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暖かい手で揺さぶられる感触と、僕の名前を呼ぶ声。
それに気付いた瞬間、僕の意識はドロリとした粘っこい世界から
一気に浮上した。
「大丈夫か?新八」
「・・・え?銀・・・さん?」
眼鏡がないせいでぼやけている視界の先で見つけた白い塊に、
思わず名前を呼べば、ホッと息を吐いたのが判った。
あれ?なんで僕・・・
ぼんやりとした頭で視界を動かせば、まだ薄暗いながらも
見慣れた万事屋の和室である事が判り、そう言えば
昨日は泊まっていったんだっけ・・・と思い出す事が出来た。
出来たのだが・・・
「えっと・・・どうかしました?」
とりあえず起こされる理由が判らない。
隣の布団から、上半身だけ僕の方へと身を屈めている銀さんを
見れば、何やら複雑そうな表情だ。
・・・まさかトイレか?
トイレについてってくれってかぁ!?
「いや、どうしたもなにもさぁ・・・本当、平気か?」
そう言って僕の目元を、親指でそっと撫でていく銀さんに
小さく首を傾げたくなる。
平気も何も、別に僕は眠ってただけだし、
トイレもそんなに切羽詰っていない。
それよりも・・・と、僕はもう片方の目元も撫でていく
銀さんの指先をそっと捕まえた。
「銀さんの方こそ平気ですか?」
なんか物凄く辛そうな顔をしてるし、それになんだか
撫でていった指先はひんやりと冷たい感触がした。
そう言うと、銀さんは微かに苦笑し、僕の頬を両手で包むと
コツンと額を合わせてきた。
「ん・・・大丈夫。オマエが平気なら銀さんも平気だ」
「なんですか、それ」
訳の判らない銀さんの言葉に、クスリと笑うと
「いいよ、判らないなら判らなくて」
と言って小さく僕の鼻先へと唇を落としてきた。
そしてそれは目元、頬へと続き、額にも一つ落ちる。
それがとても優しくて、柔らかくて、暖かくて。
一度浮上した意識が、フワフワとしたモノへと
変わっていくのが判り、僕はホッと胸を撫で下ろした。
あぁ、これなら大丈夫だ。
ぼんやりとした頭でそう思い、同時にあれ?と不思議に思う。
大丈夫って何が?
それに、銀さんはどうして僕を起こしたんだろう?
睡魔に負けそうになるのを何とか頑張ってそう問い掛けると、
銀さんは 一人が寂しかったから。 と答えてきた。
「何処だろうとさ、銀さんは新ちゃんと一緒がいいのよ」
そう言うと銀さんは だから布団も一緒でヨロシク。と僕の布団へと
体を滑り込ませてきた。
そしてあっという間に僕を全身で包み込むように
抱き締めてしまう。
何なんですか、それ。
って言うかそんな理由で起こされたの?
何時もならそう突っ込んで布団から叩き出す所だけど、
今日は何故だかそんな気が起きない。
寧ろ銀さんの温もりがとても愛しい。
何だろう、そんなに眠いのかな、僕。
だけど本当、銀さんの腕の中は暖かくて、安心できて。
僕は小さく息を吐くと、目の前にある胸元へと鼻先を埋めた。
そんな僕の頭を、ゆっくりと銀さんの手が撫でていく。
「な?やっぱ一緒がいいだろ?」
うん、そうですね。
「ま、イヤだって言っても離れねぇけどな。
だから何かあったら直ぐ呼べばいいんだよ。
何時だってオマエの傍に居るんだから」
・・・なんかそれ・・・
「ストーカーじゃねぇから。
寧ろヒーロー的な?って言うか恋人的な?
そう言う感じだから、銀さん」
はいはい、そうですねー。
「あ、信用してねぇな?
言っとくけどアレよ?それが例え夢の中だろうと
絶対ぇ乗り込んでくからな?」
・・・夢の中でも?
「あぁ、だから悪い夢見たら何時でも呼べ、新八。
怖い夢だったら銀さんがやっつけてやるし、
哀しい夢だったら笑わせてやる。
辛い夢だったら傍に居てやるし、
寂しい夢だったら抱き締めてやる」
本当に?
「馬っ鹿、銀さん舐めんなよ?
今から見る夢にだって、きっと俺が出てくるからな?
絶対ぇ今と同じように二人でラブラブしてっから。
あ・・・それいいな。
って事でこれから新八の夢にはレギュラー出演する事にします。」
・・・友情出演くらいにしといて下さい。
「却下。もう決定しましまたぁ。
ってか寧ろ愛情出演にすっか、もう。
総天然色っつうか総モザイク色な勢いで」
馬鹿な事ばっか・・・
「・・・・新八?」
ポツリポツリと返される言葉が完全になくなったのを感じ、
銀時はそっと新八の名を呼んだ。
胸元に埋められた顔を見れば、穏やかな寝顔がそこにはあって。
「今度は大丈夫そうだな・・・」
銀時はやんわりと息を吐いた。
それはほんの少し前。
不意に眠っていた意識の中に入り込んできた音があって、
未だ夜が明けきらない時間にも関わらず、
銀時は目を覚ました。
身を起こしてその音を辿れば、そこには何かに
魘されて涙を流す新八の姿が。
「一体どんな夢見たんだか・・・」
慌てて起こしたものの、本人はどんな夢を見ていたのかも
覚えていないようで、泣いているのにも気付いていない
ようだった。
「・・・間に合わなくてごめんな?」
でも今度はちゃんと行くから。
例え呼ばれなくても、絶対に行くから。
あぁ、でもとりあえず、今は二人で楽しい夢でも見ようか。
銀時は一つ、新八の頭に唇を落とすと静かに目を閉じ、
暖かくフンワリとした世界へと意識を落とした。
****************
四万打企画第六弾。Mag.様からのリクで、
「悪夢を見た新八が、銀さんに慰めてもらう話」
と言う事でしたが・・・如何だったでしょう?
