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「やっと見つけたぜ、高杉」
久しぶりに来た江戸で一人、気晴らしに街を歩いていると
不意に背後から声を掛けられた。
序に程よい殺気も。
高杉はククッと笑いを零し、ゆっくりと振り向いた。
そこには思った通りの人物、昔の戦友、銀時の姿が。
「おいおい、久しぶりに会ったってのに
そんなに殺気立ってんじゃねぇよ、まだ昼間だぜ?」
「うっせぇよ。なら殺気立つまで探させんじゃねぇっての。
こんな人気のねぇ裏通り歩きやがって」
表を歩け、表を!!そう怒鳴る銀時に、少し呆れる。
「・・・おい、オメー記憶力ってもんの存在を知ってるか?」
確か俺は指名手配されてる身なんだが・・・
と言うか、探しても見つからないが故の指名手配
だと思うのだが。
そんな真っ当な事を考えるが、生憎目の前の男は真っ当ではなかった。
「当たり前だろうが。そんなもんなかったら
テメーみたいな架空の存在に声掛けたりしてねぇよ。
知ってるか?妖怪ってのは人が記憶してる事によって
存在出来てるらしいぜ?
良かったな、覚えてくれてる人が居て」
「何処の古本屋で仕入れてきやがった、
そんな知識。
ってか勝手に妖怪扱いすんじゃねぇよ、この腐れ綿飴」
「んだよ、綿飴馬鹿にすんじゃねぇぞ?
糖分はなぁ、腐っても糖分様々なんだよ」
と、そのままの勢いで糖分について話し出す銀時に、高杉は黙って
懐から煙草入れを取り出し、刻みタバコをちょっと捻って火皿に詰め、
プカリと吹かす。
そして数回プカプカと吹かすと、一吹かししてから灰を落とし、
一度吹き込んで中の煙等を出し切ってから、再び刻みタバコを
火皿に詰めた。
優雅で粋に見える煙管だが、実際はものっそく忙しない。
が、暇潰しにはもってこいだ。
「・・・おい、俺の話聞いてたか?」
気が付けば銀時の糖分演説は終わっており、じっとりとした視線を
高杉へと投げ掛けていた。
それに高杉は吸った煙をブカリと吐き出すと、
「あぁ?人聞きの悪ぃ事言ってんじゃねぇよ。
んなもん、聞くわけあるめぇよ」
「おぉぉぉぉい!!
最初の言葉は何処に掛かってんだ?」
「テメーの話を全うに聞く事を・・・だな。」
「しみじみ言ってんじゃねぇぇぇ!!!!」
怒鳴りつける銀時に、高杉は少しだけ眉を上げると、
吹かしていた煙管からポンと灰を落とす。
「で?何の用だ?」
俺と殺り合いにでも来たのか。そう言ってニヤリと楽しげに笑みを
浮かべる高杉だが、きちんと煙管の後始末をする行動がなんだか切ない。
だが銀時は、それで最初の目的を漸く思い出したようだ。
自分を落ち着かせる為か、一つ深く深呼吸すると、ガシガシと
首筋を掻く。
「んな訳あるかよ。まぁ啖呵は切ったけどな?
今はそれよりも大事な用があんだよ」
とりあえずよぉ。そう言うと銀時は何時もより数倍真剣な表情を
高杉へと向けた。
銀時がこれだけ真剣になる・・・しかも自分に関わる用。
その事に、少しだけ興味が沸き上がる。
大人しく手入れしていた煙管を煙草入れに戻し、続きを促そうとした瞬間、
ヒョコリと表の道からこちらを覗く顔が目に入った。
「あ、やっぱり居た!も~、行き成り走り出すから
何事かと思ったじゃないです・・・か・・・」
そう言って近付いてくるのは、目の前にいる男の助手で。
銀時の元へと走り寄って来たかと思うと、高杉の姿を見てポカリと
目と口を開けたまま固まってしまった。
しかし銀時はそんな新八の態度に気付いていないのか、
ナイスタイミング☆
と言いながら肩を抱き寄せ、高杉の方を指差した。
「ホラホラ新ちゃん。高杉だよ高杉~。
よ~く目を見開いてガン見して頂戴ね」
言われなくても既にガン見だ。
・・・と言うか俺が言うのもなんだが、そう簡単に犯罪者の前に
一般人を晒しだしていいんだろうか。
いや、銀時の元で働いているって時点で既に一般人とは言えめぇか。
いやいや、でも俺を前に固まっているってのは、正しい一般人の
反応か?
繁々と観察する高杉に、固まったままの新八。
微妙な空気の中、銀時一人だけがテンション高めのままだ。
「お、そうだ!見るだけじゃダメだな、うん。
漸く見付けたんだ。新八。
銀さんとお前の明るい未来の為、コイツの着物ベッタベタ
触っときなさい。今だけ許したげるから、俺以外に触れるの」
「アンタとの未来には赤い文字が連なる
虚しい明るさしかありませんよ。
って言うかなんで誰かに触るのに銀さんの許可が必要なんです?
寧ろアンタが僕に触るの、許可した覚えないんですけど」
と言うか最近やけに外出してたのは、この為かぁぁ!!
