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「ってか有り得なくね?」
「何がですか?」
どうやら無意識に声に出ていたらしい。
自分の呟きに、お茶を持ってきてくれた新八がコトリと首を傾げた。
それに何でもない事のようにダラリと・・・しかし内心焦りまくった
状態で 別に・・・ と返せば、新八は不思議そうな顔を
しながらも、洗濯物を取り込みに行ってしまった。
それを見送りながら、ホッと息を吐き、置かれた湯飲みに手を伸ばす。
一口飲めば、ほんわりと心が和らいだ。
あ~、うめぇ~。
今まで最高の飲み物はイチゴ牛乳と信じて疑わなかったが、
中々どうして、日本茶も結構いける。
・・・まぁ新八の淹れてくれたお茶限定なのだが。
しかし本当。味といい温度といい、ばっちり俺好みだ。
ちなみにそれを淹れてくれた新八も、がっつり好みだ。
・・・そしてそれはどうやら周囲にはきっちりバレていたらしい。
その事実が、現在の俺を少しばかり凹ましているのだけれど。
「・・・有り得ねぇってマジで」
鼻歌交じりで洗濯物を取り込んでいく新八を眺めながら、
俺はもう一度声に出した。
何からそうなったのか、ある日新八は知り合いの面々に俺の好みのタイプを
聞いて回ったらしい。
おいおい何だよ~。そんなに銀さんの好きなタイプが気になんのか?
ヤバクね?それってちょっと恋が入ってね?
寧ろ入っててくんね?
そんな事を思ったのだが、どうやら本人は純粋に、ただの好奇心だったらしい。
・・・お子様と言うのは時に残酷だ。
けれど現実はもっと残酷だ。
どうやら俺の心に秘めていた恋心は、知り合い共にはバレバレだったらしいのだ。
なんだっけ、確か・・・家庭的で?可愛くて?純粋でしっかりした子?
はっ!馬鹿らしい。
もういっその事、普通に新八って言えよ。
言っちまえよコンチキショー。
で、少しは新八にどっきりさせてやってくれ。
出来れば俺を意識する方向で。
全く、使えないヤツ等めっ!と、思い浮かんだ面々を罵りながらも、
ふと以前の事を考えてみる。
以前の俺の好みは、むっちりとした肉感的な?
それでいてあんまり積極的でない?
そんなのが良かったのよ、うん。
なのにさ~、実際の所新八は滅茶苦茶積極的に万事屋に来た訳で?
・・・や、良かったんだけどさ、それで。
今現在、本当感謝してるし。
ってかいい事はしてみるもんだね、うん。
よくやった俺。ナイス判断だ俺。
で・・・まぁむっちりともしてないんだけどさ。
寧ろいい感じに筋肉ついてるんだけどさ。
あ、でもほっぺはムニムニしてるか・・・うん。
後尻もこう・・・ってアレだから。まだ触ってないからね、銀さん。
そんな勇気、塵ほども持ってないから!
視覚的感想を述べてるだけだから、これぇぇぇ!!!
と、まぁ・・・俺はぼんやりと、和室で取り込んだ洗濯物を
畳んでいる新八を眺めた。
ここまで好みと違ってる・・・寧ろ性別からして正反対の新八を
どうしてここまで好きになったのか。
自分の思考回路でありながら、ちょっと不思議だ。
最初はただのこ煩い少年だった・・・筈だ。
や、ちぃ~っとばかし可愛いな~・・・なんて思ったけどね。
それは普通に小動物に対するような?そんな感じのものだったと思うし?
