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久しぶりに気持ちよく晴れた日の事。
買い物から帰って来た新八は、何故かずぶ濡れだった。
「・・・どったの、それ」
「歩いていたら、とある家で花に遣っていた筈の水が
何故かこちらにいらっしゃいましたので」
無表情でそう告げる新八に、俺は あ~。と唸る。
成る程、ドッカの馬鹿が庭の花に水遣るつもりが、
万事屋・・・ってか銀さんのお花ちゃんに水遣っちゃったのね。
おいおい、間違えるのは無理もねぇけど、やめてくんない?
新八を濡らしていいのは、銀さんだけだか・・・
ソコまで心の中で呟いた所で、突然目の前に拳が唸りながら
迫ってきた。
「ちょ!行き成り何すんだコノヤロー!!」
「いや、なんかイラッと来たんで、つい。」
「・・・・あ、そう」
ちなみに迫ってきた拳はナイスコントロールで俺の頬に命中。
ジンジンする頬を摩りながらそう訴えると、酷くシレッとした
表情でそう返された。
・・・うん、以心伝心も良し悪しだね、コレ。
肩を竦め、ソファの上で小さくなっていると、
ちょっと着替えてきます。と言いながら、新八が和室へと
姿を消した。
ちなみに襖はピシリと閉められる。
・・・なんだかなぁ、男同士なんだからそんなに意識
しなくてもいいのによぉ。
少しぐらいサービスしろや、コラァァ!!
ブツブツ文句を言いながらも、
とりあえず開けると怖いので、透視出来ないか試みる。
ホラ、銀さんやれば出来る子だから。
透視の一つや二つ、出来ると思うんだよね。
あ、違うよ?別に着替えを覗きたいとかそんなんじゃないから。
単なる知的好奇心ってやつ?
なんかさ~、不意に思い出しちゃったんだよね、
そう言う超能力っぽいもの?
やっぱさ、心は何時でも少年じゃん?
で、少年としては、超能力とかって滅茶苦茶興味あんじゃん?
必死になればあんな襖ぐらい、訳なさそうじゃん?
だからやってるだけだから。
全然下心なんてないから。
至って純粋な動機だから、コレェェ!!
だから今、
この瞬間、目覚めろ!
俺の何かぁぁぁ!!!
「銀ちゃん、キモイアル」
物凄く集中して襖を見ていると、聞き慣れた声と共に
脳天に衝撃がやって来た。
「っておぉぉおい!!行き成り何しやがる、神楽!!
ってか帰宅早々何、その言葉ぁぁぁ!!!」
挨拶ぐらいちゃんとしやがれっ!衝撃を受けた頭に手を当てながら
振り返れば、案の定神楽が手刀の形でこちらを見ていた。
「ちゃんと挨拶したヨ」
「どんな状況下で挨拶すりゃあ
そんな言葉になんだよ!」
「どんなって・・・こんな?」
そう言って神楽は俺を指差し、大きく円を描いた。
え?何この鬼っ子。
「そんな事より新八はどこネ」
俺の心境を丸っきり無視し、神楽はぐるりと室内を見回した。
俺は大きく肩を落とすと、ダラリとソファに身を預ける。
「和室だよ。」
なんだか身も心もズタボロだ。
何か言う力も沸かずそう答えると、神楽は そうカ。 と答え、
そのまま和室へと突き進んだ。
そしてそのまま襖へと手を伸ばす。・・・ってヤベッ!
あいつ、まだ着替えてんじゃね!?
神楽を止めるべく、声を掛けようとするが、時既に遅し。
「新八ぃ、お腹減ったネ」
と言う言葉と共に、勢い良く襖が開けられてしまった。
あっ!と思う間もなく、ましてや頭を起こす間もなく、
開けられた襖は神楽を招きいれ、再びきっちり閉められてしまった。
「ぅわっ!ちょ、神楽ちゃん!?」
その襖の向こうから、新八の幾分焦った声が聞こえてくる。
あ~、そりゃそうだよな。
幾ら洗濯物全部任せられてても、流石に直で見られるのは
恥ずかしいやな。
不憫に思いながらも、少しだけ安心する。
うんうん、これが正しい思春期だよ。
着替えてる所に、不意に入ってくる人物。
小さく声をあげ、慌てて背を向ける新八。
俺は慌てて謝罪し身を返すと、
「・・・ううん、いいんです。・・・銀さんなら・・・」
と言う恥ずかしさからか、小さな呟きが聞こえ・・・
って、アレ?ちょっと待て、俺。
銀さん、ここに居んじゃん?
中に居んの、銀さんじゃなくて神楽じゃん?
