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それは久し振りに入った仕事の後の事。
「新八~、早くお茶お茶~」
万事屋へと帰って来た途端、銀時はイソイソと居間のソファへと
座り、仕事先で貰ってきた箱を丁寧にテーブルの上へと置いた。
「銀さん、まずは手洗いウガイでしょ!」
早速箱を開けようとする銀時に、新八は一言注意を告げると
そのまま言われたお茶を淹れる為、台所へと足を進めた。
言われた銀時は、相当機嫌がいいのか、文句も言わずに
ヘイヘイと手洗い場へと姿を消していく。
その気配を背後で感じながら、新八は一つ、柔らかい笑みを浮かべた。
本日の仕事は蔵の大掃除だった。
大きな物もあったが、そこは力自慢の二人が居る万事屋。
さして問題もなかったのだが、何分二人の内一人は
力自慢過ぎる部分がある。
そしてもう一人は、力意外に怠け具合も自慢だ。
不器用ながらも、その二人を上手に操り、掃除をこなしていく
新八は、まさにオカンと言えよう。
・・・あまり嬉しくはないのだが。
けれど思ったよりも早く掃除が終わり、依頼主は気分良く
依頼料とお土産まで持たせてくれた。
その土産と言うのが、先程丁寧にテーブルに置かれた箱。
つまりお饅頭だったりする。
「いや~、最初あんな馬鹿デカイ蔵ぁ掃除させるなんて
とんでもねぇ事させやがる野郎だって思ったが・・・中々どうして。
いい依頼主だったよなぁ」
新八がお茶の用意をして居間へと戻ると、既に銀時が手洗いから
帰ってきており、箱を前に両手を擦っていた。
「・・・銀さん、糖分くれるからって言われたからって
知らない人についてっちゃダメですよ?」
思わずそんな事が口から飛び出るが、流石にそれはないようだ。
呆れた顔で見返してくる。
「おいおいばっつぁん、銀さんを何歳だと思ってんの?
別に言わなくていいけど。
でもアレだよ?幾らなんでもそれはないよ?
ちゃんとついてく前に分捕るからね、糖分」
「いや、その方がダメですからね?
何その微妙なカツアゲ」
真面目な顔でそう告げる銀時に、今度は新八が呆れた顔を返した。
そして銀時へとお茶を淹れた湯呑みを渡すと、向かいに居る
非常に嬉しそうな顔で箱の蓋を開けている銀時を見詰めた。
その顔は幸せそうに緩みきってて、少し笑える。
「あ、ちゃんと神楽ちゃんの分、取っといてくださいよ?」
帰り際、友達と会ってそのまま遊びに行った神楽を思い出し、
既に食べ始めている銀時に向ってそう告げる。
「判ってるって。・・・箱と包み紙の二つでいいよな?」
「いや、それ取ってるって言いませんから。
普通に嫌がらせになってますからね、それ。」
食べ物の恨みは怖いですよ、神楽ちゃんの場合は特に。
そう告げれば、銀時は一瞬言葉に詰まったものの、ちゃんと
数を数えて人数分に分け始めた。
どうやら丁度三人で割り切れる数だったらしい。
だが、銀時としては割り切れない部分もあるようで。
自分の分・・・と手元に取り出した饅頭を前に、久し振りの甘味に
嬉しい反面、数に満足いかない・・・と言う不満な表情を顕わしていた。
「全く・・・神楽ちゃんには内緒ですからね?」
僕も食べ物の恨みは怖いですから。と言って、新八が
自分の分から一つ、饅頭を銀時の前へと置いた。
「・・・へ?いいの??」
「今日はちゃんと仕事してくれましたからね、特別です」
ポカンとした顔で見返してくる銀時に、新八は苦笑を
浮かべてそう告げた。
「マジでか!?ぅわ、新ちゃん本当に愛してる。
何時の事だけど」
「はいはい、何時も有難うございます。」
「お返しに銀さんあげちゃう。」
「恩を仇で返さないで下さいよ。」
ってかもうアンタは僕のもんでしょ。そう告げれば、
幸せそうに饅頭を頬張っていた銀時が一瞬目を丸くし、
