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夕陽の暮れる中、手を繋いだ親子連れとすれ違った。
それはとても楽しそうで、一人で歩いている新八に、少しの笑みと
寂しさを運んでくる。
目を向ければそこには見事なまでの夕陽。
新八の足が、ほんの少しだけ速まった。
『夕陽』
まさかこんな所で会うとは思ってなかった新八は、歩んでいた
足を一瞬止めてしまう。
そしてまだこちらに気付かず、反対側から歩いてくる銀時を見詰めた。
場所は賑やかさから少し離れた川べりの道。
見られてるとは知らない銀時は、何時もの何を考えているか
判らない顔で、川の向こうに沈んでいく夕陽を見ながら
ガシガシと頭を掻き、ゆっくりと歩いていた。
その姿は、夕陽の赤に染められて。
何時も見慣れてる筈の銀髪さえも赤く染まっていて。
まるで知らない人の様で、少しだけ新八の心をざわめかせた。
思わず声を掛けようとした所で、不意に銀時の視線がこちらを向き、
新八の視線と重なる。
瞬間、丸くなる目。
そして、微かだが銀時の口元が緩やかに上げられるのを新八は見た。
「銀さん!」
思わず駆け出し、銀時の元へと急ぐ。
それを銀時は立ち止まって待っていた。
「こんなトコでどしたよ、新八」
オマエ、今日休みだったろ。そう言って、走って来た為
少し乱れた新八の髪を手で簡単に直しながら、銀時が問い掛けた。
「そうなんですけど、近所の方からお裾分け貰ったんで」
頭を撫でる手に少し首を竦めながら、新八は抱えていた紙袋を見せた。
中には、少し形は歪だが、立派な野菜類が入っていた。
「お裾分けのお裾分けです」
「お!でかした、新八!!」
笑って言う新八の頭を、今度はかき回す様に撫でる銀時に、新八は
やめて下さいよ~!!と叫びながら、そこから逃げたした。
「いいじゃねぇか、少しぐらい乱れたってすぐ直る癖によ、コノヤロー」
「そう言う問題じゃないでしょ!も~、両手塞がってるのに・・」
抱えている紙袋の中身がかさばる物だけに、片手を離すと心もとない。
頭を振って、なんとか直そうとする新八に、銀時の手が伸ばされる。
「振れば直るアジアンビューティー気取りですか、えぇ!?」
そう言って再び簡単に新八の髪を直すと、そのまま抱えていた紙袋を
取り上げた。
その紙袋と共に、顔を上げる新八。
「で?このお裾分けのお裾分けは明日のご飯予定?それとも本日?」
その視線の先で、銀時がニンマリと笑ってそう問い掛けた。
「あ~、そう言えば今日はまだ野菜摂取してねーなー。
でも今から料理するの、たるいな~、銀さん疲れてるし」
新八が両手で抱えていた紙袋を片手で持ち、視線を逸らして空々しく
そんな事をボヤく銀時に、新八は小さく噴出した。
「勿論、今日の分ですよ。ちなみに神楽ちゃんが暴れだすと困るんで、
銀さんにも手伝ってもらう予定です」
「マジでか!?あ~もう、ウチの奥さんは人使いが荒いね~」
「誰が奥さんですか!ホラ、さっさと行きますよ」
そう言って銀時の背を押し、万事屋へと二人で足を向ける。
と、銀時が ちょっと待て。 と言って無理矢理足を止めた。
「なんですか、銀さん」
「ん~、あ~ホラ、それも銀さん楽でいいけどよ」
銀時はそう言うと、紙袋を改めて片手で抱えなおし、空いてる方の手を
プラプラと振った。
その行動に、新八は訳が判らず首を傾げる。
「銀さんな、片手で荷物持てるし。すると片手が空く訳ですよ、新八君」
「・・・それは両手で抱えてきた僕への嫌味ですか」
「ちげっ~て!だからな、暇してるこの手にも、
何か役割を与えて欲しいんですけど?」
いい考えがありませんか?等と、真面目な顔で言う銀時に、新八は暫し
目を瞬かせ、次いで顔一杯に笑みを零した。
「それなら丁度僕の両手も、なんの役割もなくて空いてるんですけど?」
「お、そりゃ奇遇だな。じゃ、丁度いいからよ」
「ですね」
そう言って笑合い、空いてる手を繋いで歩き出した。
隣を見れば、あの何を考えているか判らない表情ではなく、どこか
嬉しそうな表情の銀時。
きっと自分はあのもうすぐ沈む夕陽にも負けないぐらい、
