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朝、何やらゴソゴソと動いている気配で目が覚めた。
パシパシと目を瞬き、枕もとの時計を手に取ると、
既に何時も新八が起こしに来る時間を過ぎていて。
俺は回らない頭をコテリと傾げた。
まぁいいや、起こされるまで寝ていよう。
と布団に潜り込むが、ゴソゴソと動き回っている気配が
気になって眠れない。
ってか何時もの朝食を作ってる感じと違わね?
しかも新八だけでなく、神楽も起きているようで
二人でコソコソと話す声まで聞こえてくる。
・・・なんで俺を起こさず、二人でコソコソしてんだ?
や、別にいいけどね?こうやって二度寝出来るし。
なんか眠気ぶっ飛んでるけど。
でも、出来ないまでも布団でゴロゴロ出来てるしね?
この時期、布団でゴロゴロ出来るなんて幸せ以外の何物でもなくね?
だから全然気になんねぇんだけど・・・ほら、大きい音より
小さな音のほうが気になるって事、あんじゃん?
今もそんな感じだからさ・・・
もういっその事大きい声で喋ってくんねぇかなぁ!?
全然話してる内容とか興味ないけどぉ?
・・・あ、でも悪口とかだったらどうしよう。
・・・や、それも全然気にしないけどね!
ほら、銀さん大人だから。子供の言う事なんて軽く流せるから?
・・・でも直せる所だったら少しは考慮すっかな。
うん、ホラ銀さん、大人だから。
と言う事で・・・俺はそっと体を起こすと静かに襖へと近付き、
耳を当てた。
すると先程よりもよく聞こえてくる二人の声。
「あ、神楽ちゃん、そこちょっと歪んでるよ?」
「そうアルカ?まぁ少しぐらいなら大丈夫ネ。
銀ちゃん自体が歪みまくってるから」
・・・え?やっぱり悪口?
「もう、神楽ちゃんてば・・・ま、いっか」
え、いいの?良しにしちゃうの、新ちゃん!!?
ってか銀さんの何が歪んでんだ、コノヤロー。
今現在歪んでるらしい『ソコ』と共に説明して下さい!!
「でも銀ちゃん、きっとびっくりするネ。
朝起きたら『ハッスル祭り』だなんて夢のようヨ」
・・・そりゃ確かにびっくりするわ。
ってか何?その祭りぃぃ!!?
夢のようってより、悪夢そのものなんだけどぉぉ!!
「違うでしょ、神楽ちゃん。
ハッスルじゃなくてバースデーでしょ」
呆れた新八の声が聞こえ、俺はほっと胸を撫で下ろした。
あぁ、良かった。朝っぱらからどんな仕打ちを受けるかと
思ったじゃねぇか。
そうかそうか、バースデーか。
バースデー祭りの間違いか・・・て、なんで祭り?
っつうより!!
俺はばっと襖から耳を離して、カレンダーへと目を動かした。
・・・おいおい、俺の誕生日かよ、今日。
そう気付いた瞬間、顔がにやけるやら何か胸がこそばゆくなると言うか。
ならばこうして居て気付かれては不味いだろう。
・・・と、俺は素直に布団へと戻ることにした。
だって折角俺を驚かせようと頑張っているのだ。
ならばここは寝た振りでもして盛大に驚いてやらなければいけないだろう。
ったく、それにしてもあいつ等もお子様だね~。
こんなんで銀さんが喜ぶとでも思ってんのかよ。
言っとくけどアレだよ?この年にでもなれば、
寧ろ忘れられてた方が良い感じだからね?
そんな祭り、されても恥ずかしいだけだから。
あ、でも銀さんは大人だからちゃんとノッてあげるけどね?
ノリノリで驚いてあげるけどね?
いや~、お子様に付き合うのも大変だなぁ、おい。
「そう言えば神楽ちゃん、プレゼント用意出来た?」
ウキウキと布団へと移動し始めたその時、不意に新八の言葉が
耳に入ってきた。
それに対し、俺の耳がピクリと動く。
・・・や、後の楽しみにとっときたいんだけどね?
でもホラ、何か気に何じゃん?
で、気になったら最後、眠れなくなんじゃん?
まぁ眠気なんて綺麗さっぱりどっかにいっちまったんだけどさ。
でも・・・と俺は静かに襖へと体を戻した。
とりあえず新八は新しいマフラーを編んでくれたらしい。
・・・やべ、何かもうのた打ち回りたい。
だってオマエ、新八の手編みだよ、手編み!
