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その日、新八は何時もより遅い時間に万事屋への道を歩いていた。
しかし、早くはないと言っても、流石に吐く息は白い。
その上道にある水溜りには氷が張っており、視界からも
寒さが入りこんでくる。
そんな中の楽しみといえば・・・
「あ、あった」
えいっ!と小さく掛け声を掛けながら、新八はまだ割られていない
氷の上に足を振り下ろした。
微かな音と割れる感触に、知らず知らずのうちに頬が緩む。
流石に道の真ん中にあったり、大きかったりするものは
割られているが、隅にある小さいものはまだなんとか無事だ。
新八はそれらを見つけては小走りに近寄り、割っては楽しんでいた。
だがそれも万事屋に近付くにつれてなくなって行く。
既に割られている氷を見付けては、なんとなく物足りない感じに
陥っていると、不意にある場所が新八の頭に浮かんできた。
「・・・あそこならまだあるかも」
どうせ今日は遅れると言ってあるのだ。少しぐらい寄り道してもいいだろう。
新八はそう判断すると、少しだけ万事屋への道から足を反らした。
「ここならまだ誰も来てないよね」
新八は視線を地面に下ろしながら、公園の中へと足を踏み入れた。
と、その時
「何してんでィ、新八」
「え?沖田さん?」
声を掛けられた方に顔を向ければ、ソコには隊服に身を包んだ沖田が
のんびりとやってくる所だった。
予想もしてなかった人物に声を掛けられた事に、新八の目は
大きく見開かれる。
それを面白そうに沖田は眺めると、
「おいおい、目ん玉が零れ落ちそうですぜィ。
落ちないように支えてやろうか?」
と言って二本の指を立て、新八へと向けてきた。
「や、それ支えるって感じじゃないですよね?
明らかに潰す感じですよね?
ってか何でこんな時間に、こんな所に居るんですか?
体調でも悪いんですか?」
「・・・本当に潰してやろうか、おい」
指を避けながらも真剣な表情で言う新八に、沖田の目が一瞬据わる。
それに慌てて手を振ると、新八はここに居る理由を簡単に述べた。
勿論、氷を求めて・・・とは言わず散歩という事にして。
「で、沖田さんは何してるんですか?」
朝から会うとは思わなかったのでそう聞くと、沖田はあ~・・・と
言葉を伸ばし、次に 俺も散歩でィ。と答えてきた。
とりあえずお互いの言葉に何処と無く納得出来ないまでも、
ここに居る理由が同じならば・・・と、二人は並んで
公園の中へと足を向けたのであった。
しかし、沖田と会話しながらも、新八は時折視線を地面へと走らせていた。
もしあったらさり気なく踏みに行こうと思っていたのだ。
だが、そんな思いも虚しく、見つける氷は既に溶けているか
割られているか・・・だ。
ここならばまだ人も来て居ないだろう・・・と当てにしていただけに
少し哀しくなる。
思わず溜息が出そうになったその時、隣に居る沖田が小さく
溜息を吐いたのが判った。
驚いて視線を向ければ、本人は気付いていないのか、何かを探すように
視線を走らせる姿が。
これは・・・もしかして仕事中だったのかな?
考えてみれば沖田は真選組の、しかも隊長格だ。
一般人に言えない仕事の内容もあるだろう。
だから散歩と言うことにしていたとか?
それならば、こんな時間に沖田が居る事も、散歩と答えた時に
感じた違和感にも納得がいく。
ならば、自分が一緒に居ては邪魔だろう。
そう思い、新八が声を掛けようとした所で、今度は前方から
聞き慣れた声が掛けられた。
「何やってるネ、二人とも」
見ればソコには傘を差した神楽の姿が。
不思議そうに見てくる神楽に、再び新八の目が大きく開かれる。
「神楽ちゃんこそどうしたの?僕、まだ起こしてないよ?」
そう、大抵銀時と神楽は新八が起こすまで、ずっと寝こけているのが
基本なのである。
なのに既に起きてて、しかも外を出歩いているとは・・・
驚く新八に、神楽はフッと鼻で笑うと、
「甘いネ。何時までも人に起こして貰うような神楽様じゃないヨ。
ちゃんと自分で起きたヨ、寒くて」
そう自慢げに胸を反らした。
「や、それ自慢する所じゃないからね?
ってかそんならお布団の中に入ってた方が良かったんじゃない?」
「全くでィ。んで永遠に布団から出てくんじゃねぇよ。」
「出来るモンならそうしてるネ。
でも起きたら布団無かったヨ。きっとアレネ。
アソコには布団返しが居るネ」
「・・・居るとしたら枕返しね。
ってか居ないから、普通に蹴っちゃっただけだから、神楽ちゃんが」
「蹴ってないヨ。だって布団、壁に減り込んでたアル」
「・・・どんな寝相でィ」
ポツリと呟く沖田に、新八は押入れの惨状を思い浮かべ、
カクリと肩を落とした。
「だから体を温めようとそこら辺走り回ってたネ。
氷割りながら」
中々楽しかったアル。にししと笑ってそう言う神楽に、
新八と沖田の目が開く。
「「マジでか!?」」
慌てて見回せば、確かに無事な氷はなさそうだ。
・・・って、
「「え??」」
先程出た自分以外の声に、二人は顔を見合わせる。
そして視線を合わせた所で、漸くそれぞれの本当の理由が
判り、新八と沖田は気まずそうに視線を反らした。
どうやらお互い、同じ目的でここまで来ていたらしい。
「・・・帰りますか」
「そうですねィ」
しかし、それが判ったとしても、今更どうしようもない。
二人は力なくそう告げると、公園の外へと足を向けた。
不思議そうな顔の神楽を残して。
「・・・ちなみに沖田さんはどのルートでここまで?」
「少し遠回りしながら来ましたねィ。勿論全部木っ端微塵でさァ」
「って事は・・・あっちの道はまだですか?」
「あぁ、まだだねィ。・・・・行きやすか」
「・・・行って見ましょうか」
そう言って互いに笑ってみせると、再び並んで歩き出したのだった。
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つい割りたくなる不思議な習性。