銀時の言葉に、漸く新八も体の固まりを解いたようだ。
何時ものように突っ込み返すと、肩に乗っていた銀時の手を
軽く叩いて引き離した。
「それに、多分銀さんの言ってるのは例の噂からでしょうけど・・・
ちゃんと高杉さんの着物、見ました?」
息を吐き、少し呆れたように言い返す新八に、銀時は不思議そうな
顔をし、高杉に視線を戻した。
そして次の瞬間、大きく目を見開く。
「あぁぁぁあああ!!!ちょ、高杉、おまっ・・・えぇぇ!?
なんでそんな地味な着物ぉぉぉ!!!」
そう、今日の高杉の着物は、何時もの女物の着物ではなく、
至って普通の着物なのだ。
銀時の叫びに、それまで黙って二人のやり取りを聞いていた高杉が
眉を顰める。
「別に普通だろうが、地味じゃあるめぇよ」
寧ろあの手の着物しか持ってないという方が普通じゃない。
と言うかコレを地味とか言う前に、あっちが派手なだけだ。
そうは思うが、銀時は納得しない。
「い~や、地味だね。寧ろ高杉じゃないね、そんな着物。」
あ~もう本当、使えねぇ!そう言って鼻を鳴らす銀時に、
高杉の眉間がピクリと動く。
・・・なんで着物一枚で存在否定をされなきゃなんねぇんだ?
「大体よぉ、テメーは無駄に派手な蝶柄靡かせて
フラフラヒラヒラ漂ってりゃいいんだよ。
なのに滅多に見掛けねぇわ、見つけても使えねぇんじゃ
意味ねぇだろうが!!」
「銀さん・・・一応高杉さんは指名手配されてるんですから、
今のが正統なんだと思うんですけど・・・」
新八の言葉に、高杉も頷く。
そう頻繁に街中を練り歩く指名手配犯なんて聞いた事はない。
・・・まぁ見た事はあるがな。
ヅラとかヅラとかヅラとか。
しかも日頃から派手な行動は慎めとは言われた事はあるが、
派手に漂ってろと言われた事はない。
なんなんだろうか、コイツは。
そんなに真選組に捕まって欲しいんだろうか。
とりあえずムカつくほどブチブチと文句を言っている銀時を捨て置き、
高杉は呆れた視線を送っている新八へと問い掛けた。
「なんだってんだ、コイツは。」
高杉から声を掛けられたという事に、少しだけ新八の体が
ビクリと動いたものの、直ぐに視線を寄越し、苦笑を浮かべた。
「あ~・・・いやその・・・とある噂がありまして。
それが高杉さんに関連してると言うか何と言うか・・・」
「噂?」
その言葉に、高杉の口元がニヤリと上がる。
どうせロクでもねぇ噂に違いあるめぇよ。
今までの自分がやって来た事柄を思い浮かべ、それがどんな噂なのかと
続きを促すと、新八は大変言い難そうにモソモソと口を開いた。
一つ、高杉を見ると色気力が上がるらしい。
一つ、その上着ている着物の柄の蝶に触ると妊娠確実☆
・・・本当にロクでもねぇなぁ、おい。
「あ、でも本当、単なる噂なんで!寧ろ都市伝説的なものなんで!!」
よっぽど酷い顔をしていたのだろう、目の前の新八が両手を振りながら
慌ててそう言葉を続けた。
何故だろう、都市伝説的と言われると、もっと凹みたくなる。
と言うか今まで自分がやって来た事は
どの辺に捨てられてしまったのだろう。
色事とは全く関係ない、寧ろ殺伐とした事ばかりしてきた筈の
今までの事に思いを馳せる。
が、ある事に気付き、高杉は訝しげな視線を銀時に向けた。
「ってぇ事は・・・だ。アイツがアレだけ俺の着物に執着するってぇのは・・・」
そして次に新八へと視線を移した。
新八は高杉の視線に気付くと、ニッコリと笑みを浮かべ、
「単に馬鹿なだけですよ」
と、至って普通の事のように答えた。
「ちょ、新ちゃん!?何ものっそい笑顔で酷い事言ってんの!?
銀さんは新ちゃんとの明るい未来を現実にしようとだなぁ・・・」
「あぁ、病気ですね。重度の妄想癖って感じの」
銀時の言葉を、ニコニコと笑顔のままぶった切って行く新八の
言葉は冷たい。
序に纏っている空気も更に冷たい。
つい高杉も口を閉ざしてしまう・・・が銀時は黙らない。
「え、何コレ。ツンデレ!?新ちゃんの色気力は
ツンデレですか!?
高杉のお陰でツンデレ力鰻上りですかぁぁ!!?
いや、銀さんSだから。どっちかって言うと言いたい方ですから!
あぁ、でもこのちょっとツンとしたのもいいかも・・・あれ?
銀さん、ちょっと別の扉
開いちゃった!!?」
「そのまま、是非僕とは別の世界で生きていってください」
言い合う二人からそっと視線を反らし、高杉は再び煙草入れへと
手を伸ばした。
そして煙管を吹かし、プカリと煙を吐き出す。
・・・もう帰るか。
寧ろ帰りたい。目に痛いほどの青空を眺めながら、
なんだか妙に懐かしい自分の船を思い出していた。
*************************
二万打お礼企画第三弾。
蒼月様からのリクで「都市伝説攘夷・高杉編(笑)」
と言う事でしたが・・・如何だったでしょうか?