これで何処に居ようと新八の愛を感じられていれるってもんだろ。
や、なくても何時も感じてるけどね、愛。
でもそっか~、マフラーか~。
確かマフラーは『貴方に首ったけv』って意味があるんだっけ?
え?違う?マフラーじゃなくてネクタイ?
いいんだよ、もう俺の中では一緒になったから。
っつうかどっちも首に巻くもんなんだから、変わりゃしねぇよ、んなの。
寧ろ手編みであるだけマフラーの方が上だね、上。
あぁ、でもどうするよコレ。
もうこれはお妙に挨拶しに行くしかなくね?
本物の坂田家にするしかなくね?
とりあえずお妙の拳を受ける覚悟を決めていると、
新八の先程の答えを告げる神楽の声が聞こえてきた。
「私のもバッチリネ!」
「へ~、何にしたの?」
「新八!」
「ん?何?」
「だから、新八アル!!」
「・・・は?」
その瞬間、思わず襖を開けて神楽を褒め称えてしまった俺は、
・・・・・・多分悪くない。
************
その後、がっかり感溢れるお子様達に
温度の低い視線を投げかけられる坂田。
・・・とりあえずマフラーだけ貰えました(笑)
その日は久し振りに入った仕事で、少しばかり夕飯が遅くなってしまった。
とりあえず簡単なものを作り、食べ終わったのが九時過ぎ。
そこから後片付けをして、明日の朝食の準備もして、
予め家の中に干しておいた洗濯物を寄せて畳み、合間に
お風呂から出てきた神楽ちゃんの髪の毛を乾かして・・・
・・・で、なんでアンタまで
タオルを差し出してくるんですか、銀さん。
もう寝ると言った神楽ちゃんにおやすみの挨拶をし、
使い終わったタオルを片手にその場を後にしようとしたら、
何時の間にお風呂から出てきたのか、銀さんが僕のすぐ後ろで
立っていた。
何故だか頭をボトボト濡らしたまま、タオルを差し出して。
「俺も頼むわ」
や、頼むわじゃないでしょ。
え?銀さん一体何歳のつもりですか?
寧ろ何様のつもりですか?
思いっきり嫌だという感情を表に出してみたのに、
銀さんはそんな事気付きもしないようで、さっさと僕に
タオルを渡すと、先程まで神楽ちゃんが座っていたソファへと
腰を降ろしてしまった。
その上、肩に手を当てて首をコキコキと曲げ、
「いや~今日は疲れたわ。
なんか今日の銀さん、凄くなかった?
ものっそく真剣に仕事してなかった?」
もう手を上にあげる事すら出来ないわぁ。等と言うものだから、
いっその事タオルを放り投げて無視してやろうとした
僕の目論見は無残にも砕け散ってしまった。
・・・確かに、今日の銀さんは物凄く動いてくれた。
仕事の内容は蔵の掃除で、その広さと物の多さに明日まで
掛かってしまうのでは?と思っていたのに、それが
今日一日で終わってしまった程の働きっぷりだったのだ。
「・・・今日だけですからね」
僕は出来るだけ判りやすく深々と溜息を吐くと、
渋々手にしていたタオルで銀さんの濡れた髪を拭くことにした。
・・・気持ち乱暴なのは、微かに納得出来ない心の一部
のせいだと言う事にしといて下さい。
「はい、もういいですよ」
最後の仕上げとばかりに、勢い良く銀さんの髪を撫で付けると、
チラッと時計に目をやる。
げ、もうこんな時間だよ。
のんびりとお礼を述べてくる銀さんを尻目に、
僕は慌ててタオルを洗濯機に入れるべく、その場を後にした。
・・・と、タオルは明日でいいか。
まずは着物を洗って・・・って、色物と一緒にすんなって
あれ程言ってんのに!!
ぐちゃぐちゃに混ぜられている洗濯物を分けてるいと、
ひょこりと銀さんが顔を出してきた。
「新八ぃ、爪きりってどこだっけ?」
「引き出しの一番上ですよ」
とりあえず一回洗ってしまおう。そうすれば明日楽だし。
・・・あ、でもまずは汚れを
落としといた方がいいかな、コレ。
手にした洗濯物の汚れを見ながらそう答える。
銀さんは僕の答えに適当な返事を返し、そのまま居間へと
戻っていった。
全く、自分で探しもしないで。
・・・ってコレ破れてんじゃん!