でも、あのまっすぐな目で見詰められて、細々と世話を焼かれて。
守らなければと思っていた背中は、案外強くて。
時に俺を守ってくれたりもして。
そこまで思い、俺は あぁ・・・ と納得した。
それはあの日、俺が紅桜とやり合ったあの日。
新八の背中に守られたあの瞬間。
微かに震えている背中に、ほんの少しの罪悪感と酷い安堵感を覚え、
俺は自分の気持ちを自覚し、どれだけ新八に守られていたかを知ったのだ。
どれだけ傷付いても、家に帰れば新八が待っててくれる。
どんなに寒い夜でも、帰れば新八が家を暖めて待っててくれる。
そして、どれだけ弱い自分を見せても、新八はずっと傍に居てくれる。
共に歩いていこうとしてくれる。
それがどんなに奇跡的で素晴らしいことか。
「これで惚れるなって方が無理だよなぁ」
ポツリと呟けば、視線の先で新八の手が止まり、きょとりとこちらに
視線を向けてきた。
「何かいいました?銀さん」
それに俺は いんや~? と返しつつ、ニマニマと笑みを浮かべた。
「たださぁ、新ちゃんてば本当、家庭的だねぇと思って」
銀さん、本当助かっちゃう。そう言えば呆れたような顔が帰って来た。
「仕方ないでしょ。誰もやんないんですから。
別に銀さんがやってくれてもいいんですよ?」
「それにさぁ、よっく見ると結構可愛いよね、その眼鏡」
「おい、人の話聞けよ。ってかなんで眼鏡ぇぇ!?
や、別に僕自身に言われてもアレですけどっ!」
怒る新八に、だって新八の大部分は眼鏡で構成されてるでしょ。なんて
嘯きながら、俺はソファから腰を上げて和室へと足を向けた。
「あとアレだよね。何にも知らなそうだから、一から
教え込みたくなるよね、色々と」
「・・・なんかどっかで聞いたような台詞なんですけど。
ってかなんですか、色々って。
あ、いいです。細かい説明はいいです、怖いから」
新八の言葉に親切にも例をあげながら説明しようとしたが、
青褪めた顔で全力で拒否られた。
・・・ま、いいけどね。何れ身を持って知ってもらうから。
それこそ全力で。
そんな事を思いながら、俺は洗濯物を畳んでいる新八の隣へと
腰を降ろした。
「・・・で、しっかり屋さんだ、うん」
「そうですか?別に普通でしょ」
胡坐をかいた膝に肘を乗せ、顔だけ新八へと寄せながら言えば、
畳んでいたタオルを持ち上げながら、不思議そうに首を傾げられた。
「いやいや、この万事屋で普通の生活が営めるのは新ちゃんの
お陰でしょ。普通出来ないよ?コレ。
貧乏神にも見捨てられた存在だからね、この家」
「自覚あるなら仕事しろよ。
ってかなんなんですか、さっきから」
そう言われ、俺は苦笑しつつ新八の膝に合ったタオルをどかすと、
その上にゴロリと頭を乗せた。
ちょ、何してんですかっ!!って言う非難の声が聞こえたが、
それは無視の方向で。
俺は逃げようとする新八の腰に手を回すと、下から新八の顔を見上げた。
その顔はほんの少し赤みを帯びているものの、困惑が前に出ていて
少し笑える。
ここまで言って、そしてこの行動で。まだ判らないかね、この子は。
「本当、鈍感」
「や、鈍感も何も訳が判らないですから。何?枕が欲しかったんですか?」
なら出して上げますよ。と言われ、俺は小さく息を吐きながらも
いらない。と返し、目を閉じた。
「僕の膝なんて、固くて寝辛いでしょ」
「オマエ、銀さん舐めんなよ?酔っ払って地べたで寝た暦、
何年だと思ってんだよ」
「自慢じゃねぇよ、それ。
ってか僕、まだやる事あるんですけど・・・」
「いいからいいから。ホラあれだよ?
人生、時に休息も必要だよ?」
「あんたは休息の中に、時に人生ですね」
どう言っても動かない俺に、とうとう諦めたのか小さい溜息と、
温かい手が頭に落ちてくるのを感じた。
それにチラリと薄く目を開ければ、視線の先でやんわりと笑っている
新八の顔が。
俺は慌てて目を閉じると、頭に乗せられた新八の手をキュッと掴んだ。
そしてそのまま目蓋の上へと持ってくる。
「銀さん?」
眩しかったですか?と聞いてくる新八に、曖昧に返事を返しながら
俺はゆっくりと口を開いた。
銀さんの好みは、家庭的で可愛くて、純粋でしっかりしてるけど鈍感で、
こんなマダオを甘やかしてくれるのに、男前な面も持ってたりする眼鏡な
16歳なんだけど、丁度いい人、知りませんか?
ちなみに銀さんは一人ぴったりな子、知ってたりするんだけど?