赤くなっているのだろうけど、それでもこんな暖かい温度と、
その表情が得られるなら、それでもいいや。
それにどうせもうすぐ日も沈んで、判らなくなるだろうし。
そう思い、新八は握っている手に少しだけ力を込めた。
それに気付いた銀時が、 ん? と問い掛けるような表情でこちらを
見てきたので、先程思った疑問を聞いてみた。
「そう言えば銀さんは何してたんですか?」
「ん?いや、まぁ・・・なんとなく・・な。仕事もなかったし・・」
つまんなくてよ。そう言う銀時に、
いつもはダラダラ寝て過ごしてんじゃないですか。と答えると、
「だって今日はオマエがいなかっただろ」
何か居心地悪ぃのな。
と、まるで自分がアソコに居る事が当たり前
の事であるかのように、告げられた。
・・・どうしよう、これ、きっと夕陽が沈んでも
判るぐらい赤いままだよ、僕の顔。
****************************
[銀新十題]さまからお借りしました。
今日は四月一日、所謂エイプリル・フールってヤツだ。
数日前、神楽ちゃんが遊び友達から聞いたらしく、銀さんに
高々と宣言していた。
「騙してやるネ!」
・・・と。
既にそう宣言した時点で、もう計画失敗なんじゃないかな?と
思ったのだが、彼女はやる気満々だ。
しかもその宣言を受けた銀さんが、
「テメーのウソなんかに引っかかるようじゃ、俺もしめぇだな」
・・・と鼻で笑ったものだから、そのボルテージは最高潮。
お陰で大人気ないな~等と思い、傍観者を決め込んでいた僕にまで
その火の粉は飛んできたのだった。
「・・・て言うか、なんで僕がこんな事・・・」
何時ものように万事屋に来て、何時ものように雑用をこなした午後。
昼食を食べ終わり、遊びに出掛けようとした神楽ちゃんに捕まり、
僕はある指令を受け取った。それは、
『他に好きな人が出来ました』
と銀さんにウソつくと言うもの。・・・ベタ過ぎだよ、神楽ちゃん。
最初は拒否したのだが、銀ちゃんの慌てる姿が見られるネ!・・・と
自信満々な神楽ちゃんの言葉に、最終的には了解してしまったのだ。
でも・・・と、新八は一つ息を吐く。
本当に見られるのかな、そんな姿。
なんか全然想像できないんですけど。
一応僕と銀さんはお付き合いをしている。所謂恋人と言うものだ。
けれど告白したのは僕。
・・・ま、手を最初に出してきたのは銀さんだけど。
でも、それ以外はそれまでとあんまり変わらない様に思えるのは、
僕の経験が無いに等しいからだろうか。
神楽ちゃんには、告白する前から気付かれていたので(と言うか
彼女の言葉で気付いたってのも・・ある)前にそれとなく
聞いてみたら、鼻で笑われた。
・・・そう言うトコは真似しちゃ駄目だよ、神楽ちゃん。
でもやっぱり好き合ってる同士なら、なんとなくそれまでと
雰囲気が違ってくると思うんだ、付き合えば。
けれどそれがない。
なので僕は何時も不安だ。
だって面倒臭いのが嫌いな銀さんだもの、断るのも面倒だった・・・て
言うのだったらどうしよう。
手近で済ませられるから、丁度いい・・なんて理由だったらどうしよう。
今回のこの言葉、告げて『あ、そう』なんて言われたらどうしよう。
そんな事ばかり考えていたら、呼ばれているのに気付かなかったらしい。
銀さんの声にハッと我に返り、視線を返せばそこには訝しげな表情が
こちらを見ていた。
「あ、なんですか、銀さん」
「なんですかじゃねーよ。何回呼べばいいんですか~?苛めですか~?」
全くよ~。そう言って銀さんは机の上にあった湯呑みを掲げ、お茶の
お代わりを要求した。
それを受け取りにソファから立ち上がり、銀さんが腰掛けている机へと足を
進めた。
机を挟んだ状態で向かい合うと、銀さんはチョイチョイと指を折り、
横に来いと告げる。
なんだろうと思いつつ、言われた通りに横に行くと、何時もと違って
下から見上げるような形で銀さんが問い掛けてきた。
何かあったか・・・と。
そこで僕は神楽ちゃんからの指令を思い出した。
本当は口に出すのもイヤなウソ。
そして、その後の反応を見るのもイヤなウソ。
でも、言わなければ工場長のお仕置きが待っているのだ!