ぅわ~、どうしよう。コレってこのまま洗ったら
ますます酷くなりそうなんだけど。
縫ってから洗おうか。
あぁ、でもそうしたらもっと帰るのが遅くなるな。
・・・どうしよう。
銀さんの着物を目の前にし、ちょっと思案していると、
再び、今度は居間から銀さんの声が聞こえてきた。
「お~い、ねぇぞぉ?」
ちょ、今の時間考えてくださいよ。
神楽ちゃん、もう寝てるんですよ?
「大きな声出さないで下さいよ」
銀さんの着物を持ったまま、急いで居間へと向う。
そして引き出しの前でしゃがみ込んでいる銀さんを押しのけ、
中から爪切りを取り出して銀さんへと渡した。
「全く、上辺だけ見てないない言うんだから!」
はい、ちゃんと新聞敷いてやって下さいね。
そう言うと おぅ、サンキュ。と言って銀さんはソファの
前に腰を降ろした。
きちんと新聞を敷くのを確認し、僕はチラリと手にしている
銀さんの着物を見る。
・・・ま、やっちゃいますか。
ここまで持ってきてしまった序だ。
僕は裁縫道具を棚の上から下ろすと、銀さんの向かい側の
ソファへと腰を降ろした。
「・・・何?やっぱ破れてた?」
気配を感じたのか、銀さんはパチンパチンと爪を切りながら
僕へと問い掛けてきた。
「気付いてたなら早く言って下さいよ」
「や、気付いてたってかもしかして?って感じだったからよ」
悪いね。等と言葉ほど悪く思っていない口調で
告げる銀さんに、一つ溜息。
「それでも言って下さい。
帰る時間がどんどん遅くなっちゃうじゃないですか」
そう言うと銀さんはパチンと爪を切った後、
キョトンとした顔を僕へと向けた。
「え、何?オマエ帰るの?」
「帰りますよ」
「こんな時間なのに?」
「こんな時間になったのは誰のせいですか。
ってか姉上に今日はちゃんと帰ってきときなさいって言われてるんで」
朝、出かける時に言われた言葉を告げると、銀さんは
フーンと言ってまた爪きりへと戻ってしまった。
うん、今日は言われたんだよね。帰って来いって。
明日の朝、久し振りに二人でご飯食べたいからって。
だからさっさとこれを縫って帰らなきゃ。
僕は慣れた手つきで針に糸を通すと、破れてる部分を
縫い始めた。
既に深夜に近い時間帯だけあって、部屋の中は静かだ。
聞こえてくるのは銀さんが爪を切る音と、
下から僅かに聞こえる音だけ。
「・・・ってかさ、もうすぐ日付変わるじゃん?」
パチン
そんな中、爪を切る音と共に銀さんの声が聞こえてきた。
うん、そうですね。
「こんな遅くに外歩くの、未成年としてどうよ?」
パチン
別にいいんじゃないですか?
誰かさんが酔い潰れた時とか、よく迎えに呼ばれますし。
「・・・今度店のオヤジに一言言っとくわ」
パチン
その前に酔い潰れないようにして下さいね。
「・・・善処します。
ってかマジで帰んの?」
パチン
えぇ、約束しましたから。
「フーン。なら、仕方ねぇか。
とりあえずこれ終わったら送ってってやるよ」
パチン
え、いいですよ。
銀さんだって疲れてるんでしょ?
「それぐらい屁でもありません~」
パチン
・・・なら髪の毛も自分で乾かせよ。
「それは無理。
それとこれとは疲労の度合いが違うから」
パチン
あきらかに送って貰う方が疲れると思うんですけどね?
そんな会話をしてる内に、針仕事を終えた僕は
一先ず針を置き、繕ってた部分を伸ばしてみる。
うん、なんとか上手に出来た。
後はこれを洗濯機に放り込んでまわすだけだ。
広げていた裁縫道具をしまい、ソファから腰を上げると
再び銀さんから声が掛かった。
見れば既に両手を追え、足の爪ももうすぐ切り終える所だった。
何だろう、なんかまだ用があるのかな?
