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何時ものようにダラダラと寝ていた所を叩き起こされた銀時は、
眠い目を擦りつつも、追い立てられるまま洗面所へと向かった。
・・・が、何故だか目に違和感がある。
擦ったり瞬きをしたりすると、ほんの少しだけだが痛いのだ。
ゴミでも入ったか?と、銀時は歯を磨きながら、目の前の鏡へと
顔を近づかせた。
「・・・ん?」
そこで、何やら小さい出来物みたいなものが
目蓋の丁度中間ぐらいにあるのを発見したのであった。
「お~い、新八~」
触ってはいけないと思いつつも、気になったら最後だ。
銀時は軽く目に手を当てながら、居間へと戻ってきて新八の名を呼んだ。
「はいはい・・・ってどうかしたんですか?」
朝食の準備をしていた新八は、呼ばれて振り返り、
銀時のしている格好に首を傾げた。
「いや、それがよ~・・・あれ、神楽は?」
「もうとっくに遊びに行っちゃいましたよ。
今何時だと思ってんですか。
既に朝食ってより昼食な時間ですよ」
部屋の中を見回して問い掛ける銀時に、新八は呆れたように
言葉を返した。
それに銀時は軽く手を振りながら、ソファへと腰を下ろす。
「大丈夫。新ちゃんの飯ならどっちも残さず食べるから」
「そんな心配はしてねぇよ。
ってかどうしたんですか、それ」
そう言われ、銀時は思い出したように目から手を離した。
「あぁ、なんかよ、ものもらいになっちまったみてぇで」
「え、本当ですか!?」
ちょっと見せて下さい。そう言い、新八は銀時の隣へと
腰を下ろすと、両手で銀時の顔を包み込み、自分の方へと向けさせた。
「・・・・なんで目を瞑るんですか」
「あ?いやなんつぅか・・・新八に対する条件反射?」
「こんな条件、満たした事ねぇよ。」
「馬っ鹿、お前銀さんの常日頃のイメージトレーニングを
舐めんなよ!?
考える前に体が動くほど綿密にイメージしまくってるから!
もうイメージ映像なのか現実なのか、
判断に苦しむレベルだから!」
「判断に苦しむのはアンタの思考レベルだよ。
いいから目をかっ開けっ!そして口を尖らすな!!
腰にある手をどけろぉぉぉぉ!!!」
「オマッ!!無茶言うなぁぁぁ!!!」
「何が無茶だこのボケェェェ!!!」
「ただいまヨ~・・・て、あれ?
銀ちゃん、目どうしたネ」
「・・・ものもらいだよ」
「それがものもらいアルカ?
なんか殴られた痕っぽいヨ?
青痣じゃないアルカ?」
「うっせぇよ!
ものもらいだっつってんでしょぉぉ!!」
*********
初めてものもらいになりました(泣)
「相変わらず仲が良いね~、お二人さん」
買い物の帰り道、ばったり会った長谷川さんにしみじみと
そう呟かれた。
・・・いや、確か今、僕結構な勢いで銀さんに
突っ込み入れてましたよね?
って言うか突っ込みという名の小言言ってましたよね?
銀さんも負けじとそれに言い返してましたよね?
つうか大の大人が子供相手に屁理屈ばかり並び立てるってのも
どうかと思いますけどね。
あぁ、その前に子供にお小言言われるってのを
どうにかした方がいいとは思いますけど。
で、それのどこら辺が仲良し?
そんな僕の疑問が判ったのか、長谷川さんは苦笑を
浮かべつつ、それそれ。と僕と銀さんの間を指差した。
そこには、確りと繋がれている僕と銀さんの手が
あったりしますが、それが何か?