ってか総モザイク色の夢の方が悪夢って
感じですねv(おいι)
こんな感じになりましたが、少しでも気に入って
頂けたら嬉しい限りですv
企画参加、有難うございましたvv
突然振り出した雨に、新八は荷物を抱えて全力疾走していた。
「あぁもうっ!予報では夕方まで持つって言ってたのにっ!!」
それは他の人も同じなのか、新八の様に走っている人も居れば、
軒先で雨宿りしている人も居る。
・・・と言うか雨宿りしている人の方が多いぐらいだ。
新八とて、幾ら今日買ったものの中に卵などの壊れやすいモノが
入っていないと言っても、態々雨の中走りたい訳ではない。
寧ろこれ以上洗濯物が増えないよう、じっと雨が止むのを
待って居たい位だ。
ならば何故走っているのか。答えは簡単。
・・・やっぱり洗濯物だ。
折角晴れたのだから・・・と外に干してきたのが間違いだった。
そんな後悔が頭を過ぎるが、やはり陽が出れば外に干したくなるし、
天気予報だって信じたくなるものだろう。
あぁ、でもこの時期は天気が崩れやすかったんだっけ。
だから銀さんも、今日は出掛けずにゴロゴロしてるって・・・
って、何時もだけどね、それ。
天候全く関係なくゴロゴロしてるけどね。
通帳残高も気にせずにゴロゴロしてるんだけどねっ!
本当、それなら少しぐらい家の事してくれても・・・
「っあ!」
ソコまで考え、新八は忙しなく動かしていた足を止めた。
そうだよ、銀さんが家に居るじゃん!
なら洗濯物だって・・・
「なんて奇跡がある訳ないだろぉぉ!!!
夢見る少年は卒業しろ、僕ぅぅぅ!!!」
一瞬、雨に気付いた銀時が洗濯物をよせてくれる光景を
思い浮かべようとしたが、
想像ですら無理だった。
新八はそう叫ぶと、立ち止まっていた時間を取り戻すかの
様な勢いで再び走り出したのであった。
「あ、洗濯物ならよせといたから」
息を弾ませて漸く着いた万事屋。
階段を駆け上がり、勢い良く玄関を開けた新八を迎えたのは、
何処かに出掛けようとしていた銀時だった。
銀時は、雨に濡れている新八にタオルを持ってくるから・・・と
暫し待つ様に言って身を翻した。
だが、その暫しの時間でさえ、今の新八には惜しい。
大丈夫です、それよりも・・・と新八が言いかけた所で、
中へと入っていった銀時が告げた言葉が・・・それだ。
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「だぁかぁら、もうよせといたってぇの。」
どうやら銀時の言った暫しの時を、呆然としたまま過ごしてしまったらしい。
気がつけば銀時が戻ってきており、バサリとタオルを
被せられていた。
「あ~あ、こんなに濡れちまって。
どうせ洗濯物が気になって走ってきたんだろ?」
俺が家に居るってぇのによ。そう言って新八の頭をワシワシと
タオルで拭き始める銀時。
「いや、確かにそうですけど・・・え?あの
よせたって・・・誰が?」
銀時の意外にも優しい手付きに身を委ねながら、とりあえず
停止していた頭を動かして問い掛けてみる。
「誰って銀さんしかいねぇだろ、ここには」
神楽は遊びに行ったままだしよ。銀時の言葉に、
そう言えば・・・と、朝方家を飛び出していった少女の姿を
思い浮かべる。
確か今日は友達のトコで夕飯をご馳走になってくると言っていたっけ。
ま、例え居てもよせてはくれないだろうけど。
でも、それは目の前に居る人物も同じ筈だ。
「じゃあよせたって・・・何を?」
思わず出た言葉に、銀時が盛大に眉を寄せる。
「あぁ?んなの洗濯物に決まってんじゃねぇか。
それとも何か?寄せて上げろってか?
銀さんの胸の谷間でも見たいんですか、
コノヤロー」
「見たくないけど出来そうですね、銀さん」
「うん、実は出来る。
こうぎゅ~っと力篭めて腕を寄せると胸筋がムキッと・・・」
「わ~本当だ、ある意味目と教育に悪いですね、それ。
・・・・って違ぇぇぇぇっ!!!」
手を離して実践して見せる銀時に、新八はタオルを
頭から取って叩きつけた。
そしてその勢いのまま、ガシッと銀時の顔を両手で掴む。
「何したんですか?
どうしちゃったんですか?
自分が何したか判ってんですか、
アンタッ!」
「え?何その剣幕。洗濯物よせただけだよ?銀さん。
別にオマエのパンツに頬擦りなんてしてないよ?
抱き締めたけど」
「本当何してんですか
アンタ。」
あぁ、それよりもっ!と、新八は掴んでいた銀時の顔を
思いっきり下へと下げた。
そしてゴツンと自分の額と銀時の額を合わせる。
「熱は・・・あっ!なんかちょっと熱い!!」
「・・・や、それは多分オマエが冷えてるからで・・・」
合わせられた額の痛みを堪えつつ、銀時がそう言うが
新八の耳には入っていない。
顔を掴んでいた手を銀時の喉へと移し、腫れ具合を
確認し始める。
「喉は・・・大丈夫かな?ね、銀さん。
何処か頭の他に調子悪いトコはないですか?」
「別にないし頭も絶賛大丈夫だからね、銀さん。
ちょ、止めてくんない?