次にヘラリとだらしなく顔を緩めた。
「やっべ、銀さん超幸せじゃね?」
「好物の糖分がありますからね。」
「ん~、でもそれ以上に好物なのが目の前にあるからかな?」
ね、新ちゃん。そう言って銀時は身を乗り出し、新八の
唇へと軽く口付けた。
「・・・甘い」
銀時の行動に恥ずかしそうに口元を押さえ、顔を赤らめたまま
上目遣いに睨みつける新八に、銀時はニヤリと笑う。
「銀さんの好物だからね?」
だから甘くて当然なのです。
新ちゃんは色々甘いと思います(ちょ、待てι)
万事屋へと登る階段。
ある日、そこに一つの鉢植えが姿を現した。
お登勢がそれに気付いたのは、ちょっとした用事があり、
午前中に起き出した日の事だった。
「あ、お登勢さん、お早うございます」
店の扉を開けて出てきた所で、礼儀正しく挨拶をされる。
見れば階段横に新八が居て、何故だか如雨露を持っていた。
お登勢は挨拶を返しながら、何をしているのかと問えば、
新八は笑って階段の方へと少し屈み、小さな鉢植えを手にとって
お登勢へと差し出した。
「なんだい、こりゃ」
「プチトマトです。昨日種を貰ったんで植えてみたんですよ」
そう言われ、あぁ、それで水をやっていたのか・・・と先程の
如雨露の意味を知った。
「家の中だと・・・ちょっとアレなんで、ここに置かして
貰っていいですかね?」
申し訳なさそうに言う新八に、お登勢は軽く頷きながら
タバコを取り出して火をつけ、深く息を吸う。
「別にいいさね。邪魔になるような大きさでもなし。」
それに・・・と、バタバタと大きな足音がし始めた二階を見上げた。
「確かにあの調子じゃ家の中は危険だしねぇ」
呆れた口調で言うお登勢に、新八が乾いた笑いを上げる。
「ま、せいぜい大事に育てな」
「はい!あ、ちゃんと出来たらおすそ分けしますね」
お登勢はそれに片手を軽く挙げ答えると、外へと出てきた本来の
目的を果たすべく、その場から足を動かした。
その背後に、盛大に玄関が開けられる音が追っかけてくる。
「新八~!もう芽が出たアルカ!?」
「神楽ちゃん!静かにしなきゃダメでしょ。
ってか昨日植えたばっかじゃん、出るわけないでしょ!」
「新八の声だって煩いネ!
ってか最初っから諦めてんじゃねぇヨ。もうグラさんに任せるヨロシ。
何時まで経ってもメが出ないダメガネに任せといたら、
プチトマトまで同じになるヨ」
「諦めとかそんな問題じゃないから。
自然的問題だからね、これ。
ってかメが出ないってどう言う事だぁぁぁぁ!!!!」
背後で騒ぐ声に、お登勢は大きく煙を吐いた。
ちらりと見れば、小さな如雨露を取り合いしている二人が見える。
「・・・あの分じゃアソコも危ないねぇ」
と言うかあんな小さい鉢植えから、
お裾分け出来るほど採れるものだろうか。
「ま、どっちにしろあまり期待しないでおくかね」
お登勢はやれやれと肩を竦めると、聞き慣れた喧騒に背を向け歩き始めた。
だが、お登勢の心配を余所に鉢植えは無事なままだった。
現に今もちょこんと階段脇へと佇んでいる。
「そろそろ芽が出てきてもいい頃なんですけどね~」
そう言う新八の横では、楽しそうに神楽が水をくれている。
どうやら水遣りは神楽に決まったものの、任せっきりにすると
際限なく水を与えてしまう・・・と言うので、お目付け役として
新八が共に居るらしい。
「なんだい、そんなに早く芽が出るものなのかい?」
「えぇ、大体一週間ぐらいで芽が出るらしいんですよ」
「でも今日でその一週間ヨ。まだ出てこないなんて変アル」
水をやり終え、鉢植えの前でしゃがみ込んでムスッと口を
尖らす神楽に、新八がクスリと苦笑する。
「そんなにきっかりとは出てこないよ」
多分そろそろだとは思うけどね。そう言い、新八も神楽の隣へと
腰を降ろす。
「なら今日は一緒に寝ていいアルカ?