なら早く言って欲しい。
と言うかいっそ明日にして欲しい。
そんな事を思っていると、銀さんは僕に背を向けたまま
ポツリと呟いた。
「・・・ってかさ、もう日付変わったよな?」
パチン
「え?・・・あ、本当だ。
もう12時過ぎてますよ」
「ならアレだ」
パチン
「なんですか?」
うわ~。と少しウンザリしながら時計を見ていると、
銀さんからそんな意味不明な言葉がかけられる。
何の事だと聞いてみても、銀さんは『アレ』としか言わない。
もう本当何なんだよ。
用があるならさっと言えばいいのに!!
付き合ってられないと銀さんに背を向け、洗濯機へと向おうと
した所で、
「・・・おめっとさん」
パチン
と、思い掛けない言葉が来た。
へ?とカレンダーに目をやれば、ソコには『11』の数字が・・・
って違うか。もう日付が変わったんだから、
今日は『12』日な訳で・・・
あっ!と気付き、思わず振り返れば銀さんは爪きりを終えたらしく、
立ち上がってグシャグシャと新聞を丸めていた。
「銀さん、今のって・・・」
「さ~終わった終わった。
後はちゃっちゃと送って俺も寝るかな」
そう言って僕に背を向けたまま、ゴミ箱に新聞を放り投げている
銀さんの顔は見えないけど。
「あ~、でも面倒だなぁ、おい。
・・・やっぱさ、オマエ泊まってかねぇ?
姉ちゃんが帰ってくる頃には送ってくからよ」
そう言って未だ背を向けて伸びをしている銀さんの顔は
やっぱり見えないけど。
微かに見える銀さんの耳が赤くなっていて、
僕はこっそり心の中で姉上に謝る事にした。
***********
新ちゃんハピバ☆
ちなみにこの後、時間ギリギリに送ってった坂田は
修羅と鉢合わせ、ボコられます(笑)
本日も朝っぱらから通い慣れた三途の川へと旅立っている近藤を
介抱していると、見慣れた人物が庭へと姿を現し、
「お早うごぜぇや~す。今日も朝から回収に来やしたぜィ・・・
って事で早速何か寄越して序に賛辞を並べまくって下せェ」
「え?何そのオブラートに包んでるけど
明確なカツアゲ」
一見爽やかな笑顔でカツアゲされました。
「あ~あ、今日もまた見事に魂切り離してまさァ
何か寄越せよ」
「や、まだ切り離してないですからね?
ギリギリ繋がってますから、魂の糸」
「ギリギリ繋がってるのは警察としての立場でさァ
何か寄越せよ」
「そこがまだ繋がってるのが不思議なんですけどね~」
「本当、権力って素敵でさァ何か寄越せよ」
「え?揉消し肯定宣言!?
ってさっきから何語尾につけてんですかぁぁぁ!!!」
ウザッ!マジでウザッ!!と、縁側で横になっている近藤さんを
挟んで顔を向かい合っている沖田さんに突っ込む。
「ん?何か聞こえやしたかィ?
あ、きっとアレでさァ、天の声か神の声でさァ。
その通りにしとかねぇと、容赦ない不運を落とすぜィ」
「白々しい上に自ら神発言だよ。
大体高給取りが薄給・・・と言うか寧ろ無いに等しい中で
なんとか生活している少年から何を奪う気ですか」
しらっと、しかも怖い事を言い切られたのでそう訴えると、
沖田さんは一瞬キョトンとし、次に違う違うと軽く手を振って笑った。
「奪うんじゃなくて、貢がせるだけでさァ」
「・・・それ、もっと酷くなってますからね?」
見た目がいいだけに、沖田さんの笑顔はとても爽やかで
清々しいが、言ってる言葉はとんでもなく真逆の存在だ。
ウンザリしながらそう言うと、沖田さんは僕の言葉が
気に入らなかったのか、ムッと唇を尖らせた。
「酷いも何も、今日はそう言う日なんでさァ」
「一体どんな日ですか、そんなモノがまかり通る日ってのは」
「んなの誕生日に決まってんだろ」
溜息を吐きつつそう言った所、とても簡潔な答えが返って来た。
あぁ、誕生日ね、誕生日。
若干間違っている様な気がしないでもないが、
ある意味あっていると言えばあっている・・・のかなぁ?