何かその言い方だと頭が可哀想な子みたいに聞こえるから」
「あぁ!!既に熱で朦朧としてるんですね。
それ以外の何に聞こえるって言うんですかっ!
どうしよう、風邪かな?それとも悪い物でも食べたのか・・・
この時期傷むの早いから・・・
冷蔵庫のイチゴ牛乳だって、まだ賞味期限四日しか
過ぎてないのに・・・」
「えぇ!?ちょ、あれ過ぎてたの!?
後三日は持たせろって言ってたのにっ!?」
「大丈夫、きっと持ちます。
知らなければいけます」
「いや知ったからね、今。
後、完全に銀さんの心に傷を残してったから、それ」
「傷跡は男の勲章です、銀さん。
大体何時も大丈夫なんですから平気ですって」
「何時もなの!!?え、何コレ。
何か知りたくもなかった事がワサワサ出てくるんですけど!?」
「なら知らない事にしときましょうよ。
それよりも銀さん、とりあえず病院に行きましょうか。」
注射して貰えば直ぐ治りますよ。そう告げてくる新八に、
銀時が懸命に抵抗したのは言うまでもない。
「ったく酷ぇよなぁ」
あの後、必死の説明・・・と言うか説得が漸く新八の耳へと入り、
銀時への疑いは晴れた。
晴れた・・・が、銀時の気持ちは一向に晴れない。
ムッスリとした表情で洗濯物を畳む新八に、ネチネチと
突っかかっている。
「だからさっきから謝ってるでしょ!」
新八はそう言うが、やはり銀時としては納得できない。
座る新八の腰に後ろから寝転んだ状態で腕をまわし、
ギュッとしがみ付く。
「そうだけどさぁ、やっぱ酷ぇよ。
言っとくけど銀さんだって雨が降れば洗濯だってよせるからね?
迎えに行こうかな?ぐらい思うからね?
それによって新八が、感激して惚れ直してくれるだろう
ってこと位計算出来るからね?」
「んな計算してんじゃねぇよ。
どんだけ簡単な恋愛回路してんですか、僕」
呆れたように言い、銀時を見下ろして来る新八に、
銀時はやんわりと口元を上げる。
「でもあんなに滅茶苦茶心配してくれるぐらいには
惚れててくれてんだろ?」
銀さん、良い事知っちゃったな~。ニヤける銀時に、
新八はフイッと顔を背ける。
「・・・それは一番知らない事にしといて下さい」
なんか僕の方が具合悪くなってきちゃった。
そう言った新八の顔は、確かに赤くなっていた。
****************
四万打企画第五弾。蒼月様からのリクで
「原作銀さんが珍しく常識人的な事をして、新八に
「具合でも悪いんですか!?」と心配される。」
と言う事でしたが・・・これ原作銀さんですかね?(まずそこ!?)
ってか常識的な事をする坂田はやっぱ無理・・・と言うか
想像すら出来ませんよ、えぇっ!(ちょ、待て)
こんな感じになりましたが、少しでも気にいて頂け、
そして最後の方で黒いナニかを燃え滾らせて頂ければ
嬉しい限りですvv
企画参加、有難うございましたv
今日の僕の運勢は、多分最悪だったんだと思う。
とりあえず朝起きたら、庭に屍が転がっていた。
こう言うと結構ショッキングな事に聞こえるが、
毎日の事だと既に日常だ。
しかも、厳密に言うとまだ屍じゃないし。
それに近いってだけで。
なのでこれは最悪のカウントに入らない。
何時もの様に庭で転がっている近藤さんの手当てをし、
真選組へと連絡を入れる。
ちなみにこの状況を作った姉上は、既に夢の中だ。
どうやら完全に意識を絶った後じゃないと、安心して眠れないらしい。
僕としては、姉上がうっかりして意識ではなく命を絶って
しまわないよう願うばかりだ。
じゃないと僕が安心して眠れない。
ってか、寧ろ朝怖くて起きられない。
しかし、ここからが運の悪さのスタートだったのだ。
連絡を入れた筈の真選組から、中々迎えが来なかった。
お陰で近藤さんが目を覚まし、延々と姉上との
未来妄想図を聞かされてしまった。
ちなみに姉上との新婚生活だと言うのに、ちゃっかり
僕も一緒に暮らしている事になってて、ちょっと嬉しかったのは内緒だ。
で、それを聞くだけでも苦行なのに、妙な気配を感じてか
姉上が起きて来て、再び心臓の悪い人には見せられないシーンが
繰り広げられてしまった。
さすがにそれ以上はうっかりしなくても危ない・・・と慌てて止めに入り、
漸く来た真選組に近藤さんを引き渡した所で、既に何時も家を出る
時間が大幅に過ぎてしまっていた。
毎日銀さん達に時間厳守を言い渡しているだけに、これはちょっと
頂けない。
急いで万事屋へと向えば、途中黒猫の集団に見事なまでに
横切られた。
ってかなんで集団んん!?
なんかものっそく壮観な眺めだったんですけどぉぉ!!
