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万事屋へと登る階段。
ある日、そこに一つの鉢植えが姿を現した。
お登勢がそれに気付いたのは、ちょっとした用事があり、
午前中に起き出した日の事だった。
「あ、お登勢さん、お早うございます」
店の扉を開けて出てきた所で、礼儀正しく挨拶をされる。
見れば階段横に新八が居て、何故だか如雨露を持っていた。
お登勢は挨拶を返しながら、何をしているのかと問えば、
新八は笑って階段の方へと少し屈み、小さな鉢植えを手にとって
お登勢へと差し出した。
「なんだい、こりゃ」
「プチトマトです。昨日種を貰ったんで植えてみたんですよ」
そう言われ、あぁ、それで水をやっていたのか・・・と先程の
如雨露の意味を知った。
「家の中だと・・・ちょっとアレなんで、ここに置かして
貰っていいですかね?」
申し訳なさそうに言う新八に、お登勢は軽く頷きながら
タバコを取り出して火をつけ、深く息を吸う。
「別にいいさね。邪魔になるような大きさでもなし。」
それに・・・と、バタバタと大きな足音がし始めた二階を見上げた。
「確かにあの調子じゃ家の中は危険だしねぇ」
呆れた口調で言うお登勢に、新八が乾いた笑いを上げる。
「ま、せいぜい大事に育てな」
「はい!あ、ちゃんと出来たらおすそ分けしますね」
お登勢はそれに片手を軽く挙げ答えると、外へと出てきた本来の
目的を果たすべく、その場から足を動かした。
その背後に、盛大に玄関が開けられる音が追っかけてくる。
「新八~!もう芽が出たアルカ!?」
「神楽ちゃん!静かにしなきゃダメでしょ。
ってか昨日植えたばっかじゃん、出るわけないでしょ!」
「新八の声だって煩いネ!
ってか最初っから諦めてんじゃねぇヨ。もうグラさんに任せるヨロシ。
何時まで経ってもメが出ないダメガネに任せといたら、
プチトマトまで同じになるヨ」
「諦めとかそんな問題じゃないから。
自然的問題だからね、これ。
ってかメが出ないってどう言う事だぁぁぁぁ!!!!」
背後で騒ぐ声に、お登勢は大きく煙を吐いた。
ちらりと見れば、小さな如雨露を取り合いしている二人が見える。
「・・・あの分じゃアソコも危ないねぇ」
と言うかあんな小さい鉢植えから、
お裾分け出来るほど採れるものだろうか。
「ま、どっちにしろあまり期待しないでおくかね」
お登勢はやれやれと肩を竦めると、聞き慣れた喧騒に背を向け歩き始めた。
だが、お登勢の心配を余所に鉢植えは無事なままだった。
現に今もちょこんと階段脇へと佇んでいる。
「そろそろ芽が出てきてもいい頃なんですけどね~」
そう言う新八の横では、楽しそうに神楽が水をくれている。
どうやら水遣りは神楽に決まったものの、任せっきりにすると
際限なく水を与えてしまう・・・と言うので、お目付け役として
新八が共に居るらしい。
「なんだい、そんなに早く芽が出るものなのかい?」
「えぇ、大体一週間ぐらいで芽が出るらしいんですよ」
「でも今日でその一週間ヨ。まだ出てこないなんて変アル」
水をやり終え、鉢植えの前でしゃがみ込んでムスッと口を
尖らす神楽に、新八がクスリと苦笑する。
「そんなにきっかりとは出てこないよ」
多分そろそろだとは思うけどね。そう言い、新八も神楽の隣へと
腰を降ろす。
「なら今日は一緒に寝ていいアルカ?
私、芽が出るトコ見てみたいヨ」
「や、そんな事したらお布団土塗れになっちゃうからね?」
「なら起きて見てるアル」
「そんな事したらもっと出てこないかもよ?」
「んだよぉ、一丁前に恥かしがり屋かコノヤロー。」
ツンと鉢植えを突く神楽に、かもね。と笑う新八。
そんな二人を見て、お登勢はこの調子で、例え無事実がなったとして、
ちゃんと食べる事が出来るのかねぇ。と呆れながらも、
ゆるりと口元を緩めた。
その次の日・・・と言ってもまだ朝と言うのにも早い時間。
お登勢がそろそろ寝ようとしていた所に、不意に外から
大きな物音がした。
「・・・ったく、あのガキャァ!」
ヒクリと額に青筋を浮かべ、文句を言う為に店の外へと出てみれば、
そこには思った通りの人物が転がっていた。
どうやら相当呑んできたらしく、階段へと身を預けながら
ヘラヘラと笑っている。
「おいこら腐れ天パ。今一体何時だと思ってやがる。」
「ん~?妖怪が居るって事ぁ百鬼夜行タイム?