でも、この人にかかればそう言う事になっちゃうんだろうなぁ・・・
「・・・って、はぁ?」
返って来た言葉に、そんな風に思考を飛ばしてしまったけど
直ぐに戻ってきて驚いてしまった。
「え、誕生日って・・・」
改めてそう聞いてみると、僕の心情が判ったのか
非常にいい笑顔を浮かべた沖田さんがゆったりと頷いた。
「今日は俺の誕生日なんでさァ」
さぁ、心置きなく賛辞を述べまくった後何か寄越しなせェ。
「えっと・・・何もありませんけど」
と、とりあえず横たわっている近藤さんをそっと沖田さんの方へと
押してみる。
「いっその事ない方が有難てぇでさァ」
が、直ぐに押し返されてしまった。
いや、それこっちの台詞だから。
でもそれならそれで・・・と。
「ならお言葉に甘えて・・・お誕生日おめでとうございます。」
言葉だけを贈る事にして軽く頭を下げた・・・が、
途中でペシリと沖田さんの手が額に当てられ、そのまま
押し上げられてしまった。
そして目の前に近付けられたのは、やっぱり何か良い笑顔の沖田さん。
「男たるもの、早々人様の言葉に甘えちゃダメですぜィ?」
「・・・社会と生活が厳しすぎるんで、
せめて言葉にぐらいは甘えたいと思うのですが・・・」
「甘い言葉には気を付けた方がいいですぜィ?
その裏には社会や生活の厳しさが生温く思えるほどの
モノが隠されてるのが常でさァ」
「・・・みたいですね」
ニコニコと楽しそうな沖田さんに、逃げるのは無理だろう・・・と
諦めた僕は、もう一つ息を吐き出した。
うん、他の人の甘い言葉は違うかもしれないけど、
この人の場合はきっとそれが正しい。
だって雰囲気には全く隠されてないもの。
なんか駄々漏れだもの、甘くないものが。
「ま、そんなに期待もしてないんで
朝御飯ぐらいでいいでさァ。ちゃんと抜いてきたんで」
「ある意味思いっきり期待してるじゃないですか、それ」
全く・・・と額に当てられていた沖田さんの手を離し、
僕は朝御飯の準備をするべく、その場から腰を上げた。
「そんなに大層なモノ出せませんからね?」
そう言うと、沖田さんは後ろ手についてゆったりと
その場に体を落ち着かせた。
どうやらこの場で朝食が出来るのを待つつもりらしい。
「判ってまさァ。
あ、ローソクは恥ずかしいんでやらなくていいですぜィ?」
「ケーキ出せってか!?
んなもの用意してある訳ないでしょ!!
ご飯にお箸突き刺して出しますよ!?」
ヒラヒラと手を振って僕を見送る沖田さんに一喝し、
僕はそのまま足取り荒く台所へと足を進めた。
あぁ、でも戸棚に頂き物のお饅頭があったっけ。
とりあえずおまけとしてそれでも出してあげよう。
本当は今日万事屋に持っていくつもりだったけど、
仕方ないよね?
だって今日はそれがまかり通る日だもの。
僕の吐いた溜息と重なって、後ろの方から楽しげな鼻歌が聞こえてきた。
***************
遅れましたが沖誕話。
「おめでとうございます」
「・・・・は?」
朝、何時もの様に上司の回収要請が来た為、夜勤明けの頭を
どうにか起こしつつ通い慣れた場所へとやって来れば、
既に顔馴染みとなった少年にそう告げられ、土方は間抜けな顔を
晒す羽目となった。
と言うか当然だろう。だって今は朝だ。
朝の挨拶といえば『お早う』であり、間違っても『おめでとう』ではない。
それとも何か?とうとう近藤さんが自分の犯罪性を認め、
今後一切こんな事はしない。
俺達の手も煩わせない。と涙ながらに決心してくれたのか?