私、芽が出るトコ見てみたいヨ」
「や、そんな事したらお布団土塗れになっちゃうからね?」
「なら起きて見てるアル」
「そんな事したらもっと出てこないかもよ?」
「んだよぉ、一丁前に恥かしがり屋かコノヤロー。」
ツンと鉢植えを突く神楽に、かもね。と笑う新八。
そんな二人を見て、お登勢はこの調子で、例え無事実がなったとして、
ちゃんと食べる事が出来るのかねぇ。と呆れながらも、
ゆるりと口元を緩めた。
その次の日・・・と言ってもまだ朝と言うのにも早い時間。
お登勢がそろそろ寝ようとしていた所に、不意に外から
大きな物音がした。
「・・・ったく、あのガキャァ!」
ヒクリと額に青筋を浮かべ、文句を言う為に店の外へと出てみれば、
そこには思った通りの人物が転がっていた。
どうやら相当呑んできたらしく、階段へと身を預けながら
ヘラヘラと笑っている。
「おいこら腐れ天パ。今一体何時だと思ってやがる。」
「ん~?妖怪が居るって事ぁ百鬼夜行タイム?
おいおい勘弁してくれよ、俺には帰りを待つ可愛い嫁さんと娘が
居るんだぜ?あ、後存在感アリアリなペットな。
あ、ちょっとこれヤバクね?なんかホームドラマの如き
家族じゃね?自慢していいレベルじゃね?」
「寧ろ自爆していいレベルだろうよ。
ってかツッコミ所アリアリな戯言言ってんじゃないよっ!」
大体誰が妖怪だ、誰が!と銀時の頭をベシリと叩き、
凭れかかっている階段へと視線を走らせた。
そこには見慣れた鉢植えがちゃんとあり、お登勢はホッと
胸を撫で下ろす。
お登勢の視線に釣られるように銀時も鉢植えへと移し、
あぁ、これな。とニヘラと顔を緩ませた。
「可愛いだろ~。なんか二人して一生懸命世話してやんの。
この間なんてアレよ?『早く芽を出せプチトマト~♪』なんて
二人して歌ってんだよ?ヤバクね?マジヤバクね?
俺本気でビデオ購入考えちゃったんだけど」
「その前に家賃支払いを考えな。
ビデオの方は知り合いに中古がないか聞いといてやるから。」
「マジでか!?
じゃあなるべく小型で性能がいいヤツを頼まぁ。
出来ればボタンぐらいの大きさで
映像を飛ばせるヤツ」
「テメーは盗撮でもするつもりかい!?」
「馬っ鹿、違ぇよ。あぁ見えて二人とも思春期じゃん?