正しくねぇ、全然正しくねぇよ、ソレェェ!!!
ハッと我に返り、慌てて和室に行こうとソファから腰を上げた所で、
それまでキッチリ閉められていた襖が、音を立てて開けられた。
ソコに居るのは、着替え終わった新八と神楽だ。
呆然と見ていると、目の前の二人は普通に会話をしながら
和室から出てきた。
「全く、帰ってきたら直ぐに手洗いうかいでしょ!」
言い聞かせるように神楽に告げる新八。
・・・や、そうじゃねぇだろ。
その前に言い聞かせる事あるよね?
手洗いうがいより大切な事だよね、それぇぇ!!
「あ~あ~、口煩い眼鏡ネ。そんなんだから貧弱なままアルヨ」
ケッと鼻を鳴らし、口答えする神楽。
や、違うからね。
全然口煩くないからね、それっ!!
ってか貧弱ってなに!?
がっつり観察済みですかコノヤロー!!
「貧弱関係ないだろ!・・・て銀さん、何してんですか?」
言い合う内に俺の格好に気付いたのだろう。
新八が不思議そうにそう聞いてきた。
や、それ銀さんの台詞ですから。
本当何してんの!?お前らぁぁぁ!!
思春期は何処に
落としてきちゃいましたぁぁ!!?
「ほっとくネ、新八。思春期オヤジは色々大変ネ」
「あ~、成る程ね~」
肩を竦め、ヤレヤレと言った風に語る神楽に、何故か納得する新八。
どうやら思春期であったのは俺の方だったらしい。
とりあえず俺は、上げた腰をそのままに、二人が出てきた
和室へと向い、隅っこで丸まってみた。
・・・やべ、ちょっと安らぐ。
*****************************************
坂田家で一番思春期なのは坂田(笑)
くるくると思ってたら、とうとう来たらしい。
突然の激しい雨音と、新八の残念そうな声が聞こえてきた。
「何?雨?」
目隠し代わりにしていたジャ○プを上に上げ、ちらりと見れば
新八が窓の外を眺め、
「えぇ、それも結構な激しさで・・・」
神楽ちゃん、大丈夫かな?と心配げに呟いた。
それを聞き、昼ごはんを食べた後、新八の言葉も聞かずに
弾丸のように飛び出していった少女の事を思い出す。
・・・確か曇ってたから、傘持って行かなかったんだよな、あいつ。
夜兎族としては納得できる行動だが、普通は反対だ。
見れば置いてかれた定春も、幾分心配そうに外へと視線を
向けている。
「大丈夫だろ。アイツだって雨宿りする知恵ぐらいあらぁな」
「アンタ、それ聞かれたら問答無用でぶん殴られますよ?」
早めにお風呂入れちゃいますから、後頼みますね。
そう言うと新八は風呂場へと足を向け、そのまま外へと出て行った。
多分迎えに行ったのだろう。
「全く・・・心配性なかぁちゃんだねぇ」
とりあえず言われた事をする為、渋々体を起こす。
そしてお湯の加減を見る為、風呂場へと行こうとし、少し考えて
箪笥からバスタオルを数枚、玄関へと持っていった。
・・・いや、銀さんのは心配とかじゃなくて
気遣いだからね。
「ただいまヨ~」
「ちょ!神楽ちゃん、そのまま上がらないで!!」
雨音の激しさが収まらないまま、それ以上の激しさで万事屋の
玄関が開けられた。
どうやらきちんと弾丸少女を見つけられたらしい。
「はい、これで拭いて!お風呂出来てる筈だからそのまま入っちゃって」
「はいヨ~」
そのまま居間へは来ず、風呂場へと走っていく音が聞こえる。
それから少しして、バスタオルを持った新八が
居間へとやって来た。
「おぅ、ご苦労さん」
「はい。銀さんも有難うございます」
そう言って微かにバスタオルを上げられ、俺は寝たまま軽く手を振る。
「ってかアイツ、やっぱ濡れてたのか」
「えぇ、しかも雨宿りもせずヒョコヒョコ歩いてましたよ」
大きく息を吐き、新八は肩を落とした。
せめて走ってくるぐらいの事はして欲しかった。と苦笑するが、
神楽の気持ちも判るのだろう。そんなに怒っておらず、
寧ろ心配げだ。
「風邪、引かなきゃ良いんですけど・・・」
「そんなチャレンジャーな菌はいねぇだろうさ」
そう告げた時、風呂場から大きな声が発せられた。
「新八ぃ、着替えよろしくネ」
「あ~、はいはい。今持ってくから」
新八は返事を返すとバスタオルを抱えたまま箪笥へと行き、
神楽の着替えを持つと風呂場へと行ってしまった。
あ~、本当。甲斐甲斐しいったらないね。
・・・・ってアレ?なんか変じゃね?