それに、これで銀さんの本心が判るかもしれない。
例えそれが最悪な結果を招こうとも・・・いい機会なのかもしれない。
こんな不安な日々を過ごすよりは、きっぱりと切り捨ててもらった方が
マシなのかもしれない。
だって、言わなければ、判らなければ、不安な日々がこのまま続き
尚且つ工場長から、肉体的に痛いモノがもれなくプレゼントされるのだ!
それはイヤだ。心も体もボロボロになるなんて真っ平ごめんだ!!
そんな想いから、僕の口は漸く言葉を紡ぎ出した。
「あの・・銀さん、僕他に好きなひとが・・・」
が、漸く出てきた言葉は、僕の顔の真横を突然過ぎ去って行った
物凄い音と風圧に、最後まで言い終える事が出来なかった。
「・・・・・・・・・・へ?」
恐る恐る視線だけを横に向ければ、其処には何故か銀さんの木刀があった。
って言うか、直ぐ横に持ち手が見えるって事は・・・
後ろの壁に突き刺さってるの・・・かな?コレ。でもなんで?
行き成りの事に思考が停止してしまった僕の前で、銀さんは立ち上がり、
ゆっくりとした動きで木刀を握り締めて、鈍い音と共に壁から引き抜いた。
そしてそのまま僕の方へと一歩足を進めて来る。
「あ~、ごめんね~新ちゃん。ちょっと手、滑ったわ、銀さん」
・・・いや、滑ったも何もアンタ、木刀持って無かったですよね!?
って言うか顔こわっ!声は何時も通りなのに、顔こわっ!!
「で、なんだって?ごめんな~、銀さん耳遠くなったみたい。糖尿かな、コレ」
うわ、自分で糖尿肯定したよ!
あ、でも聞こえなかったのか~。なら仕方ないよね。
そう思ってもう一度言いかければ、今度は半分も言い終わらない内に
木刀の先が僕の足元すれすれに降ろされた。
ってぅわっ!今度は床!?床に穴!!?って言うか割れた!!?
あまりの事に思わず床を見れば、すぐさま銀さんの手に顎を掴まれ、
無理矢理上を向かされた。
その先には、一人の鬼が・・・
「で?何、新八」
・・・口元だけで笑っても、怖さが増すばかりです、銀さん。
僕は恐怖と、そして嬉しさの狭間で泣きそうだ。
だって怖い。怖いけど、そこまで怒るぐらい僕の事、好きなんですよね?
とりあえず色々話して、謝ったりもしたいんで、その手を離して下さい。
顎潰れたら、キスも出来ないでしょ~が!!