*****************************
この後報われるのかどうかはご自由にご想像下さい(おいι)
仕事も無い午前中、ボーッとしながらテレビを見ている銀さんを
避けながら居間の掃除をしていると、聞き覚えのある名前が
テレビから聞こえ、暫し手を止めた。
視線をやれば、有名な俳優が電撃入籍をしたと言う。
へ~、そうなんだ~。とだけ思い、そのまま掃除を再開しようと
した所で、ふと目に入ったモノに再び手が止まってしまった。
目に入ったのはその俳優の年齢。
それは、目の前でダラリとした格好でソファに寝そべっている銀さんと
同じ年齢だったのだ。
「そう言えば銀さんってどんな人がタイプなんだろう」
考えてみれば銀さんだってそれなりの年齢だ。
そう言う話が出てもおかしくは無い。
おかしくはないのだが・・・なんでだろう、
あまり現実味がない気がする。
・・・やっぱりあの性格だからかな?
ってか結婚する気あるのかな、アノ人。
そんな事を考えながら買出しの道を歩いていると、途中で桂さんと行き会った。
またこの人はこんな大通りで・・・
でも今は丁度良かったのかもしれない。
僕は爽やかに挨拶をしてくれる桂さんに頭を下げつつ、頭の中にあった
疑問を投げ掛けてみた。
「銀時の好みのタイプ・・・か」
桂さんはそう言うと顎に手を当て、少しの間黙り込んだ。
そして、一瞬僕の方へと視線を向けると、何か考えながら言葉を紡ぎ出した。
「多分、家庭的で可愛らしい子・・・じゃないか?」
その言葉に、僕はつい首を傾げてしまう。
「でも持ってるエッチな本には派手な人ばかり載ってますよ?」
「いや、それは以前の好みと言うか、
それとこれとは話が違うと言うか・・・
と言うか、あいつはそんな物を堂々と部屋に置いているのか!」
未成年も居ると言うのに!そう怒る桂さんに、僕は苦笑する。
「や、一応隠してくれてるみたいなんですけどね、神楽ちゃんの手前。
でも僕掃除するじゃないですか。そうすると・・・見つけちゃうんですよね」
でも本人は完璧に隠してるみたいなんで、黙ってて下さいね。僕が
そう頼むと、桂さんは酷く微妙な顔で頷いてくれた。
武士の情けだしな・・・とか言ってたけど、何なんだろう。
別にエッチな本ぐらい恥ずかしい事じゃないよね?
あ、でもアノ人、嗜好が特殊だからやっぱり少しは恥ずかしいのかな?
とりあえず桂さんに礼を言い、その場を別れて僕は買い物へと足を進めた。
そう考えると、やっぱりS宣言しているだけあって、Mっぽい人の方が
いいのだろうか。
でも、さっちゃんさんには冷たいしなぁ。アノ人結構美人なのに。
やっぱり桂さんの言う通り、家庭的で可愛い子の方がいいのかな?
そんな事を考えていると、スーパーから沖田さんが出てくるのが見えた。
どうやら今日は駄菓子屋ではなく、ここでお菓子を買っていたらしい。
僕は軽く挨拶をしながら、S星出身のお言葉を聞く事にした。
「旦那の好きそうなタイプ・・・ねィ」
そう言うと沖田さんはチラリと僕へと視線を向けた。
なんだろう、未成年には早すぎる言葉の羅列でも出てくるのかな?
あ、でもこの人も未成年じゃん。
ってかここ、人通り激しいですからね?
なるべくソフトな感じでお願いしますっ!!
一応身構えて沖田さんの言葉を待っていると、
「別にSだからって必ずともMを好きになる事はないですぜィ?
寧ろ何も知らない子を一から調教していって自分色に染め上げる方が
楽しいですからねィ」
旦那もそうなんじゃないんですかィ?そう言ってニヤリと嫌な笑みを
浮かべられてしまった。
・・・いや、そう言われても知りませんから。
と言うかそんなSの性質、
知りたくも無いですからぁぁぁ!!!!
僕はこれ以上ヤバイ言葉が出ないうちに・・・と慌てて礼を言い、
スーパーの中へと飛び込んでいった。
でも、何も知らないって事は、純粋な子って事でいいのかな?