カメラ向けて素直に映させてくれる訳ねぇだろうが。
ならこっそり映すしかねぇだろう?」
「それを盗撮ってんだよ」
それにしても無事で良かった。とお登勢が改めて鉢植えに
視線をやった。
と、そこで昼間見た時とは違うものを見付ける。
「これは・・・」
「あ?・・・ってなんだよ、草生えてんじゃねぇか」
お登勢が何かを言う前に、同じように鉢植えに目をやっていた銀時が、
中に生えていた小さな緑色の芽をプチプチと引っこ抜いてしまう。
「ちょっ!!!」
「あ~もう仕方ねぇなぁ。確り面倒見ろって言ってんのによぉ。
最終的に銀さんが全部面倒見る羽目になんだよな。」
そう言いながら手をパンパンと払う銀時の顔はゆるりと緩んでいて、
・・・反対にお登勢の顔は固まってしまっていた。
「これでよしっと。早く芽ぇ出せよなぁ。」
そしたらプチトマトパーチーだぁぁ。
そう言って最後に鉢植えを優しく撫で、
銀時は腰を上げ階段をフラフラとした足取りで上がっていった。
残されたのはお登勢と物言わぬ鉢植え。
お登勢はちらりと鉢植えに視線をやり、深々と溜息を落とした。
「・・・芽を出せって・・・ねぇ?」
たった今摘み取られたんだけど。
日が上がり始めた中、お登勢はもう一つ、大きな溜息を吐いた。
その後、奇跡的に残っていたらしい種が芽を出し、
一番ホッとしたのは誰かは・・・言うまでもない。
「でも、なんで一つしか芽が出なかったんだろう」
もう少し植えた筈なんですけど・・・と不思議そうな新八に、
お登勢はすっと視線を逸らして煙を吐き出す。
「・・・鳥が食ったんだろ。・・・ほら阿呆鳥とか」
「え?居るんですか、こんなトコに!?」
「あぁ、千鳥足の阿呆鳥がね。」
お登勢の言葉に不思議顔で首を傾げる新八の向こうで、
眠そうな顔をしている銀時が一つ、盛大なくしゃみをした。
****************
どうしようもない大きな親切(笑)
新八が一生懸命に家事をこなしている間、ソファの上には
のったりと小山になっている物体が一つ。
全く、よくもこんなにダラダラと出来るものだ。
新八は少しだけ箒を動かしている手を止め、
温度の低い視線をその小山へと向けた。
すると、新八の視線に気付いたのか、小山がモソリと動いた。
・・・動いたのだが、やはり小山は小山だ。
それ以上動く気配を見せなかった。
新八は小さく息を落とすと、箒を抱えたまま、ソファへと近付いていく。
そしてその横にチョコンとしゃがむと、箒の柄の部分でチョンチョンと
突いてみた。
その衝撃に、モソリと再び動く小山。
うつ伏せに寝ていた銀時の顔だけが、新八の方へと向けられた。
「・・・何?銀さん今調子悪いんだけど」
「悪いんですか?」
銀時の言葉に、新八はしゃがみ込んだままコトリと首を傾げる。
「悪いね~。ってかますます悪くなった。
なんだコレ。動悸に息切れ、おまけに胸がキュンってなった。
キュンって」
「確かに顔は赤いですね~。
熱でもあるんですか?」
そう言って新八は顔を近付け、銀時の額に手を当てる。
するとますます銀時の顔が赤くなっていく。
「うわ~、大丈夫ですか、銀さん。
なんかものっそい面白いですよ」
「・・・それ、ちゃんと心配してくれてんの?」
思わず出た新八の言葉に、銀時の目が一瞬すわる。
それに新八はムッと眉を顰め、口を尖らした。
「してますよっ!でも面白かったんですから
仕方ないでしょ。
それより、他にも変なトコってあります?」
喉は腫れてないかな~。と言いつつ、新八は銀時の額から
手を滑らせ、ごつごつとした首へと手を這わす。
「いや、喉は大丈夫だろ。他のトコは腫れてっかもしんねぇけど。
ってか新八、こう言う事すんならちゃんと着替えてきてください。
ナース服は箪笥の三番目です」
「腫れてるなら切っちゃいましょうか。
喉だろうと何処だろうと、楽になりますよ?
