に唇を寄せた。
途端、大きく震えた体と驚きの声に、また笑いが漏れる。
非難するならすればいい。
嫌悪するならすればいい。
俺はさ、もうオマエの望む『俺』じゃねぇかもしれねぇけど。
俺は『オマエ』なら、もうなんでもいいんだよ。
あぁ、でも逃がす事だけはもう出来ねぇな。
抱き締める腕にもう一度力を込めると、俺は薄く笑ったまま
とても大切で愛しかった空間へと別れを告げた。
それでまた一層清々しい気分になれた俺は、
本当に最悪だ。
八万打企画・第九弾。kentan様からのリクで、
『衝動』の続き・・・と言う事でしたが、如何だったでしょうか?
以前のものも読んで下さって、本当に有難うございますvv
当時、ドS方向で考えていたと思うんですが、書いてみたら
単なる最悪人間になってました~っ!!(土下座)
・・・こんな続編でも良かったですかね?(ドキドキ)
こんな感じになりましたが、少しでも気に入って頂ければ
嬉しい限りです。
企画参加、本当に有難うございましたvv