僕は特売品を詰め込んだビニール袋を手に、万事屋へと帰りながら
そう変換し直してみた。
と言うと、家庭的で可愛くて純粋な子って事か・・・
確かに、そんな子なら結婚もしてみたくなるだろう。
そう思っていると、今度は前から近藤さんと土方さんが歩いてきた。
ここは一つ、同年代の意見も聞いてみよう。
そう決めると、僕は嬉しそうに手を振る近藤さんの元へと足を進めた。
「万事屋の好きなタイプねぇ」
そう言うなり、近藤さんは腕を組んで考え出し、土方さんは嫌そうに
舌打ちをした。
「とりあえず今出てるのは、
家庭的で可愛くて純粋な子って言うのなんですけど」
そう言うと近藤さんは大袈裟なぐらい手を叩き、納得していた。
「確かに!そんな感じだよなぁ、うん」
「相手にとっちゃぁ不運極まりねぇけどな」
ケッと言い捨てる様に呟く土方さんに、僕は少しだけ首を傾げる。
なんか・・・そう言うタイプの人に心当たりでもあるのかな?
そんな事を考えていると、近藤さんが あ、後もう一つ! と言って
指を立てた。
「やっぱりしっかりしてる子だろう。あの万事屋を支えてくんだ。
余程しっかりしてなきゃダメなんじゃないかな?」
うんうんと自分の言葉に頷く近藤さんに、僕も あぁ。 と声を上げた。
確かに、経済観念とか銀さんの生活態度とか、しっかり支えて
貰わなきゃいけないもんね。
アノ人、言われなきゃ仕事しないし、糖分摂取しようとするし。
ん?でもこれってタイプとかじゃなくて、銀さんに似合いの人って
感じになってない?
当初と少しずれてしまった答えに、微かに首を傾げていると、
土方さんから盛大な溜息が聞こえてきた。
見れば土方さんの視線は、僕が持ってる袋を見詰めていて。
なんだろう、そんなに特売のシールが哀れみを誘ったのかな?
でもコレ、賞味期限が近いだけで、別に味に変わりないんだけど。
大体その日に食べちゃうのが殆どなんだから、これで十分でしょ。
そう言うと、もっと大きな溜息を吐かれ、近藤さんには
やっぱりしっかりしてるね。と褒められた。
や、しっかりも何も、死活問題ですから、これ。
僕はとりあえず頭を下げてお礼を言うと、二人と別れ、万事屋へと向った。
「って事なんですけど、実際どうなんですか、銀さん」
万事屋へと帰り、買ってきた物を冷蔵庫へと仕舞い終わると二人分のお茶を
淹れ、僕はソファへと座って銀さんに問い掛けてみた。
「どうってオマエ・・・なんて事聞き歩いてんだよ」
銀さんはお茶を一口飲み、呆れたように僕を見た。
だって仕方ないじゃないですか、気になっちゃったんですもん。
ムッと口を尖らす僕に、銀さんは困ったように髪を掻くと、
「でもまぁ・・・大体あってんじゃね?」
と、ポツリと言葉を零した。
その言葉に、思わず繁々と視線をやれば、今度は腕を伸ばして
僕の頭を掻き混ぜてきた。
その頬はほんの少しだけど赤く染まって見え、僕はこっそり笑ってしまう。
そっか~、銀さん、そう言う人がタイプなんだぁ。
確かに、そんな相手の人だったら直ぐにでも結婚したくなるけど、
銀さんの周りにはいなさそうだなぁ。
って事は、まだまだ結婚しないって言うか、出来ないって事か。
なんだか安心してしまい、クスクス笑っている僕に気付いたのか、
銀さんは 何笑ってんだか。 と力なく呟いて僕の軽く頭を叩き、
そのままソファの背凭れの上へと伸ばしてダラリと顔を上に向けてしまった。
「ってかあいつ等にはバレバレかよ、オイ
あ~、もう最悪じゃねぇかっ!!!」
「別に好きなタイプぐらいバレたっていいでしょ?
