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「いや~、春ですねィ。
全く、眠くなって仕方ねぇや」
「や、春とか関係なく何時でも漏れなく眠いですよね、アンタ。
ってか寝てますよね、そこ等辺で」
ま、気持ちは判りますけど。沖田の言葉に、新八がのんびりと
お茶を啜りながら答える。
久しぶりに晴れた空の下、新八と沖田は志村家の縁側で
既に半分ほど散りかけた桜を眺めていた。
それを見ながら、新八はふと、今年は寒さが続いたり、
天気が悪かったりでお花見をしなかったな・・・なんて思う。
「・・・そういやぁ今年は花見、しなかったなァ」
どうやら沖田も同じような事を考えていたらしく、
団子を食べながらポツリと呟いた。
「あれ?沖田さん達もしなかったんですか?」
なんかそう言う行事はきっちりやってそうなのに・・・そう思い
新八が問い掛けると、沖田は深々と溜息を吐き、緩く首を振った。
「こう見えても忙しい身の上でねィ。
あれ?新八達こそやらなかったんでィ?
暇なのに?」
「そんな身の上のお方がなんでここに居るか
物凄く不思議なんですけどね。
ってか断定しないでくれます?
泣きたくなりますから。」
「S王子に無理な注文しないで下せェ。
泣かしてなんぼの人生なんで」
「やな人生だなぁ、おい」
そんなのに僕を巻き込まないで下さい。そう告げて、新八も
団子へと手を伸ばす。
「僕等は・・・なんとなくタイミングが合わなかったんですよ。
買い物の帰りとかにちょっと見るぐらいで。」
ま、僕の場合ここにあるから、見る事は出来ましたけど。
そう告げる新八に、沖田も軽く頷きながら
目の先にある桜へと視線を移した。
「確かに。本格的な花見は出来なかったが、
ここの桜のお陰で、ちったぁ見た気にはなるねィ」
毎日の様に来てたから。沖田の言葉に、新八は苦笑を浮かべる。
確かに、近藤の回収の為に来ていた沖田達は、近藤が目が覚めるまで
よくここで休憩をしていた。
新八もそれに付き合っていたので、言葉通りの花見はしていた気分だ。
「まぁ一本しかないからちょっとショボイですけどね」
新八の言葉に、沖田がイヤイヤと首を振る。
「一本しかねえって言っても立派なもんでさァ。
特に今年は色が綺麗だ」
「そうですね~。やっぱり養分がいいからですかね?」
「だろうねィ。昔からよく言うからねィ」
二人してのんびりとお茶を啜っていると、遠くから
ずるずると何かを引きずってくる音が聞こえた。
そして続いて耳に入ってくる、聞きなれた声。
「新八~、これ追加ネ~」
「あぁ、じゃあその下に置いといて~」
「あいよっ!」
神楽の声とともに、ドサリと言う音が響いてくる。
「お疲れ様、神楽ちゃん。お団子あるよ?」
「マジでか!?」
「あ、その前に手を洗ってきてね?」
新八がそう言うと、神楽は元気良く返事をして
家の中へと走っていった。
それをぼんやりと見送りながら、沖田がポツリと問いかける。
「・・・で、旦那は?」
「いつものコースですよ。パチンコに行って、負けて自棄酒呑みに行って」
だから僕と神楽ちゃんはこっちに。新八のその答えに、
沖田は成るほど・・・と呆れた顔で頷いた。
「だからこれ・・・ですかィ」
「えぇ。銀さん、意外と寂しがり屋さんなんで」
「・・・養分に困りやせんねィ」
「なんかその内立派な実でもつけそうな勢いですよね」
「確かに」
そう言って、二人は半分散りながらも未だ美しい桜の木を
見上げた。
「で、何時あそこの近藤さんを回収してくれるんですか?
