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久しぶりに暖かくなった午後、神楽と新八は二人並んで万事屋への
道を歩いていた。
手には本日の戦利品である特売品の数々。
会話は帰り道の途中で見た映画のポスターの話。
「銀さんだったら、絶対糖分取るって言うよね」
「私はそれにダラダラし続けるってのをつけるネ」
「あ、それズルイ!」
「女はズルイ生き物だって昔から決まってるヨ」
そう言い捨てると、神楽は軽快に辿り着いた万事屋への階段を上って行く。
新八もそれに続くように、両手に持った買い物袋をカサカサ揺らして
階段を登って行った。
二人が見掛けた映画のポスター。
それはもし世界の終わりが迫ったら・・・と言う、結構良く見る感じの
内容のもので。
それに対し、安直だの王道過ぎるだの文句を言いつつも、
『もし明日世界が終わるなら何をしたいか』
と言う話題になっていった。
とりあえずそんなに危機感のない二人は、酢昆布をたらふく食べる・・・とか、
お通ちゃんのCDを聞きまくる・・・等と言う非常に夢の無い答えになり、
それはもっと夢の無い、判りやすい大人の答えの予想
へと続いたのであった。
まぁ判りやす過ぎて答えは一つしか出なかったのだが。
「神楽ちゃ~ん、買ってきた物は~?」
とりあえず冷蔵庫に入れなければ・・・と、新八はそのまま
台所へと進む。
その途中、神楽に尋ねると、
「ソコに置いてあるネ。それよりも新八!こっちに来るアル」
逆に居間から声を掛けられた。
新八はとりあえず生物だけを冷蔵庫へと入れると、神楽に
言われた通り居間へと足を進めた。
「何?神楽ちゃん」
「これ見るヨロシ。この分だと私の勝ちネ」
ニシシと笑う神楽に言われるまま視線をやれば、ソコには
昼間っからソファで惰眠を貪る銀時の姿が。
「少しは予想を裏切れよ、おい」
思わず呆れた目で見詰めれば、その横で神楽が寝ている銀時を起こそうと
体を思いっきり揺らしていた。
「銀ちゃん、銀ちゃん!起きるヨロシ!!」
「はぁ!?え?何々?地震!?
世界滅亡級の地震!!?コレェェェ!!!」
「そうアル。
だから銀ちゃん、世界が明日で終わるとしたらどうするネ」
急激な振動を加えられ、さすがに寝ていられなかったのだろう。
銀時がぼやけた目をパチパチさせている中、神楽がそう尋ねた。
すると、銀時は珍しくも死んだ目を大きく見開き、目の前の新八達を
交互に見詰めた。
そして・・・
「え?何?お前らここ出てくの?」
と、問い掛けてきた。
その言葉に、今度は新八達が目をパチクリさせる。
「や、別にそんな事はないですけど・・・」
なんでそんな質問?ってかさっきの質問の答えは?
そんな事を思いつつ、答えを返すと、銀時は大きく息を吐きながら
肩の力を抜いた。
「んだよ、驚かすんじゃねぇよ。なら大丈夫だ。
俺の世界は終わらねぇ」
ったく、いい夢見てたのによぉ。そう言うと銀時は再びソファの上に
ゴロリと横になり、そのまま眠りの世界へと旅立ってしまった。
残されたのは、ポカンとしたお子様二人。
「えっと・・・僕、買ってきた物入れてくるね」
「私、ちょっと散歩行ってくるヨ」
どれだけ時間が経ったのか、二人はオズオズとそう呟くと、
視線を合わせないままその場から立ち上がり、居間を後にした。
頬を微かに染め、口元を緩めながら。
「えっと・・・何コレ。もしかして幻?
え?銀さん、もしかしてまだ寝てたりする?」
そろそろ夕食だと起こされた銀時は、目の前に置かれたプリンに
幾度となく目を擦ってみた。
それを見て、夕食の準備をしていた新八がクスリと笑う。
「何言ってんですか。まだ寝たりないんですか?
もう少しなら寝ててもいいですよ。あ、プリンは明日にします?」
「いやいやいや、寝ねぇよっ!