仕方がないので、一先ず僕は想いの分だけ力が込められたその手を、
そっと両手で包み込んだ。
*************************************
四月一日なのを思い出して、とりあえず殴り書き。
・・・ベタ過ぎだよ、私(反省)
ポンポンポン・・・・
「・・・これくらいアルカ?」
自分の寝室にしている押入れの中、神楽は置いてある枕を
数回叩いた。
そして暫しの間腕を組み、納得いかない様な表情で枕を見詰めるが、
「ま、なんとかなるネ」
そう自分に言い聞かせ、叩いた枕に頭を乗せて布団を被った。
『おまじない』
意識が浮上し、重い目蓋を開ければ其処はいつもの天井(?)が見えた。
耳を澄ましても小鳥の鳴き声意外は聞こえない。
まだ早いネ・・と、神楽は閉じようとする目蓋に逆らわずもう一度
寝ようとした。
その時玄関からカチャッという音が聞こえ、パチリと閉じかけた目を
開ける。
「そうだったネ!」
神楽は勢い良く体を起こし、押入れから飛び出した。
そしてそのまま部屋から飛び出る。
「新八っ!」
「ぅわっ!・・・びっくりした~。驚かさないでよ、神楽ちゃん」
そこには草履を脱いで上がろうとしている新八が、驚きもそのままに
目を丸くして立っていた。
「え?てか早くない?それとも僕が遅かったのかな?」
あれ?と首を傾げる新八に、神楽はニィ~ッと笑顔を見せた。
「新八はいつも通りネ。お早う、新八」
「え、あぁ、うん。お早う、神楽ちゃん」
神楽の早起きに、不思議そうな表情をしていた新八だったが、された挨拶に
きちんと笑顔を返した。
「でもどうしたの?本当。まだ寝ててもいいんだよ?」
まだ来たばかりだから、朝食も何も出来ていない。部屋も寒いままだ。
そんな事を神楽に言いながら、中へと足を進める。
神楽は それでもいいネ。 と言いながら、新八の後を付いて行く。
「そう?じゃあ顔洗っておいでよ。今急いで朝食の準備するからね」
「判ったアル」
顔を洗いにいった神楽を見送り、新八は居間のヒーターの電源を入れる。
そして自分は朝食の為、台所へと進んだ。
「でも本当、神楽ちゃんどうしたんだろ。今日はいい天気だったのに・・・
午後から崩れるのかな?」
等と、本人が聞いたら拳が飛んできそうな事を呟きながら、冷蔵庫を開け
卵や凍らしてある切り刻んだネギを取り出す。
「新八~、洗ってきたネ」
そう言って新八の頬に、濡れた手を押し付ける。
神楽の手はヒンヤリとしていて、新八は ギャッ! と声を上げた。
それが面白かったのか、神楽は逃げる新八に尚も手を押し付け続ける。
「も~、神楽ちゃんやめてって!ご飯が遅くなるよ!?」
「それは駄目ネ。ちゃっちゃかやるヨロシ」
「なら大人しくしててね。向こうもそろそろ暖かくなったと思うから・・・」
「いいネ。ここで見てるヨ」
「寒いよ~?」
「大丈夫ヨ!」
ホラ。とニコニコと笑って、神楽は新八の腰に後ろから抱きついた。
そんな神楽に、動きにくいな~。 と困ったように眉を下げながらも
やめさせる事をしなかった。
「今日のご飯は何ネ?」
体をずらし、横から覗き込む様にしながら、料理をしている新八の手元を
見る。
料理をしない神楽にとって、色んな食材から造られる料理は不思議な存在だ。
「ん~と、卵焼きとお味噌汁とお漬物と・・・何時もと変わらないかな?」
「米もいっぱいアルカ?」
「ま、一応は・・・ね」
神楽の期待に満ちた目に、汗を一筋かきながら新八は答えた。
「なら大丈夫ネ!最高の朝飯ネ!」
「朝食、もしくは朝ごはんね?」
神楽の言葉を言い直し、出してきた漬物を包丁で切る。
そして先程から気になっていた事を神楽に聞いた。
「でも本当、今日はどうしたの?何時もは起こしても中々起きないのに」
「この間のヤツ、やってみたヨ」
返ってきた答えに、新八は手元に落としていた視線を神楽に向けた。
「この間っ・・・て?」
「前に三人で寝た時、新八がやってたネ。枕叩いて起こして貰うってヤツ」
「・・・あ、あれか」
新八は納得したように小さく頷き、その時の事を思い出した。
以前新八が泊まった時に、目覚まし時計だけではなく、あるお呪いをしたのだ。