何恥ずかしがってんですか」
「おまっ・・・まぁいいや、もう。
ってか新八、序にすっげー鈍感ってのも付け加えといて
マジで鈍感だから」
「鈍感?銀さん、そう言う人が好きなんですか?」
変わった趣味ですね~。そう言って笑う僕に、俺もそう思う。と、
やけにしみじみとした銀さんの声が返って来た。
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報われない男、坂田(笑)
「銀ちゃん。そろそろ帰ってくるアルカ?」
炬燵の中、ゴソゴソと体を潜り込ませながら神楽ちゃんが
聞いてきた。
僕はそれに、洗濯物を畳んでいた手を休め、チラリと時間を
確認する。
今日の依頼は、そんなに人数はいらないらしいので、銀さんだけ
行っている。
遠くの場所でもないし、夕方には終わると言っていたので
そろそろ帰ってくる頃だろう。
そう告げると、神楽ちゃんはこの寒いのにご苦労な事ネ。と言って
またモソモソと炬燵の中へと潜って行った。
どうやら置いて行かれたのがつまらなかったらしい。
僕はクスリと笑って畳み終わった洗濯物を仕舞うべく、両手に抱え込んだ。
その際、チラリと窓の外へと視線を向ける。
昼間はそれなりに温かかったものの、
陽はとうの昔に落ち、風の音も加えられてなんとも寒そうだ。
でも防寒具を持って行くように言っといたから、多分大丈夫だろう。
・・・まぁぶつくさ言うだろうけどさ、ウザイくらいに。
でも働いてきてくれているのだ、それぐらいはちゃんと聞いてあげよう。
しつこかったら無視すればいいだけだし。
そう思っていると、不意に神楽ちゃんが何か言ったのが聞こえた。
え?と聞き直せば、ムッと口を尖らした顔の神楽ちゃんが
再度、先程の言葉を口にした。
「だからこんな寒いのに銀ちゃんはアホネって言ったアル。
手袋もマフラーもなしに。無謀にも若者気取りアルカ?
そんな事をしても、オーラと加齢臭でぶち壊しネ」
「え?嘘・・・だって僕、ちゃんと持ってくようにって・・・」
そう言えば、神楽ちゃんは炬燵の中に手を入れ、何かを取り出してきた。
見ればそれは、確かに銀さんのマフラーと手袋で・・・
「暖めといて忘れてったアル。」
炬燵で暖めとくなんて頭良くね?・・・なんて言ってただけに哀れネ。
呆れ顔でそう吐き出す神楽ちゃんに、僕はカクリと肩を落とした。
自業自得だと言えばそれまでだけど・・・
僕は再び窓の外へと視線を向けた。
外はやっぱり寒そうで。
今日は珍しく仕事をしてきている訳で。
その銀さんと言えば、着替えを一々炬燵の中に入れ、暖めてから
着替えをするような寒がりだったりする訳で。
僕は一つ息を吐くと、持っていた洗濯物を手早く仕舞い、自分のマフラーを
手に取った。
それを見ていた神楽ちゃんが、迎えに行くアルカ?と聞いてきたので
苦笑を一つ。
「これで風邪でも引かれたら、仕事して貰った意味がないからね」
そう言うと、神楽ちゃんは仕方ないとばかりに首を振り、
それまで潜っていた炬燵から出ると、僕と同じようにマフラーを
手に取り、自分の首へと巻いていく。
「仕方ないネ。眼鏡とマダオだけじゃヴィジュアル的に
寒いアル。私も一緒に行ってやるヨ」
「や、別にいいよ?外、寒いだろうし、僕だけで・・・」
「いいからっ!早く行くヨロシ!」
ってか寒いって何!?そう突っ込む前に、神楽ちゃんは銀さんのマフラーを
持ち、急かせる様に僕の背中を押してきた。
「って神楽ちゃん!手袋、手袋忘れてるからっ!」
とりあえず僕も神楽ちゃんも手袋ははめたものの、銀さんのは
未だ炬燵のテーブルの上だ。
そう言うと、別に大丈夫ヨ。と、何故か自信満々に答えられ、
そのまま玄関の外へと連れ出されてしまった。
こうなると、もう何を言っても無駄だろう。
僕はほんの少し、心の中で銀さんに謝りながら、
でも忘れてった方も悪いんだし、マフラーがあるだけマシだろう。
と結論付けると、そのまま神楽ちゃんに引き摺られるように