いやいや、幾ら家族っぽいって言ってもさ?
幾ら脱衣所と風呂場が仕切られてるって言ってもさ?
お前ら、思春期じゃね?
ぼんやりと新八を見送ってしまった後、不意に沸いた疑問に
グルグル頭を回していると、遠くの方で
「着替えここに置いとくからね。ちゃんと暖まるんだよ~」
という声が聞こえた。そして、
「判ってるネ。あ、序に一緒に入るカ?新八も濡れたアル。
迎えに来てくれた礼に、特別に許してやるネ」
と言う呑気な神楽の声も・・・っておい!
何ソレ、どんなギャルゲー的フラグゥゥゥ!!?
ちょ、待て神楽。オマエはそんなキャラじゃねぇだろうが。
違うから。お前はそう言っていいキャラじゃねぇから!
そう言う台詞は銀さんに任せときなさいぃぃ!!!
思わず体を起こし、いざとなったら乱入してでも
止めてやろうと決意していると、
「え~、やだよ。狭いし神楽ちゃん暴れそうだし」
・・・と言うこれまた呑気な新八の返事。
って新ちゃんも違うよね、その答え。
ここは普通恥ずかしがってドモリながらも
神楽の発言を窘める所でしょぉぉぉぉ!!?
で、頬染めながらこっちに帰って来て、俺にブチブチ文句を
言いながらも
「でも・・・銀さんとなら一緒でもいいかも・・・」
とか言ってますます顔を赤らめる場面だよねぇ!?
あ、いやこれ妄想じゃないから。
前に見た予知夢的ものだから、本当。
そんな事を思っていると、普通の顔をした新八が
居間へと帰って来た。
恥ずかしがっても、照れてもいない。
・・・なんかやっぱ違うな、コレ。
俺は一つ息を吸うと、新八へと声を掛けた。
「ん?なんですか?」
「や、なんですかって、おま・・・今の会話、何?」
そう言うと新八は不思議そうに首を傾げた。
「会話って、風呂が狭いってやつですか?」
本当なんだから仕方ないじゃないですか。文句を言われたと
思ったのだろう、新八は少し口を尖らせてそう答えた。
いやいや、そうじゃなくてね。
「新八のキャラで言うと、ああいう時って恥ずかしがらね?」
湾曲に言っても伝わらないだろう・・・と、直球で聞くと、
新八は あぁ と軽く頷いた。
「アンタがどんなキャラ設定で僕を見てるか知りませんが、
神楽ちゃんの洗濯物、誰が洗ってると思ってるんですか?」
パンツも漏れなく洗ってんですよ、僕。そう冷静に告げ、新八は
そのまま和室へと戻っていった。
・・・へ~、洗ってんだ、新ちゃん。
で、洗わしてんだ、神楽は。
・・・ね、君達思春期だよね?
花も恥らうお年頃ってやつだよね?
男の子と女の子だよね?一応ぉぉぉ!!
いや、安心したよ?銀さんめっちゃ安心した!
・・・でも・・・あれぇぇ!!??
風呂場から聞こえる神楽の鼻歌と、和室から聞こえる新八の鼻歌を
聞きながら、とりあえず思春期って何だっけ?と
一生懸命考えてみた。
・・・多分俺の知ってる思春期と、
ヤツラの過ごしている思春期は性質が全く違うと思う。
って言うか、まだ思春期とかに入ってないんじゃね?
とりあえずそういう考えに落ち着いた。
けれど、俺が一度冷静になろうと洗面台に顔を洗いに行った時、
神楽と新八から非常に鋭い軽蔑的視線を送られたのは何故なのか、
誰か説明してください。
************************************
蒼さんとの考察の結果、こうなりました(笑)
新ちゃんも神楽も、お互いは別に大丈夫でも
坂田は別(大笑)
「何かいい事でもありました?」
天気も良いし・・・と、歩きで来た買い物の帰り、
不意に新八がそう聞いてきた。
「なんだ?突然」
「いや、だってなんか機嫌良さそうなんで」
そう言い、新八は自分の口元を買い物袋を持っていない方の手で
指差した。
それにつられ、俺も空いてる方の手で自分の口元を指差す。
新八はそれを見て小さく頷くと、
「緩んでますよ、さっきからずっと」
そう言ってやんわりと笑った。
マジでか!?