天下のプリン様を前にして寝てられるかってぇのっ!」
「銀ちゃん、今日は力が有り余ってるから
肩でも揉んでやるネ!」
「や、おかしいからね?
揉む理由が完全におかしいからね!?
なんなんだ、テメーラッ!どうかしちゃいましたかぁぁ!!?」
なんかすっげー怖いんですけどぉぉ!!そう言いながらもプリンを確り
握り締め、恐々と目の前の新八達を見詰める銀時。
だが、新八達はケロリとその視線を流す。
「別にどうもしませんよ?あ、今日のおかずは甘い卵焼きですよ。
それしかないですけど。」
「銀ちゃん、肩がイヤなら腰踏んでやるネ。
今日走り回ってないから、余力バリバリヨ!」
「ちょ、怖いっ!怖いから本当ぉぉぉぉぉ!!!!
神楽に関しちゃリアルに怖ぇぇぇぇぇっ!!!!」
だって仕方ないじゃん、ねぇ?
怯える銀時をよそに、新八と神楽は視線を交わすとにんまりと微笑んだ。
突然ですが、今日から銀さん愛護強化週間となりました。
*****************************
手違いで坂田に優しい話になりました(おいっ!)
パチンコ屋から出ると、そこは雨降りだった。
「なぁんて言ってる場合じゃねぇな、おい」
そう零し、銀時は入り口から少し外れた所に立って、空を見上げた。
落ちてくる雨の勢いと厚い雲で覆われた空に、これが一時的なモノで
ない事が判り、銀時は肩を落として頭を掻く。
別に傘を買ってもいいのだが、今までやっていたパチンコで
大損した身としては、それは控えたい所だ。
かと言って、濡れて帰るのも少し辛い・・・特に今の心境では。
「ったく、辛気臭ぇったらねぇなぁ」
さて、どうすっかなぁ。と、ぼんやりと雨の中を行き交う人達へと
視線を向けていると、見慣れた姿がその視界に入ってきた。
「何やってるネ、銀ちゃん」
どうやら目の前の少女は酢昆布の買出しに行っていたらしい。
クチャクチャと酢昆布を噛み締めながら、テクテクと銀時の元へと
やって来た。
「いや、ちょっと散歩に出たら雨に降られてよ。
もう帰るんだろ?序に入れてけよ」
「ちょっとパチンコに出たら、金をすられてよ
・・・の間違いネ、それ。
序にもう帰るけど、入れてくのは嫌アル」
片手を挙げ頼む銀時に、神楽は白けた目を向けてそう告げると、
そのまま一人で歩いていこうとし、銀時は慌てて腕を引いて引きとめた。
「ちょ、待てって!帰るトコが同じなんだからいいだろ!?
大体困ってる人が居たら助けてやんなさいって
何時も言ってるだろうがぁぁぁぁ!!」
「そのな言葉、初めて聞いたヨ。
それに銀ちゃんは困ってる人じゃなくて、困った人ネ」
「おぉぉぉぉい!何そのちょっと似てるけど
全く違う言葉ぁぁ!!
あぁもういいから入れろって!」
そう言うと銀時は強引に神楽の傘へと入り込んだ。
「ちょ、やめるネ。銀ちゃんが入ると狭いし咽返るネ!
それに雨に濡れるヨ、最悪ネ!!」
「咽返るって何にぃ!?
あ、いいから。別に言わなくてもいいから。
なんか既に胸がズキズキ痛み出してるから。
って言うかアレよ?雨に濡れても、そこはホレ。
水も滴るいい女ってヤツでよぉ」
「私は濡れてなくても十分いい女ネ。
銀ちゃんは濡れて少しは見える様にするヨロシ。
特にその天パ」
「何その一点集中豪雨ぅぅ!!?
いいからマジ入れろって、金すった上に濡れ鼠で帰ったら、
新八にものっそく怒られるから!!本当お願いしますっ!!」
段々と必死さが増してきた銀時に、神楽は溜息と共に肩を落とすと、
仕方ないネ・・・と、傘から追い出そうとしている手を緩めた。
それに銀時はホッと安心すると、神楽の代わりに傘を
持とうと手を伸ばした。
・・・が、何故か避けられてしまう。
「あ?なんだよ、折角銀さん自ら持ってやろうとしてんのに?