ならそれは、どちらにとってもまさしく『おめでとう』だ。
思わず涙しそうになるぐらいの『おめでとう』だ。
だが、そんな土方の思いをさらりと流すように、目の前に居る
新八は
「今日、誕生日なんですよね?」
と言葉を続けた。
それを聞き、土方は一瞬目を丸くし、頭の中でカレンダーを捲る。
「・・・あぁ、今日は5日か・・・」
日頃の雑務で、日付がぶっ飛んでいた。
思わず呟けば、前から苦笑が送られた。
「覚えやすい日なのに、忘れてたんですか?」
「例え覚えやすくても、こう忙しくちゃ~日付さえ怪しくなるってもんだ」
ま、その忙しさも仕事以外のモノが入ってこなきゃ
それなりのもんになるんだがな。
土方はタバコの煙と共に溜息を吐き出すと、新八に促されるまま、
その仕事以外のモノが転がっている場所へと重い足を向けたのであった。
「そう言えばよく俺の誕生日なんて知ってたな」
近藤が置かれている場所、縁側へと向う途中で、ふと疑問に思った
土方が隣を歩く新八へと問い掛けた。
すると新八は僅かに苦笑を浮かべて 近藤さんからです。と答えを返した。
「近藤さんが?」
「えぇ。正確には近藤さんが
『トシの誕生日でめでたい序に俺達もめでたくなりましょ~』って
今朝早く姉上に・・・」
「どんな序ぇぇぇぇ!!!?」
本当ですね。と笑う新八に、土方も深く・・・と言うか
力の抜けた感じで頷く。
めでてぇのはアンタの頭の中だけだ、確実に。
現に全然めでたくないからな、今現在の俺は。
寧ろ泣きたい感じだからな、コレ。
ってか人の誕生日をなんだと思ってやがる。
・・・もうとりあえずアレだ。
今日は何時もより大目マヨでいこう。
デザートにマヨもつけよう。
序に食事の前に一本マヨをつけておこう。
それぐらいしないと、なんかやってられねぇ。
土方はそう決めると、更に重くなった足をノタノタと進めた。
「・・・何だこりゃ」
が、縁側へ着いた瞬間、視界に入ってきたモノに
ただでさえ開き気味の瞳孔が更に開いてしまった。
だが、心境的には瞳孔は元より、視界だって開いて欲しくない。
だって目の前にはボロボロのゴリラ・・・ではなく近藤が、
既に治療を終えて転がされており。
・・・まぁここまでは何時もと同じなのだが、
何故だか巻かれている包帯の所々が、大きく蝶結びされていたり
する訳で・・・
「誕生日を意識してみました」
「や、しなくていいから。
ってかこんなのならすんじゃねぇよっ!!!
なんだこれ、ある意味二次災害だろうがぁぁぁぁ!!!!」
何処か誇らしげに言う新八に、土方の心からの叫びが浴びせられる。
だが、新八には届かないようで、そのまま悔しげに
眉を顰められた。
「でもやったのは沖田さんなんですよ。
僕がやったら縦結びになっちゃって・・・
でも発案は僕ですからっ!」
「だから問題はそこじゃねぇぇぇぇ!!!!
って、総悟が来たのか!?」
「えぇ、土方さんが来る前にひょっこり。」
もう帰りましたけど。そう告げる新八に、本格的に土方の力が抜ける。
「・・・なら引き渡しとけよ」
そうすれば自分は夜勤明けの体でここまでくる事はなかったし、
何よりこの光景を目にする事もなかった筈だ。
ってかそもそもこんな事すんじゃねぇ。
そう言うと新八は微かに口を曲げ、腰に手を当てて体を逸らした。
「ダメですよ、折角誕生日仕様に仕上げたのにっ!」
・・・いや、寧ろ精神攻撃仕様となってるんだが。
祝ってるのか!?本当に祝ってくれてるのか、コレェェェ!!
なんか『祝い』じゃなくて『呪い』ってレベルなんですけどぉぉ!!?
だが、目の前でニコニコと
「改めて土方さん。お誕生日おめでとうございます」
と告げてくる新八に、それ以上何も言うことは出来ず・・・
とりあえず寝る前にも一本つけよう、マヨ。
と、自分からの祝いをもう一つ、追加する事にした。
******************
去年はほのぼのだったので、今年はグダグダに。
・・・ってか開設して一年経ってた!!(驚)
今日は偉大な万事屋の工場長である私の誕生日ネ。
思う存分祝うがいいヨ。
・・・て宣言してやろうと思ったら先越をされた。
早起きして新八を待ち構えていようと思ってたのに、
何時もの様に起こされて、ボーっとしたまま体を起こし、
ハッと思い出した時は、もう後の祭りヨ。
しかも、普段なら声を掛けてそのまま台所に行くのに、新八は
そのままそこで私が起き上がるのを待ってて、
「誕生日おめでとう、神楽ちゃん」
って言ってくれやがったネ。
全くよ~、空気読めよ、このダメガネ!!