しかし、こんな道端じゃ確認する事も出来ない。
俺はそのまま頬を掻くと、
「ま、アレだよ新八君。キミの愛が銀さんの身も心も
蕩けかしているというかだねぇ」
と、甘い息(イチゴ牛乳臭)と共に甘い言葉を吐き出してみた。
「あぁ、糖分で出来てますもんね、銀さん。
だから溶けちゃったのかぁ、脳から何もかも」
「え?なんで脳から??
ってか銀さんは糖分で出来てないから!寧ろ今は
愛の塊だから、銀さん!!」
「まぁ今日は少し暖かいですもんね~。
綿菓子も溶けちゃいますよね、これじゃあ」
「スルー!!?ってか頭か!
頭の事指してんのか、それはぁぁぁ!!!
いやいや、それよりも新ちゃん。人の話はまだしも、銀さんの話は
一語一句漏らさず聞いていこうや、おい。
今かなりいい事言ったよ?銀さん!
愛と言うものを囁いちゃいましたよ?
ちなみに銀さんは新八の言葉は大事に聞き留めて反芻する勢いです!」
「その勢いのまま散り急いで下さい、銀さん」
にっこりと可愛らしい笑顔でそんな事を言ってくる新八から、
そっと目を逸らす。
そして目を瞑り、暫し行動停止。
「・・・・よし、翻訳すると
『今夜は限界まで頑張りましょうね』だな。」
「どんな言語による翻訳だよ、それ。」
どうやら俺の素晴らしい翻訳に本心を暴かれ、
照れてしまったらしい。
新八から照れを隠した絶対零度的な視線が送られてくる。
ツンデレって可愛いなぁ、おい。
一人満足げに頷いていると、新八がさっさと歩いていってしまう。
どうも相当恥ずかしかったらしい。
あ、銀さんが・・・じゃないからね。
俺自体が恥ずかしいものだったわけじゃないから、きっと。
で、置いて行かれないよう、俺も足早に追いついて、隣を歩く。
あぁもう顔を真っ赤にしちゃって、まぁ。
これはアレだから。怒ってるとかじゃ全然ないから。
照れちゃってるだけだから、多分きっと。
近付くと余計に新八の足が速くなった。
それに負けずに俺も付いて行く。
サカサカ スタスタ。
何だか急に始まった追いかけっこに、仕舞いには二人で走り出していた。
勿論、俺としては新八に付いて行くのなんか簡単な事で。
捕まえて止めるなんて事も簡単に出来てしまうけれど、
何だか妙に一生懸命な顔で走る新八が可愛くて、
つい適度な間隔を持ったまま付いて行ってしまった。
や、ストーカーとかじゃ全然ないから。
びっくりした顔でこちらを向く見慣れた顔ぶれを追い越し、
歩き慣れた道を走り、
音も気にせずに駆け上れば、そこはゴールの万事屋だ。
二人して駆け込み、扉を閉めた所で立ち止まって息を整える。
「な、なんでこんな・・・事に・・・」
肩で息をしながら、そうぼやく新八に俺も頷く。
そして二人で顔を見合わせ、零れだす笑い。
「オマエが走り出すからだろうが」
「銀さんが追い掛けて来るからでしょう?」
「だって逃げんだもんよ、オマエ」
「変態に追っかけられたら全力で逃げろ、と姐上に教え込まれているもので」
そう言ってクスクスと笑う新八のオデコに、コノヤローとばかりに
少しだけ汗ばんだ額を軽く打ち付ける。
そのままグリグリと押せば、痛い痛いと新八が訴え、また逃げようと
するので買い物袋を置き、序に新八の手からも買い物袋を奪って
下に置き、ぎゅっと両手を握り締めた。
「変態じゃねぇよ、銀さんだろうが、オマエの」
「僕のかどうかは知りませんが、何気に=で結ばれてましたよ、
さっきの銀さん」
押すのをやめたせいか、それとも手を握ったせいか。
額を合わせたまま力を抜く新八に、俺にも笑みが戻る。
「あ~、じゃあそれでいいわ、もう。
オマエに関しちゃ間違ってねぇし」
変態銀さん、上等ですぅ。そう言うと新八は一瞬目を見開き、
次に困ったように眉を下げて笑みを浮かべた。
「本当、どうしちゃったんですか?
そんなにいい事があったんですか?」
あったよ、いい事。
口には出さず、ただニンマリと笑みを浮かべて、俺は先程の事を
思い浮かべる。
それは単なる買出しの風景。
何時もと変わらない風景。
だけどさ、新八。オマエ、無意識にだったかもしれねぇけどよ?