これ、アレよ?滅茶苦茶レアよ?
ってかオマエが持ってると頭がつくんだよ、おら、寄越せ」
「大丈夫ネ。私がきっちり持つから、少し屈むヨロシ」
「は?なんでよ。腰曲げて歩けってか?
ジジィの如く歩けってか!?
あのなぁ、何度も言うようだけど、これ銀髪だから。
白髪じゃねぇからな?」
「使い古された台詞言ってんじゃねぇよ。
いいから早く屈むヨロシ!」
ギロリと睨まれ、渋々腰を少し曲げる銀時。
それを見計らい、神楽はスッと背後に回ると、勢いよくその背中に
飛び乗った。
「ちょっ!何やってんだテメー!!」
慌てて銀時が姿勢を正すが、神楽は確りと銀時の首へと腕を回し、
きっちり負ぶわれる体勢を整えてしまう。
そして振り返る銀時にニシシと笑みを送ると、
「これで二人とも濡れないネ。
私、ごっさ頭いいヨ」
ほら銀ちゃん、遠慮せずに進むアル!との声と共に、さしていた傘を
高らかに上げた。
「あ~、はいはい。
ったく重てぇ傘だなぁ、おい」
銀時はその様子に諦めたように息を吐くと、神楽を抱え直し、
そのままゆっくりと歩き出した。
「・・・なんか足が微妙に冷たいんだけど。
あ~もう絶対濡れてると同時に泥がついてるよ、コレ。
せめて泥を落としてから来いってんだよ、ったく」
「はんっ。そこら辺の泥臭い小娘と一緒にしてんじゃないネ。
私のは態々水溜りばかりを歩いてきたにも関わらず
残った、根性ある泥ヨ」
「余計悪いじゃねぇかぁぁぁ!!!
ったく、テメーも一緒に謝れよ、新八に!」
「いやヨ、媚は売らない主義ネ・・・あっ、銀ちゃん!!」
些か変わった相合傘で歩いていると、突然神楽が前方を指差した。
それに釣られ銀時も視線を上げれば、前方に見慣れた姿が。
「・・・何やってんですか、あんた等」
足早に近寄ってきた新八に問い掛けられ、傘差して歩いてる。と
二人して素直に答えれば大きく溜息を吐かれた。
「で?新ちゃんはどったの?」
「・・・どっかの天気予報が大好きなマダオが、
雨降るって言ってんのにも関わらず傘を持ちなし
遊びに行ったみたいなんで、この雨の中
態々シバキに行く途中です。」
にっこりと笑い、さしている自分の傘とは別に持っていた
大き目の傘を掲げながら告げる新八に、ヒクリと銀時の頬が引き攣る。
「いやいや、多分アレだよ?
好きなのはあくまでお天気お姉さんであって、
別に予報が好きな訳ではないんじゃないかなぁ・・・
って、傘の先を目ん玉に合わせてんじゃねぇよ、
危ねぇだろうがコノヤロー!
本当すんませんでしたぁぁぁ!!!」
神楽を負ぶっている為両腕が使えない銀時が素直に謝り、
仕方なく傘を降ろす新八。
「全く、今度やったら刺すだけじゃなく抉りますよ?」
怖い事をさらりと宣言し、新八は銀時達の横に並ぶと、
少しだけ二人の方へと傘を傾けて、元来た道へと
足を踏み出した。
「いや、普通に怖いからね。
さっきの光景も目に焼きついてトラウマ寸前だからね、本当」
それに習うように銀時も歩き出す。
勿論神楽は背負ったままだ。
「大丈夫ネ、抉り出されればそんな光景も
見えなくなるヨ!」
そう言いながら、神楽はクルリと傘を回した。
「更に怖ぇ事言ってんじゃねぇよ!
夢に出そうだろうが!!」
「あ~もう銀さんも神楽ちゃんも!
