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今日、神楽ちゃんに泣かれてしまった。
帰りが遅いから心配して迎えに行ったら、突然に・・・だ。
何時だって元気で、一生懸命僕の記憶を戻そうと頑張って。
おまけにお手伝いまでしてくれる神楽ちゃん。
そんな神楽ちゃんが、まるで体全体で悲しんでいるかのように
大泣きして・・・
・・・あぁ本当、なんで僕、忘れちゃったんだろう。
神楽ちゃんの涙は、どんなに僕が声を掛けても、
真選組の二人が声を掛けても、止まる素振りを見せず、
仕方なく僕は神楽ちゃんの手を引いて万事屋へと帰る事にした。
「こりゃ~・・・また盛大だなぁ、おい」
万事屋には既に銀さんが仕事から帰ってきていて、苦笑しながらも
未だ僕から離れず泣いている神楽ちゃんの頭を、優しく撫でた。
後、僕の頭も。
それは同じように優しいモノだったのに、僕にとっては
とても重いもので、漸く泣き止んだ神楽ちゃんを
銀さんに任せると、少しずつ慣れてきた台所へと逃げるように
足を動かした。
最初、病院で目覚めた時、なんでそんな状況になっているのか判らなかった。
だけどもっと判らなかったのは、説明してくれた姉上の言葉だ。
「万事屋に戻る時に事故に合ったのよ?」
どうやら僕は事故に合って病院に運ばれたようだ。
それは判った。でも万事屋って?
そう聞いた時の姉上の驚いた顔と、勢い良く病室へとなだれ込んできた
二人の切羽詰った顔をよく覚えている。
そして、僕が誰なのかと尋ねた時の、あの何かが抜け落ちてしまったような
表情も。
でも落としてしまったのは僕の方だったのだ。
お医者さんが言うには、今の僕には数年分の記憶がないらしい。
そんな自覚は全くなかったのだが、あの時お医者さんに詰め寄った
銀さんの顔は、痛いほど真剣だった。
お医者さんの言葉が本当の事なんだと、実感させる程に。
そんな銀さんの剣幕に、内心びっくりしたものの、
それ以上に不思議と胸が痛んだのを覚えている。
知らない人なのに。
全然記憶にない人達なのに。
泣きそうな神楽ちゃんの顔と、怒っているかのような銀さんの顔に。
何故だか酷く、泣いて謝りたくなるぐらい胸が痛んだのを。
とりあえず記憶以外は異常が見られないという事で、僕は早々に
退院出来たのだけど、姉上の提案により家には戻らず、
僕が働いていたと言う万事屋へと行く事になった。
入院している間、毎日お見舞いに来てくれていたと言っても、
僕にとっては初対面に等しい人達。
そんな人達と突然一緒に暮らせと言われ、正直戸惑った。
けれど銀さん達は、そんな僕に構う事無く気軽に接してくれ、
少しでも記憶を取り戻す切欠になれば・・・と、今までの出来事や
日常の事、行った事のある場所等をたくさん話してくれた。
聞いてる分にはツッコミ所満載な、とても本当の事とは
思えない事ばかりだったけど、話をしている銀さん達の顔は
最初見た時とは全く違い、とても柔らかかった。
あぁ、きっとここにはそんな表情が溢れていたんだろう・・と
難なく想像する事が出き。
そして、その中にはちゃんと僕も居たのだと思うと、とても
嬉しくなった。
だからこそ、時折させてしまう哀しい表情が辛いのだけれど。
それは、僕が何かの場所を聞いた時だったり。
買い置きがあるのを知らずに物を買ってきてしまったり。
・・・戸惑いながら、名前を呼んでしまった時だったり。
そんな時、銀さん達は一瞬だけど、酷く傷付いた顔をする。
すぐに元の顔に戻って、鹹かったりしてくるけどね?
でも・・・あの一瞬は確かにあって。
あぁ、またやってしまったのか・・・と自分にうんざりする。
最初に胸が痛んだ時、何故だろうと不思議に思っていた。
でも、今なら判る。
ようは辛いのだ。彼等のそんな表情が。
そして、そんな表情をさせてしまう事が。
そんな顔、見たい訳じゃないのにね。
聞かせてくれる話通り、楽しげな表情を浮かべてて欲しいのにね。
僕としては、まだ会ったばかりの人達だけど、
心の底からそう思うんだ。
だってそれは、きっと僕にとって、とても大切なものの筈なんだから。
「早く・・・戻りたいな」
お茶の用意をしながら、じんわりと滲んできた視界をグイッと拭いた。
別に今の僕が変と言う意識はないけど。
でも・・・そう思う。
早く、一刻も早く。
聞いてるだけで心が暖かくなる様な時間を、
あの人達に返してあげたい。
何より、自分がその中に早く帰りたい。
「・・・僕も頑張らなくちゃ」
とりあえずこれからは積極的に他の人達にも話を聞いてみよう。
そう決意すると、用意したお茶を手に、二人が居る居間へと足を向けた。
どうやらお茶の淹れ方だけは変わっていないらしく、
二人ともこれを呑むと途端に嬉しそうな顔をするのだ。
ならばせめて・・・ほんの少しでも良いから
泣き顔でも苦笑でもなく、本当の笑顔を。
そう願いを込めて、僕は今日も丁寧にお茶を淹れる。
その後、前の生活を下のお登勢さんに聞いた所、
仕事はしないマダオな銀さんと、それにそっくりさんな神楽ちゃんと言う
今からは考えられない話を聞いた。
や、だって銀さん、仕事してるしね?
神楽ちゃんだって、率先してお手伝いしてくれるからね?
その温度差は何なんだろう・・・と思いつつも、
何故だか妙に納得している自分が居た。
・・・変なの。
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次ぐらいで終わらせます。