いい加減見上げすぎて首が疲れるんですけど」
「なら遠慮せず下も見なせェ」
「いやですよ。美観が損なわれます。
序に余分なのも目に入って、自分の将来設計に
疑問が沸きます」
「新八~、手ぇ洗ってきたネ。
って、まだ銀ちゃん寝てるアルカ?」
「チャイナァ、お前あれを寝てるって言い張る気かよ、おい」
「だって姉御が言ってたネ。目を閉じてるのは
寝ている証拠だって。
だからまだ大丈夫だって言ってたヨ。
別にどっちでもいいんだけどナァ~」
「・・・閉じてるってより白目剥いてるんだけどね、あれ」
*********
坂田酔って帰宅→誰も居ないので志村家へ→
序に新ちゃんの布団に突入→・・・する所をお妙が捕獲→
ゴリ共々養分確定☆なコンボ炸裂。
・・・来年も桜はきっと綺麗です。
「・・・本当、勘弁してよ」
久しぶりに晴れた昼下がり、新八は天下の往来で深々と
溜息を零していた。
「おう、新八じゃねぇか。
こんなトコでボーッと何突っ立ってんでィ。
仕事サボってんじゃねぇよ」
とりあえず道のど真ん中で突っ立ってるのもアレなので、
脇の方へと身を寄せていた新八に、聞きなれた声が掛かる。
視線を向ければ、ジュース片手にこちらへと歩いてくる
沖田の姿が。
「アンタに言われたくない言葉
第一位ですよ、それ。」
「あぁ、そりゃSとしてはナイスチョイスだねィ。
で、何サボってんでィ」
「・・・そもそもサボる為の仕事がありませんが?」
「判ってまさァ」
今更何言ってんだ?と言わんばかりの沖田の表情に、
軽くイラッとくる。
だが、それを表面上に出しても、沖田を喜ばすだけだ。
新八は大きく深呼吸をする事で一先ず落ち着き、
持っていたビニール袋を軽く上げた。
「・・・ま、一応買い物の帰りですけどね。
買い物が仕事に入るかどうか、
物凄く疑問ですが。
でも、一応サボっている訳じゃないですよ?」
待ってるんです。そう言って新八はチラリと視線を動かした。
それに釣られて沖田も視線を向ければ・・・
「あ~・・・アレね」
二人の視線の先、そこには周囲の視線も何のその。
丸っきり無視して激しく言い争う大の大人が二人。
「一緒に買い物に来たんですけど、フラッとどっか
行っちゃって。
で、漸く見つけたと思ったら、・・・アレですよ」
一応声掛けたんですけどね・・・新八はそう言うと、
カクリと肩を落とした。
「なんでィ、旦那ともあろう御人が
新八の事を無視したんですかィ?
旦那ともあろう御人が?」
「・・・どんな御人なんですか、沖田さんの中で」
「どんなに離れていようと新八の危機には必ず
駆けつける。
寧ろ危機じゃなくても駆けつける。
ならいっその事ずっと傍に居ろよ、
ってぇか居るじゃん、もう。
・・・てしみじみ思わせる御人でィ」
「すみません、本当にどんな御人なんですか
それっ!」
淡々と説明する沖田に、新八が声を荒げれば、
「あそこに居る御人でィ」
と、気持ち良いぐらいきっぱりと少し離れた所に居る
銀時を指差した。
「だから、新八が声を掛ければ一発だと思うんだけどねィ」
心底不思議だと言う風に、沖田が首を傾げた。
「一体今日はなんで喧嘩してんでさァ。
土方さんの開いてる瞳孔にガンでもつけられたのかィ?
そりゃ仕方ねぇや。あの人ぁそれが通常の目つきだからねィ。
生れ落ちた瞬間からそれだから。
傍迷惑極まりねぇよなぁ、本当。
潰れちまえよ、そんな目ん玉ぁ。
んで飛び出した目ん玉抉り出して貰って、
勝手にレッツパーリィィしてきやがれ。
後は俺が地に落としてやっから。
あ、それともマヨ臭でも移されちまいやしたか?
っつうても旦那だって糖分とアルコール臭と
マダオ臭撒き散らしてんだから、相殺って
感じだけどねィ。
っつうか寧ろ即殺って感じだねィ、俺的には。
で?理由はなんでィ?」
ま、理由なしでも普通に喧嘩してっけど。
そう言って沖田は新八へと視線を戻した。
それに対し・・・なのか、それとも全体に対してなのか。
新八は深々と溜息を吐くと、沖田の疑問に答えを返した。
「・・・朝御飯です」
「・・・は?」
思わぬ返答に、沖田の目が少し見開かれる。
それに新八は だからっ! と呆れた様に言葉を続けた。
「朝御飯ですよ。ほら、今日のお迎えって土方さん
だったじゃないですか」
そう言われ、沖田は あぁ。 と頷いた。
既に日常の一部と化してしまった、志村家への
近藤回収だが、時間が合えば、時折新八が朝御飯を
出してくれたりする。
現に沖田も既に何回か御呼ばれになっているし、
お礼と迷惑料を兼ねて、手土産を持って行ったりしている
訳だが・・・
それが何で喧嘩に?