・・・まぁ言いたい事は判る訳で。
でもこれにはちゃんとした理由がある訳で。
だが、それを言う前に長谷川さんは去って行ってしまった。
なんでも、本日リニューアルオープンするパチンコ屋が
あるらしい。
お陰で僕はまた、銀さんの手を離すタイミングを
逃してしまったのだけれど。
そう、今のパチンコといい、この甘味大好き人間にとって、
街中と言うのは誘惑の嵐だ。
コンビニに喫茶店。甘味所にスーパーにファミレス。
おまけにパチンコときたもんだ。
ちょっとでも目を離すと、ふらふらとその誘惑に乗ってしまうのが
ここに居る銀さんだ。
なので何処にも行かないよう、僕が手を繋いで捕まえているのだけれど・・・
今も長谷川さんの言葉に、名残惜しそうに・・・と言うより
呪い殺しそうな勢いでその姿を見送っている
銀さんを確りと捕まえながら、ふとある事へと思い至った。
「えっと・・・やっぱり恥ずかしかったりしますか?」
考えて見れば、いい年した男同士で手を繋いでいるのだ。
僕としては、財布の中身・・・いやいや違う、銀さんの体を
心配しての捕獲体勢なのだけれど、冷静に考えて見れば
ちょっと・・・と言うかかなり恥ずかしい状態だろう。
少なくとも、今みたいに冷やかされる程度には。
だが、銀さんはきょとりと不思議そうな顔をして
「何が?」
と答えてきた。
「いや、何がって・・・この状況ですよ、この」
そう言って繋いでいる手を上げて見れば、あぁ。と頷き、
視線を上に上げてコクリと小首を傾げた。
「俺は別になぁ・・・っつうかこれで当たり前って言うか
・・・慣れたって感じか?」
慣れた?銀さんの言葉に、今度は僕が小首を傾げた。
・・・そう言えば、僕もそんなに抵抗はないかな。
でも、何でだろう・・・と考えてみた。
別に、そう頻繁に銀さんと街中を歩いている訳じゃないんだけど・・・
そこまで考え、そう言えば銀さんと手を繋ぐのって
街中だけじゃなかったと言う事を思い出した。
まず、朝寝ぼけてふらふらと動く銀さんを、よく手を繋いで
移動してあげたりするし、こっそり台所で冷蔵庫を
開けようとしているのを捕獲したりしている。
後、酔って帰って来た銀さんを迎えに行く時も、帰りは
手を繋いで歩いてるし、帰って来てもまともに歩けないから
布団まで手を引いていってあげる。
他にも怖いテレビを見た後とかだと、手を繋いで眠るし、
新聞とか読んでる時にちょっかい掛けてくるのを
捕まえて大人しくさせてたりもする。
・・・あれ?これって何て言う介護状態?
なんて疑問も浮かんだが、ちゃんと捕まえてないと
不安で仕方が無い訳で。
そう思っていると、不意に繋いだ手にギュッと
力を入れられた。
顔を上げれば、至って普通の顔をした銀さんが
軽く上げた繋いだ手を、ヒラヒラと揺すった。
「ま、いいんじゃね?そんな気にするもんでもねぇだろ」
「・・・ですかね。まぁ僕も慣れちゃいましたし」
と言うか、あれだけ日常的に繋いでいれば、イヤでも慣れるだろう。
そう言うと銀さんは何故か満足気に数回頷いた。
「だろ?それよりも早く帰ろうぜ。
パチンコ台が俺を待ってんだからよ」
「待ってるのは赤貧生活ですよ。
ってか行かせるか、コノヤロー」
絶対離しませんからね!
そう言うと、銀さんは そりゃねぇぜ、ぱっつぁん と嫌そうに
声をあげたんだけど・・・
ちょっとだけ嬉しそうに見えたのは、僕の気のせいですかね?
計算高い男・坂田です。
ふっと浮上した意識の中、心地よい音が耳へと流れ込んできた。
・・・あぁ、雨振ってんのか。
ぼんやりと目を開ければ、部屋の中は薄暗く、けれど
夜とは違う暗さで、今がもう朝だと言う事を告げていた。
そのままボーッとしていると、再び睡魔が襲ってきて
俺はごろりと寝返りを打った。
暖かくなったと言っても、まだ朝方は肌寒い。
そんな中の布団はまさに天国だ。
おまけにしとしとと程よい音量の雨音。
迫ってくる睡魔に抗いもせず、俺はゆっくりと瞼を
閉じていった。
・・・っつうか何で雨音ってこんなに眠りを誘うかね。
ぼんやりとしてきた意識の中、そんな事をふと考える。
静かな方が眠るにはいいだろうに、何故だか雨音と言うのは
子守唄の様に心地良い。
そういや昔っからそうだったっけ。
・・・まぁそん時はこな暖かい布団に包まっていなかったが。
それでも、やっぱり雨の降る夜は何時もより
寝心地が良かった気がする。
しとしとと降る雨音が、とても耳に心地よくて・・・
あぁ、幸せだな~。なんて眠る寸前の頭で考え、
あれ?と一瞬思考が止まる。
ってか昔もこんなに幸せな感じしてたっけ?