それは至って簡単。起きたい時間の数だけ枕を叩く事。
新八のその行動を不思議そうに見ていた神楽に、叩く理由を教えた事があった。
「試してみたんだ?」
「そうアル。凄いヨ、本当に起きれたアル!」
そう嬉しそうに笑う神楽に、新八もニコリと笑みを返した。
「良かったね。はい、神楽ちゃん、あーん」
「あーん?」
首を傾げながらも素直に口を開く神楽に、新八は切っていた漬物を一つ
放り込んだ。
いつもはつまみ食いなどさせてくれない新八の行動に、神楽は驚きながらも
口の中の漬物をポリポリと噛んだ。
「早起き出来たご褒美ね」
ちょっとショボいけど。そう言って笑う新八に、神楽の笑みも深まる。
「上出来ネ!これが早起きは三本徳利ネ!」
「いや、三文の徳 だから。それよりそろそろ出来るから
銀さん起こしてきてくれる?」
「了解アル!!銀ちゃぁぁん!!!」
銀時の名を呼びながら、勢い良く走っていく神楽。
新八はその後ろ姿に一応一言つける。
「あ、あんまり過激に起こしちゃ駄目だよ?お登勢さん怒るから」
「任せるネ、
どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ起きろぉぉぉ!!」
「ぐぉぽっ!!!!!」
「あ・・・・・・・銀さん大丈夫・・・じゃないか」
零れてしまう溜息を隠さず、とりあえず未だ鈍い音と神楽の叫び声が
聞こえる和室へと足を進めた。
あのお呪いは凄いネ。
だって本当に起きれたヨ。
おまけに新八に褒められて、ご褒美まで貰ったヨ。
本当、凄い。
凄いけど、当分銀ちゃんには教えてあげないネ。
偶には娘にもマミーとの時間を持たせなきゃ駄目アルヨ。
その代わり、きちんと新八と二人で起こしてあげるから
それで我慢すればヨロシ。
って言うか、なんでまた寝てるネ、銀ちゃん。
何時もの様に部屋を掃除していたら、これまた何時もの様にダラ~っと
したマダオが居た。
しかもこっちは掃除してるってのに、呑気にジャOプを読み広げている。
・・・ってか広げんなよ。読んだら戻せよ、せめて。
と、言う事で、これまた何時もの様に小言を繰り出す羽目になる。
・・・僕、いつか血管切れそう。
『諸刃の剣』
「あ~、はいはい。ったくよ~毎度毎度こ煩いね~新ちゃんは」
ブツブツ言いながらも、広げていたジャ○プを集める銀時。
それを見て新八が 毎度毎度言われる方が悪い! と、また血管が
危うい事になる。
「しかし・・・また高くなりましたね、ジャン○タワー」
集められ、積み重ねられたタワーを呆れ顔で見上げる。
最近は珍しく仕事が重なっていたので、中々捨てに行くのも、縛ることも
出来なかったのだ。
なのに、確実に冊数は増えていって・・・
「・・・倒れそうです、銀さん」
「大丈夫だって。ヤツラはそれをカバーし、何れ勝利する」
「そんならまず自らを圧縮させてから勝利を得て下さい」
「しかも努力もしてる」
「倒れないよう努力してんのは僕らです、銀さん」
「それでも倒れたら、そこは友情で持って許すのがマナーだ」
「とりあえず僕に向かって倒れてきたら、愛情に変えて持ち主に
全力投球させて頂きます、一冊ずつ。それが僕のマナー」
「痛い!!愛もその視線もごっさ痛いよ、新八君!!?」
なんて酷い嫁だろう!!・・・なんて言いつつ泣き真似をしている
銀時に、ますます新八の視線の温度は下がっていく。
すみません、銀さん。僕は今、貴方が痛い存在です。
「痛くてもなんでもいいですから、とりあえずソレ、縛っといて下さいね」
え~っ!!・・・とブーイングを零す銀時を無視し、先程途中だった
掃除をやり直す新八。
ったく、やり始めちゃえば早いくせに、中々動かないんだから!
ジャ○プタワーを前に、文句を言いつつ中々動こうとしない銀時に、
黙って掃除をしていた新八もイライラが募る。
が、ここでまた小言を言い出すと、何のかんのと言い訳されて
逃亡されてしまうのがオチだ。
どうしてやろう・・・と考えてると、とある言葉が新八の耳に入ってきた。
「昔の新八はもうちっと可愛げがあったって~のにな~。
それが今じゃアレですか?ツンデレ気分ですかコノヤロー。
アレ?、でもその割にはツンの部分が多すぎね?