思わず抱きついちまったじゃねぇかよ、おい。
ちなみにそのダメガネは所詮ダメガネなので、私諸共後ろに倒れた。
そしたら居間の方から物凄い勢いで、こちらにやって来る足音が聞こえて、
少しだけびっくりする。
だってこんな朝っぱらから、この万事屋内で私と新八以外に
起きてるヤツなんていないネ。
不審に思いながら顔を上げてみると、ソコには呆れ顔の銀ちゃん。
・・・さすが私の誕生日ネ。
ミラクルが起きてるヨ。
目を丸くしている私に、銀ちゃんは一つ息を落とすと、ヒョイッと私の
襟首を摘みあげた。
「オマエなぁ、幾ら誕生日だからって起き抜けにテンション高めに
してんじゃねぇよ。銀さんも新八も、ついてけねぇから。」
そう言って私を立たすと、襟首にあった手を頭へと移動させ、
ワシャワシャとかき混ぜてきた。
「ちょ、何するネ、銀ちゃん。幾ら悲劇の髪質だろうとも、
私を道連れにするのはよすネ」
「銀さんのチャームポインツを
勝手に悲劇に祭り上げるな。
序に坂田家は常に一蓮托生だ。
諦めろコノヤロー。そして
おめでとうだ、コンチキショー」
最後にもう一度髪の毛を掻き混ぜ、ポンと軽く叩いてそう言うと、
今度は倒れていた新八へと手を伸ばした。
・・・ちっ!銀ちゃんにまで先を越されたネ!!
そうは思うが、悔しさはそれ程でもなく、寧ろ何だか胸がホコホコして
こそばゆい。
でも、それを知られるのは恥ずかしいので、何か言おうとするが、
口はモゴモゴするばかりで、役に立たない。
寧ろ気を抜くとニンマリと口元が上がってしまいそうネ!
これじゃあ工場長としての威厳が台無しヨ!!
とりあえず仕切りなおしネ!!と、一先ずこの場を抜けて
洗面所へと走る。
そして歯を磨き、洗顔をしながら作戦を立て直す。
今日は私の誕生日ヨ。主役の日ヨ。
脇役に翻弄されてばかりじゃダメネ。
そんなんじゃ紅○女は演じられないヨ!!
鏡を見詰め、気合を入れなおす。
よし、愚民共を跪かせるヨ、工場長!!
仕上げとばかりに両頬を叩き、洗面所を後にする。
まずは酢昆布を献上させるネ。それで後は腹いっぱいご飯を
たべさせて貰うネ。
銀ちゃんの稼ぎはアレだから、ごはん○すよは我慢するネ。
大人な私は、塩だけで十分アル。
だからひたすら米を食わせるヨロシ。
後は・・・
そう予定を立てながら居間へと行く途中、台所に二人がいる事に
気付いた。
丁度いい、このままいかせてもらうヨ。
私は入れ直した気合のままに、台所へと足を踏み入れ、
そして再び目を丸くした。
・・・どうしたネ、一体。
呆然と台所の風景を見詰めている私に、新八が先に気付いて
動かしていた手を止めた。
「顔、洗ってきた?朝ごはんはもう出来てるから先に食べる?」
ニコリと笑ってそう問い掛けてくる新八に、私は小さく首を
振って答える。
それを見て、新八は そう? と答えると、止めていた手を
動かし始めた。
お重に詰められていく、沢山のおかず。
種類はそんなにないが、量だけはたっぷりだ。
「じゃあもう少しだけ待っててね。これ、詰めたら終わりだから」
「お~い、新八ぃ。お握り、これぐらいでいいか?」
「あ~・・そうですね~・・・神楽ちゃん、どう?」
新八の隣でお握りを握っていた銀ちゃんが新八に聞き、新八は私に
聞いてくる。
どう・・・とは、数の事を聞いているのだろうか。
とりあえず頷いておく。
見てみれば銀ちゃんの所の大皿には、所狭しと綺麗な三角形の
お握りが並んでいる。
「・・・塩むすび?」
思わず呟けば、銀ちゃんは心外そうに眉を顰めた。
「アホか。銀さんは糖の申し子よ?敵対してる塩なんて
握りこむ筈ねぇだろうが」
「や、そこは握りこんでいきましょうよ。
いやですよ、砂糖味のお握りなんて」
ちなみにちゃんと具も入ってるから。そう言って苦笑する新八に、
私はますます目を見開く。
具入りなんて、一体どんなイリュージョンを使ったネ!!