てか・・・横切られても三歩下がれば相殺・・・って子供の頃
言ってたけど、この場合は何m単位になるんだろう・・・
ま、迷信だ迷信。と自分に言い聞かせ、歩き出した所で
鼻緒が切れた。
しかも両方。
・・・うん、もう結構履き潰してる感じだからね、これ。
寿命だよ、寿命。今までどうも有難うございました~。
とりあえず直している時間はないので草履を脱ぎ、万事屋へと向った。
・・・途中、暴れ馬だの暴れ巨大生物だの
暴れ沖田さんだのと遭遇したが・・・まぁ許容範囲だろう。
大体沖田さんは対象が限定されてたから、
そんなに被害に合わなかったし。
で、何とかついた万事屋。
時間を見れば遅刻もいいトコだ。
でもどうせ二人ともまだ眠っているだろうし、そーっと入って
誤魔化せば・・・と、玄関を開け静かに居間へと進んだ所で、
「あれ~?何々、新八く~ん。もしかしてどっかの朝市にでも
行って来たの~?あ~、そりゃ朝からすまなかったなぁ。
あれ?でも荷物持ってないよね?何か『今来ました』って
感じだよね、それぇ?」
と、何故か起きていやがった銀さんに、ニヤニヤとした
あまりよろしくない笑顔で言われてしまった。
しかも
「そんな事ある訳ないネ、銀ちゃん。新八は何時も言ってるアルヨ。
『決められた時間は守れ、規則正しい生活をしろっ!』て。
そんなきっちりかっちり眼鏡が遅刻なんてする訳ないネ」
・・・神楽ちゃんまで起きてやがるし。
「だよなぁ。健全・真面目な生活を送る新八が
そんな事する訳ねぇよなぁ。あれ、ならなんで今入ってきたんだろ?
銀さん、全然判らないや」
「私も全然判らないヨ。
きっと眼鏡にしか判らない行動理由ネ。」
「そっか~、奥が深いな眼鏡は。
って寧ろダメガネがか?」
普段中々起きてこない癖に、こう言う時だけ起きてやがって。
その上僕が遅刻したのを判った上で、ネチネチネチネチとっ!
「眼鏡眼鏡うっせぇよっ!!
遅刻ですよ遅刻っ!すみませんねコノヤロー!!!」
持っていた荷物をバシッと床に叩き付けながらそう言うと、
うわっ!開き直ったぜ、コイツ。最悪アルナ~。とコソコソと言い合う
二人が見えた。
逆ギレすっぞ、おい。
思春期舐めんなよ。
卓袱台ひっくり返して暴れるぞ!?
・・・ま、卓袱台ないけどね。
ってかそんな事したって、部屋が散らかるだけだからやらないけど。
だってどうせ片付けるのは自分なんだし。
なので未だ嫌味を言いつける二人に背を向けて、僕は少し遅くなった
朝食を作る事にする。
・・・でも何時もより砂糖少なめにしよう、今日の卵焼き。
しかし、その後やっぱり・・・と言うか、きっちり砂糖の量の違いに
気付いた銀さんから、再びネチネチ言われ続けた。
それに乗っかった神楽ちゃんからも。
いい加減飽きろよ、本当。
一応・・・と思い、ここに来るまでの過程・・・まぁ遅刻の言い訳も
したのだけど、なんの効果もなかったし。
寧ろ笑われたし。
や、判るけどね、その気持ち。
でも全てを眼鏡のせいにするのは止めて下さい。
眼鏡の呪いとかないですから。
僕が不器用なのと眼鏡は関係ないですから。
草履なんて履ければいいんですよ、履ければっ!!
・・・と言うことで、いい加減僕の方が言われ飽きたので、
からかわれながらもなんとか鼻緒を直した草履と共に、
買い物へと出掛ける事にした。
大体何時も僕が来るまでグータラと寝こけている癖に、
今日に限ってちゃんと起きてるなんて・・・
しかもそんな日に遅刻しちゃうなんて・・・
「本当、ついてないな~」
と、歩きながら溜息を一つついた所で、再び鼻緒がプツンと切れた。
・・・うん、履ければいいなんて適当すぎたね。
鼻緒が丈夫でナンボですよ、草履はっ!!
仕方なく草履を脱ごうと、溜息を吐きつつ屈んだ所で、
突然後ろから衝撃を受けた。
思わず膝を付いた僕の頭上からは、いってーっ!との声。
・・・本当、ついてないにも程があると思う。
「んだよ、こんなトコで止まってんじゃねぇよっ!」
ぶつかっちまっただろうがっ!と唾を飛ばしながら叫ぶ彼は、
前方不注意と言う言葉を知っているのだろうか。
どうやら先程の衝撃は、今目の前に居る
『心の乱れは服装からっ!』
を見事に体言している彼によるものらしい。
一緒に居る友人らしき人物と、ひたすら文句を言いつけてくる。
僕はとりあえず立ち上がり、膝についた土を払いながら
はぁ。とか すみません。とか言ってみる。
だが、相手の勢いは増すばかりだ。
いや、心が篭ってないって言われても、
篭めてないんだから仕方ないでしょ。
だが、今朝からの度重なる出来事のお陰で、
ツッコム気力すらない僕は、再び適当な相槌を打ち・・・
「その折角掛けてる眼鏡は飾りですか~?
ダメガネちゃんなんですか~、てめーはよっ!」
「ってなんでここでもダメガネ!!?
何ソレ、知らないうちに流行語にでもなってんのぉぉ!!?」
・・・ちょっと我慢出来なかった。
お陰で目の前の二人はちょっとびっくりしたものの、
闘争心は盛大に燃えあがったらしい。
怒りの表情そのままに、僕に向ってきた所で・・・
不意にその体を上へと移動させた。
・・・て、なんで?
