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「ってか有り得なくね?」
「何がですか?」
どうやら無意識に声に出ていたらしい。
自分の呟きに、お茶を持ってきてくれた新八がコトリと首を傾げた。
それに何でもない事のようにダラリと・・・しかし内心焦りまくった
状態で 別に・・・ と返せば、新八は不思議そうな顔を
しながらも、洗濯物を取り込みに行ってしまった。
それを見送りながら、ホッと息を吐き、置かれた湯飲みに手を伸ばす。
一口飲めば、ほんわりと心が和らいだ。
あ~、うめぇ~。
今まで最高の飲み物はイチゴ牛乳と信じて疑わなかったが、
中々どうして、日本茶も結構いける。
・・・まぁ新八の淹れてくれたお茶限定なのだが。
しかし本当。味といい温度といい、ばっちり俺好みだ。
ちなみにそれを淹れてくれた新八も、がっつり好みだ。
・・・そしてそれはどうやら周囲にはきっちりバレていたらしい。
その事実が、現在の俺を少しばかり凹ましているのだけれど。
「・・・有り得ねぇってマジで」
鼻歌交じりで洗濯物を取り込んでいく新八を眺めながら、
俺はもう一度声に出した。
何からそうなったのか、ある日新八は知り合いの面々に俺の好みのタイプを
聞いて回ったらしい。
おいおい何だよ~。そんなに銀さんの好きなタイプが気になんのか?
ヤバクね?それってちょっと恋が入ってね?
寧ろ入っててくんね?
そんな事を思ったのだが、どうやら本人は純粋に、ただの好奇心だったらしい。
・・・お子様と言うのは時に残酷だ。
けれど現実はもっと残酷だ。
どうやら俺の心に秘めていた恋心は、知り合い共にはバレバレだったらしいのだ。
なんだっけ、確か・・・家庭的で?可愛くて?純粋でしっかりした子?
はっ!馬鹿らしい。
もういっその事、普通に新八って言えよ。
言っちまえよコンチキショー。
で、少しは新八にどっきりさせてやってくれ。
出来れば俺を意識する方向で。
全く、使えないヤツ等めっ!と、思い浮かんだ面々を罵りながらも、
ふと以前の事を考えてみる。
以前の俺の好みは、むっちりとした肉感的な?
それでいてあんまり積極的でない?
そんなのが良かったのよ、うん。
なのにさ~、実際の所新八は滅茶苦茶積極的に万事屋に来た訳で?
・・・や、良かったんだけどさ、それで。
今現在、本当感謝してるし。
ってかいい事はしてみるもんだね、うん。
よくやった俺。ナイス判断だ俺。
で・・・まぁむっちりともしてないんだけどさ。
寧ろいい感じに筋肉ついてるんだけどさ。
あ、でもほっぺはムニムニしてるか・・・うん。
後尻もこう・・・ってアレだから。まだ触ってないからね、銀さん。
そんな勇気、塵ほども持ってないから!
視覚的感想を述べてるだけだから、これぇぇぇ!!!
と、まぁ・・・俺はぼんやりと、和室で取り込んだ洗濯物を
畳んでいる新八を眺めた。
ここまで好みと違ってる・・・寧ろ性別からして正反対の新八を
どうしてここまで好きになったのか。
自分の思考回路でありながら、ちょっと不思議だ。
最初はただのこ煩い少年だった・・・筈だ。
や、ちぃ~っとばかし可愛いな~・・・なんて思ったけどね。
それは普通に小動物に対するような?そんな感じのものだったと思うし?