ツンデレの黄金比重間違ってね?デレ新八はドコ?」
デレ新八って誰だコノヤロー。
あ、でもそっかー。・・・うん、案外いけるかも。
ある事を思いついた新八は、それを決行すべく持っていた箒を置き、
未だ動こうとしていない銀時の元へと足を運んだ。
そして、
「銀さん」
「あ?何よ。やるよ、やりゃーいいんで・・・」
そう言って振り返った銀時の胸元にギュッとしがみ付いた。
「・・・・・・・・・へ?」
突然の事に、頭の後ろを掻いていた手もそのままに、カチンと固まる銀時。
その銀時を下から見上げる様に新八はじっと見詰め、
「お願いです、縛って下さい」
と告げた。
ちなみにその時の新八の頬は赤い。
「銀さんに、して欲しいんです」
当たり前だ、この年になって正面から誰かに抱き付くなんて恥ずかしすぎる。
なのですぐ顔を伏せる・・・が言葉は続く。
「銀さんが縛ってくれないと、僕・・・」
捨てに行けないだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!
言葉に出来ない思いで、抱きついた腕に力がこもる。
「~~っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
と、突然銀時が新八の肩を掴み、その体を引き離した。
「銀・・・さん?」
その勢いにちょっとびっくりしながら、顔を上げると、そこには
無駄に真剣な表情の銀時が、何かを耐えるように俯いていた。
「どうかしまし・・・」
「新八!」
「は、はい!」
大きな声で呼ばれ、ピシッと背筋を伸ばして思わず返事をすると、
徐に銀時は新八の肩を掴んでいた手を離し、
「ちょっとそこにお座んなさい」
と言って、床を指した。
「え、なんで?やですよ、僕掃除してる途中だし、銀さんには
縛ってもらわなきゃ・・・」
「いいから!!はい、お座り!!!」
その後、反論虚しく座らされた新八は、銀時に良く判らない説教を
懇々とされたのだった。
お陰で夕飯の支度の時間となり、掃除は中途半端なまま終わってしまった。
だが・・・
「判ってる、判ってるんだよ本当。伊達に銀さん、年食ってないし?
新八の性格理解してる訳でもないし?判ってんだけどさ~、
ありゃ~ねーと思うんだよね、マジで。あぁもう日本語ってややこしい!!
でもある意味最高だったぞコノヤロー!!」
等と言いながらジャ○プを縛り続ける銀時の姿に、
・・・折角素直に甘えてお願いしてみたのに、なんで説教?
ま、とりあえず縛ってくれてるし、いい・・・のかな?
よし、今度は違う形でお願いしてみよう!
銀さん、叱るより褒める方が伸びるタイプかもしれないし!
あ、でも褒めたら褒めたで図に乗るタイプだな、うん。
う~、どうしよう・・・
と思う、新八であった。
本日も仕事がないまま一日が終わった万事屋。
台所では、明日の朝食の仕込みをしている新八、神楽は遊びつかれて
既に夢の中。
そして万事屋の主である銀時は、一日の締めとばかりに、のんびり風呂に
入っていた。
成分品質
「おーい、新八~」
風呂場から呼ぶ声に、新八が濡れた手を拭きつつ行ってみると、
そこには浴室の扉からボトルをカラカラと振っている銀時の手があった。
「なんですか?」
聞いてみると扉が開き、いつも無造作に跳ね回っている髪がしっとりと
濡れ、幾分落ち着いて見える銀時の姿が現れた。
「・・・人を呼ぶなら股間隠せよ」
「うるせー。風呂ってのは寛ぐべき場所だ。所謂フリーダムポインツだ。
銀さんの息子も解放してやらんでどうするよ、えぇ!?