多分、今日迎えに行った土方も、新八の朝御飯を
ご馳走になったのだろう。
でも、それと銀時が新八を構わずに土方と言い争いを
している事がどう繋がるのかが判らない。
尚も不思議そうにしている沖田に、新八は少しだけ
頬を染めて言葉を続けた。
「だから・・・その・・・どうも土方さんに会った時に
銀さん、それを聞いたみたいで・・・許せねぇって。
僕の朝御飯、土方さんから吐き出させるまで待ってろって」
「はぁ・・・」
気の抜けた声を出しながら、沖田は未だ言い争っている
二人へと視線を向けた。
相変わらず銀時は真剣に怒ってて、土方も真剣に
言い返している。
それはそうだ。
天下の往来・・・と言うか往来でなくても、
吐き出したくはない。
と言うか普通に無理だ。
けれど、銀時としてはそのままは許せなくて・・・
・・・まぁアレだ。
「愛されてんねェ、新八は。
全く羨ましくねぇけど」
「・・・でしょうね。
ほっといて下さい」
そう言うが、やっぱり新八の頬はほんのり赤く、
沖田はひっそりと口元を緩ませた。
「てか、吐き出させるより腹ぁ掻っ捌いて
中身出した方が早くねぇかィ?
あれ?俺超良い事言ったんじゃね?
やべ、旦那にアドバイスしてこねぇと。
寧ろ参加してこねぇと」
「ちょっ!土方さん、逃げてぇぇぇ!!!」
**********
ウチの坂田は心が狭いです。
「神楽ちゃ~ん、迎えに来たよ~」
日も暮れ始めた頃、新八は公園で遊んでいるだろう
神楽を迎えに来ていた。
既に遊んでいた子供達も迎えが来て帰ったのだろう、
人のいなくなった公園内を探しながら入っていけば、
何故だか物凄い勢いで揺れている・・・と言うか
回転寸前のブランコが目に入った。
「うはははは、どうネ、神楽様の華麗な乗り方はっ!
凄過ぎて誰も真似出来ないネ」
「っつうか馬鹿過ぎて誰も真似しねぇよ」
楽しそうに笑いながらブランコを漕ぐ神楽。
そしてその隣のブランコに土足で立ちながら、呆れたように
言葉を返す沖田。
・・・一瞬、新八がそのまま帰りたくなったのも
仕方ない・・・
「あ、新八~っ!」
が、そうする前に、神楽たちに気付かれてしまう訳で。
新八は一つ息を吐くと、神楽達の居るブランコの前まで
足を進めた。
「神楽ちゃん、危ないからそんな乗り方しちゃ駄目でしょ。
後沖田さんも。他の人も座るんですから、
土足は止めてくださいよ」
「何言ってるネ、新八。
危ないからって遠ざけてばかりじゃ、碌な大人にならないヨ」
「一々服が汚れるのを気にして遊ぶガキなんざ、
碌な大人になりやせんぜィ?」
「いいお言葉ですが、既にそんな事してる時点で
碌な人間じゃないって事を覚えとけ、コノヤロー」
とりあえず、大きくブランコを揺らす神楽を止め、
沖田がつけた泥を簡単に払う新八。
その時ふと違和感を感じ、不思議そうに目を瞬かせた。
「なんか・・・低い?」
改めてブランコを見てみると、座る所が思っていたより低い位置に
ある事が判った。
昔はそんな事思わなかったのに・・・と首を微かに傾げた所で、
新八は あぁ・・・と笑った。
当然だ。だって昔はまだ子供で。
そして大抵の遊具は子供用に出来ているのだから。
そう言えばよく遊んだな・・・と、新八はその頃のことを思い出し
口元をゆるりと緩ませた。
何時だって人気のあるブランコ。
当然新八が子供の頃も、大抵誰かが乗っていて、
酷いときなんかは順番待ちなんかしてたりして。
でも・・・と新八が物思いに耽っていた時、不意に
隣から名前を呼ばれた。
視線を向ければ、そこには不思議そうな顔をしている
沖田と神楽が。
「どうしたネ、新八」
「いや、ちょっと子供の頃のこと、思い出しちゃって」