もう少し弄り倒したほうが良かったですかね?(おいι)
多分この後、数ヶ月は引き篭もります、ヤツは(笑)
こんな感じになりましたが、どうぞ広いお心で持って
受け取ってくださいませvv
リクエスト、有難うございました~vv
何時ものようにソファでゴロゴロしていると、突然ピリッとした痛みが
口元に走った。
思わず小さく声を上げ、手を当ててみれば、指先に薄っすらと
赤い血がついてるのが見えた。
あ~・・・切れたか、こりゃ。
指先についた血を見ながら、ペロリと唇を舐める。
やはりピリリと痛み、ぼんやりと卵掛けご飯は沁みそうだな・・・
なんて考えていると、それまで天井しか映ってなかった視界に
ヒョコリと新八が現れた。
「どうかしました・・・ってぅわ~、どうしたんですか、それ」
ソファに横になってる俺を、覗き込むようにして現れた
新八は、俺の切れた唇を見て痛そうに顔を顰め、その場に膝を着いた。
「ん~、なんか突然切れた」
ホレ。そう言って血の付いた指先を新八へと向ける。
それに益々顔を顰めると、新八は
「どうせ大口開けて欠伸でもしたんでしょ」
と言うと、ゴソゴソと自分の袂を漁り、何かを取り出してきた。
・・・ってそれ・・・
「・・・・・・・・・なに?」
小さな缶を取り出した新八に、俺は首を傾げる。
そんな俺を新八はクスリと笑うと、リップクリームですよ。と言って
手にした小さな缶の蓋を開けた。
「へ?だってリップクリームって口紅みたいなもんだろ?
ってかなんでオマエが持ってんの?」
言われた言葉に納得がいかず、そう問い掛けると、
「こういう形のもあるんですよ。僕も結構乾燥しやすいから、
この季節になると持ち歩いてるんです」
はい、軽く口開けてくださいね~。そう言って缶に中指を入れ、
中身を掬い取ると、そのまま俺の口元へと近づけてきた。
「・・・こういうの、変な味すっから苦手なんだけど」
「舐めなきゃいいでしょ、そんなの。
ってか舐めるな」
いやいや、それは無理でしょ。
だってなんか付けられたら舐めたくなるじゃん?
甘いかどうか、試したくなるじゃん??
そう訴えたくなるが、新八の指はすぐソコまで来ていて何も言えず、
大人しくされるがままになってしまった。
・・・ってか変な感じだな。
唇の上をゆっくり動いていく新八の指の感触に、なんだか
ムズムズしてしまう。
それを紛らわせる為に、視線をウロウロと彷徨わせていると、
新八の唇が目に入った。
あぁ、そうか。
これを塗ってるから、新八の唇は何時もかさついてないのか。
何時でもやわっこくて、暖かくて、甘くて・・・
そこまで思い、俺ははたとある事に気がついた。
って、ちょい待ち。
新八は何時もこれ、塗ってるって言ってたよな?
なのにあんなに甘いって事は・・・
浮かんでしまった疑問を解くべく、俺は未だ唇の上にあった
新八の指先をパクリと口に含んでみた。
・・・が、想像とは違う味に、思わず眉を顰めてしまう。
「ちょ、何してんですか、アンタ!!」
「いや、甘いかと思って」
目の前では新八が顔を赤く染め、俺の口から指を勢い良く外させた。
・・・確かに妙な味がしたが、なんとなく口寂しくなる。
って事はやっぱ妙じゃねぇんじゃねぇのか?
じゃなきゃ、なんであんなに新八の唇は甘いんだ?
そう思い、じっと新八の口元を見ていると、可愛いその口は
大きな溜息を吐き出した。
「だから舐めちゃダメだって言ってんでしょうが」
なんでそう思うかな~。そう言い、カクリと頭を俯かせる新八に、
俺の視線も下がる。
「だってよぉ、新ちゃんの唇はいつでも甘いんだもんよ」
そう言うと、新八は はぁ!?と変な顔をしながらも
顔を上げてくれた。
それと共に、俺の視線もやっぱり上がる。
そしてずっと見詰めていた新八の唇へと、そっと手を伸ばす。
俺の伸ばした手に何か感じたのか、新八がビクリと体を後ろへと
逃がそうとしたが、構わずに手を伸ばし、序に開いてる方の手も
伸ばして、先程まで俺の唇の上に居た指先を捉えてしまう。
そして真っ赤になった新八の、もっと赤い唇にそっと指を這わせた。
「オマエもコレ、つけてんだよな?」
だからこんなに柔らかくて、プニプニしてんだよな?