と言うか、今日は珍しく仕事が入ったのだろうか?
この状況から、二人が作っているのは弁当だと言う事が判る。
・・・折角の私の誕生日なのに・・・
そんなミラクルはいらないネ、コンチキショー。
むっと口を尖らせていると、おかずを詰め終わった新八が、
お皿を重ねながらこちらを向いた。
その顔には、満面の笑みが張り付いている。
そんなに仕事が入ったのが嬉しいのかヨ。
気持ちは判るけど、判りたくないネ。
日付超えて年が一つ増えたからって、そう簡単には
大人になれないヨ。
そんなのは思春期の妄想の中だけネ。
「遅くなってごめんね。じゃ、朝ごはん食べたら出掛けましょうか」
ニコニコとご飯を盛っていく新八に、小さく息を吐く。
・・・まぁ仕方ないネ。
幾ら偉大な私の誕生日だからって、こんなミラクル、逃せないヨ。
酢昆布大目で許してやるネ。
「そうだな。早く行かねぇと銀さん、寝ちゃいそう」
寛大な私の心境を理解する筈もなく、ダルそうにそう言うと
作り終えたお握りの上に軽くラップを掛け、脇に寄せられていた
朝食用のおかずを盆に載せる銀ちゃん。
それを見て新八は小さく拭き出し、運転中に寝ないで下さいよ。と
言うと、
「紅葉が凄く綺麗で、場所も広いらしいから。
早く行っていっぱい遊ぼうね、神楽ちゃん」
酷く楽しげな笑みを浮かべた。
・・・が、こっちとしては、訳が判らない。
「仕事じゃないアルカ?」
首を傾げてそう聞くと、新八も銀ちゃんもキョトンとした顔で
こちらを見返した。
それに私はますます首を傾げる。
「仕事って・・・何か入ってましたっけ、今日」
「いんや。今日も明日も明後日も、
向こう一週間軽く真っ白だけどな」
「言わないで下さい、泣きたくなるから。」
「でもそのお弁当・・・今日仕事だからじゃないのカ?」
二人の会話にそう言って入っていくと、銀ちゃんと新八は
一瞬顔を見合わせ、次にクスリと笑った。
「仕事ならこんなに豪華なお弁当は作らないよ」
「そうそう。それに万事屋は基本、誕生日休暇優先だから。
こういう日に仕事はいれませ~ん」
「や、普段から入れたくても入りませんけどね、仕事」
乾いた笑いを上げる新八に、この弁当の本来の使用目的が
なんとなく判ってくる。
「お出掛け・・・アルカ?」
それでも恐る恐る問い掛けると、新八がやんわりとした笑みを
送ってくれる。
「そうだよ?銀さんがいい場所、知ってるんだって。
今日は一日、いっぱい遊んで、沢山食べよう?」
量だけは自信あるから。そう言う新八に、思わず抱きついてしまう。
なんか慌ててたけど、ご飯は落とすなヨ。
「量だけじゃないネ。私、新八のご飯、大好物ヨ!」
にししと笑って顔を上げると、照れ臭そうに笑う新八が見えた。
「おいおい、銀さんもお握り、作ったんだけどぉ」
無視ですか、コノヤロー。そう言って新八の手からご飯を保護し、
お盆の上に乗せる銀ちゃんに、やっぱりにししと笑う。
「判ってるネ。銀ちゃんのお握りも大好物ヨ。
加齢臭もある意味いいスパイスネ」
「おいぃぃぃ!!!そんなスパイスついてないから!
寧ろ銀さんの握ったお握りにはバニラエッセンス的なモノが
ついてるからぁぁぁ!!!」
「だからそんなお握りは食べたくないですって!!」
叫ぶ新八に抱きついたまま、近くにいる銀ちゃんの袖をギュッと掴む。
背後からは、ノシノシと歩いてくる定春の足音。
漂ってくるのは美味しそうな匂い。
感じているのは温かい体温。
仕方ないネ。今日は跪かせるのを勘弁してやるヨ。
だからいっぱい、いっぱい遊ぶネ!
私は頭の中で今日の予定を組み直し、もう一度ニヒッと笑った。
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最初10代組で行こうかと思いましたが、やっぱりこっちでv