問いかける神楽に照れたように笑みを返すと、新八は空いている
ブランコへと腰を下ろした。
「ほら、みんな子供の頃ってブランコ好きでしょ?」
「私は今でも好きネ」
「俺はどっちかってぇと、乗っている奴の背中を
限界まで押し捲って歓喜の涙を流させる
方が好きだけどねィ」
「・・・沖田さん、それ絶対違う種類の涙ですよ」
沖田の言葉に深々と溜息を吐く新八だったが、すぐに気を取り直して
続きを口にした。
「でもね、そんなブランコを独占できる時間があったんですよ」
そう言って新八は顔を前へと向け、ゆったりと沈んでいく夕日を
見つめた。
そう、それは丁度こんな時間。
それまで一緒に遊んでいた子供達は、みんなお迎えが来て。
迎えの無い自分はそこに残されて。
赤く染まっていく公園の中、滑り台だってブランコだって、
全部自分ひとりだけのものだったあの時間。
友達からは羨ましいと言われたけれど。
ほんのちょっとだけ、得意気だったけれど。
でも、本当は・・・
「ま、姉上も家の事で忙しかったですしね、仕方なかったですけど」
帰るよ~。と名前を呼ばれてみたかった。
新八は 照れくさそうに首筋を掻くと、小さく笑った。
そこに、カシャンと隣のブランコに座る音がする。
見れば沖田も同じように、誰も居なくなった公園を見つめていて。
「・・・俺の時は散々自慢しまくって悔しがらせて
やったけどねィ」
一度、全部の遊具に名前を書いてやった事もある。
そう言って笑う沖田を、未だブランコに座って
小さく揺れていた神楽が はっ。と鼻で笑い飛ばした。
「甘いネ、私なんて家に持って帰った事アルヨ」
「いや、持って帰ってどうすんだよ、それ」
神楽の言葉に、呆れた視線を送る沖田と、若干頬を引き攣らせる新八。
そして、ギャーギャーと騒ぎ出した二人を他所に、
新八はそっと視線を公園の中へと向けた。
先程よりも夜に近づいてきた空の下、
一人で遊んでいる子供達の姿が見えるような気がして。
どれだけ騒いでいたのか、すっかり暗くなった頃、
ふと誰かがこちらへと向かってくる気配を感じた。
「あ、居た居た。ったく何やってんだよ、お前等」
「銀さん?」
「総悟ぉぉ!?お前巡察はどうしたのぉぉ!!?」
「げ・・・近藤さん」
「ガキがこんな時間まで遊んでんじゃねぇよ」
「マヨ離れしてない奴にガキ扱いされたくないネ」
驚いて見れば、これまた珍しいメンバーで。
「どうしたんですか、一体」
その顔ぶれに不思議そうに首を傾げれば、深々と溜息を吐かれる。
「どうしたじゃねぇだろ。中々帰って来ねぇから
迎えに来たんじゃねぇか。」
「俺等は山崎から、またどっかの馬鹿が公園でサボってるって
聞いてな。周囲に迷惑を掛けねぇ内に回収に来たんだよ」
「ほら、もう暗いから遊ぶのはまた明日にして帰ろうか」
「いや、近藤さん。総悟は明日も仕事だからな!?」
ニコニコと笑って言う近藤に、土方が慌てて言い直す。
それにこれ見よがしに大きな溜息を吐いて、沖田が腰を上げた。
「あ~、はいはい。判ったから近藤さん、ちょっと
おんぶして下せぇ」
「「いや、なんで!!?」」
「疲れたんでさァ。それぐらい察して下せぇよ、近藤さん。
そして警察なら空気を読みきって見せろよ、土方ぁ。」
「警察関係なくね!!?」
「あ、なら銀ちゃん、私もおんぶしてヨ」
「神楽、ちょっと自分の足元見てみろ。
頑丈な移動手段が見つかるから」
「あ、なら新八は土方さんに負ぶってもらいなせぇ。
で、序に頚動脈掻っ切っちまえ」
「どんな序ぇぇぇぇ!!?」
「こいつに任せるぐらいなら、俺が二人とも抱えてってやらぁぁ!!」
「・・・や、僕はいいです。」
でも・・・と新八は騒いでいるみんなを見つめて少し笑った。
手ぐらいは繋いで帰りたいかな?
