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「銀時?」
夕方、久しぶりに入った仕事を終え道を歩いていると、
不意に名前を呼ばれた。
振り返ってみれば見慣れた顔で、俺は一つ息を吐く。
それは呆れからだったのか、久しぶりの仕事に疲れたからだったのか、
それとも・・・
俺はその先を考えるのを放棄し、声を掛けてきたヅラに対して
軽く手を上げた。
「で?何をしてるんだ、お前は」
「何って・・・お前にたかってる」
あの後、渋るヅラを引きつれて近くの団子屋の軒先に腰を落ち着けた俺は、
ヅラの問い掛けに簡潔に答える。
勿論手の中には愛しの団子だ。
そんな俺をヅラは白けた目で見、無言で俺の頭を叩いた。
「ってぇ!何すんだテメー!!」
「馬鹿か、お前は。そんな事を聞いているんじゃない。
フラフラとこんな所で何をしているんだと聞いているんだ」
またパチンコか!?ヅラの言葉に俺は軽く隣にある足を蹴飛ばす。
「ばぁか。仕事だ、仕事」
そう答え、残っていた団子を口の中へと放り込んだ。
すると、酷く驚いたような声が隣から発せられた。
「銀時・・・お前熱でもあるのか!?」
「ある訳ねぇだろ!!ってなんで写メ撮ろうとしてやがんだコラァア!!
ってかなんで携帯ぃぃ!?
何処の女子高生気取りだコノヤロー!」
「最近持ったのだ。いいだろう、エリザベスと家族割りだぞ?」
自慢げに携帯を掲げているので、持っていた串を思いっきり
投げつけてやる。
どうやら上手い事刺さったようで、文句を言ってくるが無視だ、無視。
ってかどうやって契約しやがった、指名手配犯め。
俺だってなぁ、金さえあればとっくの昔に契約してんだよ。
家族割りをフルに活用しまくってやってんだよ。
江戸一番の仲良し家族、坂田家を舐めんなよ!?
そう言い、追加の団子を頼もうとした所で、横からヅラに
止められてしまう。
「なんだよ、けち臭ぇなぁ。別にいいだろ、団子の一皿や二十皿」
「良くないわ!!何処に行った、
その間の皿は!!!」
と言うか・・・そう言うとヅラは先程俺が投げつけた串を皿に戻し、
「ならばこんな所で油を売っている場合ではなかろう。
早く帰ったほうがいいのではないか?」
特に今日は。そう言って緩く口元を上げた。
ソレに対し、俺は小さく舌打ちをする。
「・・・覚えてたのかよ」
「いや、忘れていたな」
面白くなさそうに言う俺に、ヅラはシレっと答えると、
「だが昨日リーダー達と偶然会ってな。相談されたのだ」
お前の欲しいものは何か・・・と。そう言い、何処か嬉しそうに
笑って団子と一緒に頼んだお茶に口をつけた。
「お前の事だから欲しいのは常に糖分だろうが、
糖分はあげられないし・・・かと言って糖分以外欲しいものが
判らないし・・・と困っていたぞ?」
ヅラの言葉に、俺は へ~ と適当に返事を返すと後ろ手を付き、上へと
視線を向けた。
ってかそれ、糖分しか出てきてねぇじゃねぇか。
どんだけ俺=糖分の図式が設立されてんだよ、
間違ってはねぇけど。
少しだけムッとする俺の横で、ヅラは尚も言葉を続けた。
「だからせめてケーキと、何時もより豪華めに料理をするのだと
言っていたな、新八君は。ちなみにリーダーは肩叩き券を
プレゼントすると言って、止められていた」
その時の様子を思い出したのか、ヅラはクスリと笑みを零した。
よし、ナイス新八。
神楽に肩叩きなんぞされたら、
俺の誕生日が命日とドッキングする所だ。
そんなサプライズは心底遠慮する。
けど・・・そうか~、やっぱりそうか~・・・
俺は片手を挙げ、クシャリと自分の髪を掴んだ。
ヅラはソレと共に何を思い出したのか、顎に手を当て、
微かに首を傾げる。
「それと、仕事の予定も入ってないから、特別に一日ダラダラ
させてやる・・・とも言っていたのだが?」
「・・・急に入ったんだよ、仕事」
そう、急に入ったのだ、一人分。
だから今朝、さっさと仕事に出掛けたのだ。
慌てるアイツラを置いて。
「なら早く帰ったらどうだ?こんな所でグダグダしていないで」
もう仕事は終わったのだろう。と言うヅラに、うるせぇよ。と答える。
本当、うるせぇ。
いいだろうが、俺がどうしようと。
大体ここを何処だと思ってやがる、天下の甘味屋だぞ?
居座る気もたかる気も満々だってぇの!
すると、俺の考えが読めたのか、ヅラは深々と溜息を吐いた。
「全く・・・いい大人が何を照れてるのやら・・・」
「ばっ!なんで俺が照れなきゃいけねぇんだよ!!」
その言葉に、思わず俺はヅラへと顔を向けてしまった。
ヅラはそんな俺に呆れた視線を寄越し、
「その顔で言っても説得力はないな」
そう言ってまた一つ、溜息を零した。
俺はヅラの言葉にグッと息を吸うと、そのままカクリと肩を落とし、
両手で顔を覆った。
「・・・最悪だ、テメー」
普通こう言う場合は見て見ぬ振りするだろうが。そう文句を言うと、
「ウジウジしているお前が悪い」
と、キッパリと言われた。
クソ、一々はっきりと言いやがって。
仕方ねぇだろうが、慣れてねぇんだからよ、こう言うのは!!