ちなみに箪笥の三番目は永久封印となりました」
呆れながらも、お仕置きとばかりに手を這わしていた首元を
擽れば、銀時は小さく笑いを零しながら身を捩り、新八の
手を取った。
「で?結局アンタの病名はなんですか?」
怠け病ですか?銀時に取られた手をそのままに、そう問えば、
銀時はニヤリと口元を上げ、
「んにゃ、恋の病だ」
軽い音を立てて、新八の掌に唇を落とした。
「だから看病よろしくね、新ちゃん」
「・・・感染率高そうなんで遠慮したいんですけど」
「あ~、無理無理。もううつってるよ、オマエ。
その証拠に顔、真っ赤じゃん。」
そう言って楽しそうに頬を突く銀時に、新八は長い息を落とした。
「アンタも赤いまんまですけどね」
「ん~、なら二人仲良く療養でもしますか」
銀時はそう言うなり、上半身を起こすと新八の手を引いて、
自分の下へと引き寄せた。
そしてギュッと抱き締めると、そのまま今度は仰向けに倒れる。
「ちょ、危ないじゃないですかっ!」
銀時の上に寝そべった形になる新八は、そう怒鳴って体を
起こそうとするが、背中に回された銀時の手にそれは叶わず。
「大丈夫、大丈夫。
ほら、ゆっくり休もうぜ~」
言いながら、ポンポンと叩かれる優しい手に、新八は諦めたように
頭を銀時の胸元へと置いた。
「・・・治す気なんてないくせに」
「まぁな~。ってか治る気がしねぇ。
これっぽっちも、微塵もしねぇ。
全くやっかいな病気だね~。」
ちなみに甘えたい病も併発してるんで、よろしく。
へらりと告げてくる銀時に、あぁ、今日はこれ以上身動きは出来ないな。
と早々に家事を諦め、ソファの上の小山に加わる事にした。
どうやら甘えたい病もうつされたらしい。
全く酷い感染力だ。
******************
うっかりと甘い話。
外は生憎の雨模様。
普段なら、そんなもの関係なく外に遊びに出掛ける神楽であったが、
本日は家の中でゴロゴロする事にしたらしい。
銀時や神楽の服の繕い物をする新八の横で、ゴロリと横になったまま
チラシの裏に何かを描いていた。
そこに、ガラリと玄関の開く音がし、次に銀時の声が聞こえてくる。
「あ~、ったく、雨の日に外に出るもんじゃねぇな」
なんか身も心も湿っぽくなった気がするぜ。そう言いながら、
銀時は手で簡単に着物に付いた雫を払いながら、居間を通り越して
新八達の居る和室へと姿を現した。
それを見て、新八は繕い物をしていた手を止め、顔を上げる。
「お帰りなさい、銀さん。
ってか、そう言うなら態々出掛けなくて良かったんじゃないですか?」
「バッカ、週に一度のジャ○プデーを逃してどうすんだよ。
言っとくけどな、一週でも見逃したら最後、全然話に付いて行けなく
なっちゃうからね?
仲間に入れなくなっちゃうから、コレ」
「どこの仲間ですか、ソレ。」
「何処の仲間なんでしょうかね~、ソレ。」
呆れた顔でそう言う新八に適当に返事を返し、銀時は神楽と同じように
その場に横になりジャ○プを読み始めようとし、
「あ?何描いてんだ、オマエ」
ふと視界に入った神楽の手元に、疑問の声を上げた。
その言葉に、一生懸命に何かを描いていた神楽の視線が上がる。
「何って・・・見たら判るネ」
「いや、判んねぇから聞いてんだろうが」
銀時の言葉に、繕い物を再開しようとしていた新八の視線も向けられる。
神楽の手元、そこにはチラシの裏一杯に描かれた・・・
「角の生えた・・・毛玉・・・・・っがっ!!!!」
神楽の手元を覗き込みながらそう呟いた銀時の顔に、勢い良く神楽の
頭が減り込む。
「ちょ、オマ何しやがるっ!!」
ゴポッと溢れ出る鼻血を手で押さえ、のた打ち回る銀時を余所に、
神楽はハンと鼻を鳴らした。
「失礼な事言うからアル。これだから絵心のないヤツはダメネ。」
「すみません、絵心所か人としての心がないんですけど、