――――それは昔、少しだけ夢見た光景。
**********
十代組を可愛がりたくて仕方ないです。
「ありゃ珍しい。今日は休みかィ?」
「えぇ、そうですけど・・・」
そう言って新八は少し驚いたようにこちらを見詰めてくる沖田を、
不思議そうに見返した。
それもその筈、だって場所は志村家の縁側だ。
・・・と言うか正しくは新八は縁側、沖田はそれに面した
庭先にとひょいと顔を出してきたのだ。
もしかしたら留守だった・・・と言うかその可能性の方が
高かった家に、一体何の用が・・・
と思ったが、沖田の手にアイマスクが握られてるのを見て
口を閉ざした。
だってこれ、聞くだけ無駄だ。新八は素早く判断すると、
お茶を淹れて来ますね。と言ってその場を後にしたのだった。
「いやぁ、今日は絶対家に居ないと思ったんだけどねィ」
当てが外れたぜィ。と、縁側に座り、お茶を啜る沖田に、
だから何で留守の家に突撃訪問!?・・・と叫びたくなった
新八だったが、やっぱり流す事にした。
だってやっぱり言うだけ無駄だ、きっと。
「なんで居ないと思ったんですか?」
でも、絶対とまで断言されるのは気になる。と、新八は
沖田に問いかけた。
今までだって、そりゃ日曜に休み・・・と言うか休み自体が
そんなにないが、それでも時にはあって、家に居た事はある。
・・・と言うか、そもそも沖田に自分の休みを
教えた覚えが無い。
だから不思議に思ったのだが、沖田は何を言ってるんだとばかりに
呆れた表情でこちらを見返してきた。
「何言ってんでィ、今日はバレンタインだぜィ?
旦那が離さねぇだろ」
「僕とバレンタインデーと銀さんが
何故繋がるのか
そこからがまず判りませんが」
沖田の答えに、にっこりと笑って返す新八。
とりあえず既に何かがあったらしい。
新八の笑顔からそう読み取ると、沖田は まぁいいか。と
そのまま縁側へと体を横たえた。
「そう言えば沖田さんは大変なんじゃないんですか?」
「何がでィ」
「何ってチョコですよ、チョコ」
あ、だからか・・・と、新八は一人納得したように手を叩いた。
そしてこちらをちらりと横目で見ている沖田の横で、
うんうんと小さく頷く。
「追っかけられて大変だからここにサボリに来たんでしょ?
沖田さん、見た目だけはいいから。」
「よ~し、名誉毀損の現行犯だねィ。
未成年だし、ここは軽く切腹と切腹と切腹、
どれがいいか選ばしてやらぁ」
「すみません、間違えました。
見た目がいいですの間違いです」
「・・・あんま変わってる気がしやせんが。
ま、いっか面倒くせぇし。で?それが何でィ」
ごろりと新八の方へと体を向けて、沖田が続きを促す。
「否定はしないんですね、見た目の事。
ってかチョコですよ。色んな人から貰ったんじゃないですか?」
そう言われ、沖田は あ~。と思い出すかのように
視線を上げ、片肘をついた。
「そう言やぁ今年も送られてきてたねィ、邪魔くせェ」
「・・・今この瞬間、殆どの男性を敵に回しましたよ、沖田さん」
「殆どが敵にもなりゃしねぇからいいでさァ。
ま、基本ウチに送られてくるモノなんて殆どが物騒なモノ
だからねィ。
まず一箇所に集めて、検査して安全性を確かめてからそれぞれに
分けられるから・・・ま、半分ぐらいしか手元に来ねぇけどな」
「・・・それでも邪魔臭い程の量なんですね、
コンチキショー」
ピキリと頬を引き攣らせた新八だったが、沖田は
うんざりしたように緩く首を振った。
「当たり前でさァ。こっちとら旦那じゃねぇんだぜ?