「なのにさ、変な味した事ねぇもん。」
寧ろ甘くて、何回でも味わいたくなって。
俺はその感触を楽しむように、ゆっくりと指を動かした。
輪郭をなぞり、弾力を楽しみ、少しだけ開いた唇の中へと
指を差し込む。
その瞬間、新八の息が指に伝わり、ゾクリと背筋が震える。
あぁ、きっとその吐き出された息も、きっと甘い。
俺は先程言われた事も忘れ、ついペロリと自分の唇を舐めてしまった。
感じるのは小さな痛みと、妙な味。
そこでやっと、それまで考えていた答えが出た。
俺は緩く口元を上げると、新八の唇にあった指を離し、
そのまま後頭部へと移動させる。
そして小さな声で慌てる新八を引き寄せ、序に自分の体も起こして
甘い、甘いその唇を堪能すべく、迎え出ることにした。
触れた唇は甘く。
感じた感触は柔らかく。
重なった部分は暖かい。
「結局、新八自身が甘いんだよな」
モロ銀さん好み。満足げに呟き、ペロリと唇を舐め上げる。
今度は自分のではなく、新八のを・・・だ。
やっぱり感じる甘さに、こればっかりはどんなに言われようとも
舐めるのを止められねぇだろうなぁ・・・と、心の底から思った。
*******************************
二万打お礼企画第二段。
姫りんご様からのリクで
「銀新でドキドキあまあまなキス話」との事でしたが、
如何だったでしょうか?
あんまり詳しく描写できず、スミマセンでした~ι
アマアマにはしたつもりですが・・・ど、どうでしょう(ドキドキ)
少しでも気に入って頂けたら嬉しいです!
企画参加、本当に有難うございましたvv
「えっと・・・どちら様でしょう?」
ある昼下がりの午後、顔を並ばせた銀時達の前で
全身を砂まみれにさせた新八は、コトリと首を傾げた。
事の起こりはこうだ。
本日も見事に仕事がなかった銀時達は、暇潰しがてらに
三人と一匹で散歩がてら買出しへと出向いていた。
見上げれば気分がいい秋晴れ。
仕事がないのは苦しいが、偶にはこんな風に過ごすのも悪くない・・・
と思ってた矢先に、最早天敵とも言える黒い集団に出会ってしまい、
後は・・・ご想像通りだ。
ここが外で、公共の場であるにも関わらず戦闘を開始する沖田と神楽。
本来ならば止めるべき立場のその上司共は、手を出してはいないものの
口は思いっきり出して醜い争い中。
「いや~、人気のない公園で良かったなぁ」
なぁ、新八君。そう言って笑う近藤に、新八は一つ溜息を吐く。
「ポジティブ精神も程ほどにしといて下さい、近藤さん」
「所でお妙さんは元気かい?朝会った時は少し元気がなかったようだけど、
もしかして疲れてるのかな?毎日夜遅くまで大変そうだからね~」
「本当、程々にしといて下さいね、その精神。
ってかそう思ってるならそっとしといて下さいよ」
しみじみと語る近藤に、新八がツッコミを入れていると、日常生活に於いて
決して身近ではない、けれども聞き慣れてしまった爆発音が
聞こえてきた。
「あ~もう、何か壊れてたら真選組でもって下さいよ?」
ウチには弁償するお金、ありませんからね!顔を上げ、そう続ける
筈だった新八の言葉は、酷く近い場所から聞こえた鈍い音と
真っ暗くなった視界のお陰で、言葉になる事はなかった。
「いやいやいや、え?何ソレ、お約束過ぎね?」
鈍い音と近藤の叫び声にそれぞれ戦いを止めて振り返ってみれば、
そこには大の字になって倒れている新八の姿と、その横に
何故か転がっている大人の拳ぐらいある鉄の塊。
どうやら沖田の発砲したバズーカで破壊された遊具の破片が
新八の頭を直撃したらしい。
意識を失くしている新八に、慌てて駆け寄ってみれば、案の定
頭に大きなコブが出来ていた。
とりあえず呼び掛けてみた所、幸いな事に新八は直ぐに意識を取り戻した。
だが、なにしろ頭の事だ。とりあえず病院へ行こう・・・と
銀時が手を差し出した所で、最初の言葉が新八から吐き出されたのである。
「やばいよ?オマエ。だってソレ、もう銀さんやったじゃん。
ゴリだってやったしさ、二番煎じ所じゃないよ?」
だからとっとと笑えない冗談はやめなさい。ボーッと座ったまま
こちらを見ている新八に銀時が告げるが、新八は首を傾げるばかり。
記憶がない・・・と言うのはあまり実感がないが、
確かになんでこんな所に居るのか、自分でも判らない。
それに・・・
新八は周りに居る人達を見回し、
「銀さん?」
・・・って誰?と、その人物を探す素振りをした。
不思議そうなその姿に冗談は含まれて居なく、銀時達から言葉奪う。
「・・・ゴリ」
が、こちらは迷わず近藤に視線を止めたので、直ぐに各々
喋りだした。
「いや、なんでそこで俺の事見んのぉぉ!!!?
違うから、近藤さんだからね、俺ぇぇぇ!!!」
「うっせぇよ!直ぐに認識されるのを有難がれよ、今は!!
ってか新八!俺、俺が銀さんだから!!」
嘆く近藤を拳で黙らせ、銀時が必死な形相で新八に言い寄る。
思わず後ずさってしまった新八の背中に、暖かい手が当てられる。
振り返ってみれば、そこには困ったように眉を顰める土方が。
「ったく、どうすんだよコレ。おい、大丈夫か?
自分の事は判るか?」
そう聞かれ、新八は曖昧に頷く。
なんとなく判るが、目の前にいる人達に見覚えはない。・・・けど、
「た、多分・・・ですけど」
なんだか危険な事は非常に良く判る。
些か怯えたように自分からも離れようとする新八に、土方がまだ
名乗っていない事に気がつく。
そして小さく舌打ちをし、名乗ろうとした所で、
「あぁ、そいつはトッシーね、トッシー」
「またの名をマヨと言うネ」
「あ、別に覚えなくていいですぜィ?