魚屋のオヤジに薦められた、特売品の四匹で一パックになってる魚。
「ウチ、家族三人なんで三匹でいいんですけど・・・」
それを聞いてさ、俺がどんなにこっ恥ずかしくて幸せだったか
判るか?
きっとそれを言ったら、ウチは三人なんだから三匹でいいでしょ?なんて
言うんだろうけどさ。
・・・そこがさ、本当にさ、もうさ。
「大好きすぎるよ、新ちゃん」
せめてこの感じた恥ずかしさの一割でも。
せめてこの味わった幸せの大部分を。
目の前の新八にも伝染してくれる事を祈って、
俺はやっぱり可愛らしい新八の鼻先に、ちゅっと可愛い音を立てて
口付けを送った。
***************
新ちゃんの言動に翻弄される坂田。
朝食を食べ終わり、のんびりとテレビを眺めていると、万事屋の電話が
久しぶりに鳴り響いた。
・・・が、生憎何時もそれを取る新八は、現在朝食の後片付け中。
「ちょっと~、誰か出て下さいよ~」
台所からそんな声が聞こえ、俺はダルそうに背凭れから体を離すと、
ソファで定春を撫でている神楽へと声を掛けた。
「うぉおおい、ちょっと出ろや、神楽」
「いやネ、私今忙しいヨ」
銀ちゃんが出るヨロシ。そう言ってギロリと睨まれる。
・・・あれ?俺、ここの社長だよね?一応。
しかも坂田家的には大黒柱だよね?一応。
なので、ここで負けてはならん・・・と、再び神楽に命ずる。
うん、別に面倒臭いとかじゃないから。
威厳を保ちたいだけだから、銀さん。
だが、相手もさるモノ、中々頷きゃしねぇ。
なんだ?反抗期かぁ?
無闇に逆らいたいお年頃ですか?オメーは。
言っとくけど銀さん、そんなお年頃でも容赦しないから。
無闇に逆らってくるのはこの髪だけで十分なんじゃぁぁ!!!
と、二人して睨みあい、そのまま
「オメーが出ろ」「いやネ、銀ちゃん出るヨロシ」と、無駄な戦いを
繰り広げていたら、騒がしく鳴っていた電話が
プツリと切れた。
どうやら自ら諦めてくれたらしい。
何だよ、一人でトイレに入ってる時ばっか狙って鳴りやがるから
とんでもなく空気読めねぇやつだと思っていたが・・・中々どうして。
案外空気読めるじゃねぇか。
あ~これで静かにテレビが見える・・・と思ってたら、
行き成り脳天に衝撃が来た。
見ればそこには恐ろしげな笑みを浮かべた新八が・・・
「あんた等は・・・電話の一つもまともに取れないんですか!!」
仕事の依頼だったらどうするんです!と怒る新八。
俺はチョップを食らった頭を摩りつつ、
「んだよ、まだそんな夢見てんの?」
いい加減現実見ろよ。と諭すように告げたら、今度は額に横から
チョップを食らった。
ちょ!地味にマジで痛いんですけどぉぉぉ!!!!
「人中じゃなかっただけ良かったと思ってください」
ちょっと涙目になりながらそう訴えると、酷く冷めた視線でそう返された。
・・・あれ?愛は何処に行ったのかな?
なんか一μも見えないんですけど・・・あれ?
俺、目が悪くなったかな?