寧ろ新ちゃんの目の前で曝け出せなくてドコで曝け出すのよ」
「ムカツクな~、その無駄な英語。」
「え!?そこ?ツッコミポインツはそこだけ!?」
「あ~特に『ツ』がムカツク。で、なんですか?」
あくまで白け気味に銀時の言葉を無視する新八に、愛が見えねえ・・・
と項垂れる銀時であったが、とりあえずこのままだと寒いので
話を進める事にした。
「コレだよコレ。もう無いんだけどさ~、新しいの持ってきてくれない?」
と、先程振っていたボトルを新八に渡す。
「あ、もう無かったですか?」
「あぁ。しかし珍しいよな、オマエが気付かなかったなんて」
そう言って銀時はニヤニヤと頬を綻ばす。
いつだってそろそろ無くなるな~と思っていると、新八が新しく
詰め替えてくれていたのだが、今回はうっかりしていた様だ。
ま、そのうっかりさんなトコも可愛いんだけどね~。
等と思っていると、目の前の新八がすまなそうな表情を銀時に向けた。
「何、どうした?」
「すみません、銀さん。その詰め替え用の今切らしちゃってて」
「マジでか!?おいおいぱっつぁんよ~、しっかりしてくれよ~。
銀さんアレだよ?コレじゃないと髪がしっくりこねーんだよ?
どーすんだよ、明日銀さんの髪、
無造作通り越してフリーダムよ?」
先程の新八の態度への仕返しとばかりに言い募る銀時。
新八は申し訳なさそうに項垂れていく。
「すみません」
「どうすっかな~、シャンプーだけじゃゴワゴワになるしな~・・・
あ、そうだ新八、今日泊まってって明日朝一で銀さんの髪・・・」
序とばかりによからぬ気配丸出しでそう言い出す銀時に、新八は
あっ!と顔を上げると、
「丁度いいのがあります!今日はコレ使って下さい」
そう言って大きく、重そうなボトルをドンッ!とばかりに銀時の目の前に
差し出した。
「・・・えっと・・・新ちゃん?コレは・・・」
「見ての通り、柔軟剤です」
「え?ちょっと待って。銀さん言い方が悪かったかな?俺が欲しいのは・・」
「大丈夫です。きっともんの凄くフワフワに仕上がりますよ!」
「いやいやいや、そこまで仕上がらなくてもいいから。
寧ろ収めて欲しい方だから、銀さん」
ニコニコと笑顔でそう告げてくる新八に、銀時は力いっぱい頭を振って
断ろうとするが、どんどん柔軟剤は銀時の元へと押されてくる。
「ちょっ!新八!!オマエ本当にっ・・・」
「本当は今日、買出しに行こうとしたんです、
詰め替え用とかなかったですし。」
「え!?なら・・・」
「でも繕い物が溜まってて、行けなかったんです。
他にもあるかな~って、夏物の方まで手を出したのが拙かったですね」
ニッコリと笑ってそう言う新八に押し返そうとしていた銀時の手が、
ピタリと止まる。
「あ・・・あの、新ちゃん?もしかして一番上の棚も・・・」
あそこには大切な糖分が・・・
泣きそうになりつつ、恐る恐る新八の顔を見てみれば、そこには確かな笑顔。
何時もならその笑顔に癒されるのだが、今ばかりは魘されそうだ。
「はい、しっかりばっちり。隅から隅まで確認させて頂きました。」
・・・寒気がするのは、きっと湯冷めしたからではない。
いい笑顔のままの新八に、銀時はもう二度と会えないであろう、
隠していた糖分を思って肩を落とした。
そんな銀時の肩に、新八はそっと手を添える。
「あ、冷たい!このままじゃ湯冷めしちゃいますよ。
風邪引く前にソレで髪を洗って下さい」
ゴワゴワ、イヤなんですよね。そう言って銀時に柔軟剤のボトルを握らせ、
その場から立ち去った新八は、最後までいい笑顔だった。
そんな次の日。
「ね~、銀ちゃん。今日はどうしてそんなにホワホワしてるネ?」
何時にもまして髪の毛が凄い事になっている銀時の姿があった。
その髪の毛を、面白そうに神楽が手で遊んでいる。
楽しそうな神楽とは裏腹に、銀時の肩は下がりっぱなしだ。
「それはね・・・銀さんの髪の毛の半分が優しさで出来てるからだよ」
「もう半分はなにアルカ?」
「それはね・・・後悔というものだよコンチキショー」
それでも、次の隠し場所を考えている銀時は、何度と無く髪の毛の半分を
後悔で埋め尽くすのであった。