少しは普通に歩いてくださいよ。傘さしてる意味、ないでしょ?」
しとしとと、未だ振り続ける雨の中。
不恰好な相合傘は、ゆったり、そして楽しげに家路へと進んでいった。
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変則相合傘。
昼食の後片付けも終わり、暫しの休憩タイム・・・と、新八は
お茶を淹れて居間へと足を向けた。
勿論、ソファに座り込んでテレビの番人と化している銀時の分も持って。
「はい、銀さんお茶です」
そう言って目の前のテーブルに置けば、 おぉ と言う不明瞭な
返事が返ってくる。
どうやら完全に意識がテレビに行っているらしい。
・・・平日の昼間、こんなに真剣に昼ドラを見る
三十路前ってどうなんだろう。
人として・・・と言うか、
社会人としてそれはアリなんだろうか。
・・・ないな、うん。
とりあえず平日の昼間っからって所で既にアウトだろう。
いや、パチンコに行ってないだけマシかな?
・・・うん、そう思おう。
じゃないとなんか泣けてくるから。
新八は一つ息を落とすと、銀時と向い合わせのソファに腰を降ろし、
お茶を一口飲んだ。
と、その先で銀時が微かに首を傾げているのが見えた。
「どうかしました?銀さん」
問い掛けてみるが、銀時は首を傾げたまま視線を宙へと浮かべたままだ。
なんか変なトコでもあったんだろうか。
って、まさか出涸らしにも程があるのに気付いた!?
でも仕方ないじゃん、お茶だって買わなきゃ手に入らないんですよ!?
「いや・・・なんかさぁ・・・」
そんな事を考えていると、銀時は顎に手を当て暫し何かを考えると、
チョイチョイと新八を手招きした。
「なんですか、もう」
新八は 仕方ないなぁ。 とばかりに首を竦めると、腰を上げて
テーブル越しに銀時へと近付いた。
その瞬間、銀時の手が伸ばされ、頭を掴まれるとグイッと力強く
引き寄せられる。
「ぅわっ!ちょ、何すんですかっ!!」
慌ててテーブルに手を着き、抗議するが銀時はそんなものお構いなし。
新八の頭に鼻を埋めると、クンクンと小さく鼻を鳴らした。
そして、小さい声で やっぱり・・・ と呟く声が聞こえてくる。
「はぁ?何がやっぱりなんですか・・・ってかこの体勢きついんですけど」
「何がじゃねぇよ。オマエ、何だコレ」
そう言うなり、頭を掴んでいた銀時の手が新八の頬へと移り、
強引に自分の視線と合うよう、上げられてしまう。
「いたっ!ちょ、本当何なんですか、アンタ!」
ギリギリと頬を掴んでくる手に、どうにか体勢を整えている手を
片方開けて掴み返すが、そんなものでどうにか出来るわけもなく。
せめてもの抗議・・・とばかりに睨むが、それ以上の強さで
睨み返されてしまい、新八は訝しげに眉を寄せた。
それに気付いたのか、銀時は一つ息を吐くと、力を込めていた手を
少しだけ緩めて一言、 髪の匂い。 と呟いた。
「・・・・・・・・・・は?」
「だからぁ!髪の匂いだよ、匂い!
何時ものと違うじゃねぇか!」
銀時の突拍子の無い言葉に、新八が思わず間抜けな声を返すと、
そのまま掴まれていた顔をガクガクと揺すられてしまう。
「なんだ?おい。自分だけアレか?
サラサラ艶々ヘアーでも目指そうってのか!?