そう思ってると、新八はくるりと俺に背を向け、今度は神楽へと
声を掛けた。
「神楽ちゃんも。・・・居るんだから電話、取ってみてよ。ね?」
腰に手を当ててるものの、声は明らかに優しげだし最後の方なんて
お願いでもするように、首をコテリと傾けていた新八。
あぁ、なんだ・・・あったよ、愛。アソコに。
ってアソコに合ってどうすんだよ。
文句を言おうと俺が口を開く前に、神楽がソファから勢い良く立ち上がった。
「いやネ!私、絶対取らないヨ!!」
そう言うと、定春の名を呼び、そのまま外へと出て行ってしまう。
ったく、仕方ねぇなぁ、反抗期ってやつぁよぉ。
呆れ半分でそれを見送り、背凭れへと体を預けると、
新八が肩を落としているのが目に入った。
「気にすんな、ありゃ~単なる反抗期だ」
そう声を掛けると、困ったような表情の新八が振りかえった。
「違いますよ。・・・神楽ちゃん、電話に慣れてないみたいで」
「あぁ?なんだそりゃ。あいつんトコだって電話ぐらいあっただろうに」
新八の言葉に眉を顰め、そう言うと更に困ったような顔をされた。
「あったにはあったみたいですけど・・・出た事はなかったみたいで・・・」
そう言われ、漸く俺も合点がいった。
確かにあのオヤジが電話なんぞを小まめにする訳がない。
一人で母親を看病してたって言うんだ、他にかけてくるヤツも
いなかっただろう。
まして・・・
「掛けた事も、殆どなかったみたいですし・・・」
・・・だろうな。
鳴る事がないなら、鳴らす事もなかっただろう。
どうしようもない時、受話器を取っても掛ける所がなく
無機質な音しか耳に入ってこないってのは、どんな気持ちだろう。
なんだかイヤな気分になり、それを振り払うように俺は盛大に
頭を掻いた。
そんな俺を見て、新八がクスリと苦笑する。
「ま、今はそんな事ないですけどね。ここだって偶にだけど
電話鳴りますし、かける所だって、もうあるんだから・・・」
早く慣れて貰わなきゃ。新八はそう呟くと、再び神楽が出て行った玄関の方に
視線を向け、やんわりと微笑んだ。
その夜、新八が帰り、俺が風呂に入っていると、不意に電話が鳴った。
が、相変わらず神楽は出ようとしないようで、延々と鳴り続けている。
・・・ま、その内切れるだろう。
俺も態々風呂から出て出るのはイヤなので、そのまま放置しておく事に決める。
だが、何か余程の用事なのか、どれだけ経っても電話が鳴り止む事はなく、
とうとう風呂の向こうに神楽がやって来て
「どうにかするヨロシ!!」
煩くてテレビの音が聞こえないネ。と文句を言ってきた。
ったく、仕方ねぇなぁ。
俺は風呂から上がり、軽く拭いて腰にタオルを巻くと、未だ鳴り続けている
電話へと向った。
「はいはいうっせぇなぁ、万事屋だコンチキショー。」
『・・・なんなんですか、その受け取り方』
文句を言ってやろうとしたが、受話器から流れてきたのは先程まで
ここに居た新八の声で、俺は一瞬言葉が詰まる。
『銀さん、今お風呂入ってたんでしょ?風邪引かれたら困るんで
さっさと戻ってください』
「え?新八?っつうかなんで銀さんが風呂入ってたの知ってんの?
もしかしてストーカ・・・」
『自分の血で満たされたお風呂に入りたいですか?
いいからとっとと戻って!・・・っとその前に神楽ちゃんに
変わってください』
新八の言葉に、半裸からではない悪寒を感じながら振り返ると、
聞き慣れた名前を耳にしたからか、神楽がこちらを見ていた。
それに 変われってよ。 と受話器を差し出すが、
神楽は困ったように身を引いてしまう。
俺は半ば無理矢理神楽の手を取ると、そのまま引き寄せて
受話器を掴ませた。
「新八からだ、用件聞いとけ」
判ったな。そう言うと、未だ受話器を耳に当てようとしない神楽を
残し、風呂場へと戻った。
そして冷え切った体を浴槽に沈めながら、先程の電話の事を
思い浮かべる。
考えてみれば、こんな夜に新八から電話があるのは珍しい。
何かあったのだろうか・・・だが、声は普通だった気がする。
一通り考えてみたが何も浮かばず、俺はある程度体を
温まらせると、風呂から上がった。
「神楽ぁ、新八、なんだって?」
タオルで頭を拭きながら居間へと戻ると、既に電話は終わったのか
ソファに神楽が座っていた。
・・・と言うか、あの後ちゃんと出たのか?
少し心配して問い掛けると、神楽は頭だけをこちらに向け、
「別に。何か元栓がどうとか言ってたネ」
と、少しだけムッとした表情で答えてきた。
「元栓?」
不思議に思いながらも、とりあえず台所へと行って見る。
が、元栓はきちんと締められている。
「全く、締めたかどうか判らないなんて、ダメガネもいいとこネ」
ブチブチと文句を言う神楽の声が聞こえ、俺は
新八にしては珍しい事もあるもんだ・・・とだけ思い、
その場を後にした。
が、次の日の夜も電話は掛かってきた。
今度もやっぱり俺が風呂に入っている時だ。
昨日と同じように鳴り続ける電話に、俺も同じように観念し、
風呂から出る。
かけてきた人物は、やはり新八だ。
俺にさっさと風呂に戻り、神楽に変われと言うのでそう告げる。
神楽は俺に無理矢理受話器を渡され、渋々出る。
そんな事が何日か続いた。
用件は様々だが、それ以外は何も変わらない。
最初は神楽と一緒に文句を言っていた俺だったが、
流石に新八が何をしたいか判り、密かに協力する事にした。
様は慣れればいいのだ、こんなもの。
そんなある日、やっぱり掛かってきた電話に俺が出て、
神楽に変わろうとすると、初めて自ら受話器を受け取った。
なんだよ、おい。
毎晩こんな格好で廊下を行き来した甲斐があったんじゃねぇの?