呆然と見上げていると、吊るし上げられた体の後ろから、
見慣れた頭が僕の視界に入ってきた。
「っ!銀さ・・・」
「おいおい、ちょっと言い掛かりは止めてくんない?
新八の眼鏡が飾りな訳ねぇだろ。それがないと
前も未来も、時計すら見えない子なんだからね?」
そう言いながら、銀さんはダルそうに吊るし上げていた体を
ポイッと・・・いやブンッ!と?些か乱暴に放り投げた。
「これでタイムサービスにも遅刻なんてなったら、
明日からの坂田家の食卓をどうしてくれるんだよ」
・・・あぁ本当、銀さんは結構ねちっこいや。
もう、溶け出した綿飴みたいにねちっこい。
ってか溶けちまえ、
その頭に擬態している綿飴。
「・・・なんか酷い事考えてない?」
心を込めて念じていると、不穏な気配に気付いたのか
銀さんがじっとりとした視線で僕を見てきた。
「心で思うぐらい許可して下さい」
「あれっ!?ちょ、否定は!!?」
うるせぇよ、チクショー。
どうせなら、さっき少しだけしてしまった胸キュンを否定させてくださいっ!
「おい、お前らっ!何勝手にダメガネなんて言ってるネ!
ちゃんと使用許可取って金貢げヨ、コノヤロー!!」
その言葉に視線を移せば、何時の間に来たのか、
もう一人の男に馬乗りになって
全力で体を揺すっている神楽ちゃんが見えた。
・・・きっと魂揺らす・・・ってあぁ言う事なんだなぁ。
って、違うよっ!早く止めないと息の根が止まっちゃうって、アレ!
僕は慌てて二人の手を掴むと、僅かに出来てきていた人垣を掻き分け、
その場から逃げ出す事にした。
って、さり気なくその人達の上を
踏んでくるな、2人ともっ!!
「全く!何やってんですか、アンタ等はっ!!」
ある程度離れた所まで来て、僕は掴んでいた手を離し
二人へと向かい合った。
「何って・・・なぁ?」
銀さんが気まずそうに目を逸らすと、隣で口を尖らせていた
神楽ちゃんがボソリと言葉を零した。
「・・・だってあいつ等、ダメガネって言ってたネ」
最悪ネ。勝手に使われたヨ。そうむっつりと言う神楽ちゃんに、
ちょっと呆れる。だって・・・
「勝手も何も、あの人達も適当に言っただけだと思うよ?」
うん、もしかしたら語呂が良くて、本当に密かに流行ってたり
するのかもしれない。
あんま嬉しくないけど。
そう言うとパカンと軽い衝撃が頭にやって来た。
見れば少し難しそうな顔をした銀さんが犯人だった。
「馬っ鹿。だったら尚更だろうがよ。」
ダメガネは坂田家限定なんですぅ。と言いつつ、
そのまま銀さんは僕の頭を力強く撫で始めた。
それを止めさせようと腕を上げた所で、今度は腰に
衝撃が走る。
見れば神楽ちゃんが僕の腰にしがみ付き、ムスッと口を
尖らしていた。
「そうネ!だからホイホイ気安く呼ばれるんじゃないアル、
このダメガネ。」
「や、この場合不可抗力だからね?限りなく。
ってか今現在気安くホイホイ言われてるんですけど・・・」
「坂田家だからいいんですぅ」
「それに気安く呼んでないネ。
ものっそく心を篭めてるヨ!」
・・・いや、坂田家関係ないから。
ってか心を篭められてる方がイヤだから、それ。
でもまぁ・・・と、肩を抱いている銀さんと腰にしがみ付いている
神楽ちゃんに挟まれて、ちょっとだけ笑みが零れる。
案外ねちっこい二人だから、きっとこれからも
ずっと坂田家限定の呼び方になるんだろうな。
それはなんだかちょっと嬉しくて、だけど恥ずかしくもあって。
今日はそんなに最悪な日でもないかも・・・なんて思ってしまった。
「で、アレだ。今夜、オマエお泊りな。」
「は?」
「目だけでなく耳まで悪くなったカ?
お泊りネ、お泊り。三人で川の字アル」
その後、遠慮する僕を無理矢理負ぶった銀さんと神楽ちゃんに、
不意にそんな事を言われた。
また遅刻されたら敵わないんだってさ。
全くどこまでネチネチ来るつもりだ、コノヤロー。
でも、まぁ・・・その後続いた
「ったく、おちおち朝寝も出来やしねぇ・・・」
「本当ネ」
って言う小さい声も聞こえたから、明日は何時もの卵焼きを
出してあげる事にしようと思う。
****************
四万打企画第四弾。5月14日0:23にリクエスト
して頂いた「普段は新八をダメガネ扱いしてイジり倒しているけど、
他人が新八を傷付けるのは絶対許さない銀さん&グラさん」
でしたが・・・如何だったでしょうか?