あんな甘いもんばっかあったって、邪魔なだけでさァ」
その言葉に、やはり新八は頬を引き攣らせたが、直ぐに
ハタリと考えを思い直した。
考えてみれば、幾らバレンタインのチョコと言っても、
所詮チョコはチョコだ。
一個や二個程度なら普通に食べられるが、それ以上となると
確かに厳しいものがある。
・・・まぁ、どっかの糖尿銀髪は違うのだろうけど。
「それは・・・大変ですね」
「あぁ、だから大抵他の奴等に分け与えてやってんでさァ。
一味加えて」
「・・・え?」
もてる男も大変だ。としみじみと呟けば、沖田から貰ったチョコの
行く末を教えてもらったのだが、なんだか不穏な言葉も
伝えられてしまった。
「悔しいやら何やらでものっそく微妙な
顔してて愉快だけどねィ。
全く、たかがチョコ一つに何夢持ってんだか・・・
ま、他のもんは盛ってんだけどねィ?」
あ、新八も要りますかィ?そう言って沖田は横たわったまま体を
捻ると、ズボンのポケットから可愛くラッピングされた
箱を一つ、笑顔で新八へと差し出した。
・・・とりあえず、何加えたんですか・・・とか。
夢以外の何を盛ったんですか・・・とか。
先に調べた安全性の意味がねぇじゃん・・・とか。
ってか何で僕まで!!?・・・とか、色々と思った新八だったが、
「丁度甘いモノが欲しかったんで、有難く貰っときますね。
いや~、喜びますよ、銀さん。」
と、これまたにっこり笑顔でそれを受け取ったのだった。
その後、暫くの間異様に生気のない真選組隊士や、
銀髪天パの姿が街の彼方此方で見かけられたと言うのは
・・・まぁ言うまでもない。
***********
遅れましたがバレンタイン話。
今年はうっかりしませんでした(笑)
「え、何これ」
日も暮れ始めた頃、万事屋から帰宅すると家の門前が
殺人現場になってました。
わぁ、今が夕方で良かったや。
だって夕陽のお陰で血の色がそんなに目立ってないもん。
あ、て言うかこれ違うんじゃね?
夕日のお陰で赤く見えてるだけで、実は違う液体じゃね?
・・・なら何の液体なんだって話に
なるんだけどね、それ。
「・・・久しぶりの仕事で疲れてるんだけどな」
とりあえず現実逃避はこれくらいにして・・・と、新八は一つ息を吐くと
門に凭れるように座り込んでいる・・・と言うか意識を手放している
近藤へと手を伸ばした。
「近藤さん、大丈夫ですか~?
僕の声、聞こえてますか~?」
軽く揺すって声を掛けるが、全く反応はない。
反応はないが・・・意識がないだけだと思う事にする。
だってまだ温かいし。
ちょっと肌が冷たい気がするけど、それは冬のせいだと思おう、僕。
・・・と言うか、何時頃からここに放置されていたんだろう。
さっと周囲に視線をやるが、しんとした静けさが広がっているだけで、
人の気配はなかった。
とりあえず長時間ここに放置されている訳ではないようだ。
流石に誰かこれを見たら、一騒動になってるだろうしね。
新八はほっと胸を撫で下ろし、近藤の脇に手を入れ、そのままズリズリと
門の中へと引き入れ始めた。
疲れてはいるが、流石にこのままにはしておけない。
こんな光景見られて、ご近所さんの噂になるのは嫌だ。
そう思い、一生懸命近藤を運ぶ新八なのだが、
実はもう遅く、『志村家門前、プチ殺人事件』はご近所さんに
ばっちり目撃されていたりする。
・・・まぁいつもの光景だと認識もされているのだが。
そしてお子様達には『肝試し・勇気試し』の場所として
認定されている訳だが。
だがそんな事は知らない新八は、健気によいしょよいしょと頑張っている。
「・・・なんでこれだけ血が流れてるのに
軽くなってないんだろう」
普通流れた分だけ軽くなるもんなんじゃないんだろうか。
そう思い、少しだけ近藤を恨めしく思う新八。
とりあえず、軽く感じるほど血が流れていたら、
最早それは残念な事になっている・・・と言う事にまで
頭が回っていないようだ。
「寧ろ血が流れ出るのと比例して、執念が増してるんじゃねぇかィ?」
「あぁ、成る程。だからこんなにこの場所にしがみ付いて
あ、でもそれだと執念ってより執着の方が正解のような・・・」
って、え!?突然聞こえてきた声にビクリとしながら新八が
振り向くと同時に、パシャリと眩しい光が視界を埋めた。
「は~い、死体遺棄の犯行写真ゲット~」
「ちょ、沖田さん!!?」
見れば沖田がにんまりと口元を緩ませて、新八の方へと
携帯を向けていた。
「って、まだ死んでませんからね?