この子。
寧ろ修羅の心しか見えないんですけどぉぉ!!?」
「これが猫以外のモノに見えるヤツには、
そんなものしか見えないネ!」
・・・あ、猫だったんだ、コレ。
そう言われてみれば、なんとなく銀時の言っていた角の部分が
耳に見えてくる気がしないでもない。
新八がそう思っていると、
「・・・いや、コレは猫以外のモノにしか見えねぇだろ・・・」
と言うとても残念そうな銀時の声が聞こえてきたので、新八は
慌てて後で雑巾にでもしようかと思っていた布キレを銀時の
顔へと押し付けた。
とりあえず、天気がこの状態なのに、これ以上洗濯物が増えるのは
阻止したい新八であった。
「・・・見えないアルカ?」
だが耳には入ってしまったのだろう。
先程のように怒らないまでも、
うつ伏せたまま不安げにチラリと視線を上げてくる神楽に、
新八はやんわりと口元を緩ませた。
「そんな事ないよ?フワフワしててとっても気持ち良さそうだよ」
「そうアルカ!」
新八の言葉に、神楽は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ま、確かにフワフワはしてそうだよな、これ」
それを見てニヤニヤとしながら言う銀時に、再び神楽の唇が尖っていく。
そして何を思いついたのか、新しいチラシを銀時へと差し出した。
「ソコまで言うなら銀ちゃんも描いてみるヨロシ!」
ホラ。と言ってチラシを裏返し、パンッ!と銀時の目の前へと
叩き付けた。
「あ?言っとくけど銀さん上手いよ?
伊達にジャ○プ読んでるわけじゃないからね?」
そう言うと、銀時は起き上がって鉛筆を手に取り、
屈みこんでサラサラとチラシの上に書き込んでいく。
それを両脇から新八と神楽が覗き込んで・・・あれ?と首を傾げた。
「オラ!もう完璧じゃね?
銀さん、マジ上手くね?」
そう言って描き終わった絵を見せられた訳だが。
「・・・いや、上手には上手ですけど・・・」
「うん、上手いには上手いネ。でも・・・」
「「これ、新八・僕じゃね?」」
二人が問い掛けた先、ソコには微妙に上手く描かれた
新八の顔があって。
確か神楽は猫を描いていた筈だ。
それでからかってきた銀時にも描けと言って。
確かに何を描けとは言わなかったが、話の流れから言って、
ここは猫を描く所なんじゃないんだろうか。
そう思っている二人の前で、銀時はケロリとした顔で口を開いた。
「ん。だから『ネコ』」
「「は?」」
「あ?」
訳が判らず首を傾げる神楽と新八。
そして何を判っていないのかが判らず、首を傾げる銀時。
コトリと首を傾げる三人の後ろで、定春が呆れた様に
大きな欠伸を吐き出した。
数日後、銀時の言っていた意味を沖田から教えられた新八が
顔を真っ赤に染めながら、銀時自身を赤く染め上げたのは
言うまでもない。
*******************
坂田の思考は、ほぼ新ちゃんで出来ています。
「やっぱり猫も犬も可愛いアル~」
夕飯も食べ終わった後、テレビの前を陣取って
幸せそうに神楽が呟いた。
その視線の先にあるテレビでは、最早定番となりつつある
動物達の特集番組が流れている。
それを見て、銀時がハッと鼻で笑った。
「何が『可愛いアル~』だ。よく考えてみろ、神楽。
幾ら外見が可愛くても、人間にすりゃ~もうそれなりの年だぞ?
なのに走り回って滑って転んだだの・・・
単なるダメなおっさんじゃねぇか」
「アンタの方こそ、その思考回路を深く考えてください。
なんで態々人間変換?
テレビぐらい素直に見て下さいよ」
食後のお茶を運んできた新八は、呆れた顔でそう言うと
それぞれの前に湯呑みを置き、銀時の隣へと腰を降ろす。
「全くネ。これだから根性捻まくった穢れたオッサンは
ダメヨ」
「あ~もううっせぇなぁ!俺だってこれの裏番だったら
素直に見てたってぇのっ!