弄る・・・と言うよりも構って欲しい感がバリバリな
二人になってしまいましたι
こんな感じになりましたが、少しでも
楽しんで頂ければ嬉しい限りですvv
企画参加、有難うございましたv
戸惑いながらも恥ずかしそうに笑顔をくれる新八を
思う存分撮りまくった後、新八のお腹がクゥ~ッと可愛い
音を立てた。
・・・ちっ、ビデオもありゃ~今の音もばっちりだったのに。
って違う違う。
時計を見れば、もう夕飯に近い時間だ。
普通なら神楽の帰ってくる時間だが、今日はお妙と一緒に
九兵衛の所に行っているから問題なし。
アイツが居たら、絶対ぇ玩具にされるからな、こいつ。
俺は一先ず安心し、頬を赤らめてお腹を摩っている新八の頭を撫で、
夕飯を作る事にした。
・・・そう言えばなんで新八は普通にここに居るのだろう。
今までの事から、体に合わせて記憶の方も退化しているのが
判る。
ならば新八としては、ここは全く知らない場所で、
俺は知らないお兄さんだ。
普通なら家に帰りたいと泣くんじゃないか?
そう思い、さり気なく聞いてみると、既にヅラがフォローを
入れていたらしい。
なんでも家の者が用事で出掛けているので、帰ってくるまで
自分は『なんでも屋』に預けられているのだ・・・と。
「しんちゃんとぎんしゃん、おるすばんなの。すごいね~」
ニコニコと自慢げに言う新八に、もう一撫で。
うん、確かに凄いよその何でも信じる純粋さ。
でもとりあえずはヅラに感謝だ。
ハゲ散る呪いを少し弱めて、
前髪だけ残してやる事にする。
それよりも今は夕食だな・・・と、俺は久しぶりに
台所に立つ事にした。
子供が喜ぶものって言ったら・・・甘いもんだな、うん。
って事で甘いオムライス決定。
今日ばかりは新八も怒りはしないだろう。
だって今現在、俺の足元で目をキラキラさせてるし。
俺は安心して腕を奮うことにした。
ちなみに台所に移動する時も、作っている時も、常に足元に
新八がくっ付いていたのは言うまでもない。
それが可愛くて仕方ねぇのはもっと言うまでもねぇな、うん。
その後、一人だと危ないから・・・と膝に抱っこしたまま
オムライスを食べさせた新八は、片づけを終え、まったり
テレビを見ている今もしっかり俺の膝の上だ。
や、だって危ないからね、ソファの上だと。
転げ落ちたりしたら本当危ないから。
それ以外の理由なんて、微塵もないからね、コレ。
あぁ、でもご飯の時は降ろしておいた方が良かったか?
だってこの体勢、新八が美味しそうに食べてる顔が
見れなかったし。
あ、でもその分、アーンてしてくれたっけ。
本当、昔っから優しくて良い子で銀さんのツボに
クリティカルヒットな、新八。
なんか人参とかピーマンばっか
入ってた気がすっけど。
そんな事を思い返していると、不意にポトンと胸元に
小さな頭が落ちてきた。
「ありゃりゃ、寝ちまったよ」
覗き込めば大きな眼を閉じた新八がクークーと寝息を立てている。
や、まだドキドキビ○レデビューしてないんですけど。
寝る前にお休みのチューを教え込む
とかしてないんですけどぉぉぉ!!?
そうは思うが、どうにもこの寝顔を見ていると、無理矢理
起こす事は出来ねぇ。
「仕方ねぇなぁ」
苦笑を一つ零し、俺は布団を敷く為に一先ず新八を
ソファの上に寝かせようと腰を上げた。
が、確りとその小さな手は俺の着物を掴んでいたりして。
俺は悶死という言葉の意味を初めて理解した。
「銀さん、朝ですよ。起きて下さい」
その言葉と共に眼を開ければ、ソコには何時もの新八が居た。
あの後、なんとか新八を抱きかかえたまま布団を敷き、
同じように横になった俺はそのまま寝てしまったらしい。
・・・ってかもう効き目が切れたのか。
坂本の言葉を信じていなかった訳ではないが、
実際元に戻った新八を見て、少しホッとした。
あのままでも十分可愛かったが、色々と問題があり過ぎる。
「ちょっと!ちゃんと目、覚まして下さいよ?」
ご飯出来てますからね。そう言って和室を出て行く新八を
ぼんやりと見送り、俺も布団から出る事にした。
「なんか昨日の記憶が曖昧なんですけど・・・僕何時の間に
寝ちゃったんですかね?」
「ん~?曖昧って何処ら辺からよ」
一先ず顔を洗い、居間へと戻ってくると既に朝御飯が
並べられていた。
美味しそうに匂いにお腹を刺激されながらソファに腰を
降ろすと、新八からそんな質問がやって来た。
とりあえず下手な事は言えない・・・や、別に疚しい事とか
全然ないけど、一応ね、一応。
やっぱ自分の知らない間に子供に戻ってました~とか
言われたらちょっと凹むじゃん?
なんかやっちゃったかな?とか思っちゃうじゃん?
や、俺が・・・とかじゃなくて。
って事で探りを入れてみると、どうやらヅラが来た所から
曖昧になっているらしい。
なら子供に戻ってる時の事は、全く覚えていない訳だ。
「じゃあそこら辺からだろ。疲れてんじゃね?」
そう言うと新八は そうですかね~。と納得しきれていない
顔で、よそったご飯を渡してきた。
そしてそれを置こうとして、俺は初めて何時もと違う事に気付いた。
何時もなら向かい合って食べる筈なのに、何故だか今朝は
俺と新八の分が隣り合わせに並べてある。
「おい、新ぱ・・・」
「じゃ、とりあえず食べましょうか」
疑問の声を上げる俺を余所に、新八はそう言うと
俺の傍へと寄って来て、ポスンと膝の上へと腰を降ろしてきた。
「「・・・え?」」
「ぅわっ!ちょ、なんで僕こんなトコに!!?