直ぐに戒名へと変わるんで」
と、銀時達に先を越されてしまった。
「おぉぉぉおいぃぃ!!
誰一人として正確に言えてねぇじゃねぇかぁ!!
ってか戒名ってなんだ、戒名って!!」
思わず刀を抜こうとした所で、新八の青褪めた顔が視界に入り、
土方は一瞬体を固めると大きく深呼吸をし、どうにか怒りを納める事に
成功したのだが・・・
・・・やはり先程の自分の判断は正しかったらしい。
新八はじりじりと土方の傍を離れていった。
その肩を叩いたのは沖田だ。
ニンマリと楽しげな表情を浮かべ、
「俺は総悟って言いまさァ。覚えていやせんか?アンタとは
『ご主人様』『下僕眼鏡』と呼び合ってる仲でさァ」
と自己紹介をしてきた。
え、何ソレ。
僕そんな世界の扉を開いちゃいましたかぁぁ!!?
突然言われた身に覚えのない自分の過去に、新八は
さっと血の気が引くのを感じた。
「いやいやいや、沖田君?
何言っちゃってんの?
本当何言っちゃってんのぉぉぉ!!!!」
違うからね!!銀時はそう言うと沖田の手を叩き、新八を
自分の元へと引き寄せる。
そして肩を掴むと、何が何だか判らず目を見開いている
新八を自分の方へと向かせた。
「新八!思い出せよ!!
オマエは俺と、『ハニーv』『なんですか、ダーリンvv』と
呼び合う仲で、二十四時間年中無休でイチャつき合ってる
ラブラブカポーなんだぞ!!」
・・・なんかイラッとくんな、それ。
てか、それもどんな別世界ぃぃぃ!!!?
銀時の言葉に、ますます血の気を引かせていく新八に、
土方の言葉が待ったをかける。
「なんだその妄想の吹き溜まりは!!
ってかテメー等、コイツの記憶を改竄してんじゃねぇよ!!」
「妄想でも改竄でもありません~。
何れなる、確実な未来予想図です!!」
「それが改竄って言うんじゃねぇか!!
ちなみに本当は俺と『新たん』『トッシー』と呼び合う
仲でござるよ?」
「え?トッシー?トッシーかコノヤロー!!」
銀時に肩を掴まれたまま、何故だか先程とは雰囲気の違う土方に
手を握られ、新八はポカンと口を開けてしまう。
既に頭の中はグチャグチャだ。
え・・・何コレ。
どっちにしろ僕の知ってる僕の世界じゃないじゃん!!
一体何をやらかしてましたか、自分んんん!!!
新八がそう、記憶にない自分に問い掛けていると、
先程まで嘆いていた近藤がおずおずと近付いてきた。
「ち、ちなみに新八君。俺はお妙さんの恋人で
近いうちに君の義兄さんになる・・・」
「あぁ、それは違いますね」
ニコニコと話しかける近藤を、すっぱりと断ち切る。
うん、判んないけど多分違う。
きっと違う。
確実に違う。
何故だかは判らないが、それだけは言い切れる。
妙な確信の元、そう告げるとそれまで激しく言い合っていた銀時が
嘆く近藤を蹴り倒した。
「テッメー、何いい加減な事ほざいてやがる!
それだと俺までテメーの事を義兄さん呼ばわりしなきゃいけなく
なんだろうが!!ただでさえゴリラに育てられた女を
義姉さんって言わなきゃなんねぇんだから、これ以上
俺に重荷を背負わすなぁぁぁ!!!!」
「テメーこそ何ほざいてやがる。
って言うかこういう時はコイツの将来を思って、
ヤクザな家業から離れさしてやるのが王道だろうが!!」
いっそ他人の振りしてやれ、他人の!!新八から手を
離し、今度は銀時の胸元を掴んでそう怒鳴る土方に、
それまで観戦していた沖田が小さく拍手を送る。
「お、自力で元に戻りやがった。
ってか偶には良い事言うじゃねぇか、偽善者土方。
ついでに旦那の魔の手からも離れさせてやって下せェ。
主人は一人で十分なんで」
「いやいや、君も十分魔の手だからね?
本当、そのまんま魔だから。
っつうか離れるとか無理に決まってんだろうが!
寧ろより一層しがみ付いて、距離縮めて
記憶が戻ってもどうしようもない所まで
食い込んでってやらぁ!!
俺に舞い降りた最大のチャンスを潰すんじゃねぇぇ!」
銀時も新八から手を離し、負けじと土方の胸元を掴んで
怒鳴り返す。
二人の勢いに、自分の身が開放された事に気付かず、
暫し呆然としていた新八であったが、少し離れた所から
神楽に手招きをされているのに気付き、そろそろと
その場から離脱する事に成功した。
「新八も大変ネ」
「はぁ・・・」
定春に凭れながらそう言う神楽に、新八は溜息と共に返事をすると、
疲れたように肩を落とした。
「ちなみに私は神楽ヨ。まだ思い出さないカ?」
そう言われ、新八は力なく頷いた。
ってかあの中にもし正解があるのならば、思い出したくない。
「安心しなせェ。あれは全部可哀想な大人の妄想でィ」
そんな考えが判ったのか、同じように銀時達から離れ、
こちらへとやって来た沖田が、そう答えた。
「ってか貴方のも十分安心できない内容なんですが」
「大丈夫でィ。何時かはその関係に心躍る日が来まさァ」
「いや来ないですからね!?