そう言うのは銀さんにこそ
必要なもんだろうがぁぁ!!!」
その叫びと揺れる視界を前に、そう言えば・・・と新八は昨夜の事を
思い出した。
そう、基本新八は銀時達が使っているのと同じ、家計に優しい
シャンプーを使ってたりする。
・・・まぁそれが髪にまで優しいのかは知らないが。
けれど昨夜は何時も使ってるのが切れて、前に街で貰ってきた試供品を
使ってみたのだ。
ちょっと何時もと違い、手触りが良くなってたんだよね、アレ。
値段はちょっと今のよりも高くなるが、そんなに気にしているなら
今度からはアレにしてみようか。
脳まで揺すられているせいか、そんな常に無い事を考えていると
不意に銀時の手が止められた。
・・・のに、なんだか揺れているような視界の中、銀時が
立ち上がるのが見えた。
そして頬を掴んでいた手が離され、今度は手を掴まれてしまう。
「え?銀さん?」
「・・・洗ってやる」
「はぁ!?」
そのまま手を引っ張られて、新八は訳が判らないまま銀時の後を
追う事なった。
「ちょ、洗うって何をっ!?」
「オマエの髪に決まってんじゃねぇか」
そう言う銀時の足は、確かに風呂場へと向っていてますます訳が判らない。
と言うか、行動自体は判ったが、目の前の男の思考が判らない。
ってか、そんなに気に入らないのか、サラサラヘアーになるのがっ!
やっぱりさっきの計画はなしね、なしっ!
寧ろ僕だけ変えてやるっ!!
そんな事を思いながら、なんとか足を踏ん張って抵抗するが、銀時の足は
止まらない。
ズカズカと進んでいく背中に、新八が声の限り文句を言おうとしたその時、
「ったく、なんなんだよ、ソレ。全然坂田家の匂いじゃねぇじゃん。
坂田家はなぁ、みんな漏れなくやっすいシャンプーの匂いで
統一してんだってぇの。それ以外の匂いなんて絶対ぇ認めねぇ。
認めねぇぞコノヤロー」
と、ブツブツ文句を言い続ける銀時の声が耳に入り、
新八はポカンと口を開けただけとなった。
そして徐々に頬に熱が集まってくるのを新八は感じ、急いで下を向く。
・・・なんなんだ、この人。
恥ずかしいって言うか馬鹿って言うか。
これじゃあずっと同じのしか使えないじゃん、僕。
そんな事を思いながら、新八は未だブツブツと文句を言い続けている
背中に一つ、軽いパンチを送った。
**************************
坂田家のルール(笑)
その日、何時も騒がしいことこの上ない二階が、何時にも増して
騒がしかった。
「あいつ等・・・またやってるのかい」
お登勢は煮詰めていた鍋に蓋をし、タバコに火をつけながら
呆れた表情で頭上を見上げた。
それからほんの少しして、玄関の開く音と、
「なら言う通りにしてやりますよ、この腐れ天パーッ!!」
という少年の高い声と、これまた盛大に玄関を閉める音が聞こえてきた。
そして、少年の今の心境をそのまま現してるかのような階段を
降りてくる足音が聞こえ、お登勢は一つ溜息を零す。
が、次に聞こえてきたのは、控えめに店の扉を開ける音だ。
お登勢は長くなった灰を落としつつ、そちらへと視線を向けた。
「・・・少しは労わってくれるといいんだけどね、この家」
そう呟けば、すまなそうな顔をした少年が軽く頭を下げながら
店へと入ってくる。
それにお登勢は小さく肩を竦めると、鍋の火を少しだけ落とした。
「で?今日はどうしたんだい、新八」
お登勢の言葉に、店に入ってきた新八はカクリと頭と肩を落としたのだった。
店で出す料理の仕込みを手伝って貰いながら話を聞けば、
本当に相変わらずの内容だった。
ようは銀時がパチンコで大損した上、憂さ晴らしとばかりに糖分を摂取
してきたらしいのだ。
「そりゃ~万事屋の社長は銀さんですよ?稼いだお金をどう使おうと
勝手だと思いますよ?でもそんな風に使ってたら
生活が成り立たないじゃないですか!」
そう言いつつも、新八の手は休まらない。
丁寧且つ迅速に野菜を切り揃えていく。
・・・まぁ少しばかり力が入っているようだが。
お登勢はちらりと視線を頭上へと向けた。
あれだけ騒がしかったのが嘘のように、今はシーンと静まり返っている。
それはそうだ。原因の一人がここに居るのだから。
「あぁ、そりゃ新八が正しいね。幾ら宵越しの金を持たないって言うのでも
限度があるよ。って言うか社長だからこそダメだろう、そんな使い方。」
勢い良く切られていく野菜を眺めながらお登勢が同意すると、
ですよねっ! と新八が頷き、再びいい音を立てて包丁が野菜へと
叩きつけられた。
「それに糖分だって!アノ人、また医者に怒られたんですよ、この間。
なのに懲りもなくパフェだの何だの食べてきてっ!!」
ダンッ!ダンッ!!