少しだけ照れ臭そうに受話器を耳に当てる神楽に、
思わず口元が緩んだのが自分でも判った。
『本当ですか?良かった~』
その日の夜、神楽が眠ったのを確認してから、俺は新八の所へ
電話を掛けた。
その時の様子を話せば、受話器の向こうからは嬉しげな新八の声が
聞こえてくる。
きっと声と同じように、嬉しそうに笑っているんだろう。
本当ならその顔、直に見たかったけどな。
今の俺の顔は恥ずかしくて見せられないから、やっぱり電話でよかった。
だって多分、俺の顔もユルユルに緩んでる。
次の日、もうすぐ昼になろうという時に電話が鳴った。
勿論新八が居るので、俺も神楽も出ない。
だが、新八は少しだけ電話の相手と受け答えをすると、
不意に神楽の名前を呼んだ。
「神楽ちゃ~ん、お登勢さんから電話~」
その言葉に、神楽がびっくりした表情で体を竦めた。
新八からの電話には慣れ始めたが、他のヤツからの電話にはまだ慣れない様で、
呼ばれても中々出ようとしない。
ってか直ぐ下に居るのに、なんで態々電話?
訝しげに見詰めていると、なんとか受話器を取らせた新八がこちらを
向いて小さな笑みを浮かべてきた。
・・・あ、成る程ね。ババァも仲間か。
日頃とは比べ物にならないくらいの小さな声で答える神楽から目を離し、
俺はそれまで見ていたジャ○プへと視線を落とした。
笑ってるように見えるのはアレだ。
ジャン○プが面白いからだから勘違いしないように、新八クン。
それからと言うもの、万事屋の電話は大忙しだ。
夜も昼も、一度は鳴る。
それは下のババァからだったり、お妙からだったり、様々だ。
ただ、沖田君から来た時は、俺も神楽もびっくりだ。
新八は笑ってたけどな、アレは心臓に悪いから。
電話にも悪いから。
思わずその短い生涯を
終えそうになってたからな、電話。
で・・・だ。
今、俺は外に居るわけだ。
珍しくあった仕事の帰りなんだが、その帰りに買い物をしてきて
くれと新八に言われたりしたのだ。
断ろうとしたが、にっこり微笑まれちゃ~仕方がない。
決してその時握られてた拳が怖かった訳じゃない、うん。
けれど、とりあえず買ったはいいのだが、
重さ的にはなんでもない量だが、嵩張るものばかりで
ちょっと一人で持つのは辛いような気もする訳だ。
で・・・目の前には偶然にも公衆電話がある訳で。
新八からも、キツかったら電話をしてくれと言われてる訳で。
手元には買い物袋の他に、偶々お釣りで買った酢昆布があったりしてだな。
俺は一つ息を吸うと、目の前の公衆電話へと手を伸ばした。
仕方ないよコレは。
だって銀さん、仕事してきて疲れてるし。
多分この時間帯は新八、夕飯の準備で忙しいし。
だから・・・
「あ、新八?銀さんだけど神楽いるか?」
うん、仕方ない。
そう自分にいい聞かせていると、受話器の向こうから聞きなれた、
けれど何時もとは少し違う声が聞こえてきた。
うん、まぁアレだ。
とりあえず俺を物珍しそうに指差すのは止めようか、そこの少年。
*********************
グラさんが普通に電話を取って詐欺に合ってましたが、
それはそれ・・・と言う事で(おいι)
少し前までそんなに寒くはなかった。
だから油断していたんだ、色々と。
僕は洗濯物を取り込みながら、前よりも高くなった空を見上げた。
「新八~」
洗濯物を抱え干し場から帰ってくると、居間から銀さんに名前を
呼ばれた。
そのままヒョコリと顔を出すと、ソファの上で体育座りを
しているいい大人が居た。
「・・・何やってんですか、アンタ」
呆れた声でそう返し、和室へと洗濯物を次に炬燵布団を寄せる。
・・・が、まだ生乾きだ。
これは明日もう一回干さないとダメだな。
軽く肩を落とすと、また僕を呼ぶ銀さんの声が聞こえた。
「なんなんですか、もう!」
僕は立ち上がるとドカドカと居間へと向った。
すると先程の格好のまま、目の前に立った僕を見上げ、銀さんが
どう?と問い掛けてきた。
何がどうなのか判らず首を傾げると、銀さんは視線を和室へと
飛ばし もう出せるか? と聞いてきたので、漸く質問の意味を
理解出来た。
「まだダメですね。明日もう一回干さなきゃ」
そう答えると、銀さんは大袈裟なぐらい肩を落とした。
「あ~、もうマジかよ。」
嘆く銀さんに、僕は苦笑を浮かべる。
そう、まだ大丈夫だと思って、炬燵の準備を全くしていなかったのだ。
「仕方ないですよ。まさか急にこんなに寒くなるとは
思ってませんでしたもん」
「ってかよ、別に洗わなくても良かったんじゃね?」
そのまま使えばよぉ。じとりと見詰めてくる銀さんに、僕は
腰に手を当て、ギロリと睨み返す。
「ダメですよ!ずっと仕舞ってあったんですからね?