万事屋を後にした。
「てか神楽ちゃん、僕、鍵閉めてないんだけど」
「大丈夫ヨ、定春が居るネ」
「あ、そっか」
先程までの神楽ちゃんと同じように、炬燵の中に潜り込んでいた
定春の事を思い浮かべる。
うん、確かに定春が居れば、大丈夫だろう。
・・・その前に何も盗られるモノがないけれど。
でも・・・
「やっぱり手袋も持ってきてあげた方が良かったんじゃない?」
思ってたよりも冷たい空気にそう呟けば、
僕の手を握ったまま、少し先を歩く神楽ちゃんがクルリと振り向いた。
「何言ってるネ。ちゃんと持ってきてやったヨ、特別性の手袋」
そう言ってニシシと笑い、繋いだ手を目の辺りまで上げてみせた。
最初、何のことか判らず、キョトンとしてしまったが、
握られる手の感触に気付き、プッと小さく噴出してしまう。
「確かに・・・特別性だね」
「当たり前ヨ。これ以上最高の手袋はないネ。
銀ちゃんには勿体無いけど、今日だけ特別アル」
身も心も寒い思いして働いてきたマダオに特別サービスヨ。
そう言って笑う神楽ちゃんに、僕も口元が緩むのが判る。
そうだね。きっとこの手袋なら身も心もポッカポカになれるね。
少しだけ早足になる足元に、大振りになっていく握られた手。
その先で、
「あ、一番星アル」
見上げた空には、キラキラと輝く星。
その下で、寒そうに身を縮めながら歩いてくる、明るい銀色。
さぁ、早くその手を、何よりも温かい手で包んであげようか。
**************************
今日だけは特別に坂田が真ん中。
本日は万事屋にお泊りです。
という事で和室に布団を敷き、明日の朝食の準備でもしようかと
台所へ行こうとした所、丁度お風呂から出てきた銀さんと行き会った。
「あ、もうお布団敷いてありますから」
「お~、有難うさん」
ヒラヒラと手を振る銀さんを見送り、僕もさっさと下準備して
お風呂に入ろう・・・と思っていると、不意に居間へと行った
銀さんに名前を呼ばれた。
「なんですか?お茶ですか?お酒はダメですよ。
イチゴ牛乳はもっとダメですよ?」
そう言いながら居間へと顔を出せば、何やら和室を前に
仁王立ちしている銀さんが。
不思議に思い、ソファに座ってテレビを見ていた神楽ちゃんを見れば、
こちらも同じように不思議そうな顔をしていて。
なんなんだろう、一体。
なんか変なトコでもあったのかな?
「あの、銀さん?どうかしました?」
和室の前の背中に問い掛けると、銀さんはゆっくりと顔だけを
こちらへと向けた。
その顔は、なんだかとても真剣で、思わず僕は背筋を伸ばしてしまった。
「銀さん?本当、どうかしました・・・」
「新八ぃ・・・いいんだな、オマエ」
コクリと息を飲み、再度問い掛けるが、言い終わらないうちに
そんな事を言われてしまった。
いいって・・・何が?
訳が判らず、何も言えずにいると、銀さんは何かを決意したかのように
一つ頷き、今度は神楽ちゃんへと視線を向けた。
「よし、判った。・・・神楽、オマエはもう寝ろ」
「寝ろってまだテレビの途中ネ」
銀さんの真剣な雰囲気に少し驚いたようだったけど、直ぐに気を取り直し、
神楽ちゃんはそう言い返した。
うん、そうだよね、
しかもまだ八時だしね。流石に寝るには早いよ。
ってか一体なんなんだろう。
何かあったのだろうか。僅かに湧き上がる不安に、キュッと拳を
握り締めていると、銀さんは大きく溜息を吐いた。
そして・・・
「ばっか、オマエ空気読めよ。見てみ?今ものっそく
大人の雰囲気満載だから。
和室から駄々漏れ中だから。」
「って何言ってんだ
アンタァァァァ!!!!!」
・・・とりあえず近くにあったゴミ箱を投げつけさせて貰いました。
「ぃってぇぇ!!!何すんだよ、コノヤロー!
折角銀さんがオマエの意思を尊重して、状況作りに協力してやろうって
のによぉ!!」
「うっさいわぁあ!!空であった事に感謝しろよオイィィ!!
ってか何の意思ですか!