あ~もう!なんでこんな事になっちゃったんだろぉぉぉ!!」
そうそうないだろ、記憶喪失なんて!!そう嘆き、頭を
抱える新八の横で、神楽と沖田がチラリと目を合わせる。
そしてそのまま静かに原因となった鉄の塊へと視線を動かした。
「そうですよ!大体なんで僕、こんな所で倒れてたんですか!?」
原因が判れば、もしかしたら記憶が戻るかもしれない。
そんな思いから新八が二人に問い掛けるが、何故か
優しく肩を叩かれた。
あんな所に鉄の塊が落ちているのは、明らかに不自然だ。
だが、それ以上に周りの大人達が異常なので、
今の所新八は気付いていない。ならば・・・
「頑張るネ、新八。思い出せなくてもまた新しく
作っていけばいいだけの話ヨ」
「そうでィ。何時までも原因なんて小さい事に拘ってたら
前に進めませんぜィ?」
「え?いやなんかいい話で纏めようとしてません?
ってか決して小さくないですよね?記憶喪失の原因って」
「あ、この子は定春アル。定春~、NEW新八に
挨拶するヨロシ」
「や、NEWって・・・って噛んでる、噛んでるから定春!!」
「さすがNEW新八でさァ。
凄い懐かれ様じゃないですかィ」
「その名前を定着させないでくれます!!?
ってか血が~~~!!!!」
その後、大量の出血と引き換えに無事記憶を取り戻す事が出来た新八は、
怪我が治った後も、暫くの間万事屋に近づく事はなかったという。
「ってか簡単に記憶を落っことす方が悪いネ」
「いや、強制的に落とされたからね、アレ」
「新ちゃ~ん、そろそろ万事屋に戻って・・・」
「あれ?どなたでしたっけ?この変態クソ天パ」
「ちょ、何その一点集中な記憶喪失ぅぅぅ!!!」
********************
二万打お礼企画第一弾
もんちょ様からのリクで「新ちゃん記憶喪失」と言う事ですが、
如何だったでしょうか?
一万打企画に続いての一番乗り、本当に有難うございますv
なんだかグダグダになってしまいましたが、
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいですv
昼過ぎ、ここの所万事屋に泊まりこんでいた弟が帰って来た。
泊り込んでいる原因の、銀髪の男を引き連れて。
「すみません、姉上。着替えを取りにきただけなんです」
万事屋に置いてあるのにも限りがあるんで。申し訳なさそうにそう言うと、
新八は座敷に妙と銀時を残し、自室へと姿を消した。
それを見送り、妙はポツリと口を開いた。
「もう大分良さそうですね」
怪我の具合。そう言い、服の間から見える白い包帯に目をやる。
詳しいことは聞いていないが、どうやら仕事中に負ったものらしい。
そのせいで新八は万事屋に泊り込んでいるのだ。
「ん~、まぁな~」
銀時は首筋を掻きながら答えると、新八の消えていった方へ視線を向けた。
「でも新八が煩くてよぉ、あんま動けねぇのよ。心配しすぎじゃね?
お宅の弟さん」
そう文句を言うが、顔は言葉を裏切っている。
「・・・その割りに、機嫌良さそうですけど?」
「・・・んな訳ねぇじゃん。俺、どっちかってーとSだもん」
怪我して行動制限されて嬉しいわけねぇじゃん。
心外そうに答える銀時に、妙は一つ息を吐き、目の前に置かれた湯呑みへと
手を伸ばした。
それは部屋に戻る前に新八が淹れてくれたもの。
毎日の様に飲んでいた為か、数日飲んでいなかっただけで酷く懐かしい
ような気がする。
その味に、ホッと心が落ち着くのを感じながら再び銀時へと
視線を向けた。
「ならあんまり無茶しないで下さいな」
銀時が怪我をすれば、必ずと言って良いほど新八は万事屋に泊り込んで
看病をする。
弟の性格からして、怪我人を放り出しておけない事は重々承知だし、
そういう弟を密かに誇りに思っているのも事実だ。
けれど最近どうもその頻度が多くなっているような気がする。
そしてその分だけ新八は万事屋に泊り込み、そうでない日でも
銀時達の心配をしているのだ。
それは、あまり気持ちの良いものではない。
危険な事にあまり首を突っ込んで欲しくない・・・と言う思いもあるのだが、
何より弟の心配そうな顔だったり、悲しそうな顔は見たくない。
そういう思いで銀時に告げれば、彼は少し困ったように笑った。
「そんなつもりはねぇんだがな」
「だったら気をつけて下さい。そのうち腕とか失くしますよ?」
ポロッと。ニッコリ笑って冗談交じりでそう言えば、
「おいおい、どんな呪詛ですか、ソレェェ!!