きちんと洗わなきゃダメです」
虫とかいたらどうすんですか!そう言うと銀さんはスゴスゴと首を縮めた。
以前、まだ僕が万事屋に来たばかりの頃、それまで万年床だった
銀さんの布団を上げようとして、その下にあった惨状は
未だ記憶の中から消えようとしてくれない。
・・・うん、あれは凄かった。
思わず思い出してしまい、ブルリと体を震わせる。
するとそれを見ていた銀さんが、何を思ったのかチョイチョイと
僕を手招きしてきた。
なんだろう・・・と近寄ると、不意に手を引っ張られ、そのまま
僕は銀さんの膝の上に・・・
「ちょ、何すんですか!」
「うんうん、だよなぁ。新八も寒いよなぁ」
慌ててその場から立ち上がろうとする僕を無視して、銀さんは更に
僕の背中に手を回すと、そのままぎゅっと抱き締めて肩口へと
顔を埋めてしまった。
「あ~、あったけぇ~」
猫だったらきっと喉を鳴らしているだろう。そんな雰囲気で
擦り寄ってくる銀さんに、思わず小さく笑いが零れる。
「そんなに寒かったですか?」
「おう、寒い寒い。オメーだって寒かっただろ?」
ほっぺ、冷てぇぞ。そう言って今度は自分の頬を僕の頬に寄せてきた。
それがくすぐったくて、少しだけ肩を竦ませる。
「動いてるとそんなに気にならないですよ?」
「ばぁか、少しは気にしろ。ほら、手も入れろって」
僕の背中から片手を離すと、銀さんの肩に置いていた僕の手を掴み
銀さんと僕の胸の間に入れてしまう。
そして再び背中へと手を回すと、ぎゅ~っと抱き締めてきた。
「あ~、あったけぇ~」
「銀さん、そればっか」
クスリと笑って言うと、んじゃ幸せ~。 と言葉を変えてきた。
なんだそれ。クスクス笑っていると、なんだよ。とばかりに
銀さんが抱き締めている腕に力を込めてきたので、余計に笑ってしまう。
そして思い浮かべるのは、生乾きの炬燵布団。
「ね、銀さん」
そう言って銀さんの首筋に擦り寄れば、微かに銀さんの筋肉が
動き、こちらに向いたのが判った。
でもきっと、その目には何も映っていないだろう。
・・・いや、何も映ってないってのは違うか。
近すぎて見えてないだけ。
現に僕の視界にだって、銀さんの首筋しか映ってない。
改めて自分達の今の格好を思い出し、笑えてくる。
眼鏡が当たって痛いのにね。
本格的な冬も、まだ来てないってのにね。
ギューギュー抱き締めあって、何やってんだか。
零れ出る笑いをそのままに、銀さんに問い掛ける。
「炬燵出します?」
布団、電気入れちゃえばそのうちに乾いちゃうかもしれませんよ?
そう言うと、銀さんは少しだけ唸り、
「・・・ま、アレだ。虫はやっぱやだしな。
この際だ、徹底的にお日様にやっつけて貰おうや」
電気代も節約しなきゃな。銀さんはそう言うと、僕の肩口に
完全に頭を乗せ、グリグリと摺り寄せてきた。
だからくすぐったいっての!
震える僕を無視し、収まりのいい場所を見付けたのか
銀さんは動きを止め、小さく息を吐き出す。
「あ~・・・でも寒いのは寒いんで、まだこのままで宜しく」
あ~、ホントあったけぇ~。
あ~、もうマジ幸せ~。
そのまま続いた銀さんの言葉に、僕は笑って、もっと温かくなるよう
銀さんの首筋へと鼻を埋めた。
どうやら万事屋の炬燵の出番は、まだ先になりそうだ。
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偶にはイチャコラさせてみる。