す、すいません。すぐどきますからっ!!」
無意識にしてしまったのだろう。自分から腰を降ろしておいて
慌てだす新八に、俺は一瞬ポカンとしたものの、直ぐに
両腕を新八の腹の前へと出してどこうとするのを阻止した。
「おいおい、自分から来といてこんなトコは酷くね?」
「だからすみませんって!お願いですから離して下さいぃぃ!!」
あぁ、もうなんでぇぇ!!?と顔を真っ赤にしながら
暴れだす新八を、ますます力を込めて拘束しながら
俺はニンマリと口元を緩めた。
どうやら予想以上に、俺の膝は
子供の新八のお気に召していたらしい。
昨日とは違う重みに、それでも感じる幸せは同じなんだな~と
しみじみ思った、そんな朝だった。
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四万打企画第三弾。もんちょ様からのリクで
「天人のお菓子を食べてちっちゃくなった無垢で素直な新ちゃんに、
悪い大人の銀さんが大人げなく刷り込みをする」
・・・との事でしたが、如何だったでしょうかι
悪い大人の部分・・・と言うか、子供新ちゃんが
あんまり出せなかった気が・・・すみませんι
こんな感じになりましたが、少しでも気に入って頂けたなら
嬉しい限りですvv
企画参加、有難うございましたvv
これは日頃の行いの結果なのだろうか。
だとしたら俺は良い行いをしてたのか?
それとも悪いからこうなったのか?
・・・まぁアレだ。とりあえず・・・
「ヅラを取って首を差し出せ」
元凶であろうヅラを締める事にしよう。
「ヅラではない、桂だ・・・ってぅおっ!
行き成り何をするっ!まだ全部言い終わってないのだぞ!?」
本気で打ち込んだものの、伊達に同じ戦場を共にしていないようで、
ヅラはギリギリながらも俺の木刀を避けやがった。
「うっせぇよ。誰もがきちんと待っててくれるなんて思うなよ?
言っとくけどそんなのテレビの悪役しかしないからね?
って言うかきっとヤツラも真剣に聞いてないから。
軽く談笑なんかしつつ流してるからね、アレ」
って事でさっさと召されろ。そう言ってソファに突き刺さった
木刀を引き抜き、再び振り上げようとしたのだが、
横から聞こえてきた小さな悲鳴に、ピタリと腕を止める。
ちらりと見れば、ソコには大きな目にこれまた大量の涙を
滲ませた小さい子供が居て・・・
「銀時っ!小さい子を泣かせるとは何事だっ!」
さぁもう大丈夫だ。と、子供の傍へと行き、宥め始めるヅラに
俺は大きく息を吐いた。
・・・その前に俺が泣きそうなんですけど。
腕を下ろし、序にソファへと腰を降ろした俺の視線の先で、
ヅラに宥められた子供がビクビクとした感じでこちらを見ている。
・・・うん、確かに小さい子を驚かすのはいけねぇとは思う。
なんか無駄に罪悪感が襲ってくるからね、本当。
でも、そんなには小さい子でもなかったんですけど。
ウチの新八は。
そこまで思い、俺はもう一つ盛大に溜息を吐いた。
今から少し前、パチンコから帰ってくると、玄関に
見慣れたくもないヅラの履物があるのを見つけ、
俺はウンザリと息を吐いた。
そのまままた外に出ても良かったのだが、何分今パチンコから
帰って来たばかりだ。
ぶっちゃけもう金がねぇ。
ならばヅラが持ってきているだろう手土産で心を癒し、
序にからかってストレスを発散させよう。
そう心に決めて居間へと向った先で、見つけたのが・・・コレだ。
改めてヅラの背に隠れている子供をマジマジと見やる。
着ている物は・・・確かに新八が今日着ていたものだ。
流石に袴はでか過ぎて穿いていないが。
それに面影も・・・確かにあるような気がする。
何より一応銀さんの高性能新八レーダーが反応しているのだが、
・・・やっぱりどうにも信じられねぇ。
だってちょっと前まで16歳だったのに、今は・・・5.6歳か?
ない・・・やっぱないな、コレは。
「・・・大体眼鏡してねぇじゃねぇか」
新八って言ったら=眼鏡だろ。
あ、でも小さい頃は、まだ可哀想な卵焼きの犠牲になってなかったから
眼鏡してなかったんだっけ?