でも、あのまっすぐな目で見詰められて、細々と世話を焼かれて。
守らなければと思っていた背中は、案外強くて。
時に俺を守ってくれたりもして。
そこまで思い、俺は あぁ・・・ と納得した。
それはあの日、俺が紅桜とやり合ったあの日。
新八の背中に守られたあの瞬間。
微かに震えている背中に、ほんの少しの罪悪感と酷い安堵感を覚え、
俺は自分の気持ちを自覚し、どれだけ新八に守られていたかを知ったのだ。
どれだけ傷付いても、家に帰れば新八が待っててくれる。
どんなに寒い夜でも、帰れば新八が家を暖めて待っててくれる。
そして、どれだけ弱い自分を見せても、新八はずっと傍に居てくれる。
共に歩いていこうとしてくれる。
それがどんなに奇跡的で素晴らしいことか。
「これで惚れるなって方が無理だよなぁ」
ポツリと呟けば、視線の先で新八の手が止まり、きょとりとこちらに
視線を向けてきた。
「何かいいました?銀さん」
それに俺は いんや~? と返しつつ、ニマニマと笑みを浮かべた。
「たださぁ、新ちゃんてば本当、家庭的だねぇと思って」
銀さん、本当助かっちゃう。そう言えば呆れたような顔が帰って来た。
「仕方ないでしょ。誰もやんないんですから。
別に銀さんがやってくれてもいいんですよ?」
「それにさぁ、よっく見ると結構可愛いよね、その眼鏡」
「おい、人の話聞けよ。ってかなんで眼鏡ぇぇ!?
や、別に僕自身に言われてもアレですけどっ!」
怒る新八に、だって新八の大部分は眼鏡で構成されてるでしょ。なんて
嘯きながら、俺はソファから腰を上げて和室へと足を向けた。
「あとアレだよね。何にも知らなそうだから、一から
教え込みたくなるよね、色々と」
「・・・なんかどっかで聞いたような台詞なんですけど。
ってかなんですか、色々って。
あ、いいです。細かい説明はいいです、怖いから」
新八の言葉に親切にも例をあげながら説明しようとしたが、
青褪めた顔で全力で拒否られた。
・・・ま、いいけどね。何れ身を持って知ってもらうから。
それこそ全力で。
そんな事を思いながら、俺は洗濯物を畳んでいる新八の隣へと
腰を降ろした。
「・・・で、しっかり屋さんだ、うん」
「そうですか?別に普通でしょ」
胡坐をかいた膝に肘を乗せ、顔だけ新八へと寄せながら言えば、
畳んでいたタオルを持ち上げながら、不思議そうに首を傾げられた。
「いやいや、この万事屋で普通の生活が営めるのは新ちゃんの
お陰でしょ。普通出来ないよ?コレ。
貧乏神にも見捨てられた存在だからね、この家」
「自覚あるなら仕事しろよ。
ってかなんなんですか、さっきから」
そう言われ、俺は苦笑しつつ新八の膝に合ったタオルをどかすと、
その上にゴロリと頭を乗せた。
ちょ、何してんですかっ!!って言う非難の声が聞こえたが、
それは無視の方向で。
俺は逃げようとする新八の腰に手を回すと、下から新八の顔を見上げた。
その顔はほんの少し赤みを帯びているものの、困惑が前に出ていて
少し笑える。
ここまで言って、そしてこの行動で。まだ判らないかね、この子は。
「本当、鈍感」
「や、鈍感も何も訳が判らないですから。何?枕が欲しかったんですか?」
なら出して上げますよ。と言われ、俺は小さく息を吐きながらも
いらない。と返し、目を閉じた。
「僕の膝なんて、固くて寝辛いでしょ」
「オマエ、銀さん舐めんなよ?酔っ払って地べたで寝た暦、
何年だと思ってんだよ」
「自慢じゃねぇよ、それ。
ってか僕、まだやる事あるんですけど・・・」
「いいからいいから。ホラあれだよ?
人生、時に休息も必要だよ?」
「あんたは休息の中に、時に人生ですね」
どう言っても動かない俺に、とうとう諦めたのか小さい溜息と、
温かい手が頭に落ちてくるのを感じた。
それにチラリと薄く目を開ければ、視線の先でやんわりと笑っている
新八の顔が。
俺は慌てて目を閉じると、頭に乗せられた新八の手をキュッと掴んだ。
そしてそのまま目蓋の上へと持ってくる。
「銀さん?」
眩しかったですか?と聞いてくる新八に、曖昧に返事を返しながら
俺はゆっくりと口を開いた。
銀さんの好みは、家庭的で可愛くて、純粋でしっかりしてるけど鈍感で、
こんなマダオを甘やかしてくれるのに、男前な面も持ってたりする眼鏡な
16歳なんだけど、丁度いい人、知りませんか?
ちなみに銀さんは一人ぴったりな子、知ってたりするんだけど?
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この後報われるのかどうかはご自由にご想像下さい(おいι)