子供の如き純粋さで結野アナを
ガン見しまくってたってぇのっ!!」
「・・・や、既にソレ、純粋さの欠片も残ってないでしょ」
白けた視線で銀時を見、すぐさま新八は神楽へと視線を
移した。
「で、神楽ちゃんは猫と犬、どっちが好きなの?」
「動物だったら何でも好きネ!あ、でも一番は定春アル」
ね、定春~。と嬉しそうにソファの裏側に寝そべっている
定春の背中を撫でる神楽に、新八の頬もやんわりと緩んでいく。
最近少しずつ力の加減が出来るようになってきた神楽だが、
やはり不安はあるようで、街中で猫などを見つけても
そっと撫でるだけに止まっているらしい。
その姿を見かける度、新八は本当に定春が居てくれて良かったと
思うのだった。
「新八は?どっちが好きネ」
「え?僕?」
ソファの背凭れに体を預けたまま、クルリと首を捻って
問い掛けてくる神楽に、新八はコトリと首を傾げる。
「そうネ。あ、でも何でもいいアルヨ」
どんな動物が好きネ?と聞いてくる神楽に、新八は視線を
上げて暫し考える。
「う~ん、そうだなぁ・・・犬も猫も好きだけど・・・ハムスターとかも
好きかな?ちっちゃい頃、友達が飼ってたし」
すっごくフワフワしてた覚えがある。と言うと、神楽は
羨ましげに瞳を輝かせた。
「フワフワだったアルカっ!」
「うん、まるで毛玉みたいだったよ」
今度、ペットショップに見に行こうか。と新八が誘うと、神楽は
嬉しそうに何度も首を振って了承した。
「銀ちゃんはどうアルカ?」
「あ?何がよ」
それまでの会話を聞いてなかったのか、いつの間にか手にした
ジャンプから顔を上げ、銀時は訝しげに問い返した。
「だから好きな動物ネ!
銀ちゃんは何が一番好きアルカ?」
「んなもんオメェ、新八に決まってんじゃねぇか」
「「・・・・・・は?」」
「あ?だから好きな動物だろ?
なら銀さんの一番は新八です。以上」
「以上じゃねぇぇぇっ!!!」
当然と言った顔で言い切る銀時の頭を、新八が勢い良く叩いた。
「んだよっ!ちゃんと答えたじゃねぇかっ!
だったらここは頬を赤く染めて、『僕もです、銀さん』とか言って
胸に飛び込んで来いよっ!って、あぁ、顔は赤くなってっか。
なら後は飛び込んで来るだけだな。
よし来いっ!」
「行かねぇよっ!
寧ろ飛び込んで行く時は
包丁持って行きますよ、僕はっ!
大体動物って言ってんでしょっ!!」
「人間だって動物だろうが、差別してんじゃねぇ」
「差別じゃなくて区別だぁぁぁ!!!!
ってかなんでさっきから一緒くたにしてんですか、アンタはっ!」
「別にいいだろうが。
どっちにしろ一番はオマエなんだから」
しれっと答える銀時に、その日二度目の平手が今度は顔面に
振り落とされた。
「ったくよぉ、照れ隠しにも程があるだろ」
「違います、全然照れてなんかいましぇんっ!」
「・・・新八、その顔と言葉じゃ説得力ないネ」
赤くなった顔を摩りつつぼやく銀時に、新八はフンと顔を背けて
答えるが、生憎言葉を噛んでしまい、益々その頬を赤く染めた。
「で、銀ちゃんは結局犬と猫、どっちが好きネ」
「ん~、じゃあ猫耳新八で」
「居ねぇよ、そんな種別っ!!!!」
・・・万事屋内に、再び張り手の音が鳴り響くのも時間の問題のようだ。
*******************
偶には男らしい坂田を(笑)