突然沸いた思わぬ疑問に、少しだけ睡魔が遠ざかる。
確かに昔も心地よいとは思ってた。
まるで子守唄のようだとは思ってた。
だが、幸せだな~なんて事は思ってたか?
自分の今の気分を不思議に思い、布団の中をごそごそと動いて
暫し考える。
・・・暖ぇ布団のせいか?それとも足を伸ばして
横になれてる事に対してか?
色々と考えてみるが、どうにも納得がいかない。
この幸せな気分は一体なんでだ?
一人、布団の中で悶々と考えていると、不意に雨音しか
入ってこなかった耳に、違う音が入ってくる。
これは・・・洗濯機の音か?
低く、床を揺するように響いてくる音に少しだけ耳を澄ます。
すると、続いて入ってくる、パタパタと歩く軽い足音。
あぁ、新八がもう来てんのか。
っつうか雨の日でも洗濯すんのかよ。
部屋干しはそんなに好きじゃねぇって言ってたのに。
・・・あ、それ以上に洗濯が溜まるのが許せねぇって言ってたっけ。
以前、新八が休みの日に洗濯をせずに居た時の事を
思い出し、ブルリと体が震えた。
まさか洗濯の為に命の選択を迫られるとは思ってなかった。
怖い、オカン新八、怖い。
思い出した恐怖に身を震わせていると、
新八の足音にもう一つ、音が加わってくる。
『新八~、顔洗ってきたネ~』
『はいはい・・・って神楽ちゃん、前髪びしょ濡れじゃない。
どんな洗い方したのさ』
『序に寝癖も直せる画期的な洗い方ヨ』
『あ~、もうこんなに濡れて。寝癖は後で直してあげるから
ちゃんと拭いてきて』
『序に髪の毛も縛るヨロシ』
『はいはい。あ、序に定春にご飯上げてくれる?』
『了解ネ。いくよ定春』
神楽の言葉と共に、今度はノシノシと重い足音が加わる。
それと、食器が重なり合う音。
どうやら新八は朝食の準備をしているらしい。
耳を澄ませば澄ませるほど、加わっていく音達。
それが酷く心地よくて、幸せで。
あぁ・・・・これか。
雨音よりも、布団よりも。
俺を心地よく、暖かく幸せにしてくれる音の正体は。
緩む頬をそのままに、俺は幸せな音に包まれて
今度こそ素直に睡魔の誘いへと落ちていった。
********
この後、幸せの原因に叩き起こされます。
その日は何時も変な銀さんが、もっと変でした。
「全く、何なんですか、銀さん!」
切れ気味の声を上げ、僕はハタキを持ったまま銀さんの目の前に
仁王立ちした。
が、銀さんは 何が? なんてとぼけていて。
でも、朝からずっと銀さんの奇行を目にしていた身としては、
それで済ませられる訳がなく。
「何がじゃないですよ!」
そう言って、持っていたハタキを銀さんへと突きつけた。
「朝からず~~~っとチラチラチラチラとっ!
何なんですか!?なんか僕、今日変ですか!?」
もっとも、銀さんよりは変じゃない自信はありますけど!?
きっぱりと言えば、銀さんは自覚があったのか
少し動きを止めた後、視線を泳がせ始めた。
そう、今日の銀さんはずっと変だった。
何をするのでもなく、僕の方をチラチラ見ていたのだ。
ご飯を食べていてもチラチラ。
食器を洗っていても、台所の入り口からチラチラ。
洗濯を干していてもチラチラ。
掃除をしていてもチラチラ。
そして、今現在視線を泳がしながらも
やっぱりチラチラ。
はっきり言って、ウザくて仕方がない。
言いたい事があるなら、さっさと言えってんだ、コノヤロー。
そう思って目に力を入れ、銀さんを睨み付ける。
「本当ネ。銀ちゃん、何時もウザイくらい新八見まくってるけど、
今日はウザイ通り越して目ん玉潰したいくらいな感じヨ」
ってかいい加減本気で潰していいアルカ?
それまで黙って僕達を見ていた神楽ちゃんが、
真顔で銀さんに問い掛けた。
どうやら当事者でないにしても、銀さんの奇行には
神楽ちゃんも嫌気がさしていたらしい。
神楽ちゃんの本気に気付いたのか、銀さんは一瞬小さく身震いすると、
顔を背けて一つ、大きな声を上げると盛大に髪を掻き乱した。
「あ~もう何でもねぇよ!