・・・と、最早野菜と言うよりその下のまな板を切っているような
力で包丁を振り下ろす新八に、つい苦笑が漏れる。
偶にあるのだ、こう言う事が。
大抵銀時のせいで喧嘩が始まり、怒った新八が上を出て、
こっそりとお登勢の店へとやって来る。
その都度、お登勢は愚痴を聞いてやり、そのお礼か、新八が
店の事を手伝っていく。
・・・まぁストレス発散も含まれているのかもしれないが。
「こんだけ新八が心配してんのに・・・何様のつもりかねぇ、あいつは」
「お子様ですよ、そのまんま!
で、注意したら『俺の方針に文句があるヤツは出てけぇぇ!!』ですよ。
全く、人の心配をなんだと思ってんだ!!」
その言葉と共に、最後とばかりに包丁を降ろし、材料を全て
切り終えた新八は、それらを丁寧に鍋の中へと入れた。
どうやら怒ってはいても、身についた作業は完璧のようだ。
それ以降も、文句を言いつつも料理を淡々と進めていく新八に、
お登勢は時折相槌を入れて行き、気が済むまで付き合うのだった。
そうして料理が何品が出来上がった頃、再び頭上が騒がしくなった。
豪快に廊下を走る音がしたかと思うと、そのまま玄関の開く音が聞こえ、
次に勢い良く階段を降りてくる足音が聞こえる。
そして銀時の愛車である原付のエンジンの音が聞こえたかと思うと、
凄い速さでその音は遠ざかっていった。
「・・・行ったみたいだね」
そう呟いて時計に目をやれば、新八が来てから既に一時間弱。
・・・いや、まだ一時間弱・・・と言った所か。
「まぁ今日は持ったほうじゃないかい?」
笑って告げれば、先程まで怒っていた少年もクスリと笑う。
「ですかね?ってか銀さん、今鍵閉めて行かなかったですよね。」
全く無用心なんだから。新八はボヤキながらも着ていた割烹着を
脱ぎ、丁寧に畳んでいく。
そしてカウンターに置きながら自分自身もカウンターの外へと出ると、
お登勢に向けて軽く頭を下げた。
「何時もお邪魔しちゃってすみません」
「別にいいさ。こっちも手伝って貰えて助かってるしね。
ただ家はもう少し大事に扱っておくれ」
お登勢の言葉に乾いた笑いを浮かべると、じゃあお邪魔しました。
と言って再度頭を下げ、新八は店を後にしようとした。
それにお登勢が声を掛ける。
不思議顔で振り向く新八に、お登勢は緩く口元を上げると、
「手伝って貰ったお礼だよ。少し持っていきな」
そう言って先程まで作っていた料理を、皿へと取り分けて
新八へと差し出した。
「勿論、銀時には食べさすんじゃないよ?」
少しは反省させな。そう笑うお登勢に、新八も 当然です。 と笑って
返すと、お礼の言葉と共に皿を受け取り、今度こそ店の外へと
出て行った。
それを見送りながら、お登勢は新しいタバコに火をつける。
「・・・ま、そうは言っても食べさすんだろうけどね、きっと」
クスリと笑みを浮かべながら、お登勢は今頃街中を探し回っている
だろう銀髪の姿を思い浮かべた。
きっと落胆して帰ってくるものの、家に点いてる明かりを見て
再び階段を勢い良く上がっていくのだろう。
そしてまた、二階は騒がしさに包まれるのだ。
「近所迷惑にも程があるっていうのにねぇ」
全く、何度言っても聞きやしない。
紫煙と共に頭上に文句を吐き出すが、お登勢の声は
どこか嬉しげな音が滲んでいた。
***********************************
嫁、実家に帰る(←ちがっ!)