なんか本当にポロッといきそうなんですけどぉぉぉぉ!!?」
と、大袈裟に返された。
返された・・・が、その一瞬前に僅かに見えてしまった。
銀時の目に微かに浮かんだ、喜びの色を。
その事に、妙は冷たいものが背中を通り過ぎるのを感じた。
見間違いだろう。そう思う。
だって今、自分は物騒な話をしたのだ。
腕が無くなると言ったのだ。
そこにどんな喜びを見つけるというのだ。
勘違いだ。そう思うものの妙の口は勝手に言葉を紡ぐ。
「腕、無くなったら困るわよね?」
当たり前の事だ。現に銀時だって妙の質問に怪訝な顔をしているではないか。
「護る・・・のでしょう?だったら・・・」
妙は少しだけ心を落ち着かせ、言葉を続けた。
何もなかったように、お小言の続きになるように・・・。
それでこの話は終わりにしよう・・・と。
その時、こちらに向かってくる小さな足音が聞こえた。
どうやら新八が必要な荷物を纏め終えたようだ。
銀時がつられるようにそちらへと視線を流す。
そして妙の望んでいた答えを口にした。
「だな。無くなったら困るわな。・・・けど」
そうなったら得るものがあるよなぁ?きっと。
うっとりと囁かれた声に、妙は体を固まらせた。
それに気付いたのか、銀時が視線を戻し、いつものだらしない表情
でヘラリと笑った。
「馬っ鹿。何本気にしてんだよ、オメーは」
「お待たせしました・・・ってどうしたんですか?姉上」
銀時の言葉とほぼ同時に座敷へと顔を出した新八が
キョトンとした顔を妙に向けた。
そんな新八に銀時が眉尻を下げ、哀しげに訴える。
「お妙のヤツ、酷ぇんだぜぇ?オマエが行ってから今まで
ネチネチネチネチと説教しまくりよ?」
銀さんだってしたくて怪我した訳じゃねぇのにさぁ。そう訴える
銀時に、新八が 当たり前です!! と顔を顰めて答えた。
「姉上だって心配してるんですからね!
これに懲りたらもう少し自分を大切にしてください!!」
ね、姉上?新八にそう促され、妙は漸く固まっていた体を動かした。
「そうね。銀さんにはもう少し自分を大切にして貰わないと」
未払いの給料の為にも。そう軽口を叩けば、何時も通りやる気のない目を
した銀時が そっちの心配かよ!! とカクリと肩を落とした。
そう、何時も通りの光景。
私の言葉に苦笑している新ちゃんも何時も通り。
だけど・・・・
「じゃあそろそろ行きましょうか?銀さん」
そう言って銀時に手を貸す新八。
「そうだな。じゃあ、邪魔したな」
銀時がその手を借り、立ち上がろうとした所で傷が痛んだらしく、
僅かに顔が顰められる。
「銀さん!!」
慌てて新八が体を支えようと手を伸ばす。それに銀時は一つ苦笑を零すと、
「大丈夫だって」
そう言って新八の頭を軽く撫でた。
心配する新ちゃんも、大丈夫だと言い張る銀さんも何時もと同じ。
だけど・・・見てしまった。
だけど・・・気付いてしまった。
銀時の怪我に、まるで我が事のように辛そうに顔を歪める弟を見て。
銀時の怪我に、懸命に世話をする弟を見て。
目の前の男が酷く満足げに口元を上げるのを。
「銀さんっ!」
新八に体を支えられ、玄関へと向かおうとする銀時に妙は堪らず声を掛けた。
その声は普段よりも固い声となったらしい。
銀時の背に手を添えていた新八が不思議そうに妙を振り返った。
「・・・なに?」
だが銀時は振り返らない。言葉だけ返して気だるそうに首を傾げた。
それに構わず、妙はその背中に言葉を投げる。
「もう・・・怪我はしないで下さい」
しかしその言葉は、軽く上げられた銀時の肩に弾かれてしまう。
「悪ぃな。約束はできねぇよ」
そう言って傍らに居る新八の肩に、体を預けるようにそっと腕を
まわす銀時を見詰めた。
そして軽く手を挙げ、その場を後にする銀時。
新八もそれにつられるように短く妙に言葉を残すと、
銀時と共に玄関へと向かっていった。
少し大きめの風呂敷を抱えて。
これでまた、確実に数日は家へは帰ってこないだろう。
妙は少し間を置いてから、門の外へと向かった。
視線の先には二人並んで万事屋へと向かう姿。
何かを話しているらしく、新八の視線はこちらへは戻ってこない。
―――そして・・・
妙はぎゅっと唇に力を込めた。
もう遠くに行ってしまって、その顔は見れないけれど
きっと、銀時の口元は、酷く満足げに歪められているのだろう。
噛み締めた唇から血の味を感じ、妙の口から
じんわりと慣れ親しんだお茶の味が消えていくのを感じた。
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一万打お礼企画・ラスト!!
もんちょ様からのリクで
「病み銀さんとそんな彼を純粋に慕う新八クン、
そして銀さんの異変に気づいたお妙お姉さま」
という事でしたが・・・如何でしょう?