だってお前、アレだぞ?
アイツラは内緒で頑張ってたらしいけどよ、
新八は、なんかちょっと前から全身に甘い匂い纏わせてたんだぞ!?
手には火傷のあとなんかあったんだぞ!?
菓子系なんて作った事、なさそうなのによぉ。
練習用のケーキ、どうしたんだって話だよ!
俺には糖分禁止させといて、自分はケーキな毎日ですかってんだ。
悔しいから甘い匂いの新ちゃんを食べさせてください。
ケーキがないなら、
甘い匂いの新ちゃんを食べれば
いいと思います!!
・・・て、やらなかったけどね、銀さん。
俺、超空気読めるから。
読めすぎて手、出せなかっただけだから。
へタレとかじゃ本当ないから。
で、神楽はよ、なんかやっぱコソコソやってんだよ。
新八に字、習ったりしてよ。
俺?勿論見ない振りよ。当たり前だろ?
銀さん、空気読める大人だから。
だって珍しい事もあるもんだ・・・って覗いたら、ものっそい嫌そうな目で
「見てんじゃねぇよクソ天パ」
って言われたからね!殺気、駄々漏れだったからね!!
あれ、空気よんでなかったら死んでたから、本当。
そんな感じで二人ともソワソワウキウキしててよ。
今日に近付けば近付くほど、それが増して行って?
そんな中で、俺はどんな態度でいればいいんですかって話だよ。
嬉しいやらこっ恥ずかしいやら・・・なんかもう判んなくなって
泣きそうになってきちゃったんだよ、バカヤロー。
俺は顔を覆った手で、前髪を勢い良くかき回した。
「・・・帰りたくねぇなぁ」
ポツリと零せば、ヅラに鼻で笑われた。
ヅラの癖に生意気な。と、睨みつけると呆れた視線を返された。
「だからそんな顔で言っても説得力ないと言ってるだろう。
ニヤけてるぞ、お前」
「あぁ!?俺、今テメーの事睨みつけてんですけどぉぉ!?」
日本語は正しく使ってくださ~い。そう言うが、ヅラの
意見は変わらないらしく、緩く首を振られる。
「確かに睨んでるし困ってるようでもあったがな・・・
ずっと嬉しそうだぞ、銀時。」
そう言って口元を上げ、ヅラは持っていた湯呑みを置いた。
「だが、そろそろ覚悟を決めたほうがいい」
ホラ。とヅラは視線を投げた。
つられてその視線を追えば、少し向こうに見慣れた頭が二つと大きな塊が一つ。
「どうやら待ち草臥れたらしいな」
クスリと笑われ、俺は小さく呻きながらガシガシと頭を掻いた。
「あ~、クソッ!!どうすんだよ、コレ!!」
ヤバクね?丸判りじゃね!?
頑張れよ、俺。
蘇れ、鉄壁のポーカーフェイスゥゥゥ!!!
頬を叩いたり、摩ったりして頑張っていると、バシンと力強く背中を
叩かれた。
その拍子に体が前に倒れ、僅かに腰が上がる。
「っなにすんだヅラァァァ!!!」
そのまま立ち上がり、振り返って叫べば ヅラじゃない!!と
お決まりの言葉が返って来るが、それも直ぐに終わる。
「そんな事よりさっさと行け、銀時。
無駄に足掻いてもそのダラケタ顔は治らん」
「ダラケタって何だ!?
さっきニヤけたツラって言ってませんでしたかぁ!?」
言い募るが、ヒラヒラと追い払うように手を振られてしまう。
「どっちも然程変わらんから安心しろ。
それに・・・そのままの方があの子達も喜ぶだろうよ」
「・・・うるせぇよ、馬ぁ鹿」
笑ってそう言われ、俺は舌打ちを打つとヅラに背を向けた。
見ればこちらに気付いたのか、見慣れた頭たちが向ってくるのが判った。
その光景に、やぱり少し泣きたくなって逃げ出したくなる。
だって仕方ないだろう、あれは俺が欲しかったものなのだ。
ずっと願っていたものなのだ。
一番、一番欲しかったものなのだ。
願ってたけれど、切望していたけれど、
まさか本当に手に入るとは思ってなかったものなのだ。
「祝い代わりにここは奢ってやるから行け」
背中に掛けられた言葉に、ショボイ祝いだな。と憎まれ口を叩いて
手を振り、俺はゆっくりと足を動かした。
ゆっくりゆっくり、せめてこの頬の熱がもう少し冷めるまで。
けれどそんな俺の願いも虚しく、俺の欲しかったモノ達は
スピードを上げてこちらへと向ってくる。
ホント、お子様な、お前ら。
もう少しでいいから空気読んでくれ。
どうしようもない大人の気持ちを察してくれ。
そんな切実な心情も読まれる事無く、俺のずっと欲しかったモノ達は
むず痒い言葉と共に勢い良く俺の元へと飛び込んできた。
判ったよ、判りましたよ!!
開き直ってやるよ、コンチキショー!!!
俺は飛び込んできたモノ達を力強く抱き締め、
幸せと言うものを満喫した。
・・・あ、やべ。ホント泣きそう。
****************
誕生日おめでとう、坂田コノヤロー!!!!