そう考えていると、ヅラが何処に持っていたのか、ズイッと
見慣れた眼鏡を差し出してきた。
「眼鏡ならここにある」
「ならそれが新八だ」
「しんぱちなのは、しんちゃんだよ?」
ヅラの差し出す眼鏡にそう断言していると、それまで泣いていた
子供が微かに声を震わせたまま、オズオズと口を出してきた。
それにヅラが、どうだと言わんばかりに胸を張り、
背中に匿っていた子供を自分の前へと引きずり出す。
「聞いたか銀時っ!ちゃんと自己紹介が出来るのだぞ!?」
「いや、そこじゃねぇよ、威張る所もツッコム所も。
なんかもう軒並み間違ってるよ、お前」
とりあえずパカンと良い音を立てながらヅラの頭を殴り、
オロオロと俺達を見回す新八を抱き上げて自分の膝へと下ろした。
小さくても大きくても、新八なら俺の傍に居なきゃダメだろ、うん。
「で?なんでこうなったのよ」
幾分ビクビクとしている新八の頭をそっと撫で、俺はヅラに
どうしてこうなったのか、漸くその理由を聞く事にした。
・・・ま、聞いてもシめるの決定だけどな。
「さて・・・と。どうすっかねぇ・・・」
ヅラと話している間に、新八は眠ってしまったらしい。
俺の胸元にしがみ付き、クークーと呑気に寝息を立てている新八を
見て、俺は一人呟いた。
ちなみにヅラは既に追い出した後だ。
アイツが居ると、俺の心が休まらねぇ。
シめるのはまた今度だ。
で、そのヅラによると、原因はヤツが持って来たお菓子にあるらしい。
なんでもその中にはごく稀に『当たり』と称する物が入っているらしく、
それを今回、見事に新八が当ててしまった・・・と。
本当、何処までも厄介ごとを持ってくるヤローだ。
心を込めてハゲ散ってしまえと
呪っておくことにする。
大体俺に内緒で食わせてしまうのがムカつく。
残しておけよ、少しぐらい。
ってか無断で新八とお茶してんじゃねぇ。
だが、幸いにしてこの『当たり』と言うものには
時間制限があるらしい。
新八が子供になってしまった後、この菓子を送ってきた
もう一人の元凶である坂本に聞いた所、その時間は半日。
それが過ぎれば自然と元に戻るそうだ。
・・・ってかアイツ、坂本に聞いたって言ったけど、
ウチの電話使ってねぇよな?
使ってたらアレだ。電話料金せしめてやる。今月分丸々。
あ・・・でも普通の回線でアイツに連絡がつくのか?
思わずそんな風に思考を横道に逸らしていると、不意に
腕の中の新八がモゾモゾと動き出した。
視線を下ろせば、どうやら目が覚めたらしく、しきりに
目を擦っていた。
「おいおい、そんなに擦ると赤くなんぞ?」
何時もより大分小さい手をやんわりと掴むと、新八は驚いたように
それまでトロンとしていた目を大きく見開いた。
「おじちゃんだ。あ、でもちがう、じーじ?」
コトリと首を傾げる新八に、とりあえず死にそうになった。
色んな意味で。
だってコレは一種の兵器だ。
仕草も言葉も。
「・・・どっちも違ぇよ。銀さんだ、ぎ・ん・さ・ん」
もしくはお兄さんな。と、とりあえず死にそうになった理由の一部
・・・と言うよりこっちは泣きそうになったってのが正しいな、うん。
まぁそれを訂正すると、新八は不思議そうにますます首を傾げた。
・・・いや、それ以上傾げると転ぶからね?オマエ。
寧ろコロンと落ちるから、膝の上から。
それは危ないと、両腕で新八を抱え込むようにしていると、
新八は真剣な顔でボソボソと何かを呟きだした。
「ぎんしゃん?・・・ぎんしゃん・・・おに・・おにいしゃ・・・
・・・・・・・・にぃに?」
どうやら俺の呼び名を決めていたようだ。
そして呼びやすい言葉を見つけたらしく、顔をパッと上げる。
「にぃにっ!」
その言葉と共に、全開の笑顔を浮かべられた日には、
真剣に犯罪者になってもいい様な気がしてくる
から不思議だ。
「って、ダメだろ、俺ぇぇぇぇぇ!!!!」
突然叫びだした俺に、にっこり笑顔の新八が、びっくりお顔になって
固まってしまった。
あ、ヤバイヤバイ。
俺は泣き出される前に、慌てて笑顔を作って新八の頭を撫で始めた。
どうにも新八の涙には弱い。
それが例え子供の姿であっても・・・だ。
「・・・にぃに、ダメ?」
撫で続けていると、オズオズとした口調で新八がそう問い掛けてきた。
その目には今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいて・・・
あぁ、本当ダメなんだって。オマエの涙は。
だって銀さん、今にも理性が崩壊しそうだから。
そう言う意味でも弱いんだからね。
ってかそっちの方が断然弱いからっ!
「・・・とりあえず銀さんの方で」
破壊力の少なそうな方をお願いしてみると、
新八は少し不思議そうな顔をした後、
「ぎんしゃん?」
とまん丸お目々で窺うように俺を見上げてきた。
・・・うん、ごめん。
破壊力がどうのとか言ってる場合じゃなかった。
どっちも物凄ぇわ、これ!
大体子供ってのは好きでも嫌いでもねぇ筈なのに、
新八ってだけで既にヤバイ。
普通にヤバイ。
もう犯罪者でいいよ、銀さん。
でも実際問題、そんな事になれば後が辛い訳で。
だって捕まれば一緒に居られねぇし。
この新八とも、勿論元に戻った新八とも。
それだけは耐えられないから、銀さん。
ってか今この時、この奇跡を堪能せずいられるかぁぁ!!
頑張れ、俺の理性っ!
普段見せないその力をあるなら示せっ!!
なくても作り上げろぉぉぉ!!!!
と、まず心を落ち着かせる為に大きく深呼吸・・・をしてたら、
何故だか新八も同じように深呼吸していた。
どうやら何かの遊びと思ったらしく、新八はケタケタと
楽しげに笑っている。
・・・や、遊びじゃないからね?
大切な事だから、俺にとってもオマエにとっても。
ってかそんな事したら余計落ち着かんわぁぁぁ!!!
でもとりあえず・・・
「・・・写真撮ろっか?」
出てきた言葉に罪はないと思う。
うん、これぐらいならまだギリギリセーフな筈だ。
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四万打お礼企画第三弾。
もんちょ様からのリクですが・・・すみません
もう少し長くなりそうなので、一旦きります。