どんな状況作りですか!!」
そう叫ぶと、銀さんは微かに頬を染め、視線を反らした。
「何ってオマエ・・・」
「銀ちゃん、空気読むヨロシ。
キモイ空気が満載ネ、今」
白けた表情でそう言う神楽ちゃんに、今度は銀さんが
叫び声を上げた。
「キモイ言うな!ってか銀さんきっちり読んでるからっ!
その上での状況判断だからっ!!」
「だからどんな状況判断ですかっ!」
そう言うと、銀さんは体をずらし、和室の奥を指差した。
そこにはここに泊まる時はそうしている様に、きちんと並んだ二つの
布団が・・・
「別に何時も通りじゃないですか」
こっからどんな状況を想像するんだろ?
首を傾げていると、銀さんは僅かに眉を顰めた。
「あぁ!?全然何時も通りじゃねぇよ!見てみ、何時もより
布団の距離が近いから!
10mmは確実に近いからっ!!
って事はアレだろ?今夜はOKよvvって事だろ!?
何だかいけそうな気がすんだろ?
そう言うの、あると思います!」
「ねぇよっ!!全く塵ほどもねぇよっ!
ってか何?その無駄な計測力ぅぅ!
大体そんな事考えながら敷いたりしません!!」
「いやあるって、マジで!
俺は大抵そんな事考えながら敷いてるからっ!
きっとアレだ、深層心理の何かが働いて、無意識に近付けちゃったんだな、
新ちゃんは。いやいや、初々しくて銀さん嬉しい」
「何かって何!?
ってかその前に警戒心がバリバリ働くわっ!!
ちょ、どいて下さい!今すぐ布団、引き離しますから。」
「ばっ、やめろって!近付けるなら大歓迎だが、
引き離すのは却下だ却下!!」
ドカドカと和室に近付き、中に入ろうとするが、銀さんに
止められてしまい、暫しその場で揉み合ってしまう。
・・・とその時、頭の直ぐ横でカチャリと言う冷たい音が聞こえてきた。
チラリと視線を向ければ、ソコには何故か傘を構えた神楽ちゃんが・・・
「テレビの音、聞こえないネ。少し黙るヨロシ」
「「・・・は、はい」」
座った目をした神楽ちゃんに、ほんの少し寿命が縮まった気がしたけど、
大切なモノは守れました。
とりあえずその後、僕が全ての行動に於いて慎重になったのは言うまでもない。
*****************************
多分ウチの坂田は目が合っただけでも、こう判断します(おいι)
「全く、年末で忙しいってのに」
日もどっぷり暮れた時間、新八は人気の無くなった学校を背に、
共に歩く男への不満をブツブツと口に出した。
「仕方ねぇだろ?幾ら冬休みだって言ったってなぁ、
先生には仕事があんだよ、仕事が。
ほら、良く言うじゃん?先生も走るから師走って」
「や、だからそれは先生の・・・ですよね?
僕、関係ないでしょ。
ってか走る先生って全然想像付かないんですけど」
飄々と答える銀八に、思わず白けた視線を送ってしまうのも
無理は無い。
冬休みだと言うのに、朝から自宅にやって来た銀八に
拉致られ、今まで仕事の手伝いをさせられていたのだ。
・・・まぁ今日と言わず、大抵毎日会ってるんだけどね。
休みになってからも、色々理由をつけて。
ホラ、だってあの・・・一応・・・さ。
「おいおい、冷てぇなぁ。関係なくはなくね?
お付き合いしてるってのによぉ」
タイミングよくニヤリと笑って告げる銀八に、頬が熱くなるのが判る。
そう、僕達は付き合ってたりするのだ、うん。
けれどまだ僕は学生で、先生の生徒で。
なのでこう言う理由でもなければ、休みの日に一緒に居れる理由がない。
・・・と言うか、勇気が無い。・・・僕に。
男同士だとか、お互いの立場だとか。
それが判ってるからか、先生は色々と理由をつけて
僕を連れ出してくれる。
僕が安心して、一緒に居れる理由を。
「でも、僕一応受験生なんですけど」
なのに僕はついこんな事を言ってしまう。
本当はこんな事、言いたくないんだけどね。
言ってからいつも、後悔するんだけどね。
けれどそれさえ判っているのか、先生は僕の頭に手を置き、
「んなの任せとけって。俺をなんだと思ってんの?