まだ大丈夫な筈ですっ!」
でもとりあえず・・・と、新八は力説しながらも
火事場の馬鹿力でもって近藤を門の中へと放り投げた。
この場合、死体遺棄では無いにしても、
ある意味証拠隠滅だ。
「で?近藤さんを引き取りに来て下さったんですか?」
ならもう少し待ってて欲しい。
せめて治療と言う誠意を示してから。
あ、でもこの場合近藤さんにも非があるだろうから、
別にいいんだろうか?
出来ればそう言う事にしておいて欲しい。
最悪50:50でもいいから。
切実に願いながらも、とりあえず新八は一応沖田の目に付かないよう
門を閉める。
だが・・・
「あ~、こりゃまた派手にやりやしたねェ」
門にもばっちり証拠と言う血痕があったりする訳で。
「・・・夕日のせいです」
こちらもバシャリと携帯で写真を撮る沖田に、新八は
そっと視線を逸らす。
「それにしちゃぁ一部限定のようだけどねィ」
「・・・ってかその一部限定が段々広がってる気がするんですけど」
誰のせいですか、誰の。と、少し開き直った新八が
じっとりと門の前にしゃがみ込んだ沖田へと視線を向けた。
「・・・ま、俺のせいじゃねぇのは確かだねィ」
「ですね。ちなみに僕のせいでもないですよ」
肩を竦め、飄々と答える沖田に、新八は一つ息を吐くと
同じように沖田の隣へとしゃがみ込んだ。
「・・・僕ね、今日仕事があったんでよ。
しかも力仕事」
「おぉ、そりゃおめでとうさん。
何日振りだっけ?」
「『日』と言う単位で言うには
無理がある日数です。
だから疲れてるんですよね~」
なのに心安らぐ筈の家に帰ってきたらコレって・・・。と、
新八はもう一度ため息を零した。
「・・・俺は睡眠学習ならぬ睡眠仕事してた最中でねィ。
なのに土方のヤローが押し付けてきやがって、
自分は書類が山積みになってるからとか何とか。
ま、大抵は苦情やら始末書やらなんだけどねィ、
主に俺の」
「いや、そりゃ押し付けるでしょ、普通。
ってか睡眠仕事って何?単なる昼寝じゃないですか」
「昼寝じゃねぇ、夕寝でさァ」
「どっちも一緒ですよね、それ。
まぁこっちに被害がないんで別にいいんですけど。
それにしても・・・これアレですよ。
今から門の掃除決定ですよ、疲れてるのに。」
血って中々取れないのに・・・と新八はカクリと頭を垂れた。
「証拠隠滅も大変だねィ」
「や、掃除ですからね、掃除。
そこは大事なんで間違えないで下さい」
「ってかいっその事塗り替えちまったらどうでィ」
これだけ着いてたら、ふき取るよりもそちらの方が楽だろう。
沖田は今日増えたであろう血痕ではなく、薄っすらとシミになっている
部分にそっと手を当てた。
よくよく見ればそれはあちこちにある。
きっと新八は、新しく着けられる度に生真面目に落としていたのだろう。
・・・まぁ自分の家の門が血に塗れてるなんてのは、
生真面目な性分ではなくても遠慮願いたい所だが。
そう思い告げた言葉だったが、新八としては思いも掛けない言葉だったらしい。
驚いたように目を真ん丸くしている。
そして・・・
「え?でもそうしたら近藤さん、
確実に死にますよね?」
ってか人の血に彩られた門なんて僕、嫌なんですけど。
そう真顔で告げてくる新八。
どうやら彼の中では、
血の跡を塗り替える=血、そのもので塗りつぶす。
と言う結果に直結したらしい。
そんな門は誰でも嫌だ。
ってかその前に大事な事が吹き飛んでいる。
「新八・・・流石にそれは止めときなせぇ。」
沖田は一つ息を吐くと、新八の頭をぽんぽんと叩いて
言い聞かせるように言葉を吐き出した。
「そこまでしなくても、
土方さん合わせりゃ多分いけっから」
寧ろそっち優先で。と言う沖田は、多分大事な事等
最初っから持ち合わせていない。
「あ~、そっか。二人なら死ぬまで血を出さなくても
ギリギリいけますよね、きっと」
しかし疲労の為か、思考回路の低下した新八が
それに気づく筈も無く、なるほどとばかりに沖田の言葉に
大きく頷いて・・・
その後、志村家の門の色が本当に変わったのかどうか・・・
とりあえず志村家周辺に、また一つ恐ろしい噂が一つ増えたのは
言うまでもない。
************
近藤さんに八つ当たり(笑)