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「銀ちゃん。そろそろ帰ってくるアルカ?」
炬燵の中、ゴソゴソと体を潜り込ませながら神楽ちゃんが
聞いてきた。
僕はそれに、洗濯物を畳んでいた手を休め、チラリと時間を
確認する。
今日の依頼は、そんなに人数はいらないらしいので、銀さんだけ
行っている。
遠くの場所でもないし、夕方には終わると言っていたので
そろそろ帰ってくる頃だろう。
そう告げると、神楽ちゃんはこの寒いのにご苦労な事ネ。と言って
またモソモソと炬燵の中へと潜って行った。
どうやら置いて行かれたのがつまらなかったらしい。
僕はクスリと笑って畳み終わった洗濯物を仕舞うべく、両手に抱え込んだ。
その際、チラリと窓の外へと視線を向ける。
昼間はそれなりに温かかったものの、
陽はとうの昔に落ち、風の音も加えられてなんとも寒そうだ。
でも防寒具を持って行くように言っといたから、多分大丈夫だろう。
・・・まぁぶつくさ言うだろうけどさ、ウザイくらいに。
でも働いてきてくれているのだ、それぐらいはちゃんと聞いてあげよう。
しつこかったら無視すればいいだけだし。
そう思っていると、不意に神楽ちゃんが何か言ったのが聞こえた。
え?と聞き直せば、ムッと口を尖らした顔の神楽ちゃんが
再度、先程の言葉を口にした。
「だからこんな寒いのに銀ちゃんはアホネって言ったアル。
手袋もマフラーもなしに。無謀にも若者気取りアルカ?
そんな事をしても、オーラと加齢臭でぶち壊しネ」
「え?嘘・・・だって僕、ちゃんと持ってくようにって・・・」
そう言えば、神楽ちゃんは炬燵の中に手を入れ、何かを取り出してきた。
見ればそれは、確かに銀さんのマフラーと手袋で・・・
「暖めといて忘れてったアル。」
炬燵で暖めとくなんて頭良くね?・・・なんて言ってただけに哀れネ。
呆れ顔でそう吐き出す神楽ちゃんに、僕はカクリと肩を落とした。
自業自得だと言えばそれまでだけど・・・
僕は再び窓の外へと視線を向けた。
外はやっぱり寒そうで。
今日は珍しく仕事をしてきている訳で。
その銀さんと言えば、着替えを一々炬燵の中に入れ、暖めてから
着替えをするような寒がりだったりする訳で。
僕は一つ息を吐くと、持っていた洗濯物を手早く仕舞い、自分のマフラーを
手に取った。
それを見ていた神楽ちゃんが、迎えに行くアルカ?と聞いてきたので
苦笑を一つ。
「これで風邪でも引かれたら、仕事して貰った意味がないからね」
そう言うと、神楽ちゃんは仕方ないとばかりに首を振り、
それまで潜っていた炬燵から出ると、僕と同じようにマフラーを
手に取り、自分の首へと巻いていく。
「仕方ないネ。眼鏡とマダオだけじゃヴィジュアル的に
寒いアル。私も一緒に行ってやるヨ」
「や、別にいいよ?外、寒いだろうし、僕だけで・・・」
「いいからっ!早く行くヨロシ!」
ってか寒いって何!?そう突っ込む前に、神楽ちゃんは銀さんのマフラーを
持ち、急かせる様に僕の背中を押してきた。
「って神楽ちゃん!手袋、手袋忘れてるからっ!」
とりあえず僕も神楽ちゃんも手袋ははめたものの、銀さんのは
未だ炬燵のテーブルの上だ。
そう言うと、別に大丈夫ヨ。と、何故か自信満々に答えられ、
そのまま玄関の外へと連れ出されてしまった。
こうなると、もう何を言っても無駄だろう。
僕はほんの少し、心の中で銀さんに謝りながら、
でも忘れてった方も悪いんだし、マフラーがあるだけマシだろう。
と結論付けると、そのまま神楽ちゃんに引き摺られるように
万事屋を後にした。
「てか神楽ちゃん、僕、鍵閉めてないんだけど」
「大丈夫ヨ、定春が居るネ」
「あ、そっか」
先程までの神楽ちゃんと同じように、炬燵の中に潜り込んでいた
定春の事を思い浮かべる。
うん、確かに定春が居れば、大丈夫だろう。
・・・その前に何も盗られるモノがないけれど。
でも・・・
「やっぱり手袋も持ってきてあげた方が良かったんじゃない?」
思ってたよりも冷たい空気にそう呟けば、
僕の手を握ったまま、少し先を歩く神楽ちゃんがクルリと振り向いた。
「何言ってるネ。ちゃんと持ってきてやったヨ、特別性の手袋」
そう言ってニシシと笑い、繋いだ手を目の辺りまで上げてみせた。
最初、何のことか判らず、キョトンとしてしまったが、
握られる手の感触に気付き、プッと小さく噴出してしまう。
「確かに・・・特別性だね」
「当たり前ヨ。これ以上最高の手袋はないネ。
銀ちゃんには勿体無いけど、今日だけ特別アル」
身も心も寒い思いして働いてきたマダオに特別サービスヨ。
そう言って笑う神楽ちゃんに、僕も口元が緩むのが判る。
そうだね。きっとこの手袋なら身も心もポッカポカになれるね。
少しだけ早足になる足元に、大振りになっていく握られた手。
その先で、
「あ、一番星アル」
見上げた空には、キラキラと輝く星。
その下で、寒そうに身を縮めながら歩いてくる、明るい銀色。
さぁ、早くその手を、何よりも温かい手で包んであげようか。
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今日だけは特別に坂田が真ん中。