一応先生よ?責任持って嫁に貰ってやるって」
何処にも引っかからなかったら。と言ってクシャリと撫でた。
「って違いますよね!?
そこは普通『勉強見てやる』って言う所ですよね!?」
「マジでか?」
「マジだよ!何そのびっくり顔!
コッチの方がびっくりだわ!!
ってか本当、今度勉強見てくださいよ!?」
「あ~、もう新八君は真面目だね~。」
判った判った。先生はそう言うとポンポンと頭を叩き、ユルリと
口元を上げた。
「なら大晦日はどうよ?で、序に年明けたらお参り行こうぜ?」
「・・・いいですよ」
「後初日の出も見とくか、序だし」
「ですね。序だし。ッて言うか先生、起きていられるんですか?」
「そこはホラ、オマエが協力してくれれば・・・」
「って事は夜通し勉強ですか。
いや~やる気が出るなぁ」
白々しくそう言えば、先生が コノヤロー と言いながら
僕の首に腕を回し、軽く締め上げてくる。
それに少しだけ抵抗を示しながらも、嬉しがっている僕が居る。
・・・・悔しがってる僕が、居る。
ごめんなさい、先生。
ただ一緒に居るだけの為に、色んな理由つけさせてごめんなさい。
いつか。きっといつか、なんの理由も付けず
『一緒に居たい』
って言うから。
僕から絶対言うから。
だからそれまで・・・
「もう少しだけ、待ってて下さい」
小さく呟き、そっと首に回ってる先生の手をギュッと握り締めた。
「・・・・・・・・・・あれ?」
突然意識が覚醒し、目を開けばソコには既に見慣れた万事屋の
天井がぼやけて見えた。
なんだか訳が判らないまま、数回瞬きをする。
そう言えばこっちに泊まってたんだっけ。
仕事が忙しく、家にも帰って来れない状態の姉上に言われ、
年末以降ずっと万事屋に泊まっていたのを思い出す。
横を見れば、これまた見慣れた呑気な寝顔の銀さんが居て、
思わずクスリと笑ってしまう。
「・・・今何時だろう・・・」
部屋の薄暗さから、まだ起きる時間ではない事が判り、
ならばもう一度寝ようかとも思うのだが、なんだか妙に
目が覚めてしまっている。
「夢のせい・・・かな?」
そう呟き、先程まで見ていた、妙にリアルな夢の事を思い出す。
あれって何だったんだろう。夢・・・だよね?
先生とか言ってたけど、寺子屋みたいなものなのかな。
ってか名前は違ってたけど、銀さん・・・だったよね、アノ人。
なら夢だね、完璧に。
だって銀さんが先生だなんて、夢以外あり得ないもん。
クスクス笑っていると、その振動で目が覚めたのか、目の前の銀時が
薄っすらと目を開いた。
「ん~?あんだよ、新八ぃ」
「あ、すみません、銀さん。今ね、夢で・・・」
そう続けるが、直ぐに銀時の腕が新八へと回り、そのまま胸元へと
引き寄せられた。
「まだ早いじゃねぇか、もう少し寝てろって」
起きたら聞いてやっからよぉ。モゴモゴとそう告げると、銀時は
再び眠りの中へと沈んで行ったようだ。
抱え込まれた頭の上の方で聞こえ始めた寝息に、新八はそっと
笑みを浮かべた。
今日も泊まっていこうかな。
姉上に言われたからではなく、自分の意思で。
元々数日間は泊まる事になっているのだ。改めてそんな事を言えば、
きっと銀さんは不思議がるだろう。
けれど、なんだか言ってみたいのだ、ちゃんと。
不思議がるだろうけど、何言ってんの?って顔されると思うけど、
だけどきっと・・・
嬉しそうに笑うはずだ、この人は。
多分直ぐに隠されちゃうけどね。新八はその状況を予想し、
温かい銀時の体温を感じながら、再び目蓋を閉じた。
でもきっと、それは今と同じぐらい温かい気持ちになれる筈だ。
だから・・・そっちも頑張れ、夢の中の僕。
そう、心の中でエールを送りながら。
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ある意味夢オチ(笑)