何でもねぇけど・・・まぁアレだ、アレ。
いや、別に銀さんそんなに気になんないけどね?
別に全然気になんかならねぇけど、でもアレじゃん?
なんかアレだから、つい視線が行くっつうか・・・」
「アレアレ五月蝿ぇよ。
目の前にその使えない舌を握りつぶしてやろうか?あぁん!?」
それでもはっきりしない銀さんに、とうとう神楽ちゃんがキレた。
銀さんの襟首を鷲掴みにすると、そのまま勢い良く
振り回し始める。
「ちょ、神楽ちゃん待って!
とりあえず落ち着いて、銀さん離してあげて!」
慌てて二人の間に入り、神楽ちゃんを落ち着かせる。
すると、なんだか頬を薄っすら赤く染めた銀さんが、
新八、そんなに銀さんの事心配してくれて・・・
なんてほざいていた。
全く、何言ってんですか、銀さん。
心配するに決まってるでしょ?
だって今銀さんが潰されたら、今日の奇行の原因が
永遠に判らず仕舞いになるんだから。
僕、そう言うのって意外と気にする方なんですよね~。
って事で、サクサク吐いてくださいよ。
とりあえず思った事は胸の中にしまい、にっこり笑って銀さんを促せば、
漸く銀さんは僕の方を見て口を開き・・・
「いや、なんかよ。今日の新八・・・・
・・・・・露出、激しくね?」
頭をかち割って中身を調べたくなるような事を言い出しました。
「・・・・は?」
出された言葉に、僕の顔が笑顔のまま固まる。
だが銀さんは言葉に出した事で吹っ切れたのか、
続けて言葉を並べ立てた。
「や、別に銀さん的には、んなの気になんねぇよ?
大人だからね?少年の心を持ち続けてはいるけど、
本当は渋い大人だから。
だから、例え何時も以上に露出が激しくても
全然大丈夫だから。
ドキドキなんてしねぇし、気にもなんねぇし、
寧ろ違いとかも全く判らないからね?」
いや、判ってるからこその奇行だろうよ。
・・・と、言うか。
チラリと自分の服に目を落とす。
確かに今日は少し暖かくはある。
でも、僕の格好は何時もと同じだ。
春物には替えたけど、着物に袴だ。
足袋だってきっちり履いている。
この格好の何処に露出過多の要素が?
未だブツブツと語り続けている銀さんを無視し、
僕は神楽ちゃんへと視線を向けた。
「・・・ね、僕の格好、何時もと違う?」
「面白いぐらいに代わり映えしないネ」
だよね~。そう言って首を振る神楽ちゃんに、僕も同意する。
「何か昨日と違うトコ、あるカ?」
反対に神楽ちゃんに聞かれるが、首を振って答えを返す。
別に違うトコなんて・・・そう思った所で、ふとある事を
思い出した。
そう、別に着てるものに変化はないが・・・
「昨日、姉上に少しだけ髪を切って貰った・・・かな?」
久しぶりに家に居た姉上に、丁度いいから。と、襟足などを
揃えて貰ったのだ。
でも、まさか・・・と、二人で銀さんへと視線を向けると、
「特に首筋!ヤバイね、これ。」
なんて力説している。
「・・・神楽ちゃん」
「・・・何ネ?」
「さっきは止めちゃってごめんね?