ちゃんと病んでましたか?(おいι)
少しでも気に入って頂けたら嬉しいですv
今回の企画に参加して頂いたのもそうですが、
ご感想のお言葉も、本当有難うございますvv
これからも精進していきますので、
どうぞよろしくお願いしますvv
「ただいま帰りました~」
タイムサービスやら特売品やらを詰め込んだビニール袋を一旦置き、
脱いだ草履を整えながら返事を待つが、何も返って来ない。
新八はほんの少し首を傾げるが、すぐにある想像が頭を過ぎる。
「また昼寝でもしてんのかな?それかパチンコにでも行ったか・・・」
ここですぐ仕事が入ったかな?と思えない自分が悲しい。
新八は一つ息を吐いて戦利品を手にすると、そのまま力なく
台所へと足を進めた。
「・・・やっぱり」
予想していたソファに居なかった為、もしや・・・と
思いつつ和室へと来て見れば、そこには畳みの上で大の字になって
寝ている銀時の姿が。
「少しは予想を裏切ってくださいよ」
えいっと銀時の足を軽く蹴飛ばすが、なんの反応も返って来ない。
新八はまた一つ息を吐くと、その体を跨いで洗濯物をよせるべく、
窓辺へと近付いた。
「あ・・・いい風」
畳み終えた洗濯物を横に置き、新八は入ってくる風に顔を上げた。
ここの所暑い日が続いたが、今日はとても過ごしやすい。
「これじゃぁ横になったら一発だね」
クスリと笑い、その罠に掛かって未だ昼寝真っ最中の銀時を見る。
畳の上だと言うのに、なんだかとても気持ち良さそうだ。
呑気なその寝顔に、つい怒りを忘れる。
そして新八はチラリと視線を銀時から上へと上げた。
まだ夕飯の準備をするには早すぎる時間だ。
掃除は午前中に終えてしまったし、買い物も終わった。
一つ一つ、自分の仕事を思い浮かべ、やる事を探すが何も思いつかない。
かと言ってテレビの番人をするのもつまらない。
「・・・僕もちょっとだけ・・・」
どうせなら、この気持ち良さを分けてもらおう、と
新八は銀時の腕にコテンと頭を預け、横になった。
ちょっと固いけど、何もないよりはいい。
チラリと視線を向けるが、銀時は気付いた様子もなく、先程と同様
微かな寝息を立てているので、新八は安心して体の力を抜いた。
だが、幾ら気持ちの良い風が入ってこようとも、日頃から昼寝などの
習慣がない新八に、おいそれと眠気が襲ってくるはずもなく、
ゴロリと体勢を変えてみる。
すると少し先に銀時の掌が見えた。
新八はそれにそっと自分の手を重ねてみる。
「う・・・大きい」
自分の掌よりも幾分はみ出してしまう銀時の掌に、少しだけショックを受ける。
しかもなんだか自分の手より固い。
自分もそれなりに剣の鍛錬をしているが、まだここまでではない。
なんだか自分との差を見せ付けられた気がして、新八は
プニプニと突いたり摩ったりしてみる。
突かれるままにフニャフニャと動く指に、新八は笑みを零す。
そして試しにその手を掴み、自分の方へと曲げてみると、
頬の下の筋肉が少しだけ動いてちょっと面白い。
・・・・が、なんかゴリゴリする。
筋肉が動いているのだから当たり前なのだが、先程まで自分の思い通りに
動かせていただけに、少しだけムッとする。
面白いけど、なんかやっぱ寝にくいや。
新八は少しだけ頭を浮かせると、そのまま体をずらし、今度は銀時の
掌へとその頭を落とし、横になった。
そして暫しモゾモゾと動き、自分なりに寝やすい位置を探す。
・・・うん、ここがいいや。
ちょっと汗ばんでるけど。
銀時に背を向ける形で漸く落ち着き、新八は口元を緩めた。
それは丁度掌に頬を押し当てる格好で、直ぐ目の前に軽く曲げられた
銀時の指が見えた。
「あ・・・傷発見」
指先や根元等、日頃気付かない場所の古い傷を見つけ、
新八はそっと自分の指を這わせた。
「何時ごろのやつなんだろう・・・」
そう呟き、新八は先程まで頭を乗せていた腕の事を思う。
きっとソコにも傷はあるのだ、この人は。
そしてその傷の分だけ、何かを護り、何かを失いもしたのだろう。
「痛くないのかな?」
新八はそう呟くと、そっと這わせていた指を止め、代わりにやんわりと
銀時の指を包み込んだ。
もう痛くないといいな。
心から、そう祈る。
もうないといいな。
この優しい掌が傷付く事が、これから先なければいい。
そう、願う。
けれど、きっとそうもいかないだろう。
だってこの人、やる気のないマダオの癖に、滅茶苦茶情が深いんだもの。
「ホント、馬鹿なんだから」
頬に当たる手のひらの固さに、ほんの少しだけ視界が霞んだ。
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一万打お礼企画・第七弾
ツリリ様からのリクエストで
「銀さんの体(どこでも良いです)に、頬をくっつけて甘える新八」
という事ですが・・・い、如何でしょう?(ドキドキ)
すみません、あんまり引っ付きあいませんでした~(泣)
当初はすっげー甘甘を狙ってたのですが、
何処でどう間違ったのやら・・・ι
こんな感じに仕上がりましたが、少しでも気に入って頂けたら
嬉しい限りですv
企画参加、並びに嬉しいお言葉の数々、有難うございましたv
これからも少しでも楽しんで頂けるよう頑張らせて頂きます!