銀さんの好みは、家庭的で可愛くて、純粋でしっかりしてるけど鈍感で、
こんなマダオを甘やかしてくれるのに、男前な面も持ってたりする眼鏡な
16歳なんだけど、丁度いい人、知りませんか?
ちなみに銀さんは一人ぴったりな子、知ってるんだけど。
俺のその言葉に、新八は驚いたように目を丸くした。
そして次第に赤くなっていく頬。
・・・さすがに気がついただろう、これは。
じっと反応を見詰めていると、新八は頬の赤さもそのままに、
パクパクと口を開いた。
あ~、食いつきてぇ、その口。
って、待て待て自分。ちょっと落ち着け。
そうじゃないだろ、今は。
確かに食いつきてぇけど、今はちょっと待て。
これは・・・アレだろ?何か言いたいけど、言葉に出ないってヤツだろ?
いいよいいよ。出るまで待つから。
ってか悪い返事だったらそのまま引っ込んでて、マジで。
そう思うものの、この新八の反応から見れば、多分そんなに
悪い返事は返ってこないだろう。
だってさ、俺の言葉にこんなに顔真っ赤にして?
恥ずかしそうに目を潤ませて?
じっと俺を見詰めてきて?
・・・あ~、うん。待つよ、銀さん。
こう言うの、大事だもんな。
俺達の第一歩だもんな、うん。でもさ・・・
頑張れ、新八。本当、頑張れ。
オマエはやれば出来る子だ!
そして空気もばっちり読める子だ!!
だからさっさと返事して
色々させろよコンチキショー!!
何、その表情!
アレですか!これは拷問ですかコノヤロー。
ただでさえ返事にドキドキしまくってるってぇのに、
違う意味でもドッキドキだよ!
寧ろムラムラだよ!!
あ~、でも耐えなきゃなぁ。
そう、耐えるんだ、俺!
そうすれば新八から、きっと幸せな言葉がっ!!
色んな感情と銀時が戦っていると、漸く新八の口から小さな音が
零れ出てきた。
「え?何、新八」
しかし銀時の耳には届かず、もう一度言ってくれ・・・と促すと、
新八は恥ずかしそうに視線を反らし、先程よりも心持大きな声で
言葉を吐き出してきた。
「えっと・・・だからあの・・・大丈夫です。
そう言う特殊な趣味でも、僕引きませんから」
そう、何処か労わる様な笑顔と共に。
「・・・・・・・はい?」
思わず目を見開く銀時に、新八は慌てて言葉を続けた。
「あ、判ってます。人の趣味はそれぞれですもんね。
大丈夫ですよ。例え眼鏡萌えでロリコンに近い趣味でも!」
「あ・・・あの・・・新ちゃん?」
「いやでも意外と言うか、さすが銀さんと言うべきか・・・
ドSってだけでも人に言うのに勇気が居ると思うのに、
それに加えて眼鏡だのドジッ子だの・・・
あ、でも今は僕だけだからいいですけど、神楽ちゃんの前では
止めて下さいね?その特殊嗜好を披露するの」
切々と言い募る新八に、銀時は何も言えなくなる。
どうやら顔を赤らめていたのは、銀時の性的嗜好が恥ずかしかった
だけらしい。
あ~・・・なんかさ、うん。
なんかもう・・・いっか、コレ。
未だ何か言っている新八に、銀時は大きく息を吐くと掴んでいた手を
引っ張り、ゴロリとその場に引き倒した。
そして驚く新八を余所に、伸し掛かるように覆いかぶさった。
「え?どうかしたんですか、銀さん」
「いやどうも何もさぁ・・・とりあえずアレだ。
やっぱ男なら行動あるのみだな、うん」
「は?いや、意味全然判んないんですけど。
ってか近い!近いですって顔!!」
「近づけてんだから当たり前だろうが。
ってか鈍感にも程があるってもんですよ
コノヤロー!!!!!」
・・・その行動の結果、漸く気持ちを判ってもらえた俺は、
新八から望んでいた言葉を貰う事が出来ました。
多くの青痣と共に。
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その上未遂(笑)
M様、こんな押し倒され方もアリでいいですか?(最悪だぁぁ!!!!)