おいおい勘弁してくれよ、俺には帰りを待つ可愛い嫁さんと娘が
居るんだぜ?あ、後存在感アリアリなペットな。
あ、ちょっとこれヤバクね?なんかホームドラマの如き
家族じゃね?自慢していいレベルじゃね?」
「寧ろ自爆していいレベルだろうよ。
ってかツッコミ所アリアリな戯言言ってんじゃないよっ!」
大体誰が妖怪だ、誰が!と銀時の頭をベシリと叩き、
凭れかかっている階段へと視線を走らせた。
そこには見慣れた鉢植えがちゃんとあり、お登勢はホッと
胸を撫で下ろす。
お登勢の視線に釣られるように銀時も鉢植えへと移し、
あぁ、これな。とニヘラと顔を緩ませた。
「可愛いだろ~。なんか二人して一生懸命世話してやんの。
この間なんてアレよ?『早く芽を出せプチトマト~♪』なんて
二人して歌ってんだよ?ヤバクね?マジヤバクね?
俺本気でビデオ購入考えちゃったんだけど」
「その前に家賃支払いを考えな。
ビデオの方は知り合いに中古がないか聞いといてやるから。」
「マジでか!?
じゃあなるべく小型で性能がいいヤツを頼まぁ。
出来ればボタンぐらいの大きさで
映像を飛ばせるヤツ」
「テメーは盗撮でもするつもりかい!?」
「馬っ鹿、違ぇよ。あぁ見えて二人とも思春期じゃん?
カメラ向けて素直に映させてくれる訳ねぇだろうが。
ならこっそり映すしかねぇだろう?」
「それを盗撮ってんだよ」
それにしても無事で良かった。とお登勢が改めて鉢植えに
視線をやった。
と、そこで昼間見た時とは違うものを見付ける。
「これは・・・」
「あ?・・・ってなんだよ、草生えてんじゃねぇか」
お登勢が何かを言う前に、同じように鉢植えに目をやっていた銀時が、
中に生えていた小さな緑色の芽をプチプチと引っこ抜いてしまう。
「ちょっ!!!」
「あ~もう仕方ねぇなぁ。確り面倒見ろって言ってんのによぉ。
最終的に銀さんが全部面倒見る羽目になんだよな。」
そう言いながら手をパンパンと払う銀時の顔はゆるりと緩んでいて、
・・・反対にお登勢の顔は固まってしまっていた。
「これでよしっと。早く芽ぇ出せよなぁ。」
そしたらプチトマトパーチーだぁぁ。
そう言って最後に鉢植えを優しく撫で、
銀時は腰を上げ階段をフラフラとした足取りで上がっていった。
残されたのはお登勢と物言わぬ鉢植え。
お登勢はちらりと鉢植えに視線をやり、深々と溜息を落とした。
「・・・芽を出せって・・・ねぇ?」
たった今摘み取られたんだけど。
日が上がり始めた中、お登勢はもう一つ、大きな溜息を吐いた。
その後、奇跡的に残っていたらしい種が芽を出し、
一番ホッとしたのは誰かは・・・言うまでもない。
「でも、なんで一つしか芽が出なかったんだろう」
もう少し植えた筈なんですけど・・・と不思議そうな新八に、
お登勢はすっと視線を逸らして煙を吐き出す。
「・・・鳥が食ったんだろ。・・・ほら阿呆鳥とか」
「え?居るんですか、こんなトコに!?」
「あぁ、千鳥足の阿呆鳥がね。」
お登勢の言葉に不思議顔で首を傾げる新八の向こうで、
眠そうな顔をしている銀時が一つ、盛大なくしゃみをした。
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どうしようもない大きな親切(笑)