遠慮なくどうぞ?」
「任せとけヨ」
とりあえず目でも舌でもなく、
全ての原因である魂を握りつぶして貰おうと思います。
*********
違いの判る男・坂田(でも詳しくは判らない(笑)
早く。早く。
少しでも早く、大人に。
それは昔から強く思っていた願い事。
「銀さん、何処に行っちゃったんだろう」
もうすぐ日も変わろうとしている部屋の中、闇に包まれている
窓の外を見下ろす。
「どうせ呑みにでも行ってるネ」
そう言って ケッ と舌打ちをする神楽ちゃんは、珍しくも
まだ起きてテレビの番人をしている。
それに苦笑を返し、僕はすっかり冷めてしまった晩御飯に
ラップを掛けた。
一応待ってはいたのだが、神楽ちゃんのお腹が限界を迎えたので
先に食べてしまったのだ。
なので、残っているのは一人分。
銀さんの分だ。
何時もなら食事時に居ない方が悪いと言って全て食べ尽くしてしまう
神楽ちゃんだが、今日は時間が遅すぎたと言って
銀さんの分には手をつけなかった。
ちなみに、今も先に寝てなよ。と言う僕の言葉を、
「食べて直ぐ寝たら石になるネ」
と言って受け付けてくれなかった。
・・・ってか石ってなんだ。
牛になるのもびっくりだが、石になるのはもっとびっくりだ。
「・・・新八は寝ないアルカ?」
テーブルの上を簡単に片付け、後は繕い物でもしようと
服を片手にソファに腰を下ろした所で、神楽ちゃんがボソリと問い掛けてきた。
「うん、これやっちゃいたいから」
そう言って服を掲げれば、フーンと適当な相槌が返ってきた。
「全く、銀ちゃんもヤンチャしすぎネ。
お陰で新八の裁縫の腕が上がりまくりで仕方ないヨ」
「や、これ神楽ちゃんのだからね?」
「この間も着物の袖、破いてたヨ」
「・・・それ、神楽ちゃんが破いてたよね?」
「あれはアレンジヨ」
「今破いてたって言ったじゃねぇか、おい」
「煩ぇなぁ、技術向上に貢献してんだから
有難く思うヨロシ」
乱暴に言い捨てる神楽ちゃんに、深々とした溜息が落ちる。
・・・ま、いいんだけどね。
着物なら繕えばいいんだからさ。
でも・・・
一瞬落ちた沈黙を嫌うように、再び神楽ちゃんが
言葉を吐き出した。
「ったく、こんな時間までフラフラして。
帰って来たら説教ヨ、銀ちゃん」
「言葉の前にコブシが出るでしょ、神楽ちゃんは」
「当たり前ネ!
言葉よりもコブシの方が多く語り合えるものヨ!!」
「・・・や、神楽ちゃんがやったら
語り合う前にオチちゃうからね?
その後、確実に一方的な話し合いになるから」
「説教とはそう言うものネ」
偉そうに胸を張ってそう告げる神楽ちゃんに、
思わず笑みが零れる。
「まぁご近所迷惑にならない程度にお願いします」
「任せとくネ。
一瞬で決着つけてやるヨ」
早く帰って来ないかな、銀ちゃん。にししと笑う神楽ちゃんに、
僕もそうだね。と笑った。
本当、早く帰って来ればいいのにね。
そう言って視線を向けるのは、真っ暗に染まった窓の外。
軽口を言いながらも、僕も神楽ちゃんも何となく判ってる。
銀さんは今、きっと危ない事をしている。
それは多分、先日あった仕事に関係してて。
きっとそれは、銀さんにとっては僕達には関わって欲しくない事柄で。
多分、見せたくない世界の事で。
「・・・本当、勝手なんだから」
僕達が勝手に首を突っ込んだんだから、ほっておけばいいのに、
銀さんはそれを良しとはしない。
しかも僕達に手を引かせて、それに対して負い目を負わせないようにするし、
関わった結果の怪我も負わせようとしない。
心も体もなるべく傷付かないよう。
そして嫌なものをこの目に写さないよう、自ら前へと出て行ってしまう。
傷付いて欲しくないのは、僕達だって同じなのに。
けれど、その為に動くには、僕達は子供過ぎて。
銀さんの助け所か、足手まといにしかならないだろう。
それ所か、僕達がそんな場所に行った事に対して、
銀さんは自分を責めてしまうだろう。
・・・子供は子供なりに、覚悟を決めてるのにね。
それすらも銀さんを傷付けかねないなんてね。
だから早く。早く。
少しでも早く大人に。
昔から強く願っていたこの想いは、最近更に加速をつけていく。
だってそうすれば、銀さんの怪我を一つでも減らせるかもしれない。
でも、幾ら強く願っても、それは叶えられない訳で。
ならば出来る事は、ただ一つ。
「・・・帰って来たら、僕もお説教しようっと」
で、さっさと風呂に入って来いって言ってやる。
だってきっと埃だらけだ。
「おう、それがいいネ。
序に一発食らわしてやればいいヨ」
そしてもし、怪我をしていたら、その手で手当てを。
「神楽ちゃんは気が済むまでやっていいからね?」
その間にご飯を温めなおして。
「任せとくネ。
朝まで離してやらねーヨ」
そしてずっと、朝になってもずっと三人で固まって。
「早く帰って来ないかな、銀さん」
「早く帰って来るネ、銀ちゃん」
早く。早く。
少しでも早く、この場所に。
体の怪我は無理でも、心だけは傷付かないよう僕達が守るから。
それは願いと言うよりも、固い決意。
『最強呪文』と対的な感じで。